多くの会社は新人教育(新人研修)にどのくらいの期間をかけているでしょうか?短すぎると十分な初期教育ができずに戦力化を妨げる恐れがありますが、一方で、なるべく早く研修期間を終えて新人を戦力化したいのが組織のニーズです。HRドクターを運営する株式会社ジェイックは新人・若手教育を得意とする研修会社です。記事では、ジェイックの知見を踏まえて、新人教育の期間を決めるポイントと、期間内における新人教育の組み立て方などを解説します。
<目次>
新人教育にかける期間を考える
新人教育にかける期間はどれぐらいが適切なのでしょうか。業界や職種によっても異なってくる部分もありますが、本章では平均的な新人教育の期間、また、自社に適切な教育期間の考え方を解説します。
多くの企業が考える、新人教育の期間は3か月
ジェイックの経験では、新人研修の平均的な期間は3か月です。ITエンジニアやMRなど、プログラミング言語を覚えたり、必要資格を取得したりする必要がある場合はもっと長いケースもあります。また、人事部主導のOJT期間を長く取って新人を1人前に近い状態まで育成してから配属する会社、各部門を3か月周期でローテーションして会社理解を深めてから配属する会社等もありますので、一概に言うことはできません。ただ、初期研修から人事部門のOJT等を経て現場配属(現場主導のOJT)に入るまでの期間は2~3か月間というのが一般的です。
新人教育の期間は、人事主導と現場主導、Off-JTとOJTの組み合わせで考える
3か月を目安に実施される新人教育ですが、内容を考えるうえでは、
- 人事主導 or 現場主導
- Off-JT or OJT
という2軸の組み合わせで考えることがおすすめです。
基本的には、
1.人事主導のOff-JT
社会人としての心構えや基礎的なビジネススキルのトレーニング、組織に馴染む期間
2.人事主導のOJT
配属職種が偏る場合は、人事主導のOJTにより職種で必要な基礎スキルを磨くトレーニング期間
3.現場主導のOff-JT
現場配属後に部門や職種毎の業務で必要となる知識や部門組織に馴染むためのトレーニング期間
4.現場主導のOJT
「1人前」となることをゴールに、研修も兼ねながら実際の業務を実施していく期間
という流れになり、①~②までが3か月、③はわりと短期間で行われて、④が6か月~1年間程度、というのが一般的です。
ITエンジニアやMR等のような、専門知識が必須となる職種の場合には、②が割愛されて、①の期間が長くなるようなイメージです。また、メーカー等で、製造・物流・営業等の部門をローテーションして会社と商品理解を深めてから配属が決まるといった流れは、②の期間がたっぷり取られているイメージです。
人事主導のOff-JTとOJT教育
入社したばかりの新人たちは、ついこの間まで学生だったこともあり、まだ仕事の右も左も分からない「ゼロ」の状態です。従って、まずは入社後の初期研修として人事主導によるOff-JTおよびOJTが実施されます。
人事主導のOff-JTは、自社のメンバーとして働くための基礎的な知識やスキルを体系的にインプットしたり、OJTに向けて実践的に身に付けたりしていく期間です(実際の業務にはまだ入らない)。また、新人が複数いる場合には、人事主導のトレーニング期間は同期との絆を生み出しておく期間でもあります。
プログラムとしては、
- プロの社会人として働く心構えやビジネスマナー
- コンプライアンスやPCスキル等の基礎知識
- 自社のミッション、ビジョン、バリューや沿革の理解
- 社内用語や社内ツールを使うスキルの習得
等が一般的です。知識を身に付けるための座学と、学習効果を高めたり、スキルを身に付けたりするためのロールプレイング、ワークショップ等のアクティブラーニングを組み合わせて実施します。
Off-JT教育に続いて、「配属先の殆どが営業部門」等で職種があまり分散しない場合には、OJTも人事主導で実施することが多くなります。各部門でバラバラと教えるよりも、営業職としての基本スキルや商品理解、顧客理解等を人事主導で集中的に教えたほうが効率的だからです。
人事主導のOJT教育は、
- 実務に必要な基礎スキルを体系的・段階的に身に付ける
- Off-JTで学んだ内容をしっかりと実践できるレベルで習得する
- 新人の育成レベルを高めることで現場の育成負荷を減らす
