政府が主導する働き方改革の影響、また、少子化による人手不足、そして、フリーランスなどの雇用形態で働く人も増加するなかで、正規雇用だけでなく、業務委託や派遣社員を採用する企業も増えています。
ただ、これまで正規雇用とパート・アルバイトなどの非正規雇用だけが中心であった場合、業務委託と派遣の明確な違いやそれぞれのメリット・デメリット、自社のニーズにどちらが合っているかの判断が難しい場合もあるでしょう。
記事では、業務委託と派遣の概要とメリット・デメリットなどを確認します。
そのうえで、どういった場合は業務委託と派遣が向いているかなども紹介しますので、業務委託や派遣社員の利用を考えているようでしたら参考にしてください。
<目次>
【比較表】業務委託と派遣の違い
業務委託と派遣の違いをまとめると、以下のようになります。
業務委託とは?
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業務委託とは、特定の業務を切り出して、組織外部の人や組織に依頼して業務を遂行してもらうことです。
- 副業人材
- 個人事業主やフリーランス
- 一般企業 など
業務を任せる側・引き受ける側は、雇用契約ではなく、業務委託契約を締結します。雇用関係ではないため、雇用者と被雇用者・労働者といった関係は発生しません。
従来までは業務委託といえば、一般企業に業務を委託する、たとえば、Webサイトの制作や保守運用、何らかのコンサルティング、広告運用などを依頼するのが一般的でした。
しかし、雇用が多様化し、フリーランスや副業人材が増えた中で、個人に業務委託で業務を依頼する企業も増えています。
業務委託の種類
業務委託には、請負契約と委任/準委任契約があります。
なお、日本には業務委託契約そのものを定めた法律はなく、請負契約と委任契約は、それぞれ以下の法律の性質を含むものです。
- 請負契約:民法632条
- 委任/準委任契約:民法643条と民法656条
請負契約は、以下のような成果物に対して報酬が発生する契約です。
- オウンドメディアの記事
- 新ブランドのロゴマーク
- スマートフォンアプリ など
一方で、委任/準委任契約は、成果ではなく特定行為の遂行に対して、報酬が発生する性質の契約です。
- 採用サイトの制作~保守まで行なうエンジニア
- パソコン教室のインストラクター
- DXプロジェクトに参加する個人のマネージャー など
なお、厳密には、税理士や弁護士への依頼など法律行為の委託が「委任契約」、法律行為ではない仕事の委託が「準委任契約」となります。
ただ、一般的には準委任契約も含めて委任契約と呼ばれることが多いため、記事でも、委任/準委託をまとめて「委任契約」と称して解説します。
業務委託のメリット
企業を経営したり、新規事業を立ち上げたりするうえで、自社に専門知識がない、また、正規雇用として採用するほどの業務量がないようなケースはよくあります。
たとえば、経理、法務、労務、広報、マーケティングなどの業務などがイメージしやすいでしょう。
こうした仕事について業務委託に依頼すれば、採用コストや教育コストをかけずに高いレベルでの業務遂行や課題解決が可能になるでしょう。
フルタイムではなく必要な工数分だけの契約にする、プロジェクト終了と同時に業務委託も終了するといった形にすれば余計な人件費もかかりにくくなります。
また、業務委託を活用することで、正規雇用社員の生産性が高まり、経営戦略や営業などのコアな業務に専念できるようになるでしょう。
業務委託のデメリット
業務を社外の企業やフリーランスの個人などに依頼すると、ノウハウや技術は自社に蓄積されません。
結果的に、自社の人材が育たず、ずっと業務委託が必要になる可能性もあります。
また、個人との業務委託契約は、先方の都合で契約を終了されることも十分にありえます。
特に副業人材の場合などは、先方の異動や転職などに伴って業務を終了させてほしいと申し入れがあるケースもよくあります。
契約終了時に、代替する人が見つからないケースも想定されるため、業務の安定性・継続性的な視点での懸念が生じることもあるでしょう。
業務委託を利用する際の注意点
