なぜ今「推される職場」が求められているのか
若手が辞める職場と、若手が残る職場。両者の違いは、もう給与や福利厚生だけでは説明しきれなくなっています。
条件は決して悪くない。むしろ整っている。休みも取れる。ハラスメントにも気を配っている。昔に比べれば、ずっと働きやすくなっている。それでも、若手がどこか受け身で、最低限のことしかやらない。自分の考えをあまり出さない。数年たつと、静かに離れていく。いま多くの職場で起きているのは、まさにこの現象ではないでしょうか。
私は、ここに今の組織づくりの大きなテーマがあると感じています。
働きやすさを整えるだけでは、人は職場に気持ちを預けてくれない。では、人はどんなときに「もっと関わりたい」「この場所をよくしたい」と思うのか。そこを考える必要があります。
ヒントになるのが、いま広く定着している「推し活」という現象です。好きなアーティストや俳優、スポーツチーム、アニメのキャラクターなどを応援する。ライブに行く。SNSで発信する。グッズを買う。周囲に魅力を語る。そうした行動は、今では特別なものではなくなってきています。
面白いのは、人々が「やらなければいけないから」ではなく、「応援したいから」動いていることです。頼まれているわけでもないのに、時間も気持ちも使う。ときにはお金もかける。それほどまでに主体的になれるのは、そこに感情が動く関係があるからです。私は、「推し活」の構造は職場にも通じると考えています。
様々な職場がある中で、「このチームをもっとよくしたい」「ここで頑張っていることを人に話したい」「できれば誰かに勧めたい」と思える職場があります。私はそれを「推せる職場」と呼んでいます。言いたいのは、職場を “好きになってもらおう”という単純な話ではありません。
人が何かと前のめりに関わるのは、自分が対象と「つながっている」と感じられるときです。職場や仕事に対して、自分と関係がある、自分の関わりに意味がある、自分の声や行動が少しでも場が影響を与える。そう思えたときに、人は仕事を「やらされるもの」ではなく「自分ごと」として引き受け始めます。
今、企業経営では「エンゲージメント」という言葉が広く使われています。働く人がどれだけ主体的に仕事に関わり、組織に貢献しようとしているかを示す概念です。私はエンゲージメントを高めるうえで、本当に見なければいけないのは、会社全体への愛着よりも、もっと手前にある“職場とのつながり”だと思っています。
会社そのものには強い愛着が持てなくても、
「この仲間とならやっていける。」
「このチームをよくしたい。」
と思えることはあるはずです。
この感覚の有無が、若手の主体性を大きく左右します。だからこそ、今後の組織づくりでは、「どうすれば人が辞めないか」だけでなく、「どうすれば職場を自分ごととして応援したくなるか」を考える必要があります。私は、これからの採用・定着・育成の土台は“職場とのつながり”の感覚にあると思っています。






