採用戦略とは?|立案から実行までのステップと注意事項を解説

更新:2023/07/28

作成:2023/02/11

古庄 拓

古庄 拓

株式会社ジェイック取締役

採用戦略とは?|立案から実行までのステップと注意事項を解説

近年、少子化に伴って優秀人材の採用は慢性的な売り手市場となっています。こうした中で、採用を成功させるためには採用活動の指針となる採用戦略が不可欠です。

 

記事では、採用戦略とはどのようなものか、採用戦略の立て方や注意点、採用戦略を実行する際のポイントなどを紹介します。

<目次>

採用戦略とは?

採用戦略とは何か、そしてなぜ必要といわれるのか、基本的なポイントを確認しておきます。

 

採用戦略とは?

採用戦略とは、自社が求める人材を獲得するための戦略です。

 

この数十年、知識労働社会が到来によって、優秀層の人材獲得競争が激化しています。
また、国内では、少子高齢化による労働人口減少の影響で、人材採用は厳しい状況が続いています。

 

こうした中で、戦略を持たずに場当たり的に動いていては、思うような採用はできません。

 

ひとくちに採用戦略といっても、短期の視点と中長期の視点があります。

 

中長期の視点は、「どのような組織を目指すために、どういった人材を獲得する必要があるか?」ということから考え始めていきます。

 

一方、短期の採用戦略は「求める人材をいかに獲得するか?」という視点のもので、媒体選定やクリエイティブ作成などの採用計画とも密接に連携したものとなります。

 

本来的には中長期の戦略を立て、そこに基づいて短期の採用戦略に落とし込み、行動計画へと落とし込んでいくことが大切です。

採用戦略はなぜ必要なのか?

企業が成長を続けていくためには、必要人材の確保が重要なポイントとなるわけですが、しかし、少子化の影響により、人材確保は年々難しくなっています。

 

大卒に関しては大学進学率の上昇により、まだ少子化とはなっていませんが、2022年ごろから徐々に進学率も頭打ちとなり、少子化の影響が出てきています。

 

そして、前提として自社で採用したいと思う人材は、他社でも採用したいことが多く、採用市場というのは基本的に他社との競争になりがちです。

 

この競争が、少子化、つまり人材の供給が減ってきたなかでますます激しくなっているわけです。

 

さらに知識労働が当たり前となった中で、労働者の生産性格差は拡大する一方であり、それに伴って採用の質もより重要になってきています。

 

リーマンショック前のころから「たとえ、採用目標に届かなくても採用基準は落とせない」と断言する企業が急激に増えたことがこの傾向を示しています。

 

こうした時代変化、そして、採用手法も数十年前とは比較にならないほど多様化した中で、必要人材・優秀人材を確保するためには短期的な視点やテクニックだけでなく、大局的な視点から戦略を組むことが大切になっています。

採用戦略を立てるメリット

採用戦略を立てることで得られる5つのメリットを確認しましょう。

 

採用活動の成功

採用戦略を立てる一番の目的は、必要人材の獲得です。
きちんと採用戦略を立てることによって、適切な採用活動を進めることができるようになり、自社の成長に必要な人材を確保できるようになります。

 

採用力の強化

採用力を強化するためには、細かなノウハウも大切ですが、「自社の魅力をどこに位置付けるか?」「ターゲット層にどう認知してもらうか?」といった根本的な事柄が重要になってきます。

 

採用戦略をもって中長期的に取り組むことで、採用力を強化していくことが可能になります。

 

応募者の増加

採用戦略を立てて進めていくことで、自社が求める人材像が明確になり、また、人材に対してアピールすべき自社の魅力も明確になっていきます。

 

また、媒体の選定等にも一貫性を持って取り組むことができ、応募者数を増やすことができるようになるでしょう。

内定辞退や早期離職の防止

採用戦略を立てることで、採用人材に求める要件が明確化し、それに沿ったメッセージ発信をすることで、そもそも母集団におけるミスマッチが減少します。

 

さらに中長期での効果検証、「採用選考で評価が高かった人が入社後に定着、パフォーマンスしているか」「早期離職してしまった人は採用選考時に見抜くことができなかったのか」といったことを確認することで採用基準をブラッシュアップすることも可能になるでしょう。

 

採用活動の効率化

中長期的な採用戦略を作成することで、採用活動の方針ややるべきことが明確になります。

 

担当者は施策実行の迷いが少なくなり、無駄な時間を使って労力をかけることや必要以上にコストをかけることもなくなるでしょう。

 

また、中長期的な視点を持って、時間がかかる施策や採用力の強化に取り組むことで、採用コストや工数が削減でき、採用活動を効率化できます。

採用戦略・計画を立てる7ステップ

企業が採用戦略・戦術を立てる際のステップを、順番に解説します。

 

ステップ1:中長期の採用計画を検討する

採用戦略は、企業が立てた経営計画と連動していなければなりません。

 

事業方針や経営計画を達成するためには、組織がどうあるべきか、どのような人員がどれだけ必要かを検討して、中長期の採用計画に落とし込んでいきます。

 

