嘱託採用とは?他の雇用形態との違いや契約時に準備すべき待遇を解説

更新:2023/07/28

作成:2022/12/15

古庄 拓

古庄 拓

株式会社ジェイック取締役

嘱託採用とは?他の雇用形態との違いや契約時に準備すべき待遇を解説

2021年4月1日に改正高年齢者雇用安定法が施行されたことで、近年、いわゆるシニア社員の再雇用に注目が集まっています。

 

こうしたなかで増加しているのが、シニア社員の嘱託採用です。

 

記事では、嘱託採用の概要と注目されている背景、メリットを確認します。

 

そのうえで、嘱託採用した社員の待遇を決める際のポイントも紹介しますので、シニア社員の再雇用方法を検討しているようであれば、参考にしていただければと思います。

<目次>

嘱託採用とは?

談笑するシニア社員

 

まずは、嘱託採用の概要や他の雇用形態との違い、嘱託社員が注目される背景を確認しましょう。

 

嘱託採用の基本概念

まず、本来の「嘱託」は、一定の業務や仕事を、正規社員以外の人に頼んで任せることを意味する言葉です。

 

ただし、嘱託に法的な定義はないため、厳密な意味や言葉の使い方は、企業によって異なります。

 

一般企業やHR領域では、以下2つの意味で使われることが多いです。

  • 【定年退職後の「嘱託採用」】定年退職した人が退職前の企業に再び雇い入れられ、雇用契約を結ぶこと
  • 【専門知識や技能を持つ「嘱託採用」】産業医のように専門知識や技術を持つ人が、企業などから業務を請け負うこと

前者の場合は、労働者であるため、労働基準法が適用されます。一方で後者の場合は、雇用契約ではなく業務委託契約を締結することが大半です。

 

嘱託と他の雇用形態の違い

前述のとおり、嘱託採用は法的に存在する定義はないため、嘱託採用(契約)の内容、他の雇用形態との違いも、企業によって異なります。

 

ただ、一般的に定年退職者の嘱託採用は、以下のような形で、他の雇用形態と違いがある場合が多いでしょう。

 

【正規雇用との違い】
正規雇用は無期雇用契約であるのに対して、嘱託は有期雇用契約です。

 

【契約社員との違い】
契約社員と嘱託は、有期雇用という点では同じです。

 

企業によっては、定年退職前やフルタイム勤務を契約社員、定年退職後の再雇用や非常勤を嘱託と呼んでいる場合があります。
契約社員、嘱託社員ともに、有期雇用契約であることに変わりありませんし、嘱託採用の大半は、中身としては契約社員と同じであることが多いでしょう。

 

【パートタイマーとの違い】
一般的にパートタイマーは、有期の短時間労働者を指します。

 

有期雇用契約であることは嘱託と同じであり、嘱託社員もフルタイムではなく短時間労働であれば、パートタイマーと同じ意味合いになることもあるでしょう。

 

【派遣社員との違い】
嘱託は、自社での直接雇用です。一方で派遣社員は、派遣元が雇用した人材を派遣先である自社に派遣してもらう形であり、契約形態としてまったく異なります。

 

【業務委託との違い】
定年退職後の再雇用という意味の嘱託の場合、自社での雇用契約になります。一方で業務委託の場合は、委任/準委任契約であり、そもそも雇用契約ではありません。

 

嘱託社員が注目されている背景

2021年4月1日に改正高年齢者雇用安定法が施行されたことで、従来制度の「65歳までの雇用確保(義務)」に、「70歳までの就業確保」が努力義務として加わりました。

 

高齢化が進むなかで、企業に高齢社員の雇用延長が従来以上に求められるようになったわけです。

 

現状では、70歳までの雇用延長は努力義務ですが、将来的には義務に変わる可能性も十分にありえます。

 

こうしたなかで、定年年齢で一度退職をしたあと、定年までとは異なる雇用形態で再び雇い入れる仕組みとして、再雇用制度が注目されており、嘱託社員は再雇用制度における雇用形態の一つです。

 

これからの時代、少子化による労働人材の不足などによって、中堅・中小企業などでは特に採用難が生じやすくなります。
こうした状況下で採用力がそう高くない企業が人手不足を解消するには、他社で定年退職したシニア社員を嘱託として雇い入れることも一つの選択肢になるでしょう。

企業が嘱託採用するメリット

黒板とMERITの文字

 

企業が嘱託社員を雇い入れると、以下のメリットが期待できます。

 

育成コストがかからない

嘱託社員、特に自社を定年退職した人は、仕事のやり方などを知り尽くしたベテラン社員です。

 

こうした人材を雇い入れれば、自社の共通言語や価値観などの教育も要りません。
また、定年退職の翌日から同じポジションで即戦力として働いてもらえるため、育成コストもかからなくなります。

