ドラッカーの『マネジメント』に学ぶ|成果をあげる組織づくりのポイント

更新:2023/08/29

作成:2023/08/29

古庄 拓

古庄 拓

株式会社ジェイック執行役員

ドラッカーの『マネジメント』に学ぶ|成果をあげる組織づくりのポイント

経営学者ドラッカーの著書である『マネジメント』は、経営の原理・原則について体系的にまとめられた本であり、世界中のビジネスパーソンの間では必読の書ともなっています。

 

日本においては、「もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら」という本が大ヒットして映画化もされ、経営学を学んだことがない人の間でもよく知られるようになりました。

 

しかしながら、経営学の教科書とも言えるこの本は、扱われている範囲も広く、難解な部分も多くあります。

 

本記事では、「成果をあげる組織づくり」に焦点を当て、ドラッカーの考え方の基本的な部分を紹介していきます。

<目次>

ドラッカーとマネジメント

成果を出す組織について触れる前に、なぜドラッカーが多くの注目を集めているのか、そして、ドラッカーのマネジメントの定義について見ていきましょう。

「経営学の父」と言われるドラッカーとは?

ピーター・ドラッカー(1909~2005)は、オーストリア生まれの経営学者で、ドイツ系ユダヤ人の家庭に生まれました。

 

1931年にフランクフルト大学で法学の博士号を取得し、1933年には自ら発表した論文がナチスからの怒りを買うことを確信したドラッカーはイギリスへと移住し、投資銀行に勤めていました。

 

後にはアメリカへと移住し、ベニントン大学やニューヨーク大学の教授を務めたのちに、1971年から2003年までカリフォルニア州のクレアモント大学大学院の教授を務めました。

 

ドラッカー最大の功績は、世界で初めてマネジメントを体系的にまとめたことです。

 

それゆえドラッカーは、「経営学の父」とも呼ばれています。

 

ドラッカーは、それまでの形ある「製品」とは違う「形の無い知的生産物」を生み出すナレッジワーカー(知識労働者)の時代が来ることを予測したり、部下一人ひとりが会社の方針を踏まえて目標を設定し、成果を出すまでのプロセスを管理する「目標管理制度(MBO)」を提唱したりするなど、経営分野において多くの足跡を残しました。

 

欧米の経営者や経営層であれば、ドラッカーの名前を知らない人は殆どいないといっても過言ではないかも知れません。

マネジメントとは何か?

ドラッカーはマネジメントの定義について、マネジメントは「組織をして成果をあげさせるための道具、機能、機関である」としています。

 

マネジメントの役目については、著書『マネジメント』の中で以下のように述べています。

「マネジメントは、生産的な仕事を通じて、働く人たちに成果をあげさせねばらない」

成果をあげるということが重要であり、マネジメントはそのための手段であるというのがドラッカーの考えです。

ドラッカーは「企業」をどのように捉えたか?

企業を、利潤を追求するものであるという認識で捉えている方もいるかもしれません。確かに、利益を確保することは事業を継続するためには不可欠ですが、それは企業の究極の目的ではありません。

 

ドラッカーの企業に対する捉え方は、一般的な企業のみならず、NPO法人や地方公共団体といった、あらゆる組織にも適用できるものです。

 

ドラッカーが具体的に企業というものをどのように捉えたかを見ていきましょう。

ドラッカーが提唱する企業の2つの機能とは?

ドラッカーによれば、企業には2つの機能があるとしています。

 

それは、「マーケティング」と「イノベーション」です。

 

マーケティングとは、顧客は何を求めているのかを把握することです。

 

そして、イノベーションとは、顧客の望みを叶えるために新たな商品やサービスを生み出すことです。

 

ドラッカーは、企業の目的を「顧客の創造」であるとしました。

 

そして、顧客の創造に必要な機能として、企業が備えるべきものが、マーケティングとイノベーションの2つだとしました。

「顧客は誰か?」から始める

企業の目的が顧客の創造であるといっても、事業が先にあって後から顧客について考えるというわけではありません。

 

