地方採用とは、“地方学生”や“地方人材”をターゲットにした採用の総称です。
近年では、少子化による労働人口の減少や新卒採用の早期化・長期化・複雑化などの要因から、採用力の低い中堅・中小企業が優秀な人材を採用することが難しくなっています。
こうしたなかで地方採用は、競争率の低い“ブルーオーシャン”である側面から、中堅・中小企業などの間で注目度が高まっています。
また、地方の国公立大学は地頭の高い学生や理系人材も多く、企業にとっては魅力ある存在です。
記事では、まず、地方採用の現状と課題を確認します。確認したうえで、地方採用で有効となる6つの採用手法と、地方採用を成功させるためのポイントを解説しましょう。
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<目次>
地方採用の現状
まずは、地方採用の対象となる“地方という市場”がどういう現状があるかを簡単に紹介します。
労働人口の減少
経済産業省は、「地方における人口・労働力の変化」という資料のなかで、地方の労働人口に関して、以下2つの現状と未来予測の報告を行なっています。
- 1.地方中小都市や中山間地域等では、今後全国に先駆けて急激な人口減少の進展が予想される
- 2.また、人口構成の高齢化も著しく、人口減少を上回る勢いで労働力人口の減少が進むと考えられる
大都市への人口流出
少し古いデータになりますが、総務省の「平成27年度版情報通信白書」には、「地方から東京圏への人口流出の状況は、各地域での就業者数の増減状況と表裏一体」といったことが書かれています。
いわゆる多くの若者が地方から東京圏への流出をする背景には、経済環境や雇用環境の悪化によって、地方に魅力的な就業機会が不足していることが要因としてあげられます。
なお、総務省の情報通信白書で示された2003年→2013年という過去10年間の就業者数の増減において、就業者数が増加したのは東京圏と近畿圏だけになっています。
出典:平成27年度版情報通信白書第1節地域の企業とICT(2)人口流出の背景(総務省)
有効求人倍率の上昇
有効求人倍率とは、ハローワークの有効求人数を有効求職者数で割った数字です。有効求人倍率の地域ごとの動向は、数年おきに厚生労働省や内閣府などが分析・公表しています。
内閣府が公表した「地域の経済2022」によると、各地域の有効求人倍率はコロナショックの影響を受けた2020年の底と比べて持ち直してはいます。
ただ、以下3エリアには“有効求人倍率の水準は高いものの、上昇幅は低い”という分析結果が出ています。
- 東北:1.50
- 四国:1.50
- 九州:1.34
なお、有効求人倍率は、1を上回れば“求職者よりも求人企業数が多い、1を下回れば”求人企業よりも求職者数のほうが多い“という意味になります。
地方採用の課題
首都圏や近畿圏などの企業が地方採用を行なう場合、以下の課題に直面することが多いでしょう。
大都市と比べて母集団が小さい
地方は労働人口が少ないため、たとえば、地方で採用イベントなどを実施しても、首都圏や近畿圏ほど大きな母集団(採用候補者の集団)は集められません。
つまり、人数だけで見ると、地方では採用効率が悪くなってしまう傾向にあります。
地元企業に目を向けてしまいがち
大学進学時に東京・大阪などの大学に進学しなかった学生層は、一定の地元意識を持っていることも多いです。
そのため、自宅から通える地元の大学に進学した学生は、新卒での就職先も地元企業のなかから探す傾向が高いといえます。
特に地元の優良企業の人気は、首都圏・近畿圏・名古屋圏などの大企業をしのぐ場合もあります。
また、転職する場合も、やはり「自宅から通える企業」という視点になりがちです。そのため、首都圏や近畿圏、名古屋圏などの企業に対して、そもそも関心が向きづらい層もいます。
全国転勤を嫌う
地元から一度も離れたことがない人は、転勤にともない地元から出ることや一人暮らしに抵抗や不安があったりします。
また、地元への愛着などもあり、地元エリアに住みたい、勤務したいというニーズも強いです。
新卒や若手層の場合、「一度は地元を離れたとしても、仕事をしながら力を付けて将来は地元で働きたい」という人も多い傾向があります。
結果として、全国転勤をともなう採用が嫌われるケースも多いでしょう。
地方採用で有効な採用手法
