レディネスとは“新しい考え方や知識を習得するための準備”を指す概念で、レディネスが高いと学習効率が高くなりますし、低いと吸収が遅く時間がかかります。
新人の入社や別部署からの異動があった場合、新人研修や初期研修を行なうのが一般的です。しかし、「しっかりと初期研修を実施しているにもかかわらず、新人社員の呑み込みが悪い」というケースも少なくありません。
成長スピードには個人差がありますが、レディネスの低さが原因になっている可能性も大いに考えられます。
レディネスとは“新しい考え方や知識を習得するための準備”を指す概念で、レディネスが高いと学習効率が高くなりますし、低いと吸収が遅く時間がかかります。
記事では、レディネスの概念やレディネスを高める要素や高めるための取り組みを紹介します。
<目次>
レディネスとは?
レディネス(Readiness)は「準備」という意味の英単語であり、臨床心理学等の分野では“何かを習得するための準備ができた状態”のことを指します。1952年にアメリカの臨床心理学者アーノルド・ルシウス・ゲゼルによって提唱された概念で、もともとは子供の教育分野で使われていました。
子供の教育というのは、学校教育等を想像してもらえれば分かる通り、成長に伴って新しい考え方や知識を習得していくプロセスそのものです。したがって、どのように教育の効果性や有効性を高めるかという研究は昔からなされており、レディネスも研究の中で見いだされた考え方です。
近年では子供の教育分野だけでなく、“未経験の事柄に対する学習効率”、つまり新卒入社や中途採用、異動、職種転換などにおける“戦力化スピードを左右する要素”として、ビジネス分野でもレディネスが注目されるようになりました。
HR-techの開発が進む中で、個人のレディネスを見極め、高める取り組みにも関心が集まりつつあり、レディネスを測定するような特性検査も登場しています。
レディネスは学習を効果的に進めるための前提条件であり、“学ぶ姿勢”が整っている学習者は学習内容に興味を持ち、効果的に学習内容を吸収できます。一方で、事前準備が整っていない学習者は、しっかりとした研修や教育を提供しても、なかなか学習効果が高まらず戦力化に時間がかかることになります。
レディネスを高める要素
レディネスは新しいことをスピーディーに学ばなければならないシーンに役立つ概念です。前述の通り、ビジネスシーンでは、新しいスキルや業務内容をいち早く習得して活躍することが求められる新卒や中途入社、異動、職種転換、昇格といったシーンで有効です。
組織側としては、個人のレディネスを見極めると同時に、学習前の段階で学習者(新人、異動や職種転換・昇格したメンバー)のレディネスを高めることで、研修やOJTなどの効果を高め、戦力化を進めることが可能です。
レディネス、つまり学習準備を左右する要素は、大きく分けると以下の2つがあります。
レディネスを形成するARCSモデル
ARCSモデルとは、学習者の動機付けを高めるための意欲向上モデルです。教育心理学者のジョン・ケラー氏が提唱したもので、「注意」「関連性」「自信」「満足」の4つの要素にアプローチすることで“学習”を動機付けします。
学習者の興味や関心を引き、「面白そうだ」と思わせることで、注意を獲得します。
また、学習内容や要素を変化させ、マンネリを避けることで注意が持続されます。
- 知覚的喚起 :学習者を惹きつけるために何ができるか
- 探求心の喚起 :学びたいという気持ちをどのように刺激するか
- 変化性 :学習者の興味や関心をどのように維持するか
学習目標に親しみを持たせ、やりがいがあると感じさせることで、関連性を高めます。
- 親しみやすさ :学習者の経験と学習内容を関連付ける
- 目的指向性 :学習者の目的と学習内容を関連付ける
- 動機との一致 :学習者がやりがいを感じる方法やタイミングと紐づける
学習者に成功体験をつくり、学習や変化への自信を持たせます。自分で考えたうえでの成功体験ができれば、さらに自信は高まります。
- 学習欲求 :学ぶことが成果に繋がることを提示する
- 成功の機会 :学びの実践と成功を通じて学習者の自信を高める
- コントロールの個人化 :学習者の自己決定権を尊重する
「学習して良かった」と思わせることで研修の満足度を上げ、新たな学習意欲を引き出すことができます。
- 内発的な強化 :学習者の興味や関心をより高めるにはどうするか
- 外発的報酬 :学習者の成功に対してどのような報酬を提供するか
- 公平さ :公平な評価を実感させるにはどうするか
レディネスとブリンカーホフの法則(4:2:4の法則)
ブリンカーホフの法則は、研修効果を上げるための法則として知られています。「4:2:4の法則」とも呼ばれ、それぞれの数字は学習効果に与える影響の大きさを示しています。
