昨今、ITやAIなどの発達によって、昔と違って新入社員に任せる“雑用”や“作業”はどんどんなくなり、なるべく早く現場で活躍してもらうことが求められています。
新入社員教育と言えば、入社してすぐの基礎研修(Off-JT)と現場配属後のOJTで成り立っていることが多いですが、Off-JTの効果性を高め、OJTと繋ぐために有効なのが、「チェックリスト」です。
記事では、前段として新入社員教育の目的やゴール、成功させるためのポイントを確認したうえで、新入社員教育に有効な「チェックリスト」の使い方を解説します。
<目次>
新入社員教育を行なう目的とゴール
新入社員を教育するのは“当たり前”になってしまいがちです。まずは改めて、新入社員教育の目的とゴールを確認しておきます。
人材育成を成功させるためには、教育プログラムを設計する側が「何のために行なうのか」「どこがゴールか」を明確にしておく必要があります。当たり前のことですが、目的とゴールをはっきりさせることで、意思決定の判断基準ができ、適切なプログラムや手段を見出すことができます。
初めて企業に就職する新入社員には、ビジネスの経験がありません。そんな彼らを受け入れる新入社員教育の目的とゴールは、「社会人としてのマインドとスキルを身に付けさせ、いち早く現場の戦力となってもらう」ことです。
目的とゴールを達成するうえで、必要なスキルは、
・基本的なビジネスマナー
・他部署やお客様等とのやり取りで必要なコミュニケーションスキル
・業務に関わる基礎知識
・自社や商品・サービスの知識
・業種や業界に応じたコンプライアンスの概念
まで多岐にわたります。スキルだけではなく、
・プロのビジネスパーソンとしてのマインドセット、成果に対する責任感や主体性、セルフリーダーシップ
・自社のミッション・ビジョン・バリューの理解と実践
・自社の商品・サービスに対する誇り
といったマインドセットや行動規範を身に付けてもらうことも、必要になるでしょう。このように、新入社員教育は非常に広範囲のわたるマインドとスキルを教えることになります。
新入社員を教育するうえでポイントになる「目標設定」
新入社員教育を効果的に実施するためには、設計段階で「目標設定」を意識することがおすすめです。
目標設定を行なうことの重要性
新入社員教育を効果的に行なうためには「目標設定」が重要です。前章で挙げた通り、新入社員教育は非常に広範囲な内容を教えるプログラムであり。とくに、人事主導で行なう初期教育は、一種の“詰め込み教育”となりがちです。
“ゼロ”の状態で入社した新人を、短期間で“現場配属”までもっていくためにはやむを得ない部分があります。ただし、だからこそ、「何を教えるか」と同時に、「どうなれば良いか」という目標を、教える内容ごとにしっかりと設定することが大事です。
目標設定を行なう3つの分野
新入社員教育のプログラム内容、そして、目標設定は3つの分野を大別して考えると良いでしょう。
- 自社組織へ馴染む(組織社会化)
- 基礎的なビジネススキル(社会人として、また自社で仕事するうえでの基礎スキルや知識)
- 業務スキル(現場配属されてOJTに入るうえで必要な基礎スキルや知識)
まず、新入社員がプロのビジネスパーソン、また、○○社の一員としてのマインドセットを身に付け、組織に馴染むプロセスは“組織社会化”と呼ばれます。
新入社員には、プロのビジネスパーソンとして成果に対する責任感や主体性、セルフリーダーシップなどを身に付けてもらうと同時に、自身の能力を十分に発揮し、配属先で活躍するために、自社の組織文化を覚えてもらう必要があります。
組織文化には、ミッションやビジョンに代表される理念や事業内容、また、自社の沿革、組織構成、社内で使われる共通言語、意思決定の仕組み、バリュー等の価値観や行動規範が含まれます。“社員の顔と名前”なども組織文化として覚えてもらうべきことの一つです。
組織社会化のプロセスは、何となく慣習で行なわれることも多く、新入社員教育で意外と見落とされがちです。しかし、ビジネスパーソンとしてのマインドセットと組織社会化に抜け漏れが生じると、持っている能力を発揮できなかったり、現場配属後のリアリティショック(想像と現実のギャップ)が大きくなったりして、モチベーション低下や早期退職にも繋がります。
