レディネスとは?意味や重要性、人材育成で活用する方法を解説

更新:2024/02/29

作成:2021/08/10

東宮 美樹

東宮 美樹

株式会社ジェイック 取締役

レディネスとは?新人育成や異動後の即戦力化で注目の考え方を解説!

「レディネス」何かを学ぶに当たって、心身が健やかで、十分に学びを吸収する準備ができている状態を表します。レディネスが高いと、学習効率が高まり、成果につながります。しかし、レディネスが低いと学習に時間がかかり、学習の効果性が低下します。
 
記事では、レディネスの意味や重要性、人材育成で活用する方法の他、レディネスを高めるための具体的な取り組みを紹介します。 レディネスは、組織開発や研修実施、リスキリング、学習効果の向上などに役立つ概念です。レディネスを理解し、適切に対応することで、人材の成長を促進し、組織の競争力を高めることができます。
 

 

<目次>

レディネスとは?

やる気に満ちた新人社員と支える女性社員
記事では最初に、レディネスの定義、およびレディネス向上によるメリットについて解説します。

レディネスの定義

レディネス(Readiness)は「準備」という意味の英単語であり、臨床心理学等の分野では“何かを習得するための準備ができた状態”のことを指します。1952年にアメリカの臨床心理学者アーノルド・ルシウス・ゲゼルによって提唱された概念で、もともとは子供の教育分野で使われていました。

 

子供の教育というのは、学校教育等を想像してもらえれば分かる通り、成長に伴って新しい考え方や知識を習得していくプロセスそのものです。したがって、どのように教育の効果性や有効性を高めるかという研究は昔からなされており、レディネスも研究の中で見いだされた考え方です。

 

近年では子供の教育分野だけでなく、“未経験の事柄に対する学習効率”、つまり新卒入社や中途採用、異動、職種転換などにおける“戦力化スピードを左右する要素”として、ビジネス分野でもレディネスが注目されるようになりました。

 

HR-techの開発が進む中で、個人のレディネスを見極め、高める取り組みにも関心が集まりつつあり、レディネスを測定するような特性検査も登場しています。

 

レディネス向上のメリット

レディネスは学習を効果的に進めるための前提条件であり、“学ぶ姿勢”が整っている学習者は学習内容に興味を持ち、効果的に学習内容を吸収できます。つまり、レディネスが高いほど、学習効果が高まり、結果として成果につながりやすくなるということです。

 
企業の人材育成では、受講者のレディネスが向上することで以下のようなメリットが得られるでしょう。

・組織の競争力の向上:

レディネスが高ければ、受講者は新しい知識やスキルを素早く身につけることができます。組織は変化に対応しやすくなり、競争力や生産性が向上するでしょう。逆にレディネスが低ければ、費用や工数をかけて教育研修を実施しても、受講者は学習に消極的であり、費用対効果は見合わないものとなってしまいます。

・社員のエンゲージメントの向上:

レディネスが高いと、社員は学習に対する関心や動機が高まり、学習に積極的に参加するようになります。学習に対する自信や満足感も高まり、仕事へのコミットメントやロイヤリティも向上するでしょう。レディネスが低いと、学習しても得られる効果は少なく、学習に対する不満や不安が高まり、仕事に対するモチベーションも低下しやすくなります。

・社員のキャリアの発展:

レディネスが高いと、学んだことを吸収して、また自分の業務にブリッジングして実務に活用する機会が増えるでしょう。学習に対する好奇心も高まり、自発的に新しい知識やスキルを学ぶ意欲も高まります。これにより社員の自己成長が促進され、キャリアの幅や深さも広がります。逆にレディネスが低ければ、学んだことを仕事で活用するモチベーションは低く、学んだだけで終わります。学ぶ意欲は低下し、キャリア開発や自己成長に悪影響が出るでしょう。

 

レディネスが注目される背景

本章では、近年、人材育成の現場でレディネスが注目されるようになった背景を3つ解説します。

リスキリングの必要性

レディネスが注目される背景として、IT活用やDX化に伴って変化が激しくなり、より多くの従業員に新しい知識や技術を習得することが求められるようになったことが挙げられます。リスキリングの対象は新卒や中途の新入社員ではなく、主に既存社員となります。
 
今までやってきた仕事のやり方を変えないといけない既存社員の場合、必ずしも学習意欲が高いとは限りません。しかし、レディネスの高さは自ら学ぶ姿勢につながりますので、レディネスを高めることができれば、リスキリングも進みやすくなります。
 