- 新人一人ひとりの個性や強みをより実務的なレベルで把握して配属の参考にする
- 実際の業務に近い内容をお互いにサポートしながら実施することで同期の絆を深める
といった効果があります。
現場主導のOff-JTとOJT教育
人事主導のOff-JTとOJTが実施されたのち、現場への配属が行われて、配属先の各部門で現場主導のOff-JTとOJTが行われることになります。
現場主導のOff-JTとOJTは、実務を通して新人たちが成長したり、業務で成果を上げる力を身に付けたりするうえで欠かせないものです。一方で、各部門で行われるために下記のような不都合も生じやすい傾向があります。
1)教える人による「質」にバラつきがある
OJT内容がしっかり計画されていない場合、実務的なノウハウをバラバラと教えることになり、配属部署によって新人の成長や定着に差が生じやすい
2)現場の上司や先輩社員の新人育成に対するコミット意識に差が生じる
育成意識の違いは質のバラつきに繋がり、場合によっては早期離職の要因になることもあります。
新人教育の期間を決めるポイント
本章では改めて新人教育の期間を決めるポイントを2つ解説します。
ポイント1 新人教育のゴールを明確にする
冒頭でお伝えしたように、新人研修の期間は3か月が平均的ですが、業界や職種、また、新人教育のゴールによっても必要な期間は異なります。従って、教育期間を決めるうえで重要なことはゴール設定です。新人教育が終わる(現場配属する)時点で、
1 どんな知識やスキルを持っている必要があるか?
2 どれぐらいまで身に付いている状態を求めるか?
というゴールを明確にしましょう。ゴールが明確になれば、そのために必要な経験、教育に必要な期間もある程度見えてきます。
ポイント2 研修方法を決める
ゴールを決めたうえで、次に研修方法について大枠を決めましょう。詳細まで決める必要はありませんが、研修方法が決まらないと研修期間が決まらない部分もあります。
研修方法はゴールから紐づいてくる部分もありますが、同時に、投下できるリソースがあるかどうか(実施できるかどうか)という問題もあります。冒頭で紹介したように、ある会社では「入社1年間を新人教育の期間として、他社の商材を使って営業職として実践的なOJT(営業としての目標設定まで実施)をしたうえで現場に配属する」という取り組みをしています。非常に効果的な教育ですが、実施できるかどうかはリソースにもよります。
新人教育に社内でどれぐらいのリソースを割けるのか、OJTを指導できる人がいるのか、社内にいない場合に外部講師に依頼するのか等です。ちゃんと指導とケアするリソースがないまま新人教育を長期化するよりは、現場に配属してしまって現場OJTを底上げする取り組みをしたほうが効果的なことも多々あります。研修期間を決めるうえでは、ゴールとリソースを踏まえて、大枠の研修方法を決めましょう。
現場主導のOJTを効果的に実施する5つのポイント
本章では、「新人教育の期間」には一般的に含まれませんが、新人の定着・育成に大きな影響を持つ現場主導のOJTを効果的にするポイントを解説します。
現場主導のOJTは新人教育に不可欠なものですが、同時にトラブルも生じやすいものです。特に「人事主導の新人教育期間が終われば、人事の仕事は終わり」という状態になっていると、新人の成長状況がバラついたり、モチベーションの低下や早期離職に繋がったりしやすくなります。
現場配属後のOJTは、各部門にて実施するものですが、現場主導のOJT品質を底上げするために、人事・組織として以下のポイントを押さえていくことがおすすめです。
ポイント(1) OJT計画書の策定
「現場でのOJTが行き当たりばったりになりがち」という問題を回避するためのシンプルな答えは、OJT計画をきちんと作成することです。人事・組織側でフォーマットを準備してあげて、フォーマットを事前に埋めてもらって計画を作成・提出してもらうことがおすすめです。初年度は大変ですが、人事側でOJT計画書を蓄積していくことで、翌年以降は現場側の負担も軽減することができます。
OJT計画書は、
- 新人育成で目指す「1人前」の定義
- 1人前となるために必要な知識やスキル
- 上記の知識やスキルを覚えていくステップやミニゴール
- 各ステップで生じやすいハードルやモチベーション低下の原因
- ゴールまでの時間軸と各ステップへの分解
