コストと手間をかけて採用した新入社員。しかし、内定を承諾したものの入社を迎えるまでの間に辞退することがあっては採用活動が無駄になってしまいます。内定者をフォローしたり、新人の受け入れ準備をしたりすることは、確かに少し手間がかかります。
しかし、 “釣った魚に餌をやらない”ではありませんが、「採用と内定承諾までは一生懸命なのに、入社前、入社後のひと手間を惜しんだばっかりに、採った社員が定着しない、育たない」といった企業は少なくありません。
恥ずかしながら、HRドクターを運営する株式会社ジェイックも受け入れの失敗を体験してきました。しかし、失敗の体験の中で、「やった方が良い」と言われていることを少しずつ試してノウハウを蓄積してきました。結果として、弊社ジェイックでは入社3年以内の離職はほとんど無くなりました(直近5年の新人定着率は94.6%まで上昇しました。記事作成の2015年時点)
記事では、入社前~入社直後のタイミングの新入社員(内定者)を対象に実施できる11のノウハウをご紹介します。いずれも大きな手間やコストをかけることなく取り組めることばかりです。「良さそうだ!効果がありそうだ!」と思ったものがあれば、ぜひお試しください。
<目次>
最高の気持ちで入社日を迎えてもらうための、内定者向けに実施する6つの施策
ノウハウ1 入社日が決まったら、全社員に告知する
新卒、中途でも「内定⇒御社に入社します!」と決まったら、全社員に告知しましょう。告知された既存社員は『こんな人が入社するのか』と心の準備ができ、社員の受け入れ態勢を作ることができます。
告知方法は、朝礼や月次会議で2~3分程度時間を取り、氏名、経歴、評価ポイント、顔写真等を共有します。それが難しければメールで共有でもOKです。
ノウハウ2 面接した管理職が紹介すると、社員の関心アップ
ノウハウ1でお伝えした全社員への告知は、人事からでも効果はありますが、面接時にマネージャーや部門長が関わっているなら、その人から紹介してもらうことで既存社員の関心が高まります。
その際には、経歴や配属先に加えて、少し砕けた内容、例えば、『趣味は○○です』や『うちの社員だと○○に似ているかな』だったり、親近感を感じてもらうための既存社員との共通項『○歳なので○○や〇〇と同い年です』『○○と同じ○○県の出身です』といった情報を織り交ぜてあげると、入社後に既存社員が声をかけるきっかけになります。
ノウハウ3 効果絶大!新人への手紙
入社した新人に手紙でメッセージを伝えます。手紙でメッセージを伝えるやり方は、中途採用でも効果的ですが、とりわけ新卒には絶大な効果があります。
メッセージでは、内定を出した評価ポイントの他、『一緒に頑張っていこう!』など期待を伝えると良いでしょう。さらにメッセージと一緒に内定者研修や新入社員研修の案内も同封すれば「ちゃんとした会社」という印象を与えることにつながります。
これは大人数を採用する大企業では実施できない、中堅中小企業ならでのやり方です。なお、“入社前”と書きましたが、入社初日に社長や面接した幹部から手渡しても、近い効果があります。
ノウハウ4 絶対に忘れないで!備品の準備
細かな話ですが、座る場所(机)やパソコン、メールアドレス、社員証、名刺など、全社員に共通で貸与している備品は、できる限り入社初日までに準備しましょう。
疎かにすると、入社初日、ドキドキしながら出社してくる若手は『歓迎されていないのかな?』『入社してもいいのかな?』と不安を感じます。必要な備品リストを準備し、前日までに揃えることをお薦めします。
ノウハウ5 ちょっとした気配りで歓迎ムードを醸し出す
入社日に備えて、“机を拭いておく”、“備品をまとめて揃えておく”ことも忘れないでください。ちょっとした気配りはありますが、気配りするかしないかで印象はまったく変わります。
緊張しながら初めての出社日を迎える若手の気持ちは『歓迎されていないのかな?(疑い)』から『私の入社を待っていてくれたんだ!(喜び)』まで極端に揺れ動きます。机の上に「○○さん、入社おめでとう!」とカード1枚置くことも効果的です。
ノウハウ6 うっすら涙を浮かべる!?名刺の支給法
これは今まで名刺を持ったことがない新卒や社会人未経験者には、極めて効果が高い手法です。ノウハウその4でお伝えした、入社日までに名刺を準備しておくことに加えて、名刺と一緒に名刺入れをプレゼントすると、『君の入社を待っていたよ!』という感動を演出できます。
とりわけ新卒の場合は、内定式のタイミングでこれを行うことで、内定辞退の防止にも大きな効果があります。“メールアドレスを準備して、名刺を発注して、名刺入れを買う”という手間はかかりますが、入社したらどのみちやる作業+数千円の経費です。ぜひ試してみて下さい。
入社直後の“放置”を無くし、新人の心を前向きにする5つの施策
ノウハウ7 入社日の演出:起立と拍手
初出社日は15分くらい前に来るよう新人達に伝えます。新人達が集まったら、採用担当者と一緒に各部署をまわり、『本日入社の○○さんです』と自己紹介させます。
配属される部署以外にも挨拶させるのがポイントです。HRドクターを運営する株式会社ジェイックの場合、本社であれば6つの部署、100人近くをすべて回って挨拶をしてもらいます。
なお、挨拶の際、“既存社員は作業の手を止めて、立ち上がって自己紹介を聞き、新人が挨拶を終えたら盛大に拍手する”のがポイントです。歓迎を伝えると共に、新人の顔を覚えてもらい既存社員から声掛けをしてもらうために重要な一コマです。
ノウハウ8 初日のランチは誰と行く?