ドラッカーは、事業を定義するためには、まず顧客は誰かを明確にする必要があるとしています。

 

顧客がはっきりと定まってこそ、自分たちは事業として何をなすべきなのかということも定義できます。

 

事業が成立するためには、顧客の存在が不可欠です。

 

だからこそ、成果をあげるためには、顧客からスタートするということが重要になってきます。

「組織」や「利益」に対するドラッカーの考え

マネジメントは、生産的な仕事を通じて、働く人たちに成果をあげさせるものであり、組織はマネジメントを実現するための手段とも言えます。

 

そして、ドラッカーは、成果とは「顧客に現れた好ましい変化」であるといいます。

 

顧客に好ましい変化が出るという点が重要で、もし売上を成果だと捉えてしまうと、顧客満足を無視して売上ばかりを追求してしまうということになりかねません。

 

もちろん、売上は企業が存続していくためには大事なものです。

 

企業は、売上から生まれる利益を原資とすることで、継続して活動することができるようになります。ただし、成果が一番の目的であり、組織や利益はその目的を達成するための手段なのです。

マネジメントに必要とされる能力

ドラッカーは、マネジメントをしていくうえで必要となってくる能力についてもまとめています。具体的にどういった能力が必要とされるのかを見ていきましょう。

目標設定能力

組織として成果を出すためには、具体的な目標設定が欠かせません。

目標設定にあたっては、

  • 具体的で分かりやすいものであること
  • 達成の期限が妥当であること
  • 目標は高く設定しつつも、達成可能なものであること

が重要になってきます。

 

また、組織や部門で目標設定するだけでなく、全体の目標を従業員個人のレベルまで落とし込むことで、「一人ひとりが組織の目標にどのように貢献していくかを明確にする」ことも重要です。

組織化能力

成果をあげるためには強みを発揮することが重要ですが、一人ひとりがバラバラに強みを出していたのでは、全体としての成果につなげるのは難しいものです。

 

ドラッカーはよく組織をオーケストラにたとえました。

 

成果を出す組織は、オーケストラのように、それぞれのパートの演奏家が自分の力を最大限に発揮しつつ、指揮・監督する人のもと、全体として調和が取れています。

 

部下をマネジメントするポジションにある人は、指揮者のように、一人ひとりが力を発揮しながらも全体として調和が取れるように人材を束ねて組織化する能力が必要になってきます。

コミュニケーション能力

組織は人の集まりであり、協力し合うことが重要です。

 

組織内のコミュニケーションは、組織の成果を大きく左右します。

 

成果が生み出されるようにするためには、組織内だけでなく顧客や取引先との間でも円滑なコミュニケーションが行われている必要があります。

 

逆に、一方的な価値観の押しつけや勝手な思い込みによって相手の意見を捻じ曲げてしまうと、思わぬ反発を招いてしまい、組織の生産性を大きく下げてしまいかねません。

 

コミュニケーションは単なる情報伝達ではなく、「相手が何を期待しているのかを知り、こちらが意図することがうまく伝わるようにする」ことが重要です。

 

部下は上司や組織が求めているものをよく理解し、上司は部下に期待していることをうまく伝えられるようになることで、成果を生み出せるようになるでしょう。

評価測定能力

目標設定と並んで重要になってくるのが、仕事の成果を評価・測定する能力です。

 

上司が自分と親しくしている部下ばかりを評価してしまうようなことがあれば、評価されなかった人たちからの反発を買ってしまい、チームワークが乱れる原因にもなりかねません。

 

上司が特定の人を贔屓することなく公平に評価し、適切にフィードバックできるようにすることで、部下のモチベーションを引き出せるようになります。

 

評価する際には、数字に表れない部分にも気を配るということも重要です。

 

すぐに結果は出ないまでも、将来大きな成果を出す可能性のある人や、コツコツと努力を継続できる人、見えないところで組織の潤滑油のような存在になっていて円滑なコミュニケーションには欠かせない人など、直近の結果数字では評価しきれないという人もいます。