ステップ2:採用体制を定める

中長期の採用計画や採用市場の状況を踏まえて、採用に関わる人員を選定します。次に、どの工程を誰が担当するのか分担を割り当て、採用体制を定めます。

ステップ3:採用ターゲット(人材像)を明確にする

採用したい人材に必要なスキルや望ましい考え方、人間性といった人物像を設定することで、採用基準を明確にしていきます。

 

採用基準を明確にすることで、採用におけるミスマッチを減らし定着率を高めることができます。

 

また、この採用基準を踏まえて、人物像やキャリア観などを肉付けし、採用ターゲットとなる架空の人物像である「採用ペルソナ」を設定すると、採用ターゲットのイメージが具体的になり、媒体選定やクリエイティブ、施策に一貫性を持って進めることができます。

 

ステップ4:自社の魅力や訴求ポイントを確認する

次に自社の魅力を整理していきます。自社の魅力を単に羅列するのではなく、求職者目線で考えいかなければなりません。

 

自社のどこをアピールすると刺さるのかを知るためには、昨年の採用者や関係者などからヒアリングすることも有効な手段です。

 

また、魅力を整理する際には、後述する3C分析などのフレームワークを使うと、求職者の目線や競合との差別化などが考えやすくなるでしょう。

ステップ5:採用コンセプトを決定する

ここまでの内容を踏まえて、採用コンセプトを決定します。

 

採用コンセプトとは、採用ターゲット、競合との関係、自社の魅力などの要素を踏まえて、「どのようにして採用競争に勝つのか」という大元の考え方のことです。

 

採用コンセプトを決めることで、一貫した施策を選択していくことができます。

 

ステップ6:採用手法を選定する

採用ターゲットと採用ペルソナ、また、自社の魅力ポイントなどを踏まえて、どのようなチャネルを通じて求人情報を発信していくのがいいのかを考えていきます。

 

過去の実績や他社の状況、市場のトレンドなどを参考にし、予算等を踏まえて情報を収集し選定します。この段階ぐらいからは具体的な採用計画となっていきます。

 

ステップ7:コンテンツを準備する

採用ターゲットやコンセプトに基づいて、採用活動に必要なコンテンツやクリエイティブを用意していきます。

求人原稿といったもの以外にも、採用のためのウェブページやオウンドメディア、SNSアカウントなどに掲載するコンテンツも併せて企画・制作していきます。

採用戦略を考えるうえで有効な3つのフレームワーク

採用戦略を考えるうえでは、マーケティング戦略やプロモーションで使われるフレームワークを用いると有効です。

 

こうしたフレームワーク、またマーケティングのノウハウやツール、考え方を取り入れて採用活動を実施していくことを、「採用マーケティング」とも呼びます。

 

本章ではマーケティングに用いられるフレームワークの中で、採用戦略に取り入れると有効なものを3つ紹介します。

 

ペルソナ設定

前述したとおり、ペルソナ設定とは「一人の架空の人物(採用ターゲット)」を想定して、趣味や嗜好、価値観や行動パターンまで、詳細に設定していくことです。

 

ペルソナ設定のやり方を使って自社が求める人材のイメージを具体的な人物像のレベルまで落とし込んでいくと、具体的なイメージがつかみやすくなり、必要なアプローチも明確になります。

 

また、コンセプトやクリエイティブ、採用チャネルを考えるうえでも、思考を共有しやすくなる、一貫性を持たせやすくなるというメリットがあります。

3C分析

3C分析とは、Customer(顧客・市場)、Company(自社)、Competitor(競合)という3つの「C」について分析する方法です。

 

採用戦略を計画する際、求職者のことを顧客と位置づけて、3C分析のフレームワークを使って考えると、訴求すべき魅力や競合との差別化を志向しやすくなります。

 

なお、競合を考える際、事業上の競合、同業界の企業が採用競合となることは多いですが、設定しているターゲットによって異業界の企業が採用競合となることもよくあります。

 

入社人材が併願していたり、内定辞退された応募者が入社した先などはきちんとウォッチしておきましょう。

<採用戦略を考える際の3C分析>

  • Customer(顧客・市場)=採用ターゲット、採用ペルソナ
  • Company(自社)=“職場”としての自社、自社で働く体験
  • Competitor(競合)= 採用競合、採用ターゲットが併願する企業

4C分析(4P分析)

4C(4P)分析もマーケティング戦略で使われるフレームワークです。

 

4C(4P)というのは、Customer Value(Product)、Cost(Price)、Convenience(Place)、Communication(Promotion)の頭文字です。

 

採用の視点に当てはめると、下記のように考えることができるでしょう。

<採用戦略を考える際の4C(4P)分析>

  • ①Customer Value(Product)
  • ⇒“職場”としての自社、自社で働く体験、自社で働くことで得られるもの
  • ②Cost(Price)
  • ⇒応募や入社に際して応募者にかかる負担など(費用だけでなく、時間や手間、周囲からの見られ方などもコストの一種)
  • ③Convenience(Place)
  • ⇒採用情報へのアクセスしやすさ、応募しやすさ。物理的なものだけでなく手間や心理的なものも含む
  • ④Communication(Promotion)
  • ⇒求人の告知場所、求人の見え方、応募後のコミュニケーション

