新人/若手から“推される職場”の条件は?

更新:2026/05/18

作成:2026/05/14

若手の離職や受け身な働き方の要因は、給与や福利厚生ではなく、「この職場に本気で関わる理由が見つからない」という感覚にあります。これを改善するヒントになるが『推し活』です。

 

若手が『推せる』と感じる職場はどうすれば作れるのか。明日から実践できる「推される職場」を作る方法論を、株式会社NEWONE 代表取締役の上林 周平(かんばやし・しゅうへい)氏に解説いただきました。

 

<目次>

なぜ今「推される職場」が求められているのか

若手が辞める職場と、若手が残る職場。両者の違いは、もう給与や福利厚生だけでは説明しきれなくなっています。

 

条件は決して悪くない。むしろ整っている。休みも取れる。ハラスメントにも気を配っている。昔に比べれば、ずっと働きやすくなっている。それでも、若手がどこか受け身で、最低限のことしかやらない。自分の考えをあまり出さない。数年たつと、静かに離れていく。いま多くの職場で起きているのは、まさにこの現象ではないでしょうか。

 

私は、ここに今の組織づくりの大きなテーマがあると感じています。

 

働きやすさを整えるだけでは、人は職場に気持ちを預けてくれない。では、人はどんなときに「もっと関わりたい」「この場所をよくしたい」と思うのか。そこを考える必要があります。

 

ヒントになるのが、いま広く定着している「推し活」という現象です。好きなアーティストや俳優、スポーツチーム、アニメのキャラクターなどを応援する。ライブに行く。SNSで発信する。グッズを買う。周囲に魅力を語る。そうした行動は、今では特別なものではなくなってきています。

 

面白いのは、人々が「やらなければいけないから」ではなく、「応援したいから」動いていることです。頼まれているわけでもないのに、時間も気持ちも使う。ときにはお金もかける。それほどまでに主体的になれるのは、そこに感情が動く関係があるからです。私は、「推し活」の構造は職場にも通じると考えています。

 

様々な職場がある中で、「このチームをもっとよくしたい」「ここで頑張っていることを人に話したい」「できれば誰かに勧めたい」と思える職場があります。私はそれを「推せる職場」と呼んでいます。言いたいのは、職場を “好きになってもらおう”という単純な話ではありません。

 

人が何かと前のめりに関わるのは、自分が対象と「つながっている」と感じられるときです。職場や仕事に対して、自分と関係がある、自分の関わりに意味がある、自分の声や行動が少しでも場が影響を与える。そう思えたときに、人は仕事を「やらされるもの」ではなく「自分ごと」として引き受け始めます。

 

今、企業経営では「エンゲージメント」という言葉が広く使われています。働く人がどれだけ主体的に仕事に関わり、組織に貢献しようとしているかを示す概念です。私はエンゲージメントを高めるうえで、本当に見なければいけないのは、会社全体への愛着よりも、もっと手前にある“職場とのつながり”だと思っています。

 

会社そのものには強い愛着が持てなくても、

「この上司となら頑張れる。」
「この仲間とならやっていける。」
「このチームをよくしたい。」

と思えることはあるはずです。

 

この感覚の有無が、若手の主体性を大きく左右します。だからこそ、今後の組織づくりでは、「どうすれば人が辞めないか」だけでなく、「どうすれば職場を自分ごととして応援したくなるか」を考える必要があります。私は、これからの採用・定着・育成の土台は“職場とのつながり”の感覚にあると思っています。

 

若手は“待遇”ではなく何を見ているのか

若手社員の離職理由として、給与や待遇がよく挙げられます。もちろん、報酬や労働条件が大事なのは言うまでもありません。ただ、私は長く人材開発や企業研修の現場に関わってきた実感として、「待遇を整えるだけでは、人は本気で仕事に向き合わない」と思うことがあります。

 

実際、近年の調査を見ても、「休暇が取りやすい」といった働きやすさの指標は改善している一方で、「働きがい」や「成長実感」はそこまで高まっていません。つまり、働きやすさは整っていても、前向きに力を出したいと思えるかどうかは別問題なのです。

 

私はよく、「働きやすさはマイナスをゼロにする取り組みだ」とお話しします。不満や負担を減らすことはとても大切です。ただ、その先にあるプラスを生み出すのは、「この仕事に関わりたい」「この職場に貢献したい」という感情です。

 

