企業が人材採用を行うにあたり、代表的な媒体や広告手法は全部で9つあります。効率的に採用活動を行うためには、自社の状況を踏まえて、適切な広告媒体を選ぶことが大切です。
採用広告を選ぶポイントは意外と知られておらず、“利用者が多い媒体なら効果がありそう”“なんとなく使いやすそう”などの感覚で広告を出してしまっているケースも多く見られます。本記事では、人材採用において、自社にあった広告手法を選ぶポイントを解説します。
<目次>
【人材採用で使える広告と媒体】主要9手法の特徴、メリット・デメリットは?
人材採用に使える広告媒体は、大きく7種類に分けられます。自社の採用力や採用活動の状況を踏まえて、適切な広告媒体を選ぶことは、採用活動の成否にも大きく影響します。
求人サイト(総合型)
求人サイト(就職・転職サイト)の代表格は、「リクナビ(リクナビNEXT)」や「マイナビ(マイナビ転職)」です。総合型の求人サイトは、誰もが知る大手企業が運営しており、様々な業界・職種の求人が網羅されています。
求人サイト(総合型)の魅力は、運営企業が莫大な広告費を投下しているため、知名度やブランド力が高く、多くの就活生/転職者が登録しているということです。
新卒採用では、「マイナビ2020」の登録学生数は732,498名、「リクナビ2020」は708,758名(2019年3月1日時点)です。前年2019年3月卒の大学(学部)卒業生が572,640人ですので、“現役の学部4年生よりも10万人以上多い”という一見するとおかしな数値になっています(大学院生や既卒者の登録もあるためです)。
この数年“ナビ離れ”と言われ、ナビサイトの利用率が落ちているというデータもありますが、登録者数だけを見れば、大手ナビの驚くべきカバー率が分かります。
多くの人の目に触れることが期待できますので、企業も優先的に求人を掲載します。裏返すと、“登録者数が多い分だけ、サイト内での採用競争も厳しい”ということです。
先ほど紹介した「マイナビ2020」の掲載企業は24,011社、「リクナビ2020」は31,563社です。大手企業・人気企業も多数含まれた24,000~30,000社の中で、登録者から“自社が選ばれる”必要があります。一般論としては、予算や企業の知名度、ブランドといった観点で、大手企業と同じ土俵で競うことが難しい中小企業は、総合型の求人サイトのみでは思うように成果が上がりづらい側面があります。
求人サイト(特化型)
求人サイト(就職・転職サイト)は、全業界・全職種を網羅するものばかりではありません。特定の業界や職種、また利用者の属性・志向性を絞り込んだ特化型の求人サイトが多数存在します。
例えば、広告・マスコミ業界の求人だけを扱う「マスナビ」、飲食業界の求人だけを扱う「グルメキャリー」、エンジニアの求人に特化した「paiza」などがあげられます。
他にも、外資系、医薬系、介護系…etc、多くの種類があります。同様に利用者の属性や志向性で絞り込んで“体育会系”“理系”“ベンチャー志向”“第二新卒”“中小企業”といった求人サイトもあります。
これらの特化型の求人サイトは、リクナビ・マイナビなどの総合型の求人サイトに比べると、登録人数は少なくなります(数千から数万人程度)。しかし、絞り込まれている分、自社のターゲットとなる人材に効率よくアプローチできる側面があります。そのため、求職者が増えたり、採用活動の生産性があがったりする場合もあります。
なお、求人サイトを見るときには、「登録者の人数」だけではなく、「 登録者の人数 ÷ 求人数 」という「求人1件あたりの登録者数」も参考にすると良いでしょう。
求人検索サイト
最近では求人自体が掲載されているわけではなく、様々なサイトや各社のホームページに掲載されている求人情報を集中的に検索する「求人検索エンジン」も出てきています。
代表的なものでは、リクルートグループが運営する「Indeed」や、Googleが展開する「Googleしごと検索(Google for Jobs)」などです。現時点では、求人サイトと比肩する、というところまでは行きませんが、今後成長していく可能性も十分にあります。