 

採用コストを抑えられる

嘱託社員は、定年退職後の再雇用なので、新卒・中途のような採用活動も不要で、コストは発生しません。

 

もちろん嘱託での雇用契約は必要となりますが、採用コストや人事担当者の負担は大きく軽減されるでしょう。

 

ベテランのノウハウを活かせる

嘱託契約をするシニア社員には、ベテランならではの豊富な経験や知識があります。

 

そのため、たとえば、管理職やプロジェクトリーダーの相談に乗ってもらったり、助言をするなどの役割を担ってもらったりすれば、現役世代にも良い影響がもたらされる可能性もあるでしょう。

 

なお、定年間際になると、現場から離れたり体力が低下したりすることで、労働者のモチベーションが下がりやすくなるものです。
しかし、こうした時期に、相談や助言を行なうシニアアドバイザーなどの役職・肩書を付与すると、嘱託社員の貢献意欲やモチベーション向上につながりやすくなります。

 

人件費を抑えられる

近年では、労働人口の減少による売り手市場や、最低賃金の上昇などの要因で、人件費が高騰しがちです。

 

こうしたなかで、人手不足を解消する目的で優秀な中途人材を獲得するとなれば、競合に負けない待遇を提示する必要があるでしょう。

 

一方で、嘱託などの定年後再雇用をする場合、現役時代より低い賃金での契約となることが一般的です。

 

なお、日経BPコンサルティング「定年後の就労に関する調査」では、定年前と同等かそれ以上の年収をもらっている人は1割にも満たず、以下のように多くのシニア社員が「定年前より下がった」と答えていることがわかっています。

  • 定年前の6割程度:20.2%(最多)
  • 定年前の5割程度:19.6%
  • 定年前の4割程度:13.6%

嘱託社員のモチベーションを維持するには、納得感のある契約にする必要があります。

 

しかし、たとえば、体力の低下や持病を抱えるシニア社員と「1日5時間で週4日の嘱託で働いてもらう」などの負担の少ない再雇用契約をすれば、中途採用をするよりも人件費を大きく抑えられる可能性は高いでしょう。

 

出典:給料4~6割が過半、定年後再雇用の厳しい現実(日本経済新聞)

嘱託採用した社員の待遇

シニア社員の定年退職後に嘱託採用をした場合、新たな働き方や役割に合った待遇を用意する必要があります。

 

この章では、嘱託採用で考えるべき待遇のポイントを確認しておきましょう。

 

給与

嘱託自体が法律用語ではないため、嘱託社員の給与額に労働基準法などによる規定はありません。

 

また、本人の働き方や役職にもよりますが、先述のとおり、多くのシニア社員の給与額は、再雇用によって下がるのが一般的となります。

 

なお、厚生労働省の調査結果では、正職員以外の賃金カーブ(時給ベース)は、60~64歳を頂点に以下のように下がることが示されています。

  • 60~64歳:1,590円
  • 65~69歳:1,364円
  • 70歳~:1,168円

出典:18 雇用形態別の賃金カーブ(時給ベース)

 

一方で、正職員のまま働いた場合、60~64歳の賃金(時給)は、2,024円です。

 

ただし、賃金は、嘱託などのシニア社員のモチベーションにつながる大切なものとなります。
そのため、こうした数字をそのまま当てはめるのではなく、嘱託社員の働き方や役職、期待されるパフォーマンスなどに応じて、本人が納得できる額にしていく必要もあるでしょう。

 

ただし、高齢化社会でこれからシニア社員が増えていくことが考えられますので、既存社員から不公平感が生じたり、自社の負担にならないようにも考えたりする必要があります。

 

ボーナス

有期雇用契約である嘱託社員にボーナス(賞与)を支給するかは、企業の決定です。

 

ボーナスを支給しない企業もありますが、先述のとおり、給料・賞与などの金銭は、嘱託社員のモチベーションにつながるものであることから、担ってもらっている役割などによっては賞与対象とすることも十分に検討の余地があるでしょう。

 

嘱託社員にボーナスを支給する場合、どういう人を対象にするのか、また、正社員と同額なのか正社員の◯%に抑えるのかなど、基本ルールを決めたうえで支給対象にするとよいでしょう。

 

退職金

嘱託社員の退職金は、企業の就業規則や雇用契約書のなかでどのように規定するかで変わってきます。

 

たとえば、就業規則のなかで嘱託規定を設けて、「嘱託社員への退職金は不支給」と明記すれば、支払う必要はなくなります。
また、就業規則に不支給を記載したうえで、再雇用時に交わす労働条件通知書のなかで、「退職金不支給」と明記すれば、嘱託社員に認識してもらいやすくなるでしょう。

 

就業規則と雇用契約書の内容が違う場合、労働者にとって有利なほうが優先されます(原則は「労働条件通知書>就業規則」です)。

 