最近は「静かな退職」という言葉もよく聞かれるようになりました。定時で帰る、昇進を望まない、言われたことだけをやる。こうした働き方自体を一概に悪いとは言えません。問題なのは、背景に「この職場に本気で関わる理由が見つからない」という感覚があることです。

 

私は20年以上、人材育成や組織づくりの現場を見てきました。その中で多いのは、「不満でいっぱいだから辞める」というより、「別に今すぐ辞めたいわけではない。でも、ここに深くコミットする意味も感じられない」という状態です。言われたことはやる。真面目でもある。でも、それ以上の熱量はない。そうした部下を前にして、上司は「もう少し主体的に動いてほしい」と感じている。このすれ違いが多くの職場で起きています。

 

ギャップは何によって埋まるのか。私は、仕組みや制度を足すこと以上に、目の前の関係の中で「ここで頑張る意味」を感じられることが大切だと思っています。

 

たとえば、自分の仕事の背景が共有されていて、なぜやるのかが分かること。

 

たとえば、上司がただ指示を出すだけでなく、自分に何を期待しているのかを言葉にしてくれること。

 

たとえば、困ったときに相談できて、上手くいったときにはきちんと反応が返ってくること。

 

こうしたやり取りは、一つひとつは小さく見えるかもしれません。けれど、やり取りの積み重ねによって、人は「自分はここでちゃんと見られている」「この職場で力を出す意味がある」と感じ始めます。

 

私は「半径5メートルの人間関係の中に小さな共感を循環させることが大事だ」とよく言います。制度論より前に、日々顔を合わせる上司や同僚との間で、理解されている実感や、関わる意味の実感が生まれているかどうかが、若手の気持ちを大きく左右するのです。

 

「推せる職場」を作る3つの実感

若手が「推せる」と感じる職場には、どのような特徴があるのでしょうか。詳しく見ていきましょう。

 

私は、カギになるのが「心理的所有感」だと考えています。これは、「この組織は自分のものだ」「この職場は自分に関係がある」と感じる感覚です。心理的所有感があると、人は受け身ではいられなくなります。主体性や責任感が自然に立ち上がってくるのです。

 

私は、心理的所有感は、大きく三つの実感から育っていくと考えています。

 

一つは、「自分が関われている」という実感です。

 

自分の意見が反映される。チームの方向性に参加できる。任されている感覚がある。関与の実感があると、人は仕事を自分ごととして捉えやすくなります。逆に、どれだけ環境が整っていても、自分は決められたことをこなすだけの存在になっていると感じていれば、職場はどこか他人事のままです。推し活でも、自分が応援し、参加し、影響を与えられると感じているからこそ熱量が高まります。職場も同じです。

 

次に、「自分は分かっているし、分かってもらえている」という実感です。

 

職場の方針や背景が共有されている。上司が何を考えているのかが見える。なぜ今この仕事が必要なのかがわかる。こうした理解があると、人と場の距離が縮まります。私はよく、「意味がわからない仕事は、自分ごとになりにくい」とお話ししています。どれほど重要な仕事でも、背景が共有されなければ、ただの作業に見えてしまいます。逆に、なぜそれをやるのか、どこにつながっているのかが見えると、気持ちの入り方が変わってきます。

 

そして最後に、「自分は役に立てている」という実感です。

 

自分が時間や努力を注いできた積み重ねがチームの役に立っている。そう思えると、人はその場に愛着を持ち始めます。人は、ただ与えられたものよりも、自分が手をかけたものに対して愛着を持ちます。だからこそ、「頑張ったことが見てもらえている」「自分の働きがちゃんと役に立っている」と感じられることは、とても大切です。

 

三つの実感がそろうと、職場は「ただ働く場所」から「応援したい場所」に変わっていきます。

 

そうした職場には共通する空気があります。お互いに何に喜び、何に悩み、どんなことを大切にしたいのかを知ろうとするやり取りがあるので、共感が少しずつ循環していきます。すると、本音も言いやすくなります。

 

無理に仲良くしようとしなくても、困ったときに声を上げやすくなり、違う意見も出しやすくなります。さらに、「ここにいると自分は前に進めている」という成長実感も生まれやすくなります。

 

私は、「推せる職場」は特別に華やかな職場ではないと思っています。安心して関われて、自分の存在に意味があり、この場を少しずつ一緒に作っていけると感じられる職場。そういう場所に、人は気持ちを向けるのだと思います。

 