新入社員の離職防止

新入社員の早期離職は、採用費や教育費だけでなく、事業計画に対する人材不足や既存社員のモチベーション低下などにもつながります。新入社員の早期離職が生まれる大きな原因のひとつに、入社前の理想と現実のギャップ、いわゆるリアリティ・ショックがあります。
 
リアリティ・ショックが拡大する、またリアリティ・ショックを受け止められない原因は、社会人としての自覚や仕事への責任感といった就業に対するレディネスの低さにも起因すると考えられます。レディネスの考え方に則って、内定者研修などで現実的な仕事情報を開示していったり、新入社員の受け入れプロセスにも反映していったりすることで、就業へのレディネスを高めることができるでしょう。
 

リーダーシップの発揮

どの企業にとっても不可避となっているDX化の促進、また、IT活用やDX化に伴う市場環境の変化に対応するには、旗振り役となるリーダーの存在が欠かせません。リーダーは組織のビジョンや戦略を共有し、メンバーを変化にモチベートすることが求められます。この時、レディネスが高いリーダーは外部環境の変化に柔軟に対応し、自ら学び続けることができるでしょう。一方で、リーダーのレディネスが低ければ、変化を拒み、新たな技術や分野の学習を拒否することで、組織の変化対応を阻害してしまうことも考えられます。
 

レディネスに影響する要素

レディネスは新しいことをスピーディーに学ばなければならないシーンに役立つ概念です。前述の通り、ビジネスシーンでは、新しいスキルや業務内容をいち早く習得して活躍することが求められる新卒や中途入社、異動、職種転換、昇格といったシーンで有効です。

 

組織側としては、個人のレディネスを見極めると同時に、学習前の段階で学習者(新人、異動や職種転換・昇格したメンバー)のレディネスを高めることで、研修やOJTなどの効果を高め、戦力化を進めることが可能です。

 

レディネス、つまり学習準備を左右する要素は、大きく分けると以下の2つがあります。

 

 

レディネスを形成するARCSモデル

ARCSモデルとは、学習者の動機付けを高めるための意欲向上モデルです。教育心理学者のジョン・ケラー氏が提唱したもので、「注意」「関連性」「自信」「満足」の4つの要素にアプローチすることで“学習”を動機付けします。

 

<Attention(注意)>

学習者の興味や関心を引き、「面白そうだ」と思わせることで、注意を獲得します。

また、学習内容や要素を変化させ、マンネリを避けることで注意が持続されます。

 

  • 知覚的喚起     :学習者を惹きつけるために何ができるか
  • 探求心の喚起 :学びたいという気持ちをどのように刺激するか
  • 変化性         :学習者の興味や関心をどのように維持するか

 

<Relevance(関連性)>

学習目標に親しみを持たせ、やりがいがあると感じさせることで、関連性を高めます。

 

  • 親しみやすさ :学習者の経験と学習内容を関連付ける
  • 目的指向性     :学習者の目的と学習内容を関連付ける
  • 動機との一致 :学習者がやりがいを感じる方法やタイミングと紐づける

 

<Confidence(自信)>

学習者に成功体験をつくり、学習や変化への自信を持たせます。自分で考えたうえでの成功体験ができれば、さらに自信は高まります。

 

  • 学習欲求 :学ぶことが成果に繋がることを提示する
  • 成功の機会 :学びの実践と成功を通じて学習者の自信を高める
  • コントロールの個人化 :学習者の自己決定権を尊重する

 

<Satisfaction(満足)>

「学習して良かった」と思わせることで研修の満足度を上げ、新たな学習意欲を引き出すことができます。

 

  • 内発的な強化 :学習者の興味や関心をより高めるにはどうするか
  • 外発的報酬 :学習者の成功に対してどのような報酬を提供するか
  • 公平さ :公平な評価を実感させるにはどうするか

 

 

レディネスとブリンカーホフの法則(4:2:4の法則)

ブリンカーホフの法則は、研修効果を上げるための法則として知られています。「4:2:4の法則」とも呼ばれ、それぞれの数字は学習効果に与える影響の大きさを示しています。

 

提唱者であるブリンカーホフ氏が行なった「効果のない研修プログラム」の調査が元になっており、どこが欠如すると研修効果が上がらないか、翻って研修効果を高めるためにはどこをしっかり準備・実施することが重要になるかが分かります。

 

<効果のない研修プログラムの原因>
  • 受講者の準備不足    :40%
  • 研修プログラムの品質  :20%
  • 学習内容の活用に関する障害 :40%

 

上記を見ると、じつは研修の効果性を落としているのは、研修プログラムそのものではなく、研修前における学習者の姿勢作りや研修後の実践をフォローする仕組みの欠如であると分かります。

 