2つ目の基礎的なビジネススキルには、基本的なビジネスマナーや働くうえで必要となるシステムや就業上のルール、申請の仕方などが含まれます。
新入社員教育で教える内容としては、最もイメージしやすい項目でしょう。ただ、イメージしやすいだけに、“何を教えるか”に意識が向きがちです。教える内容に関して、“現場配属後の実践”を念頭に置いて、目標やゴールを設定しておくことが大切です。
3つ目の業務スキルは、基礎的なビジネススキルと重複する部分もありますが、自社での業務に関連する、より実践的な知識やスキルです。配属先によって左右される部分もあると思いますが、入社1年程度を念頭において、その時点での業務目標を達成するために必要な実際の業務内容を細分化して、必要になるスキルを一つずつチェックしていくと良いでしょう。
なお、3つ目に関しては、全社教育ではなく、現場配属後のOJTで教えていく部分もあるでしょう。現場配属後のOJT品質を上げるためには、組織社会化の必要事項や基礎的なビジネススキルと同じように、人事部門が主導して、しっかりと各部門にリストアップ、計画設計してもらうことがおすすめです。
新入社員教育の効果性を高めるチェックリスト
それでは、新入社員教育の効果性を高めるうえで有効な“チェックリスト”の考え方と使い方、サンプルをご紹介します。
新入社員教育にチェックリストが効果的な理由
新入社員教育は、とりわけ初期教育はインプットが中心の座学となるケースが多いでしょう。もちろん、その中でアクティブラーニングやロールプレイングを取り入れて、研修効果を高めていくわけです。しかし、全体としては、知識を吸収する、実践できるようになる期間であって、初期教育の期間中で「身に付く」わけではありません。
初期教育の期間で得た知識・スキルを身に付けて、「実践している」状態にすることが新入社員教育のあるべきゴールです。しかし、“ゼロから一気に教える”という新入社員研修の特性上、どうしても初期教育の期間内では、「実践している」状態まで到達することは難しいのです。
そこで役立つのが、目標設定と連動したチェックリストです。目標設定をチェックリストに落とし込むことで、目指すべきゴールと言語化され、新入社員自身が“どこがゴールで、いま自分がどこにいるか”を把握できるようになります。
これにより、初期研修の終了後も、“実践している”状態の実現に向けて、セルフチェックと自助努力、また遠隔でのフォローがしやすくなります。また、何をどれぐらいのレベルで教えているかを、人事から現場でのOJT担当者に共有するうえでもチェックリストは効果的です。
新入社員教育におけるチェックリストの使い方
新入社員教育におけるチェックリストの作成は、前章で紹介した“教える内容を決める”プロセスに対応して行なうことが基本です。目標設定とチェックリストの作成を連動させることで、教育のゴールが明確になりますし、教える内容に抜け漏れが生じにくくなります。
また、作成したチェックリストを事前に現場部門側とすり合わせることで、現場配属時に教えておいて欲しい内容”の抜け漏れや温度差が出にくく“なります。
例えば、現場においては、“指示を受けた際にはちゃんと復唱して理解にズレがないかを確認する”ことや“分からないことがあったら勝手に自己判断せずに確認する”ことが重要だったりします。
しかし、上記はビジネスマナーという意味では、“誰でもできる”ことであるため、初期教育ではさらっと教えられて、現場配属後に“実践できていない”ことでトラブルが生じがちです。チェックリストをすり合わせることで、抜け漏れや現場と人事の温度差を防ぐことができます。
チェックリストは、スキルや行動ごとに3段階ぐらいで実践レベル/ゴールを作りましょう。そして、週1回~隔週ぐらいで、新入社員自身にチェックしてもらい、人事やOJT指導者が確認する流れがおすすめです。
これにより、
・新入社員が、自分の成長箇所を確認でき、モチベーションに繋がる
・新入社員が、自分で“自分があと何を実践/身に付ける必要があるか”を意識できる