 

そういった点も考慮し、適切に評価できるようにするということが重要です。

人材開発能力

人材は、組織から見れば成果を生み出すための重要な資源です。

 

組織が抱える課題を解決するために、研修等を通して従業員の能力を伸ばしていくことは、成果を最大化するために欠かせません。

 

とりわけ今の時代は、技術革新による変化の波が押し寄せており、時代の変化に合わせた能力開発というのも、成果を出し続けるために非常に重要となっています。

ドラッカーのマネジメントに対する考え方

人が組織の中でいきいきと働くためには、「仕事と労働のバランス」が取れていることが重要です。

 

「仕事」とは、目的を達成するための手段を指し、「労働」とは、収入を得るための方法を指します。

 

ドラッカーは、仕事と労働のバランスを取るためには労働の定義について知る必要があるとし、労働を以下の5つの次元に分けて捉えています。

生理的次元

まず重要になるのが、「人を機械のように扱わないこと」です。

 

長時間労働をさせたり、単調な機械的作業ばかりさせたりしていては、人はやがて疲弊してきてしまいます。

 

人がいきいきと活躍し、生産性の高い組織にするためには、「人を人として扱う」ことが基本になってきます。

心理的次元

労働は喜びと苦痛の両方の側面を持つものであり、人格の延長線上にあり、自己実現の手段でもあります。

 

労働は心の働きに大きな影響を及ぼし、働くことを通して自分の価値を知り、成長していけるという心理的側面があります。

 

労働にこうした心理的側面があることを考慮し、社員一人ひとりが自己実現できるようにサポートしていくのかということが、人材をマネジメントするうえで重要になってきます。

社会的次元

労働は、人と社会をつなぐ役割も持っています。

 

人は一日の多くの時間を職場で過ごし、職場は社会の中のコミュニティとして重要な役割を果たしています。

 

だからこそ、「社会とのつながり」を感じることができ、「社会への貢献」を意識できるようにすることが、労働のモチベーション、仕事のやりがいになります。

経済的次元

労働は、金銭を得るための手段です。

 

そして、ある労働者が得られた金銭を使うことで、他の労働者の収入が生まれます。

 

労働には、こうした「お金を循環させるもの」という側面もあります。

政治的次元

組織の中には、上司と部下、派閥、部門といった権力関係が存在します。

 

「命令するもの」と「命令を受けるもの」が共存し、上下関係が正常に機能しなければ、組織は成果をあげることができずに衰退していきかねません。

 

また、対立するもの同士をうまく調整して、統制を図っていくということも重要です。

 

こうした労働の政治的な次元について考慮することも、マネジメントには必要不可欠なものになってきます。

ドラッカーの名言に学ぶ成果を出す組織にするためのポイント

ドラッカーは、『マネジメント』の中で、従業員のモチベーションを引き出し、成果を出せる組織にするにはどうすればいいのかについても言及しています。

 

ここではいくつかのポイントに絞って紹介しましょう。

自ら決めさせ、働きがいを持たせる

成果を出すためには、自らの仕事について責任を持つ必要があります。

 

上からの指示を受けて機械的に仕事をこなすだけでは、仕事に対して受け身になってしまい、やりがいも感じられません。

 

そのことについてドラッカーは、以下のように述べています。

「働きがいを与えるには、仕事そのものに責任を持たさなければならない」

責任を持つといっても、日本語でいう責任は「何かあった時に取らされるもの」という印象もあり、あまり前向きなイメージではないかも知れません。

 

しかし、ドラッカーがいう「責任」とは、英語でいう「responsibilty(response+ability」であり、対応する能力や権限があり、それに伴って生じるという前向きなものです。

 

ここで登場するのが、ドラッカーが生み出した目標管理制度(MBO)です。

 

目標管理制度では、会社の方向性と社員自らが進みたい方向性を擦り合わせ、一人ひとり目標を設定し、その達成度合いによって人事評価を行うものです。

 