研修前における学習者の姿勢作りこそ、「レディネス」を高める取り組みです。レディネスを高める取り組みは次章で詳しく紹介しますが、研修前後における下記のような取り組みを充実させましょう。

 

研修前における学習者の姿勢作り

⇒学習者のニーズ把握、動機づけ、事前課題の提供、期待の伝達など

 

研修後の実践フォロー

⇒現場とのブリッジング、実践行動の明確化、実践のチェック、成果の発表機会など

 

レディネスを測定する方法

レディネスを測定する主な方法として、「職業レディネステスト」と「離職レディネスチェックシート」を紹介します。

 

職業レディネステスト

職業レディネステストは「特定の仕事や業務に対してどのくらい興味・関心があるか?そのために、どの程度準備ができているか?」を測定するツールです。テストでは、自己理解や職業理解等について、自己評価や客観的な質問に答えることで実施します。
 
職業レディネステストに関しては、独立行政法人労働政策研究・研修機構のページで解説されているので、ご興味あればご覧になってください。

https://www.jil.go.jp/institute/seika/tools/VRT.html

 

離職レディネスチェックシート

離職レディネスチェックシートは、現在の職場や仕事に不満や不安を感じている人、離職を考えている人を対象に厚生労働省が作成したツールです。離職レディネスチェックシートでは、仕事の内容、環境、人間関係、報酬、将来性などについて、自分の感じ方や考え方を客観的に評価します。離職レディネスチェックシートを通じて、今までの働き方や、前向きなキャリア構築に向けた準備状況を客観的に把握することができるようになります。
 
離職レディネスチェックシートの詳細は、厚生労働省のページで詳細を確認できます。以下のURLよりご覧ください。

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/jinzaikaihatsu/career_consulting_gihou.html

 

レディネスレベルとは

レディネスを高めるにあたっては、まずその人のレディネス状況を客観的に知る必要があります。レディネス状況の指標となるのが「レディネスレベル」です。

 

レディネスレベルは、「能力」と「意欲」の2つの要素を軸にして大きく4つに分類されます。能力とは課題遂行に必要な知識や経験、スキルのことで、意欲とは、課題遂行に対する自信や熱意、動機の強さのことです。各従業員は、自分のレディネスレベルを把握することで、自己成長に役立てることができます。また、リーダーやマネージャーであれば、メンバーに対して適切な指導や関わり方をすることができます。

 

能力、意欲どちらも低い状態

取り組むことに対して自信がなく、関心も低い状態です。このレベルの人は、「自分にはできない」と思っており、さらに学ぶことに対しても消極的です。まず取り組みの必要性や意義を伝えて注意喚起、動機付けするとともに、具体的な目標や手順を示して指示を出すことが効果的です。また、動機付けすることで「能力は低いが、意欲は高い状態」に持っていき、学ぶ機会をつくることが有効です。
 

能力は低いが、意欲は高い状態

このレベルの人は、熱心に取り組もうとするものの、知識や経験が不足しているため、うまくできないことが多くなります。このレベルの人に対しては、課題遂行に必要な知識やスキルを学ぶ機会を提供し、フィードバックや評価を与えながら自信を高め、能力を高めることが効果的です。
 

能力が高く、意欲は低い状態

このレベルの人は、十分な能力や経験があるものの、取り組む興味や動機が低く、言動が消極的になりがちです。課題遂行に関連する意味を明確化し、主体的に課題解決に向かっていけるような動機づけのアプローチが非常に重要です。
 

能力が高く、意欲も高い状態

ため、指導や支援をするよりも、課題遂行の自由度やより高い目標を与えて委任して、成果や貢献を評価することが効果的です。
 

レディネスを高めるために人事と上司が取り組むべき具体的な3つの方法

笑顔の新人社員と女性社員

レディネスを高めるためのポイントは、ARCSモデルと、レディネスとブリンカーホフの法則の2つですが、具体的に何をすれば良いのでしょうか。人事担当と上司が取り組むべき3つの具体的なポイントを紹介します。

 

事前に研修目的や心構えを伝える

研修を実施する前に、研修の目的や学ぶことの価値などを学習者へ明確に伝えましょう。

 

「なぜ学ぶのか」「何を学ぶのか」を伝えることは、ARCSモデルの「注意」や「関連性」などを満たすことになります。さらに、「学ぶことで何を得られるのか」「どうなって欲しいのか」といった価値や期待を伝えると、ARCSモデルの「自信」や「満足」にもつながり、より意欲を高めることができます。

 

<研修前に伝えるべきこと>
  • 学ぶ目的
  • 学ぶ内容の価値
  • 学ぶことで得られるもの
  • 研修のやりがい
  • 学んでどうなってほしいのかの期待

など

 

 

