近年、業種を問わずIT活用は不可欠なものとなっており、国の主導でDXなども推進されるなかで、エンジニア採用に苦戦する企業が増えています。
エンジニア採用の苦戦は、各企業の問題だけでなく、そもそもIT人材の需給ギャップに大きな原因があります。
そのため、エンジニア採用には基本的に一発逆転の秘策はありません。しかし、エンジニア採用は適切な施策を重ねていくことで、改善できるものでもあります。
記事では、まずエンジニアの求人市場の現状とエンジニア採用が苦戦する5つの要因を確認します。
そのうえで、エンジニア採用を成功させるポイントを紹介しますので、参考になれば幸いです。
<目次>
エンジニア求人市場の現状
まずは、ITエンジニアが不足する現状と不足理由、今後のエンジニア求人市場の見通しを確認しておきます。
ITエンジニアの不足状況
少し古いデータですが、2018年の経済産業省レポートでは、2015年の段階で17万人だった日本のIT人材不足は、10年後の2025年には約43万人まで拡大するとされています。
出典:DXレポート 平成30年9月7日(デジタルトランスフォーメーションに向けた研究会)
また、独立行政法人 情報処理機構 社会基盤センターの「IT人材白書2020」によれば、IT人材の質・量ともに「大幅に不足している」と回答するユーザー企業の割合も以下のように増加傾向となっています。
【人材の“質”に関する不足感】
- 2017年:32.9%
- 2018年:33.8%
- 2019年:39.5%
【人材の“量”に関する不足感】
- 2017年:29.3%
- 2018年:31.1%
- 2019年:33.0%
出典:IT人材白書2020
不足している理由
エンジニアを中心とするIT人材に不足が生じる理由は、大きく以下の3つです。
- IT市場の需要拡大
- ITエンジニアの高齢化と定年退職
- ITエンジニアにおける学習・教育機会の少なさ
エンジニア人材不足の大前提は、拡大するIT人材の需要に供給が追い付いていないことがあります。
また、経済産業省が警笛を鳴らす「2025年の崖」問題では、これまでメインフレームの担い手だったベテランエンジニアが高齢化・退職していくことも、不足要因の一つとして挙げられています。
すでに導入済みのメインフレームの運用は今後も続くことから、若い世代のエンジニアが、メインフレームの業務に携わらざるを得なくなり、結果として市場拡大している先端IT技術(ビッグデータ、IoT、人工知能)での人材不足がさらに拡大することも懸念されています。
なお、日本のITエンジニアの場合、自社の教育・研修制度への満足度や自主的な勉強量が低く、海外と比べて高いスキルを持つ人材の割合が少ない傾向にもあると言われています。
参考:DXレポート 平成30年9月7日(デジタルトランスフォーメーションに向けた研究会)
参考:IT人材育成の状況等について(経済産業省 商務情報政策局 情報処理振興課)
今後の市場見通し
ITエンジニアの高齢化やIT市場規模の拡大は今後も続き、経済産業省の予測によると、2030年には日本のIT人材不足が最大で約79万人に達する可能性もあると試算されています。
出典:IT人材育成の状況等について(経済産業省 商務情報政策局 情報処理振興課)
エンジニア採用が苦戦する要因
多くの企業でエンジニアの採用難が起こりやすい背景には、企業と社会における以下の要因が関係しています。
求人倍率の高さ
まず、ITエンジニアの求人倍率は、上記のようなIT人材の供給不足を背景として、他の職種と比べて格段に高い状況となっています。
dodaの調査結果によると、2022年9月におけるエンジニアの転職求人倍率は、IT・通信系で10.07倍、機械・電気系で3.96倍です。
求人倍率が10.07倍ということは大雑把にいえば、ITエンジニアの採用枠10件に対して、1名の求職者しかない状態です。
たとえば、同じ2022年9月のdodaの調査で、営業職は2.13倍、販売・サービスが0.48倍、事務・アシスタントが0.33倍といった数値と比べて、非常に高い求人倍率であることが数字を見るだけでもよくわかります。
働き方の多様化
IT人材が絶対的に不足している状況に加えて、近年では、フリーランスとして働くエンジニアも非常に増えるようになりました。
雇用形態が多様化するなかで、システム開発の業界ではもともとプロジェクト単位の企業間の業務委託なども一般的でした。
その中で、個人・フリーランス人材との業務委託も拡大しており、エンジニアは個人・フリーランスとして活動しても案件を獲得できる状況になっています。
最近では、時間単価や月額なども高騰傾向にあり、企業に所属するよりも短期的にはフリーランスのほうが高収入、かつ時間の自由などが利くケースも多くなっています。
このようにフリーランス市場に多くの人が流れていることも、エンジニア採用の求人倍率をさらに押し上げ、採用難易度を高めることにつながっています。
エンジニアが転職市場に滞在しない
高待遇かつ満足できる環境で働くエンジニアは、なかなか転職しません。
また、優秀なエンジニアの場合、たとえば、スキルアップのために転職を繰り返すとしても、すぐにスカウトされる引く手あまたの存在となります。
したがって、基本的には希望条件が妥当でない、面接選考などにおいて瑕疵となるポイントがなければ、エンジニアが市場に売れ残ることはありません。
採用担当者の知識・経験不足
採用現場においては、エンジニア採用をする人事担当者は、エンジニア出身者ではないケースも多いです。
ITエンジニアの専門知識や実務経験がない人事担当者が人材のレベルを見極めることは難しいですし、逆に、自社の仕事や得られるキャリアを魅力的に伝えたりすることも困難です。