採用戦略のステップ4~7を考える際、4C(4P)のフレームワークに当てはめながら考えていくと、思考を膨らませることができるでしょう。

採用戦略を立てる際のポイント・注意点

採用戦略を立てる際には、どのような点に注意して進めていけばいいでしょうか。

 

人事戦略と一貫性を持たせる

採用戦略は人事戦略の1つであり、それぞれの方向性がバラバラにならないよう注意する必要があります。

 

たとえば、「ベンチャー精神を持った人材を採用したい」のに「人事評価制度が年功序列制である」、また、「採用市場で待遇が高騰している高度なIT人材を採用したい」のに、「待遇面で勝負できない」状況だったりすれば、採用活動はうまくできないでしょう。

 

中長期の採用戦略を実現するうえでは、人事戦略や人事制度に影響を与えるべきことも多くなります。

 

ステップ1の中長期で採用計画を考える際、人事制度面で検討すべきことがないかも併せて考えることが大切です。

 

採用戦略を経営陣とすり合わせる

採用戦略の立案・実行は、採用担当者のみでは行うことはできません。採用活動は会社全体で取り組むべきことです。

 

そのためには、経営計画を立案し、また組織内で決裁権や影響力を持つ経営陣とは、しっかりと採用戦略のすり合わせを行い、協力を得ることが必要不可欠です。

採用の実務スキルを向上させる

優れた戦略があっても施策を実行する担当者のスキルが不足していれば、計画通りの運用ができません。

 

採用活動を成功させるには、「マーケティング」「営業」「オペレーション」という3つの要素が必要になります。

 

採用活動の規模が小さなうちは「営業」、規模が大きくなるにつれて「マーケティング」が重要になってきます。

 

また、同じく規模拡大に伴って「オペレーション」能力を向上させることも不可欠です。

 

PDCAを回して効果検証する

採用戦略は半期や年度ごとなど定期的に振り返り、きちんと効果検証する必要があります。

 

応募数や内定者数などの数値での検証だけでなく、採用した人材、またリーチした人材の質がどうだったか、中長期的な視点で自社の採用力が向上しているかといったことを振り返ることが大切です。

押さえておくべき採用市場のトレンド

採用戦略を考えていく上で押さえておくべき採用市場のトレンドをいくつかの視点で紹介します(なお、記事を執筆している2023年2月時点での状況に基づきますのでご了承ください)。

 

採用マーケット

求人状況は例年と大きな変化はなく、企業の採用意欲もコロナ禍前に回復しきったといえるでしょう。

 

コロナ禍をきっかけにしてオンライン採用を導入する企業が急増しましたが、今後も継続する見込みです。

 

また、新卒採用に関しては、コロナ禍の裏側で、採用スケジュールの早期化がもう一段進んでおり、早期から内定を出す企業が増えています。

 

また、採用市場への人材供給としては、いよいよ大学進学率の上昇が頭打ちとなり、大卒新卒人口の減少が始まります。

 

過去20年間、大卒新卒人口は微増・横ばいで、景況感の変動によって売り手・買い手の力関係が動いてきましたが、今後は持続的な売り手市場となっていきます。

 

この傾向は徐々に若手の中途採用、キャリア採用にも波及していくので注意が必要です。

新たな採用サービスの動向

新卒紹介の普及、ダイレクトリクルーティングの普及に続いて、HRtechを活用したマッチングサービスやAIなどを使った採用活動の効率化サービスなどが次々に現れています。

 

HR分野の中でも、採用市場はサービスのトレンド変化が激しく、これまでの手法をそのまま続けていくことで時代遅れになる恐れがあります。

 

自社の採用ターゲット分野における新サービスは、ある程度情報収集をしたり、新サービスの定期的にトライアルしたりするなど、常に動向をチェックしておくとよいでしょう。

まとめ

企業が成長するうえで、必要人材の採用は必要不可欠なものです。

 

知識労働が普及した中で優秀人材の獲得競争は激しさを増しており、少子化に伴って若手人材の絶対数も減少しています。

 

徐々に難易度が増す中で、採用活動を成功させるためには、採用戦略をきちんと策定し、場当たり的ではない採用活動を行っていく必要があります。

 

採用戦略を立てることで、効果的な採用活動を行うことができるようになり、採用コストやミスマッチの減少にも好影響があります。

 

中長期的な視点、また、マーケティングのノウハウなどを取り入れて、自社の採用活動をブラッシュアップさせていきましょう。

著者情報

古庄 拓

株式会社ジェイック取締役

古庄 拓

WEB業界・経営コンサルティング業界の採用支援からキャリアを開始。その後、マーケティング、自社採用、経営企画、社員研修の商品企画、採用後のオンボーディング支援、大学キャリアセンターとの連携、リーダー研修事業、新卒採用事業など、複数のサービスや事業の立上げを担当し、現在に至る。専門は新卒および中途採用、マーケティング、学習理論

著書、登壇セミナー

・Inside Sales Conference「オンライン時代に売上を伸ばす。新規開拓を加速する体制づくり」など

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