社会保険

定年退職後、再雇用で嘱託社員になる場合、再雇用後も以下の健康保険と厚生年金保険の被保険者要件を満たす場合には、定年による資格喪失と再雇用による資格取得の手続きを同時に行なうことになります。

 

この手続きを同日得喪と呼びます。

  • 1.適用事業所に常時使用される70歳未満(健康保険は75歳未満)
  • 2.1週間の所定労働時間および1ヵ月の所定労働日数が同じ事業所で同様の業務に従事する一般社員の4分の3以上
  • 3.上記の【2】が一般社員の4分の3未満であっても、以下の要件を満たす場合(特定適用事業所)
  • ・厚生年金保険の被保険者数が常時501人以上の法人に使用される
  • ・週の所定労働時間が20時間以上であること
  • ・雇用期間が1年以上見込まれること
  • ・賃金の月額が8.8万円以上であること
  • ・学生でないこと

同日得喪は特例であるため、60歳以上で退職した労働者が1日の空白もなく引き続き同じ事業主に再雇用されたときだけ行なえる手続きになります。

 

出典:相談室Q&A(社会保険労務士法人みらいコンサルティング)

 

労働保険

労働保険は、労働災害補償保険(いわゆる労災保険)と雇用保険の総称です。

 

まず、労働災害補償保険(いわゆる労災保険)は、嘱託社員を含めたすべての労働者が対象となります。

 

労災保険には、各被保険者の資格取得・喪失の届出制度はなく、嘱託社員としての手続きなどは不要です。
また、雇用保険は、1週間の所定労働時間が20時間以上であり、31日以上の雇用見込みがあれば、引き続き被保険者になります。

 

この要件を満たせば、雇用保険の資格にかかる手続きは不要です。

 

出典:労働保険の適用単位と対象となる労働者の範囲(大阪労働局)
出典:相談室Q&A(社会保険労務士法人みらいコンサルティング)

 

有給休暇

年次有給休暇は、労働基準法第39条で以下のように定められています。

 

使用者は、その雇入れの日から起算して6ヵ月間継続勤務し全労働日の8割以上出勤した労働者に対して、継続し、又は分割した10労働日の有給休暇を与えなければならない。

 

出典:労働基準法

 

この法令を見ると、定年退職後の再雇用で嘱託になる人の場合、年次有給休暇の要件である「雇入れの日から起算して6ヵ月間の継続勤務」の考え方で迷う点も出てくるでしょう。

 

なお、正規雇用だった社員を嘱託社員として再雇用して、実質的に雇用関係が継続していると判断できる場合、有給休暇は引き継がれると考えられています。
したがって、嘱託社員にも、従来どおり年次有給休暇を付与する必要があるでしょう。

 

出典:定年退職後、再雇用された場合の年次有給休暇について(埼玉県)

まとめ

嘱託は、一般的に以下の2つの意味で使われる言葉です。

  • 1.定年退職したシニア社員が、企業から再雇用されること
  • 2.専門知識や技能を持つ人が、企業から業務を請け負うこと

【1】の場合には、有期雇用契約が締結されることになります。一方で【2】の場合(産業医など)、契約関係は雇用契約ではなく、業務委託契約になることが多いです。

 

なお、シニア社員の再雇用における嘱託契約は、契約内容としては契約社員と同じ形になっていることが多いでしょう。

 

定年退職したシニア社員を嘱託として再雇用した場合、企業に以下のメリットが生まれます。

  • 育成コストを抑えられる
  • 採用コストを抑えられる
  • ベテランのノウハウを活かせる
  • 人件費を抑えられる

嘱託採用をしたシニア社員の待遇を決めるときには、本人のモチベーションを維持できる納得感のあるものにすることも大切です。

 

同時に、これからさらに進んでいく高齢者雇用も考慮して、賃金負担や既存社員に不公平感が生じないように、しっかりと期待パフォーマンスに見合うものにする必要もあるでしょう。

 

シニア社員の雇用延長、再雇用は、高齢化が進む日本において、各企業にとって避けられない問題です。
対象となる従業員がいれば、早めに検討・着手していくとよいでしょう。

著者情報

古庄 拓

株式会社ジェイック取締役

古庄 拓

WEB業界・経営コンサルティング業界の採用支援からキャリアを開始。その後、マーケティング、自社採用、経営企画、社員研修の商品企画、採用後のオンボーディング支援、大学キャリアセンターとの連携、リーダー研修事業、新卒採用事業など、複数のサービスや事業の立上げを担当し、現在に至る。専門は新卒および中途採用、マーケティング、学習理論

著書、登壇セミナー

・Inside Sales Conference「オンライン時代に売上を伸ばす。新規開拓を加速する体制づくり」など

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