ドラッカーはこの手法について、以下のように述べています。

「自己目標管理の最大の利点は、自らの仕事ぶりをマネジメントできるようになることある。自己管理は強い動機づけをもたらす。適当にこなすのではなく、最善を尽くす願望を起こさせる。したがって自己目標管理は、たとえマネジメント全体の方向づけを図り活動の統一性を実現するうえで必要ないとしても、自己管理を可能とするうえで必要とされる」

人は、自分が決めたことであれば責任を持って取り組めるようになり、やりがいも出てきます。人材の力を最大限に引き出すためには、ぜひ意識しておきたいポイントです。

強みを発揮させる

成果をあげるためには、責任を持って取り組むだけでなく、強みを最大限に生かすことも重要です。

 

強みを生かすことの必要性について、ドラッカーは以下のように述べています。

「人が成果を出すのは強みによってのみである」

また、組織は成果を出すための手段であるということを踏まえて、ドラッカーは組織における強み活用ということについて以下のように述べています。

「組織の目的は、人の強みを爆発させ、弱みを無くすこと」

日本の文化は、弱点克服に目がいきがちです。確かに弱点の克服は必要なことかもしれません。しかし、弱点を克服するためには強みを伸ばすのに比べると、多くの時間と労力を必要とします。

 

逆にいえば、同じ努力をしたとき、弱点を克服するよりも強みを伸ばすことのほうが効率がよいのです。

従って、成果を出すということを考えた場合も、弱点を無くすことに力を入れるよりも、いかに強みを最大限に発揮できるようにするのかが重要になってきます。

 

そして、ドラッカーは、多様な人が集まる組織だからこそ、人と人を組み合わせ協力することで、お互いの強みを活かし、弱みを無きものとすることができるといっています。

成果主義を維持するには?

組織として成果を出し続けるためには、成果がちゃんと評価される仕組みも重要です。成果主義について、ドラッカーは以下のように述べています。

「成果中心の精神を高く維持するには、配置、昇給、昇進、降級、解雇など人事に関わる意思決定こそ、最大の管理手段であることを認識する必要がある。それらの決定は、人間行動に対して、マネジメントが本当に欲し、重視し、報いようとしているものが何であるのかを知らせる」

人事制度というのは、組織がどのような成果を求めているのかを従業員に伝える強力なコミュニケーションツールです。

 

公平で透明性のある人事制度を作り、制度に基づいて、成果を出している人を評価して、昇給、昇進させることで、組織としてどのような成果を求めているのかを伝えることができます。

「強み」を把握するサポート

成果を出せる組織を作り上げるためには、一人ひとりの強みを生かしつつ、チームとしてお互いの弱みをうまくカバーし合えるようにするということが重要になってきます。

 

しかしながら、「強み」は当たり前にできてしまうことが多いため、「弱み」と違って自分ではなかなか気がつきにくいものです。

 

HRドクターを運営する研修会社ジェイックでは、強みを発見するためのサポート、そして強みを活かすマネジメントを実現する手段として「ストレングスファインダー®研修」を提供しております。

ストレングスファインダー®は、アメリカの調査会社であるGallup社によって開発された「才能診断ツール」です。

 

ストレングスファインダー®を活用することで、従業員が自分の強みを発見し活かせるようになるだけでなく、組織として異なる強みを持つ従業員を組み合わせて相互補完できる組織を作ったり、上司が部下の強みを活かすマネジメントに取り組んだりできるようになります。

著者情報

古庄 拓

株式会社ジェイック執行役員

古庄 拓

WEB業界・経営コンサルティング業界の採用支援からキャリアを開始。その後、マーケティング、自社採用、経営企画、社員研修の商品企画、採用後のオンボーディング支援、大学キャリアセンターとの連携、リーダー研修事業、新卒採用事業など、複数のサービスや事業の立上げを担当し、現在に至る。専門は新卒および中途採用、マーケティング、学習理論

著書、登壇セミナー

・Inside Sales Conference「オンライン時代に売上を伸ばす。新規開拓を加速する体制づくり」など

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