提唱者であるブリンカーホフ氏が行なった「効果のない研修プログラム」の調査が元になっており、どこが欠如すると研修効果が上がらないか、翻って研修効果を高めるためにはどこをしっかり準備・実施することが重要になるかが分かります。
- 受講者の準備不足 :40%
- 研修プログラムの品質 :20%
- 学習内容の活用に関する障害 :40%
上記を見ると、じつは研修の効果性を落としているのは、研修プログラムそのものではなく、研修前における学習者の姿勢作りや研修後の実践をフォローする仕組みの欠如であると分かります。
研修前における学習者の姿勢作りこそ、「レディネス」を高める取り組みです。レディネスを高める取り組みは次章で詳しく紹介しますが、研修前後における下記のような取り組みを充実させましょう。
研修前における学習者の姿勢作り
⇒学習者のニーズ把握、動機づけ、事前課題の提供、期待の伝達など
研修後の実践フォロー
⇒現場とのブリッジング、実践行動の明確化、実践のチェック、成果の発表機会など
レディネスを高めるために人事と上司が取り組むべき具体的な3つの方法
レディネスを高めるためのポイントは、ARCSモデルと、レディネスとブリンカーホフの法則の2つですが、具体的に何をすれば良いのでしょうか。人事担当と上司が取り組むべき3つの具体的なポイントを紹介します。
事前に研修目的や心構えを伝える
研修を実施する前に、研修の目的や学ぶことの価値などを学習者へ明確に伝えましょう。
「なぜ学ぶのか」「何を学ぶのか」を伝えることは、ARCSモデルの「注意」や「関連性」などを満たすことになります。さらに、「学ぶことで何を得られるのか」「どうなって欲しいのか」といった価値や期待を伝えると、ARCSモデルの「自信」や「満足」にもつながり、より意欲を高めることができます。
- 学ぶ目的
- 学ぶ内容の価値
- 学ぶことで得られるもの
- 研修のやりがい
- 学んでどうなってほしいのかの期待
など
事前学習の用意
研修を実施する前には、研修内容と関連する事前学習や課題を出すことも有効です。
例えば、アンケート形式の事前課題を実施すれば、学習者の現状や悩み、課題といったニーズを把握できます。アンケート結果を研修に反映させることで、学習者にとって満足度の高い有意義な研修にすることも可能です。
また、研修に関連する内容を事前学習させれば、研修に対する関心や参加意欲を高めることにも繋がりますし、学習者の理解力も高まります。事前学習は負担が大きくなりすぎないように注意が必要ですが、研修の重要度や位置づけに応じて、動画閲覧、資料の読み込み、意見の準備、レポートなどの事前課題を活用しましょう。
研修後のフォローアップ
研修後のフォローアップは、レディネスとは直接の関係はないように見えますが、ブリンカーホフの法則で紹介した通り、学習効果を高めるために非常に大切です。研修を実施して終わりではなく、研修後も学習者をサポートしましょう。
具体的なサポートとしては、「学習者が研修内容を習得できるよう、学習した内容を実践できる場」を作ることです。
教わったことを実際にやってみれば学習者の理解度が高まりますし、研修効果を長く保つことにもつながります。さらに、実際にやって上手くいけば成功体験が得られ、学習者の自信も高まります。
事後課題などを実施することも効果的です。事後課題はロールプレイング、事後アンケートやテスト、成果発表など、さまざまな形式があります。事後課題を実施した後は、良くできた部分をしっかりと褒め、できなかった部分に対しては具体的なアドバイスを行ないましょう。
できなかった部分へのフィードバックも大切ですが、学習者のモチベーションが上がり、自尊心が高まったり、成功体験として認識できたりするようなポジティブなフィードバックが重要です。
レディネスは「研修前の姿勢作り」に意識が向きがちですが、じつは研修後のフォローアップは次学習(学ぶこと)のレディネスを高めることに繋がります。レディネスを高めるARCSモデルにおいて、「自信」と「満足」はおもに研修後のアプローチから生まれます。
まとめ
レディネスは何かを習得するための準備が整った状態を指し、学習を効果的にするためには役立つ理論です。レディネスを高める要素としては、「ARCSモデル」と「4:2:4の法則」の概念が役立ちます。
ARCSモデルはレディネスを形成する要素を示し、学習者の「注意」「関連性」「自信」「満足」にアプローチすることでレディネスを高められることが分かります。
また、4:2:4の法則(ブリンカーホフの法則)は、学習効果を高めるためには学習前後で学ぶ姿勢を作ったり、実践して成果を収めたりするための取り組みが重要であることを示します。
記事では、レディネスを高めるために人事や上司がすべき取り組みとして、「事前に伝えるべきこと」「事前課題」「事後のフォローアップ」について具体的に解説しました。ぜひ記事を参考に、新人育成をより効果的なものへとブラッシュアップしてください。