といった項目を盛り込むと良いでしょう。
ポイント(2) 適切なOJT担当者の選定
OJT担当者を誰にするかも、新人教育の成否に影響します。教育担当者の選定でありがちなので、目立った成果を上げているメンバーをOJT担当に任命するケースです。間違ってはいないのですが、 “仕事で成果を上げる”スキルと”新人に教える”スキルは別のものです。
また、プレイヤーとして成果を上げるうえで、本人の個性や強みが大きな要因を占めている場合もあります。指導者と新人の強みやタイプが近ければ良いのですが、個性が違う場合もあります。特に、個性が強いメンバーが教える技術をちゃんと持っていない場合は、新人にとって「マネして成長する」ことが難しいケースもあります。
OJT担当者を選ぶうえでは、 “人を育てるスタンスや考え方”が重要です。例えば、人材開発に取り組むうえで「人は生まれ持った能力があり後天的に変わるのは難しい」という考え方と「人は生まれ持った能力に関わらず、理にかなった努力を重ねることで大きく成長できる」と考え方があります。どちらが正しいと一概には言えませんが、後者の考え方を持ったメンバーのほうが新人教育に向いていることは言うまでもありません。
また、下記のような特徴を持ったメンバーは新人教育に向いていると言えるでしょう。
- 相手の成長を、自分のことのように喜べる人
- 失敗を責めず、次にどうすればいいかを本人に考えさせる人
- 仕事に対する考え方や基本行動が模範的な人
- 仕事に前向きで、仕事の意味や価値を説明できる人
- 会社と仕事へのエンゲージメントが高い人
ポイント(3) OJT担当者の教育
OJT担当者となった人には、「人を教える」力を身に付けてもらう機会を作ることも重要です。OJTを担当する経験はマネジメントの第一歩でもあります。きちんとした教育機会を設けることで組織の人材育成が底上げされることになりますし、教育機会が得られることでOJT担当者のモチベーションにも繋がります。
人を教えるうえで必要な力は、
- 信頼関係の作り方
- ティーチングやコーチング
- 分かりやすい説明の仕方
- 報連相の受け方
- コミュニケーションスタイルや価値観の理解方法
などです。OJT担当者が多数になる場合は、短時間でも良いのでぜひ、OJT担当者向けに研修を実施して、OJT担当者の教える力を底上げすると同時に、OJT担当をすることの価値や意味を伝えてモチベーションアップに繋げましょう。
ポイント(4) OJTに入る前のオリエンテーション実施
現場主導のOJT期間に入る前には、人事主導でオリエンテーションを実施することがおすすめです。実務を実施する現場主導のOJTでは、リアリティショックが生じたり、壁にぶつかったりすることが当たり前です。リアリティショックに対する心の準備や壁への向き合い方等をオリエンテーションで伝えておくとトラブルを回避しやすくなります。
また、新人とOJT担当者の顔合わせを行うと共に、コミュニケーションスタイルや価値観の相互理解等を行う場を設けると、OJT担当者と新人間での人間関係のトラブルを防ぎ、信頼関係の構築に繋がります。
ポイント(5) OJT実施後のフォローアップ
現場でのOJT教育が始まった後も、人事は定期的にフォローアップを実施すると良いでしょう。現場でのOJTが始まると、OJT担当者は新人の上司となります。「OJT担当者と人間関係が上手くいっていない」「モチベーションが落ちている」等の情報は意外と“OJT担当者の上司”からは見えないものです。
昨今の新人はオンライン研修等にも馴染みがあります。定期的に人事側で短時間のOff-JTや面談を実施して、新人の状況把握やモチベーションアップを図ると良いでしょう。
おわりに
新人教育の期間は3か月程度が平均的です。ここでの新人教育は人事主導の期間を指していますが、実際の新人教育は、人事主導のOff-JTとOJT、現場主導のOff-JTとOJTの組み合わせです。それぞれを適切に運営して新人教育の効果を高めていきましょう。
また、新人教育の期間を決めるうえでは、現場配属時に新人がどんな状態になっている必要があるかというゴール、そして、新人教育に割くことができるリソースと照らし合わせて決める大枠の方法、2つの側面から考えることが望ましいでしょう。記事で解説した新人教育のポイントを参考に、新人教育の期間、またコンテンツを決定していただければ幸いです。