・人事やOJT指導者が“新入社員の自己評価”を把握してフィードバックできる
といった効果が得られます。
新入社員教育におけるチェックリストのサンプル
最後にご紹介するのは、多くの企業で共通に求められるビジネスマナーの一部に関して、3段階のレベルを設けたチェックリストです。チェックリストのイメージを付けていただき、組織社会化、基礎的なビジネススキル、業務スキルに関して、ぜひ自社なりのチェックリストを作成してください。
なお、業務スキルなどは、レベル分けを、
レベル1: 先輩のサポートを得ながら実施できる
レベル2: 単独で実行して、実施後に先輩のチェックをしてもらう
レベル3: 単独で実行してチェックも必要ない
といった形で共通化するのも一つです。
<ビジネスマナーに関するチェックリスト例>
【挨拶】
- レベル1:基本的なポイント(分離礼や目線等)をおさえて、挨拶ができている
- レベル2:笑顔と元気さ(声や表情等)を意識した挨拶をすることができている
- レベル3:気持ちの良い挨拶ができており、周りから褒められたことがある
【第一印象・身だしなみ】
- レベル1:「第一印象は他人の評価で決まる」ことを知っており、意識して整えている
- レベル2:服装、髪型、爪、持ち物等、基本的なポイントは毎朝チェックしている
- レベル3:正しい型を知ったうえで、相手や場面に応じて適切な服装を選択できている
【名刺交換】
- レベル1:名刺交換の基本をおさえ、名刺交換と商談における名刺の取り扱いができている
- レベル2:名刺交換した名刺の扱いに関する企業の規定を知り、それに沿って対応している
- レベル3:名刺交換の相手から好印象と言われたり、相手の名刺から話を拡げられたりする
【敬語・言葉遣い】
- レベル1:一般的な言葉を謙譲語、尊敬語に変換することができる
- レベル2:基本的な敬語・言葉遣いを身に付けており、間違ったときは自分で気付ける
- レベル3:社内外の人が入り混じった場面で正しい敬語を使えている
【電話応対1(基礎編)】
- レベル1:電話応対用のメモ等を準備してあり、聞く/伝える内容を不足なく伝えられる
- レベル2:電話応対で必要な言い回しは頭に入っており、適切に対応できる
- レベル3:組織/社員名やサービス名を把握して、適切な部門/社員へ繋げられている
【電話応対2(実践編)】
- レベル1:誰よりも早く電話に出る意識があり、2コール以内に出ている
- レベル2:元気良く電話に出ることができており、電話をかけてきた相手から褒められたことがある
- レベル3:主要な顧客名や頻度の多い問い合わせ内容を理解して、適切に対応できている
【報連相】
- レベル1:報告、連絡、相談のポイントをそれぞれ知っており、適切に実行できる
- レベル2:報連相を適宜行なえており、上司や先輩から「報連相」を催促されることがない
- レベル3:自分の仕事で成果を上げるために、上司や先輩への「相談」をできている
【メール・SNS】
- レベル1:ビジネスにおけるメール文章の基本を知っており、署名等も準備できている
- レベル2:SNSを使ううえでの注意点を把握して、組織人として適切な使用ができている
- レベル3:口頭/メール/文書/チャット等、ツールに応じて適切な言葉を使うことができている
まとめ
新入社員教育は、「社会人としてのマインドとスキルを身に付けさせ、いち早く現場の戦力となってもらう」ことを目的に実施されます。
特徴として、組織社会化、基礎的なビジネススキル、業務スキルまで、多岐にわたる内容を短期間で教える必要があり、そのために、初期教育は、“実践できるようになる”ところまでの“詰め込み教育”になりがちです。
そこで、“実践できるようになる”と“実践している”のギャップを埋めて、現場配属後のOJTをスムーズに進めるために役立つのが「チェックリスト」です。
新入社員教育のプログラム策定時から、「何をどのレベルで実践している状態にすればいいのか」をチェックリストとして言語化することは、人事部門と現場のすり合わせ、また、新入社員自身のセルフチェックによる教育効果の向上に役立ちます。
ぜひ自社なりのチェックリストを作成して、新入社員教育に役立ててください。