部下の心を動かすリーダーは“管理”より“意味づけ”をしている

職場の空気を左右するうえで、やはりリーダーの影響は大きいものがあります。私はこれまで多くの管理職の方と関わってきましたが、部下の心を動かせる人と、そうでない人の違いは、厳しさや優しさの量ではないと感じています。違いが出るのは、部下が「この人は自分をちゃんと見ている」と感じられるかどうかです。

 
 
言い換えれば、心を動かすリーダーは、部下を管理するだけではなく、部下の仕事に意味を与えているのです。

 

必要なのは、特別な話術ではありません。日々の対話の中で、相手を理解しようとすること。そして、自分がなぜそう考えるのかを、自分の言葉で伝えることです。

 

たとえば1on1が業務の進捗確認だけになってしまうと、どうしても管理の場になります。しかし、今の仕事でどこにやりがいを感じているのか、逆にどこでしんどさを感じているのか、何に引っかかっているのかを聞いていくと、相手の見えている景色が少しずつわかってきます。部下の価値観や感情が見えてくると、自身の関わり方も変わりますし、部下も「この人には話していいのかもしれない」と感じ始めます。

 

また、リーダーが仕事の意味を語ることもとても大切です。

 

現場ではどうしても、「何をやるか」「いつまでにやるか」という話が中心になります。でも、それだけだと人の心はあまり動きません。なぜこれをやるのか、なぜ今これが必要なのか、自分は何を実現したいのか。そこまで含めて言葉にされると、仕事は単なるタスクではなくなります。

 

私は、リーダーの言葉には、自分の経験や実感が乗っていることが大切だと思っています。整った説明よりも、「自分はこういう悔しさを味わったから、こういう職場にしたい」「こういう経験があったから、ここを大切にしたい」と語られた言葉のほうが、人の心には残ります。

 

受け身に見える部下に対しても、「この人はやる気がない」と片づけないことが大事です。受け身に見える部下は多くの場合、関わるきっかけや、自分の意見を出していい感覚がないだけです。

 

問いかけ方を変えるだけでも、人は少しずつ変わります。この仕事がうまくいったら誰が助かると思うか。今のやり方に、もっとよくできるところはないか。そうやって考える余地を渡されると、人はだんだん参加者になっていきます。

 

リーダーのこうした力は、今後ますます重要になるはずです。

 

AIやテクノロジーが進化し、業務管理や情報整理の多くが自動化されていく中で、上司に残る役割は何か。私は「人の心を動かすこと」だと思っています。事実やデータを示すだけなら、AIのほうが得意かもしれません。でも、事実にどう意味を与えるか、どんな未来を描くか、チームで頑張る価値をどう伝えるかは、人にしかできません。

 

リーダーの仕事は、正解をたくさん知っていることではなく、目の前の人がこの職場で前を向けるようにすることです。そこに今後のマネジメントの本質があると、私は思っています。

 

明日から変えられる小さな一歩

ここまで読んで、「推せる職場を作るのは大変そうだ」と感じる方もいるかもしれません。しかし実際には、職場の空気を変えるのは、すごく大きな制度ではなく、日々の小さな行動です。

 

たとえば、相手を気にかけていることが伝わる一言があるかどうか。

 

仕事を依頼するときに、背景まで伝えているかどうか。

 

上手くいったときに、きちんと反応を返しているかどうか。

 

その積み重ねが、「ここは自分をちゃんと見てくれる場所だ」という感覚をつくります。

 

上司からすると、ほんの少しの違いに思えるかもしれません。でも部下にとっては、小さな違いが、「この職場にいていいのか」「ここで頑張ってもいいのか」を決めることがあります。

 

繰り返しになりますが、私は、まずは半径5メートルを変えることから始めればいいと思っています。壮大な組織改革より先に、目の前の相手との関わり方を少し変えることが重要なのではないか? と感じています。

 

たとえば、挨拶のあとに一言添えてみる。

 

1on1で、支援の問いを一つ増やしてみる。

 

仕事を振るときに、「なぜこれをお願いしたいのか」を伝えてみる。

 

うまくいったときに、「よかった」で終わらせず、何がよかったのかまで言葉にしてみる。

 

小さな積み重ねが、職場に少しずつ共感を増やし、「ここで働く意味」を育てていきます。

 

人は論理だけでは動きません。気持ちが動くから、行動が変わります。大きな理念の前に、まず必要なのは、日々の関係の中にある小さな実感です。

 

このチームなら頑張りたい。この職場なら人にも勧めたい。そう思える場所を作ることが、これからの時代に本当に強い職場を作ることだと、私は思っています。

 

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