業務委託契約を締結する際には、偽装請負にならないように注意が必要です。
偽装請負とは、請負あるいは委任契約であるにも関わらず、実態は労働者派遣である状況を指す言葉で、労働者派遣法及び職業安定法で禁止されている行為です。
出典:あなたの使用者はだれですか?偽装請負ってナニ?(東京労働局)
たとえば、業務委託契約で仕事を請け負うエンジニアやデザイナーなどが、開発現場に常駐して作業をすることがあります。
この場合、一見すると、自社の正社員・アルバイトなどと業務委託の請負人は「同じチームのメンバー」であり、同じ方法や同じルールで仕事をすべきと感じられるかもしれません。
しかし、業務委託は正社員やアルバイトのような雇用契約ではありませんし、派遣会社から派遣されているわけでもありません。
業務委託の相手方は、基本的に仕事の進め方や働く時間などを自分で決められることが原則です。
したがって、業務委託の相手に自社の社員と同じ働き方を強いる、業務を細かく指示するようなことになると、偽装請負になってしまいます。
意図せず偽装請負になってしまうことを防ぐため、業務委託契約をするときには、以下の点を注意・確認しておく必要があります。
- 企業側で、業務の段取りや進め方を細かく直接命令することはできない
- 企業側で、原則として始業・終業時間などを決めることはできない
- 企業側で、服務上の規律を決めて請負人を細かく管理することはできない
なお、自社の業務を企業に委託する場合も、仕事を出す企業側から人員の選定や人数の指定などは行なえません。
派遣とは?
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派遣とは、派遣会社と雇用契約を結んだ派遣社員(派遣労働者)を、自社の仕事のために派遣してもらう仕組みです。一般的に、人材派遣、派遣契約と呼ばれます。
派遣と業務委託との大きな違いは、派遣の場合、業務に関する指揮命令権や管理権が、派遣先の企業にあることです。
<派遣社員に対しては、以下のような指揮命令権・管理権がある>
- 働く場所の指示
- 仕事の進め方やスケジュールの指示
- 始業時間・終業時間の決定
- 休憩・休日の決定
- 時間外労働の依頼 など
一方で、派遣社員が雇用契約を結んでいるのは派遣会社であり、以下の管理や責任は派遣元が負うことになります。
- 労働契約の締結
- 賃金の支払い
- 年次有給休暇の付与
- 災害補償
- 就業規則の作成・届出 など
なお、派遣契約には「3年ルール」と呼ばれるものがあり、派遣される側は同一事業所で同じ派遣社員を、3年を超えて受け入れることはできません。
3年を超える場合には自社での直接契約に切り替える必要があるので注意が必要です。
人材派遣の種類
人材派遣には、以下3つの種類があります。
人材派遣で最も一般的な形態です。
派遣会社と雇用契約を結んだ派遣社員が、派遣先企業に紹介されて働く形です。
登録型派遣の場合、派遣先が決まった時点で、派遣会社と派遣社員が雇用関係を結び、派遣契約が結ばれている期間だけ雇用が成立します。
派遣期間(最長6ヵ月)の終了後に、派遣社員と派遣先企業が合意した場合、正社員や契約社員などの直接雇用の関係になることを前提とした形態です。
派遣中は通常の派遣と同様に派遣元との雇用関係で、派遣期間終了後に派遣先と雇用契約を結ぶことになります。
なお、派遣先企業側は、派遣労働者を必ず直接雇用する義務はありません。また、派遣社員側が入社を拒む(辞退する)ことも可能です。
登録型派遣とは異なり、派遣先での仕事がなくても、派遣元と派遣社員の雇用関係が続く種類です。
派遣社員にとっては安定した雇用になることがメリットで、派遣会社側も人材を確保したり、育成したりしやすいという特徴があります。
人材派遣のメリット
人材派遣を利用するメリットは、一時的な業務工数を吸収したり、人件費を変動費化したり、ノンコア業務を切り出せたりすることです。
派遣会社は登録人材のデータベースを持っており、自社で募集する場合と比べて採用するまでの手間や費用がかかりません。短期で採用できることも多いでしょう。