初日は誰とランチに行くかは事前に決めておくと良いでしょう。事前に決めておかないと、同じ部署の先輩社員が全員外出していることもあるので、誰からもランチに誘われず独りで食事をとる、ということになってしまう可能性があります。
ジェイックの場合、人事と社長、採用した事業部の事業部長がランチに行くのが恒例となっています。初日は“これまでの面接で顔を会わせた役職の高い人”が行くのがポイントです。
同じ人が登場することで、“面接プロセス”と“入社後の生活”がつながります。ここで入社後に想定される大変なことも軽く伝えておくと、面接時とのギャップを受け入れやすくなります。
ノウハウ9 入社ガイダンスで組織図を見せる
就業規則や社内ルールなどを説明する事務的なガイダンスと共に、改めて社長や幹部から入社ガイダンスを行いましょう。その際に必ず組織図を見せ、会社の全体像を伝えることがポイントです。
組織図と共に『あなたはこんな志を持った会社の一翼を担ってもらいます。あなたが配属されている部門の外にもこんな仲間がいます。一緒にがんばりましょう』というメッセージを伝えることがポイントです。
ノウハウ10 他部署マネージャーとの面談効果
ノウハウその9と似た目的で、“配属部門ではない他部門の幹部”や“他チームのマネージャー”との面談、ランチミーティングをセッティングします。
顔見知りを増やすことで会社へ馴染ませる、“組織の仲間”であることを意識させる、部門を越えた広い視野でものごとを考えさせる布石とするといった目的があります。弊社ジェイックの場合は“30分程度の部門紹介をしてから、ランチを一緒にする”といった段取りを組むことが多いです。
ノウハウ11 必須イベント!新人歓迎会
先輩社員を交えてのジンジン歓迎会に関して言うと、直行直帰が多く集まりにくい、車通勤が多く飲み会が難しいなど、会社によっては実施が難しい事情もあるかもしれません。それでも、入社2週間以内に歓迎会をすることを強く薦めます。
ジェイックは採用支援の事業も行っており、これまで採用支援をしたお客様でさまざまなアンケートを取り、“どんな要素が定着・活躍に影響するのか?”を探っています。
お客様から頂いたアンケートでは、「歓迎会をしている企業の方がしない企業より定着率が高い」という結果が出ています。歓迎会の実施と定着率は一見関係がないように思われるかもしれませんが、職場を離れて、“個人”としての側面を見せ合う時間を持つことは人間関係に良い影響を与えます。
おわりに
記事では、入社前~入社直後のタイミングの新入社員を受け入れ・フォローするためのノウハウをお伝えしました。
お伝えした11個のノウハウのエッセンスをギュッとまとめると、たった2つです。1つ目は緊張して初出社してくる新人・若手に「歓迎」を伝えること。そして、2つ目は「声をかけ合う」「たまにランチに行く」といった緩いつながりの機会をなるべく多くの社員と作れるように仕向けることです。
繰り返しますが、入社してすぐの新人・若手の心は実にナーバスです。このタイミングで人間関係を作り、心がポジティブな方向に向ければ“あばたもえくぼ”ではありませんが、すべてが良いサイクルに入ります。
逆に、このタイミングの新人達に対して、“重箱の隅をつつく”ような目線で欠点にばかり目を向けてしまうと悪いサイクルに入ってしまいます。「甘やかす」「お客さま扱いをしましょう」ということではありません。仕事は仕事としてキッチリと教えながらも、歓迎していることを伝える、そして、緩い人間関係をたくさん作らせることが肝心です。