求人検索サイトのイメージは“求人情報に特化しているGoogle検索”です。“求人検索エンジンに掲載する”“検索されやすくする”ことは無料でできます。また、有償で優先的に自社の求人を表示させることも可能です。
ダイレクトリクルーティング
ダイレクトリクルーティングとは、新卒領域を中心に、急速に伸びているサービスです。求人広告を掲載して応募を待つという「受け身の採用」ではなく、登録者のデーターベース(個人情報は見えない匿名状態)を検索してメッセージを送信する「攻めの採用」であることが特徴です。その点では一般的な「広告」とは少し異なりますが、「求人広告」の一手法として普及してきています。
ダイレクトリクルーティングは、企業が自らメッセージを送ることで、自社のことを知らないターゲットに向けても自社の魅力をPRできる点がメリットです。事前に検索したうえでメッセージを送りますのでターゲット人材にのみアプローチできる点も魅力です。企業に知名度がない、優秀な学生に絞り込んでアプローチしたいといった場合には、取り入れるメリットが大きいでしょう。
求人誌
人材採用で使われる求人広告は、この10年ほどでほとんどがWeb上の求人サイトやダイレクトリクルーティングに取って代わられました。しかし、採用したい職種やエリアによっては、求人誌などの紙媒体を使って募集することも有効です。
リクルートの運営する「タウンワーク」などが主要な求人誌で、新聞の折り込みチラシなどに求人広告を載せるやり方もあります。こうした手法のメリットは、特定の“地域”に絞り込んで採用広告を展開できる点にあります。
ハローワーク
ハローワークに求人を出すことも求人広告の1つと言えるでしょう。ハローワークの求人は無料で掲載できますし、Web上での検索対象にもなってきます。国が運営するセーフティーネットとしての側面が強いですので、若手や上位層からの応募は期待できませんが、選択肢の1つと言えるでしょう。
特に失業保険の給付を受ける際には必ずハローワークへの登録を行うことになりますので、多くの求職者にとってハローワークが身近な存在であることは事実です。
Web広告&自社ホームページ
最近では、人材採用にあたって既存の求人サイトに出稿するだけではなく、Web広告を使って自社ホームページ(採用サイト)に直接誘導する、というのも選択肢の1つになっています。採用のための特設ページは、いわばオーダーメイドで作った自社の媒体です。掲載できる情報量や内容に制限がなく、表現の自由度がきわめて高いですので、自社の魅力が引き立つようなPRがしやすいというメリットがあります。
これまでは採用サイトを作っても「見てもらう」方法がありませんでしたので、就活生/転職者が登録している求人サイトに出稿して、応募後の選考プロセス内で見てもらうというのが採用サイトの使い方でした。
しかし、Web広告が発展し、就活生/転職者も「まず検索する」という行動が浸透してきた結果、Web広告の手法を使って直接自社の採用サイトに人を誘導できるようになってきました。
最近では、採用支援を専門でやっているWebマーケティング会社等もあります。SNSやWeb広告は、属性やエリアなどを絞り込んで広告を出稿することも可能です。また、自社の採用サイトに訪れてくれた人を継続的に追いかけるリターゲティング広告などの手法も存在します。
かなり大がかりな手法ですので、中小企業がいきなり取り組むことは難しいかもしれませんが、採用人数が増えていく中では、選択肢の1つになるしょう。
「採用広告」以外の募集方法
人材採用においては、「広告」以外にも、人材紹介や合同企業説明会やマッチングイベント、リファラル採用などの採用手法もあります。採用手法は、以下の記事にて詳細に解説していますのでご興味あれば、ぜひご覧ください。
人材採用の広告/媒体を選ぶには、ターゲットの明確化が重要
ここまで人材採用における主要な広告手法をご紹介しました。自社に適切な広告媒体を選択するうえでは、採用のターゲットの明確化が重要になります。
ターゲットが明確になると発信するメッセージが一貫する