そもそもの言語やキャリアイメージなども異なるなかで、自社の採用条件や待遇が妥当なものなのかを判断することすら難しい場合もあるでしょう。
エンジニア採用に力を入れるうえでは、エンジニア経験があるメンバーをエンジニア採用人事に配置したり、エンジニア部門の幹部層が採用にコミットしたりすることが欠かせません。
市場相場と求人内容の不一致
エンジニアの人手不足が深刻化すれば、資金力のある企業は高待遇・高報酬を提示するようになるため、市場相場も当然アップします。
一方で、エンジニアの価値が高騰する実情を知らず、従来の感覚で賃金などの待遇を設定すれば、高待遇を提示できる大手などに優秀な人材が流れてしまいます。
エンジニア採用に慣れていない事業会社や、事情はわかっていてもなかなか高待遇を提示できない中小システム会社などにとっては、なかなか厳しい市場となっています。
エンジニア採用を成功させるポイント
冒頭で触れたとおり、エンジニア採用に一発逆転の秘策はありません。
採用難から脱却するためには、以下のような基本的なポイントをきっちり振り返り、改善しながらエンジニア採用を進めていくことが大切です。
採用計画の見直し
採用計画は、「どのような人材を、いつまでに、何人採用するか?」というゴール、また、ゴールに至るまでの方針や行動計画をまとめたものです。
採用計画をつくるときには、自社の事業計画、また、経営陣・現場との認識のすり合わせをする必要があります。
また、場当たり的な採用活動に陥らないためにも、ゴールを明確化して、現状課題を整理しておくことが大切です。
採用基準の見直し
売り手市場になっているエンジニアの場合、自社の集める力(採用ブランド×マーケティング力)や口説く力(求人内容×営業力)に合った現実的な採用基準をつくることが不可欠です。
開発チームなどの現場からすれば、「この基準は絶対に盛り込んでほしい」などの要望もあるでしょう。
ただし、現実的に採用できなければ、一番困るのは現場です。
現場を巻き込んで、必須要件(MUST)と希望要件(WANT)で区分けをしながら現実的な採用基準を考えていくことが必要です。
また、将来的に人材不足が拡大する流れを考えると、経験が浅い人、未経験者を採用して、採用後に育成するほうが結果的には短期間・低単価で確実にITエンジニアを確保できる可能性も十分ありえます。
なお、上述のとおり、採用基準を現実的なものにしたり、待遇を検討したりするうえでは、エンジニアに対する理解や経験が大切です。
エンジニア採用に本気で取り組むには、エンジニア経験者を必ず採用チーム・プロジェクトに巻き込みましょう。
待遇の見直し
エンジニア採用では、仕事内容や労働条件に見合った待遇かどうかも非常に大切です。また、市場相場に合った報酬を提示できているかも重要となります。
優秀なエンジニアを採用するためには、企業の資金力、採用して収益にしっかりと反映できるビジネスモデルが必要となってくることは否めません。
また、待遇で勝てないとしたら、教育や副業制度、福利厚生などの働き方、また、組織のミッションやビジョン、仕事内容のやりがいや先進性、どこで競合他社に勝って、エンジニアを惹きつけるかを真剣に考える必要があるでしょう。
採用チャネルの再検討・拡充
効率よくエンジニア採用をするには、自社の採用計画や採用ターゲットに合った採用チャネルを活用することが大切です。
たとえば、大手企業が総合型の求人サイトを使っている場合、エンジニア特化型へのシフトや併用をすることで、効率的な採用がしやすくなるでしょう。
なお、大手ほどのブランド力がない中堅・中小企業やベンチャー企業の場合、エンジニア特化型の求人サイトのほかに、以下のようなチャネルを拡充することがおすすめです。
- エージェントから成果報酬で採用する「人材紹介」
- 自社からメッセージを送る「ダイレクト・リクルーティング」
- 既存社員から友人知人を紹介してもらう「リファラル採用」
- 自社の卒業生(退職者)を再雇用する「アルムナイ採用」
- 自社の認知度を高める「オウンドメディアリクルーティング」 など
成果報酬制のサービスなどをうまく使いながら、可能な限り幅広いチャネルで求人を流しましょう。
競合他社との差異分析
エンジニア採用を成功させるためには、求職者のニーズを分析し、求職者から見た自社の魅力・欠点や懸念点を整理することが不可欠です。
採用競合の求人広告や採用ページなどもしっかり研究しましょう。
給料や待遇を決める参考になりますし、自社でも使える求職者への訴求ポイントが見つかる可能性が高いです。
3C分析のフレームワークを使い、3つのC(求職者・競合・自社)を分析することもおすすめです。
採用競合との違いや自社独自の強み、求職者への訴求方法などがはっきりと見えてきます。
まとめ
ITエンジニアは、人材供給よりも市場と需要拡大のスピードが圧倒的であり、慢性的に大きな需給ギャップが生じています。
2030年には最大で79万人のエンジニア人材が不足するという経済産業省の予測もあります。
結果として、エンジニア採用に苦戦する企業が、非常に多くなっているわけです。
エンジニア採用を成功させるための対策に秘策、“魔法のような一手”はありません。基本となるポイントを押さえて、しっかりとPDCAを繰り返しましょう。
- 採用チーム、プロジェクトにエンジニアを巻き込む
- 採用計画の見直し
- 現実的な採用基準に見直す
- 待遇などを市場相場に合わせる
- 採用チャネルの再検討と拡充
- 競合他社との差異分析
エンジニア採用を成功させるには、以下の記事で紹介しているエンジニアに適した採用手法も確認しましょう。
繰り返しますが、エンジニア採用に一発逆転の秘策はありません。そのため、まずは、打てる手をしっかりと打ち切ることが何より大切です。