コンセプチュアルスキルは、経営者や幹部といった高い職位で活躍する人に特に求められる能力です。また、コンセプチュアルスキルは、強いリーダーシップを発揮するためにも不可欠なものです。
本記事では、カッツモデルを使いながらコンセプチュアルスキルの位置付けを解説したうえで、コンセプチュアルスキルを構成する10の要素と具体的なトレーニング方法を解説します。
<目次>
- コンセプチュアルスキルとは?(概念化能力)
- カッツモデルとコンセプチュアルスキルの位置付け
- コンセプチュアルスキル向上で得られるメリット
- コンセプチュアルスキルを構成する10の要素
- コンセプチュアルスキルの高め方
- まとめ
コンセプチュアルスキルとは?(概念化能力)
コンセプチュアルスキルとは、「情報や知識などの複雑な事象を概念化する」スキルであり、アメリカ・ハーバード大学の経営学者、ロバート・カッツ氏によって提唱されました。
コンセプチュアルスキルを身に付けると、複雑で正解が見出しにくい物事を、論理的かつ創造的に考えられるようになります。
カッツモデルとコンセプチュアルスキルの位置付け
ビジネスシーンで習得すべき能力におけるコンセプチュアルスキルの位置付けは、ロバート・カッツ氏が提唱するカッツモデルでよく分かります。
カッツモデルとは?
カッツモデルとは、組織内における各階層で必要なビジネススキルを分かりやすく整理したモデルです。
ロバート・カッツ氏は、ビジネススキルを大きく下記の3つに分類しました。
- コンセプチュアルスキル(概念化能力)
- ヒューマンスキル(人間関係能力)
- テクニカルスキル(業務遂行能力)
そして、組織内の階層を以下の3つに分類しています。
- トップマネジメント:経営者層(社長、CEOや取締役など)
- ミドルマネジメント:管理者層(部長、課長、拠点長など)
- ロワーマネジメント:監督者層(チームリーダーや主任など)
そして、各階層で必要なビジネススキルの割合を以下のように示したのです。
なお、カッツモデル自体はマネジメント階層内での区分になっていますが、実際にビジネスで必要な能力という意味で考えると、一般のプレイヤー階層もロワーマネジメントの中に入れて考えて、ほぼ齟齬はありません。
カッツモデルにおけるコンセプチュアルの位置付け
図の通り、コンセプチュアルスキルは、ロワーマネジメントでは求められる比率は少なく、ミドルマネジメント、トップマネジメントと組織の階層を上がっていくほど、必須となるスキルです。
組織の階層を上がっていくほど、自分自身で成果を生み出すことよりも、メンバーの力を借りて成果を生み出していくことになります。
そのときに必要なのが、ビジネスや課題の本質を見抜いて適切な解決策を考えたり、ミッションやビジョン、顧客価値といったものでメンバーを鼓舞したりすることです。それに必要なのが「抽象的な概念」を扱うコンセプチュアルスキルです。
従って、組織の階層が下がれば必須度は減少しますが、成果をあげるうえで高めれば役に立つ力です。例えば、ミドルマネジメントでも問題解決やチームの士気をあげることは必要です。
また、マーケティング分野やソリューション型の営業職、非正規雇用のメンバーを多く雇用しているような仕事では、ロワーマネジメントでもミドルマネジメントと同じように抽象的な概念を扱ったり、理念やビジョンで人を動かしたりする力が必要になります。
コンセプチュアルスキルは、実務を進めるためのテクニカルスキル、人間関係を作るヒューマンスキルを身に付けたうえで、さらに高い成果をあげるうえで役立つスキルといえます。
コンセプチュアルスキル向上で得られるメリット
コンセプチュアルスキルの向上で生まれる組織や個人のメリットには、以下のようなものがあります。
課題の本質的な解決が可能になる
コンセプチュアルスキルは、対象を抽象化することで本質を見極める能力です。コンセプチュアルスキルを高めて、枝葉末節ではなく、幹となる本質的な課題を見出して解決することで、プロジェクトの成功や早期のトラブル解決などが見込めます。