首都圏・近畿圏・名古屋圏などに本社を構える企業が優秀な地方人材と出会い獲得につなげるには、以下のような媒体や手法のなかから、自社に合う手法を選択することが有効となります。
採用イベント
地方の県庁所在地や都市などでは、マイナビなどの大手求人媒体や各地域の労働局の主催で、合同説明会などの採用イベントが開催されています。
合同説明会などのイベントは、地方では認知度がそう高くない首都圏などの企業にとって、地方人材と直接出会い、自社のことを知ってもらう良い機会になるでしょう。
採用イベントでは、求職者と直接顔を合わせて口説くことが可能です。
瞬間的には出張費用や工数などを投下する必要がありますが、相性がいい採用イベントを見つけることができれば、良い採用手法になるでしょう。
地域に特化したメディア
地元以外に興味がない人材に自社を見つけてもらうには、“○○県内”といった地元エリアに特化したメディアに求人を出すのも一つの方法です。
地方では、全国規模では有名ではない媒体が、高いシェアを持っている場合もあります。
求人広告の出稿に向けて担当者とコミュニケーションを図るなかで、各地域ならではの人気企業や就活の傾向などが見えてくることもあるでしょう。
地元大学・専門学校への求人
大学や専門学校には、学生の就活をサポートする就職課やキャリアセンターがあります。就職課から推薦してもらうと、地方で認知度の低い企業でも信頼性が増したりします。
また、学校からの採用であれば、広告媒体のような費用もかかりません。
ただ、学校の就活イベント参加や学生を紹介してもらえるようになるには、就職課へ定期的に通って担当者と良好な関係を築く必要があるでしょう。
また、一般的に国公立大学は私立大学ほど、就職支援に力を入れていないケースも多く、国公立大学の学生をターゲットにしたい場合などは、学校へのアプローチでは不足することが多いでしょう。
ハローワーク/新卒ハローワーク
厚生労働省が運営するハローワークも、多くの地元企業が求人を出しているため、地元での就職・転職を希望する人がよく利用するサービスです。
また、最近では、U・I・Jターン希望者への情報提供や職業相談なども行なっています。
ハローワークの場合、一般的な求人媒体などと比べて、採用できる人材の年収ゾーンなどは下がる傾向にあります。ただ、ハローワークには、特定地域に無料で求人を出せる利点があります。
リファラル採用
自社メンバーの友人知人を紹介してもらう採用方法です。
紹介者となるメンバーは、自社と友人知人の状況を以下のように熟知しているため、リファラル採用は企業と求職者のミスマッチが生じにくい採用方法でもあります。
- 企業側の状況:採用条件、仕事の進め方、大切にしている価値観・風土など
- 友人知人の状況:経験とスキル、どういうキャリアを構築したいか、全国転勤も可能かなど
WebやSNSによる広報
地方採用の母集団を大きくするには、自社のWebサイトやブログ、SNSなどを通じて地方の優秀な就職・転職潜在層に“見つけてもらうための広報”も併せて行なうことがおすすめです。
採用イベントの参加予告をすることで、地方在住者とのつながりも増えやすくなります。
広報活動では、“Jターン大歓迎”や“地方からの完全リモートワーク可能”などのキーワードで応募や問い合わせの敷居を下げることも大切でしょう。
地方採用に強い媒体や新卒紹介会社
地方採用に特化した採用メディアや新卒紹介会社などもあります。少し高単価になっても効率よく採用したい場合には、こうした特化媒体や紹介会社を使うことも有効でしょう。
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地方採用を成功させるポイント
地方採用で自社に合う優秀な人材を効率よく獲得するには、以下のポイントを大切にしながら採用活動を進めるとよいでしょう。
ターゲットを明確にする
効果的な採用方法を選択し、自社が求める人材の心に響く求人メッセージなどを発信するには、まず、自社の求める人材の定義(採用ターゲット)を明確にする必要があります。
具体的には、以下のようなターゲット設定になるでしょう。
- 宮城県在住の20代、SaaS法人営業の経験あり、全国転勤も可能
- 東北在住の30代エンジニア、医療システムの開発経験が豊富、場所にとらわれない柔軟な働き方を希望など