事前学習の用意

研修を実施する前には、研修内容と関連する事前学習や課題を出すことも有効です。

 

例えば、アンケート形式の事前課題を実施すれば、学習者の現状や悩み、課題といったニーズを把握できます。アンケート結果を研修に反映させることで、学習者にとって満足度の高い有意義な研修にすることも可能です。

 

また、研修に関連する内容を事前学習させれば、研修に対する関心や参加意欲を高めることにも繋がりますし、学習者の理解力も高まります。事前学習は負担が大きくなりすぎないように注意が必要ですが、研修の重要度や位置づけに応じて、動画閲覧、資料の読み込み、意見の準備、レポートなどの事前課題を活用しましょう。

 

 

研修後のフォローアップ

研修後のフォローアップは、レディネスとは直接の関係はないように見えますが、ブリンカーホフの法則で紹介した通り、学習効果を高めるために非常に大切です。研修を実施して終わりではなく、研修後も学習者をサポートしましょう。

 

具体的なサポートとしては、「学習者が研修内容を習得できるよう、学習した内容を実践できる場」を作ることです。

 

教わったことを実際にやってみれば学習者の理解度が高まりますし、研修効果を長く保つことにもつながります。さらに、実際にやって上手くいけば成功体験が得られ、学習者の自信も高まります。

 

事後課題などを実施することも効果的です。事後課題はロールプレイング、事後アンケートやテスト、成果発表など、さまざまな形式があります。事後課題を実施した後は、良くできた部分をしっかりと褒め、できなかった部分に対しては具体的なアドバイスを行ないましょう。

 

できなかった部分へのフィードバックも大切ですが、学習者のモチベーションが上がり、自尊心が高まったり、成功体験として認識できたりするようなポジティブなフィードバックが重要です。

 

レディネスは「研修前の姿勢作り」に意識が向きがちですが、じつは研修後のフォローアップは次学習(学ぶこと)のレディネスを高めることに繋がります。レディネスを高めるARCSモデルにおいて、「自信」と「満足」はおもに研修後のアプローチから生まれます。

 

まとめ

レディネスは何かを習得するための準備が整った状態を指し、学習を効果的にするためには役立つ理論です。レディネスを高める要素としては、「ARCSモデル」と「4:2:4の法則」の概念が役立ちます。

 

ARCSモデルはレディネスを形成する要素を示し、学習者の「注意」「関連性」「自信」「満足」にアプローチすることでレディネスを高められることが分かります。

 

また、4:2:4の法則(ブリンカーホフの法則)は、学習効果を高めるためには学習前後で学ぶ姿勢を作ったり、実践して成果を収めたりするための取り組みが重要であることを示します。

 

記事では、レディネスを高めるために人事や上司がすべき取り組みとして、「事前に伝えるべきこと」「事前課題」「事後のフォローアップ」について具体的に解説しました。ぜひ記事を参考に、新人育成をより効果的なものへとブラッシュアップしてください。

著者情報

東宮 美樹

株式会社ジェイック 取締役

東宮 美樹

筑波大学第一学群社会学類を卒業後、ハウス食品株式会社に入社。営業職として勤務した後、HR企業に転職。約3,000人の求職者のカウンセリングを体験。2006年にジェイック入社「研修講師」としてのキャリアをスタート。コーチング研修や「7つの習慣®」研修をはじめ、新人・若手研修から管理職のトレーニングまで幅広い研修に登壇。2014年には前例のない「リピート率100%」を達成。2015年に社員教育事業の事業責任者に就任。

著書、登壇セミナー

・新入社員の特徴と育成ポイント
・ニューノーマルで迎える21卒に備える! 明暗分かれた20卒育成の成功/失敗談~
・コロナ禍で就職を決めた21卒の受け入れ&育成ポイント
・ゆとり世代の特徴と育成ポイント
・新人の特徴と育成のポイント 主体性を持った新人を育てる新時代の学ばせ方
・“新人・若手が活躍する組織”は何が違う?社員のエンゲージメントを高める組織づくり
・エンゲージメント革命 社員の“強み”を組織の“強さ”に繋げるポイント
・延べ1万人以上の新人育成を手掛けたプロ3社の白熱ディスカッション
・新人研修の内製化、何から始める? オンラインでも失敗しないための “5つのポイント”
・どれだけ「働きやすさ」を改善しても若手の離職が止まらない本当の理由 など

関連記事

  • HRドクターについて

    HRドクターについて 採用×教育チャンネル 【採用】と【社員教育】のお役立ち情報と情報を発信します。
  • 運営企業

  • 採用と社員教育のお役立ち資料

  • ジェイックの提供サービス

pagetop