企業における人材育成の取り組みとは? 目的と課題・対策、スキルマップの活用法も解説

更新:2023/07/28

作成:2022/07/03

古庄 拓

古庄 拓

株式会社ジェイック取締役

企業における人材育成の取り組みとは? 目的と課題・対策、スキルマップの活用法も解説

企業が中長期にわたって成長・発展するためには、人材育成の取り組みは不可欠です。特に多くの企業で人材不足が叫ばれる現在では、社内の人材を活躍する優秀な社員へと育成することの重要性はより高まっているといえるでしょう。

 

本記事では、企業の人材育成の取り組みをテーマに、人材育成の目的、よくある課題とその処方箋、および人材育成の効果的なツールであるスキルマップについて解説します。

<目次>

企業が人材育成に取り組む目的

最初に、企業が人材育成を行う目的を4つ確認しておきます。

 

1.生産性の向上

企業が人材育成に取り組む目的の1つめは、個人および組織の生産性向上です。研修やOJTなどの教育を通じてスキルや知識が高まることで、個人の生産性は高まります。そして個人の生産性に加え、チームビルディングやマネジメントスキルの向上等が掛け合わされることで、組織の生産性は相乗効果的に向上します。

 

生産性の向上は、短期の業績や目標達成に貢献するだけではありません。生産性が向上して時間管理がうまく出来るようになると、中長期の事業戦略や新事業の立案、新サービス構想といった、企業価値を高める活動により注力できるようになる効果もあります。

 

2.将来のリーダーと幹部育成

人材育成の目的の2つめは、将来的なリーダーや幹部の育成です。VUCAといわれる変化の激しい現代の経営環境では、トップだけで経営戦略の遂行やすべての意思決定を行うことは困難となっています。組織が中長期的に成長していくうえでは、経営戦略に基づいて現場をけん引できるリーダーや幹部を輩出することが不可欠です。

 

リーダー候補となる人材を選抜し研修や意図的な配置転換を行うなど、将来のリーダー・幹部候補の育成に早期に取り組むことは企業の将来のためにも重要といえます。

 

3.優秀人材の定着と流出防止

人材育成の3つめの目的は、優秀人材の定着と流出防止です。少子化に伴って労働生産人口が右肩下がりに減少している現在、スキルや経験を持つ人材の獲得はいっそう困難を極めています。

 

さらに、雇用の流動化や働き方も多様化する中で、苦労して優秀人材を獲得できても成長機会が十分でなければ、「今の会社でずっと働いていていいのだろうか?」と疑問を感じ、離職へとつながってしまう可能性は増大しています。

 

特に若手の間では、終身雇用や年功序列の意識は完全に崩壊しています。そして、優秀な若手層ほど、ある程度のスキルを身につけた後、社内におけるキャリアの可能性に見切りをつけて、転職してしまうことが珍しくありません。

 

優秀人材の離職は、積み上げてきたノウハウの流出だけにとどまらず、新たに人材採用をするコスト、人的リソースの増加など、企業経営にも大きな痛手となります。

 

4.経営理念、方針の浸透

4つめは、経営理念や会社方針の浸透です。どの企業にもミッションや経営理念といった企業活動の根幹となる考え方があるでしょう。現場に権限委譲したり、意思決定を任せたりするうえでは、ミッションや経営理念、またバリューなどが判断軸になります。

 

人材育成を通じて「自分の会社はどこを目指すのか?」「自分の業務はミッションにどう関係するのか?」など、社員一人ひとりがそれぞれで腹落ちしてもらうことが大切です。会社の理念や基本方針と自分の業務の結びつきが明確になることで、自信を持って会社の一員としてふさわしい行動をとれるようになるでしょう。

人材育成に取り組む企業が抱える課題と処方箋

前章では、企業が人材育成に取り組む目的と重要性をお伝えしました。しかしながら、人材育成に力を入れながらも課題を抱える企業が多い現状があります。

 

本章では、企業が人材育成に取り組むうえで直面することの多い4つの課題と、それぞれの課題に対する処方箋を解説します。

 

課題1:育成担当者の意欲が低い

1つめは、人材育成に対する担当者の意欲が低いケースです。このようなことが起こる要因は、上層部が人材育成の重要性を腹落ちしておらず、育成にコストや労力を割こうとしないことです。

 

人材育成は中長期的な取り組みです。人材育成を成功させるためには、トップや幹部陣が「人を育てよう」という意識を強く持ち、人材育成の重要性を組織全体に浸透させることが肝心です。

 

併せて管理職の評価制度に「人材育成」の目標を設ける、社員の評価に成長目標を設けるなど、管理職が部下育成に、社員の自己成長に主体的に取り組む体制や意識作りもポイントです。

 

課題2:人材育成(自己成長)に割く時間がない

人材育成に対する意識が高まっていても、人材育成(自己成長)に割く時間を確保できなければ、期待するように人は育ちません。時間がないからといって、多忙な従業員に駆け足でトレーニングや研修を行っても、スキルを体得させることはなかなか難しいのです。

 

先ほどのコスト確保などにも通じますが、必要な研修時間などはきちんと確保する必要があります。

 

また、人材育成の取り組みを成功させるうえでは、管理職のスキルや業務量に配慮することも重要です。働き方改革の普及を背景に、全社的に残業が削減される中で、管理職がプレイングマネージャーとなったり雑務をこなしたりして帳尻を合わせているケースもあります。その状態で部下育成に意識と時間を割くことは困難です。

 