特に全国転勤などに対する意向は、一つの重要なポイントになりえます。採用したい対象によっては、エリア勤務制度などを検討することも、地方採用を成功させるうえでは必要でしょう。
Uターン・Iターン人材へのアプローチ
先ほども少し触れましたが、Uターン・Iターン・Jターン人材も、地方開催の就活イベントや求人に関心を持つ潜在層です。
- Uターン:一度は都会で就職した人が、地元に戻って働くこと
- Iターン:生まれ育った故郷以外の地域に就職・移住すること
- Jターン:地方で生まれ育った人が一度都会で働き、続いて故郷とまた違う別の地域に移住して働くこと
IターンとJターンを検討する人には、人との触れ合いやワーク・ライフ・バランス、自然やゆとりある暮らしなどを重視する傾向があります。
また、Uターンの場合、自分の生まれ育った地域や家族を大事にする人が多いです。
各層が求めていることがわかると、それぞれのニーズを満たす仕組みづくり、条件提示などのアプローチもしやすくなるでしょう。
人的ネットワークの構築
地方には、任意のエリアの都市構想や地元大学の専門分野に基づく人材育成や就職・転職の特殊事情があったりします。
たとえば、福島県会津若松市では、日本初のコンピュータ理工学部を有する会津大学を中心に、地域内外で活躍する優秀なデジタル人材の育成や、市のスマートシティ化を推進するための産学官連携、企業誘致などを積極的に行なっています。
地方で優秀人材へのアプローチを行なったり紹介を受けたりするには、まず、該当の地域ならではのキャリア志向、就職・転職事情などを知ることが大切です。
そのためには、地元の大学・自治体・求人メディア・各種団体などと“良好な人脈”を築くことが必要となってくるでしょう。
オンライン環境の整備
近年の日本では、コロナショックの影響で以下のようなオンラインの仕組みを使った人材採用や教育、仕事のやり方などの導入が加速しています。
- オンラインの企業説明会
- オンラインのインターンシップ
- オンラインの採用面接
- オンラインの研修
- リモートワーク(テレワーク)
- リモート会議など
オンラインの説明会や採用面接には、企業と求職者の移動時間やコストを削減することで、お互いをつながりやすくする利点があります。
また、職種によっては、出勤不要の完全リモートワークで募集をかけることができれば、地元からの転出が難しい地方人材も応募しやすくなるでしょう。
エリア採用・雇用などの人事制度
近年では、全国展開する大手企業などを中心に、転勤をせず特定の地域内だけで活躍してもらう“エリア採用”や“エリア限定職”などを設けるケースが増えてきています。
エリア採用には、転勤がないことで地方人材のモチベーションやワーク・ライフ・バランスを充実させられるともに、彼らの地元民ならではの視点や人脈によって地域密着型のサービスを提供できる企業側の利点もあります。
先述のように特定の地方エリアにおける採用を成功させるためには、こうした人事制度の検討も有効でしょう。
まとめ
地方都市の労働人口は、高齢化や雇用環境・経済環境の悪化によって、減少傾向にあります。
ただ、有効求人倍率は、コロナショックの影響で底に達した2020年と比べると、少しずつ持ち直してきているようです。
首都圏や近畿圏の企業が地方採用を行なう場合、地方ならではの以下の課題に注意をする必要があります。
- 大都市と比べて母集団が小さい
- 地元企業に目を向けてしまいがち
- 全国転勤を嫌う傾向がある
地方採用では、以下の採用手法から自社に合うものを選択するのがおすすめです。
- 採用イベント
- 地域に特化したメディア
- 地元大学・専門学校への求人
- ハローワーク/新卒ハローワーク
- リファラル採用
- WebやSNSによる広報
- 地方採用に強い媒体や新卒紹介会社
また、地方採用を成功させるには、以下のポイントを大切にしながら自社の環境整備や採用活動を進めていくとよいでしょう。
- 地方採用を成功させるポイント
- ターゲットを明確にする
- Uターン・Iターン人材へのアプローチ
- 人的ネットワークの構築
- オンライン環境の整備
- エリア採用・雇用などの人事制度
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