また、派遣社員を利用すれば、社会保険に加入する必要がなく、給与や労務関係の手続きも派遣元で実施するため、以下の工数などは生じません。
- 社会保険料の支払い
- 雇い入れ前後に行なう社会保険の手続き
- 給与計算や確定申告などの事務手続き など
派遣社員の場合、自社の社員に対してと同様に、業務の指揮命令も行なえます。
紹介予定派遣を利用すれば、派遣期間中に適性などを試し、自社に合う優秀な人材であれば正社員として登用することも可能です。
人材派遣のデメリット
同一業務に3年間以上従事させる場合には、直接雇用契約が必要となります。
継続的に同じ業務を派遣社員に任せようと思うと、最長3年で新たな派遣社員を受け入れる必要があり、教育・育成のコストや時間が繰り返しかかることになります。
派遣社員の場合、正社員と比べて派遣先への帰属意識は薄いです。直接雇用ではない分、場合によっては、パート・アルバイト社員よりも薄い可能性もありえます。
帰属意識が低い派遣社員を受け入れた場合、チームビルディングなどに影響することもあるでしょう。
また、帰属意識が薄い分、派遣社員側から契約更新をストップされる場合もしばしばあることです。
また、フリーランスなどの業務形態が増えた中で、専門人材は業務委託側に流れている傾向もあり、業務委託で契約可能な人材レベルと比べると、専門家レベルは少し落ちるケースも多いでしょう。
派遣を利用する際の注意点
リーマンショック時などに派遣社員の不安定さは大きな社会的な問題となり、派遣社員の受け入れに関する制度改定などが何度か実施されてきました。
その結果、現在では派遣先で以下のような多くの制限が課せられるようになっています。
- 上述した“3年ルール”
- 離職1年以内の元従業員を派遣労働者として受け入れることの禁止
- 派遣先の都合で派遣契約を解除するときに一定の措置を講ずる必要
- 均衡待遇の確保に向けた派遣元事業主への協力
- 労働契約申し込みみなし制度
派遣社員の受け入れをするときには、派遣元の企業ならびに派遣社員とのトラブルが起こらないように、厚生労働省のチェックリストなども使いながら契約締結などの手続きを進める必要があります。
出典:派遣先の皆さまへ 派遣社員を受け入れるときの主なポイント
業務委託と派遣、どちらを選ぶべきか?
企業が効率的に人材確保をするうえで、業務委託と派遣のどちらを選べば良いのでしょうか。この章では、業務委託と派遣のそれぞれが適している仕事を紹介します。
業務委託の利用が適している仕事
- 人事や経理など一定の専門性が必要な業務
- 専門性が必要だが、フルタイムの正規雇用工数は必要ない業務
- 社員が細かく指示・管理する必要がない業務
- 社内では対応できない高度なスキルが必要な業務
- デザインやプログラミングなど成果物が明確な業務
- 新規事業のスタートアップや課題解決など、高度な専門スキルを使い迅速な対応が求められる業務
- 社内で作業場所や必要な設備・ツール準備が難しい業務
- 社内で実施する必要がない業務
- 勤務時間などを社員と合わせる必要がない業務
派遣の利用が適している仕事
- 社内で継続的に行なわれている業務
- 社員から細かな指示をしたほうがスムーズな業務
- 年末調整や決算などの一時的な定型業務
- 仕事の進め方やスケジュールに変更が生じやすい業務
- 優秀な人材であれば、直接雇用しても良い業務(紹介予定派遣)
まとめ
業務委託は、自社で対応できない業務などを切り出し、個人事業主やフリーランス、また一般企業などに依頼をして行なってもらう契約です。
また、派遣は、派遣会社と雇用契約を結んだ派遣社員を自社に派遣してもらう仕組みです。
業務委託と派遣は、うまく活用することで、社員の生産性を上げたり、一時的な業務負荷を吸収したり、社内にない専門スキルを調達したりできるものです。
適切な活用を行ない、生産性向上や事業の成長につなげていきましょう。
HRドクターを運営する株式会社ジェイックでは、副業やフリーランス人材とのパートナーシップを強化しており、業務ごとに必要なスキルを持った方に業務委託契約で仕事を切り出すことで、社員の生産性を向上させています。