ビジネスは問題解決の連続です。枝葉末節の問題にもぐら叩きのように対応するのではなく、一気に根本的な課題を解決できれば、組織の生産性も大きく向上するでしょう。
仕事の全体像を共有しやすくなる
コンセプチュアルスキルによる抽象化は、物事の構造を捉えることでもあります。構造を捉えて、チームや組織の進む方向性を定めることはリーダーに不可欠な力です。
構造化して物事を単純化することで、仕事の全体像をメンバーに共有することも容易になります。
コンセプチュアルスキルによる抽象化と具体化は「たとえ話」や「事例」を扱う能力でもあります。単なる単純化だけではなく、たとえ話や事例を使った共有は若いメンバーにも分かりやすく伝わります。
メンバーのパフォーマンスを引き出しやすくなる
仕事の全体像や価値、そして、自分たちが成し遂げるビジョンがメンバーに伝われば、メンバーのパフォーマンスも高まります。
自分に求められている仕事が、全体の中でどう位置付けられて、どんな意味があり、どんな貢献に繋がるか伝わることは、メンバーの内発的動機付けに繋がります。
やる気が高い状態で、かつ同じ方向を向いて仕事することは、ミスや失敗の減少、組織内の協力体制、メンバーからの提案や挑戦に繋がり、組織のパフォーマンスが向上します。
イノベーションを生み出しやすくなる
コンセプチュアルスキルによる抽象化や構造化は、イノベーションを生み出す土壌ともなります。
「顧客の価値」「自分たちの介在価値」といった抽象化した情報を扱えると、いまのビジネスモデルや商品・サービスの形に囚われない新しいビジネスを考えることも可能になります。
また、単純に構造化して考えることで大胆なアイディアが出やすくなりますし、異業界の成功事例などを取り入れることも容易になるのです。
コンセプチュアルスキルを構成する10の要素
コンセプチュアルスキルには、10の構成要素があります。
10個というと、すべて身に付けるのは大変に聞こえるかもしれません。ただ、一つひとつの要素を見ていけば、ビジネスに携わっている方であれば、多かれ少なかれ馴染みのある要素もあるはずです。
自分が強いところを重点的に伸ばす、そして、弱いところは最低限のラインまで補強することを意識すると、コンセプチュアルスキルを効果的に高めることができます。
では、一つひとつの要素を見ていきましょう。
1.ロジカルシンキング(論理的思考)
物事の状況をフレームワークなどに当てはめて整理することが得意なロジカルシンキングは、抽象化や構造化を支える力です。ロジカルシンキングを鍛えることで、要素に分解したり、構造を捉えたりすることが容易になるでしょう。
2.クリティカルシンキング(批判的思考)
クリティカルシンキングは、事象や課題に対して「本当に正しいのだろうか?」「本当の問題は何だろうか?」「この前提は本当に変えられないのだろうか?」と、常識や既成概念に囚われない客観的な思考を実現します。
本質を見出すという点では、コンセプチュアルスキルと近く、コンセプチュアルスキルを働かせるうえで、不可欠なスキルです。
3.ラテラルシンキング(水平思考)
ラテラルシンキングは、いままでの経験や常識に囚われることなく、自由な発想をするスキルです。物事や問題を新たな視点で捉えなおしたり、枠組みを超えた発想をもたらしたりしてくれます。
4.多面的視野
事象に対して、さまざまな角度からアプローチする視点です。例えば、自分のビジネスを捉えるにも売り手である自分たちの視点以外にも、さまざまな買い手、買い手に影響を与える人、仕入先、パートナー、流通業者、卸小売、社会、マスコミ…など、さまざまな視点があります。
多面的視野で物事を捉えることで、本質が見えてきたり、俯瞰的な視点から構造化したりすることができるでしょう。
5.俯瞰力
広い視点で客観的に物事を見渡し、適切な現状分析をするスキルです。多面的視野と組み合わせることで、目先の課題や感情から離れて、物事の全体像や本質をつかみやすくなります。