管理職の時間管理のスキルをきちんと高めて、また、業務の廃棄や切り出しを進めて、管理職が人材育成に時間と意識を割けるようにすることが大切です。

 

課題3:人材育成に対する評価基準が曖昧

人材育成の評価基準が曖昧な場合も課題が生じがちです。評価基準が明確でないと、「いつまでに」「どのようなスキルを」「どのレベルまで」習得すればよいのかわからず、人材育成の効果が上がりにくくなります。共通の物差しとなる基準を設け、人事部・組織開発部と現場の上司や管理職との間で共有する、また、管理職と本人の間で合意することが大切です。

 

具体的には、階層別、職種別の基本スキル・専門スキルを設定し、どのような行動がスキルとして評価されるのか、といったことを明確にします。こうした基準を設定することで、人事評価と目標管理を連動させた運用も可能となります。

 

基準を明確にすることは、一人ひとりの社員にとっても重要です。次の職位やステップに進むうえで、どんなスキルが必要なのかが明確になることで、自主的な努力や学びへの動機づけが生まれます。

 

課題4:指導者側の人材育成スキルが不足している

上司や管理職など、指導する側の育成スキルも高めていく必要があります。指導する側に人材育成の意欲があっても、人材育成のスキルが不足していれば、効果的な人材育成はできません。

 

動機付けの理論やソーシャルスタイル、ティーチングやコーチングなどのコミュニケーション技術など、人材育成のスキルを身に付けることで人材育成の効果性はあがりやすくなるでしょう。

人材育成に効果を発揮するスキルマップの活用

人材育成の取り組みには、ツールを活用することも効果的です。導入しやすく、多くの企業で活用されているツールのひとつに「スキルマップ」があります。スキルの現状や目指すべき基準を見える化するスキルマップについて簡単に紹介します。

 

スキルマップとは?

スキルマップとは、「業務で必要なスキルを整理し、それぞれの社員ないしチームに、業務を遂行できるスキルが備わっているかどうかを一覧にした表」のことをいいます。スキルマップは、海外では「Skills Matrix」と言い、企業によっては「力量表」「力量管理表」「技能マップ」などと呼ばれることもあります。

 
スキルマップの例

 

スキルマップを作成するメリット

スキルマップを作成するメリットを3つ解説します。

 

1つめは、育成状況が見える化される点です。スキルマップがあれば、育成対象者自身がセルフチェックをしたり、業務のどこで躓いているのかを上司が把握したりすることもできます。その結果、ポイントを押さえた指導を計画的に進めることができるでしょう。

 

2つめは、人材配置やマネジメントへの活用です。例えば、各社員の現状スキルを踏まえて人材配置することで、今のスキルと業務に必要なスキルでのミスマッチをなくしたり、スキルを活かして専門性を発揮したりといったことも可能になります。

 

3つめは、育成対象者のモチベーションアップにつながる点です。今のスキル状況に対して「できるようになった」「成長した」「新しく身についた」ことがあるたびにチェックを入れることで、育成対象者は成長の実感を得やすくなります。

 

自分が成長できていると実感できれば、次に学ぶモチベーションも上がり、仕事にも前向きに取り組めるでしょう。イメージとしては、子ども時代の夏休みのラジオ体操に参加してスタンプをもらう、RPGゲームのクエストを達成して報酬を得るといった感覚です。

 

特に業績的な貢献が見えづらかったり、成果が出るまで時間がかかったりする仕事の場合、スキルマップを通じた成長実感の獲得は有効に働きます。

 

スキルマップの作り方

スキルマップの作り方を簡単に解説します。スキルマップでは最初に、各業務を細かく具体的に棚卸しして、それぞれの業務に求められるスキル項目を洗い出します。それを整理したうえで、各業務の到達レベルを決めます。

 

到達レベルは3~5段階程度で決めることが一般的です。例えば、レベル1の基準であれば「理解はしているが、上司のサポートが必要である」、レベル3の基準であれば「一人で問題なく遂行できることに加え、改善点を自ら工夫できる」、レベル5であれば「新人や若手に指導できる」といった具合です。

 

スキルマップが完成したら、列に育成対象となる社員の名前を記載して、各スキルの到達レベルを記載していきます。こうすることで、各自のスキル状況、また自分のレベルが見える化されます。そして、キャリアアップに向けてどんなスキルを身に付けることが必要かも自分で考えられるようになるでしょう。

 

スキルマップの詳細と具体的な作成ステップを以下の記事で解説しています。ご興味あれば、ぜひご覧ください。

まとめ

企業における人材育成は業績目標の達成や生産成功の向上、企業の継続的な発展を実現するために必要不可欠なものです。一方で、人材育成の取り組みが効果を生むまでには時間もかかりますし、課題もつきものです。

 

それでも、一つひとつの課題に根気よく向き合いながら、長期的な視点で取り組むことで、ゆくゆくは企業に大きな利益や成長をもたらしてくれるでしょう。
人材育成を考えるうえで、本記事がお役に立てば幸いです。

著者情報

古庄 拓

株式会社ジェイック取締役

古庄 拓

WEB業界・経営コンサルティング業界の採用支援からキャリアを開始。その後、マーケティング、自社採用、経営企画、社員研修の商品企画、採用後のオンボーディング支援、大学キャリアセンターとの連携、リーダー研修事業、新卒採用事業など、複数のサービスや事業の立上げを担当し、現在に至る。専門は新卒および中途採用、マーケティング、学習理論

著書、登壇セミナー

・Inside Sales Conference「オンライン時代に売上を伸ばす。新規開拓を加速する体制づくり」など

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