ターゲットを定め、採用ペルソナを設定することで、自分たちがメッセージを発信する相手が明確になってきます。商品やサービスのマーケティングを行う際には、例えば「週末には友人や彼女とアウトドアで楽しみたい20代の男性」なのか、「週末はカフェでのんびりと読書するのが好きな20代の女性」なのか、誰にメッセージを発信するのかというターゲットとペルソナ設定がしっかり行われます。
しかし、人材採用では、“自社の採用基準”から設定した“採用ターゲット”はあっても、採用ターゲットが「どんな人物なのか」というペルソナ設定は行われていないことも多いです。採用ペルソナを設定することは、採用ターゲットの内面やニーズを強くイメージすることになりますし、原稿を作るうえでも読み手の存在をイメージしやすくなります。
採用ペルソナを設定することで、求人広告で発信するメッセージの内容が一貫しますし、相手が興味あることに即した伝え方へと、メッセージを洗練させていくことができます。そして、相手が就職活動/転職活動をどんな風に行っているか、どんな媒体を使うか、ということも考察できます。
関係者間での認識が揃うので齟齬がなくなる
採用活動は社内で複数の人が連携しながら進めていきます。採用広告の選定や作成には、求人広告代理店の営業やクリエイターなどの外部パートナーが関係することも多いでしょう。
その際に、曖昧な言葉で共有を行っていると、“いつの間にかイメージが微妙にずれてしまう”といったことも起こりがちです。ミスコミュニケーションを防ぎ、外部とも連携しながら適切な求人媒体を選ぶ、そして、良い求人原稿を作るうえでも採用ペルソナは重要です。
採用ペルソナの作成方法
採用ペルソナの作成は経営陣とのすり合わせ、ヒアリングによる人材像の明確化などを経て行います。採用ペルソナの作成方法は、下記の記事で詳細に解説していますので、ぜひご覧ください。
人材採用の広告選びを成功させる3つのポイント
人材採用の広告選びにおいては、以下の3点を注意してください。
採用ペルソナに応じて媒体を選ぶ
どんな広告や媒体が良いかは、ターゲット人材によって左右されます。採用広告は“自社で採用したい人材がいる場所”に出稿しなければ意味がありません。従って、適切な媒体を選ぶためには、まずターゲットを明確にして、次に採用ペルソナを作成したうえで、採用ペルソナがどんな媒体を使っているかを考える、という順序が大切です。
つまり、「自社で採用したい人材はどんな風に就職活動/転職活動を行って、どんな風に情報収集して、どんな媒体を使うのか」を考える、ということです。
採用人数、納期
いつまでに何人採りたいのかという採用計画を踏ませて、採用広告や手法を決めていく必要があります。例えば、“ハローワークは無料で使える反面、採用できるかの確実性に劣ります”。
“特化型の求人サイトだけで数十人を採ることは難しい”ですが、“採用人数が少なく上位層を採用したいと考えているなら、特化型サイトやダイレクトリクルーティングが向いています”。このように採用人数、納期は、求人広告を選ぶうえでの重要なポイントになります。
自社の採用力
広告手法を選ぶうえで重要な“採用力”は「母集団形成力」です。これは「自社や求人の魅力(知名度、所属する業界の人気度、社会的なステータス、また募集職種の人気度や待遇の魅力など)」×「求人原稿の作成力」の掛け合わせです。
母集団形成力が強ければ、総合型の求人サイトなど、登録者数が多い場所で戦うことが採用の効率化に繋がります。一方で、母集団形成力が弱い場合には、大手企業などの強い採用競合がいる場所で戦うと、負ける可能性が高まります。
まとめ
人材採用に使える広告手段はいくつもの種類がありますので、どれを選ぶことが適切かという判断に迷う部分もあるでしょう。しかし、どれほど採用手法が多くても、採用活動の進め方における原則、自社に適した手法を選ぶ考え方の根本は同じです。
まず大切にすべきは、採用ターゲットを明確にして、採用ペルソナを設定し、ペルソナに合致する採用手法を選ぶということです。併せて「いつまでに何人採る必要があるか」という採用計画と、「自社の採用力(母集団形成力)の強さ」を踏まえて選択しましょう。
軸になる採用の原理原則は変わりません。原理原則を押さえたうえで、新たな媒体の登場など採用環境の変化に合わせて試行錯誤を続けていきましょう。