また、物事を俯瞰的に見ることは、施策を実施した/実施しなかったときの未来、実行するうえで生じる事柄、世の中の変化といったことを想像して、危険回避や目標達成に向けた有効な方法を考えることにも役立ちます。
6.知的好奇心
知的好奇心は、新しい物事を拒絶せず、興味を持って情報収集などをする欲求です。自分の仕事やビジネス以外のさまざまなことに興味を持ち、比較できる情報や視点を持つことは、多面的視野やラテラルシンキングのスキルを発揮することに繋がります。
7.探求心
目の前の結果や事象に対して、「どうしてこの結果になるのか?」を常に考えて取り組む姿勢です。「突き詰めて考える力」である探求心は、本質的な課題や構造を見出すコンセプチュアルスキルとも相性の良い力です。
8.受容性
現状や自分と異なる考え、価値観などを、ありのままに受け入れるスキルです。自分の主観や価値観に囚われずに物事をありのままに捉える力も、コンセプチュアルスキルを支えます。
9.柔軟性
社会的ニーズや時代の流れに適応し、臨機応変に行動するスキルです。組織や個人に生じた困難や課題に向き合ううえでも、非常に大切な能力です。また、いままでの常識や自分の常識から抜け出して変化する力は、リーダーシップを発揮するうえでも大切です。
10.チャレンジ精神
未知の事象や未経験の分野に対して、失敗を恐れず挑戦する姿勢です。ラテラルシンキングを働かせるうえでも、現状から飛び出すことを恐れない姿勢が必要です。
コンセプチュアルスキルの高め方
コンセプチュアルスキルは、得意不得意はありますが、日々の仕事や暮らしの中で高められる能力です。ぜひ以下の3つを意識してみてください。
物事を抽象化して捉える
抽象化とは、物事の「構造」や「要素」に注目することです。個別や具体的な要素をそぎ落とし、抽象化することで、物事の本質を見出しやすくなります。
トレーニング例)
⇒ 図に書いて整理する、説明する
⇒ 「要するに…」というポイントを考える
⇒ 物事の構造を考える
言葉を定義してみる
物事を定義しようとすると、物事を構成する「要素」、物事を成立させているものに注目がいくようになります。実のところこれは、抽象化しているのと同じことです。
トレーニング例)
⇒ 「とは?」を使って物事を定義してみる
- 「商談の成功」とは?
- 「ビジョン」とは?
- 「マネジメント」とは?
概念を具体化する
コンセプチュアルスキルとは、「抽象化」と「具体化」を行き来するスキルです。特に「伝える」うえでは具体化のスキルが非常に重要になります。
例えば、ミッションやビジョンを語るときには、抽象的な理念を「具体的にはこういうこと」と、頭の中で造像できるようなビジョン、相手がイメージできる事例で伝える形です。
トレーニング例)
⇒ 「たとえ話」や「事例」の活用を意識する。たとえ話や事例は「状況や伝えたい内容を抽象化して、似た構造で相手がイメージしやすいものに具体化する」プロセスで、じつはコンセプチュアルの活用そのものです。
まとめ
コンセプチュアルスキルは、抽象化や構造化によって物事を単純化したり、本質を見出したりする力です。単純にして本質を見出すことで根本的な問題解決を実現できたり、抽象化・構造化することで異業種や全然違う世界の成功例を取り入れたり、相手に伝わりやすいように事例やたとえ話を用いて話したりすることができます。
従って、クリティカルシンキングはビジネスの方向性を見出して大きな意思決定を行ったり、ミッションやビジョンでメンバーを鼓舞したりする必要がある経営層には必須のスキルです。また、問題解決やコンセプトやビジョンで相手を動かす力は、マネージャーやプレイヤー層にとっても成果をあげる力となります。
コンセプチュアルスキルは、思考力を高めるトレーニングを日々実践することで高めることが可能です。物事の「物事の抽象化」「言葉の定義」「概念の具体化」、3つのトレーニングを実施して、ぜひコンセプチュアルスキルを高めてください。