特別支給の老齢厚生年金が支給停止?在職老齢年金の仕組みや企業への影響

更新:2023/01/24

作成:2022/08/14

古庄 拓

古庄 拓

株式会社ジェイック取締役

特別支給の老齢厚生年金が支給停止?在職老齢年金の仕組みや企業への影響

高齢化社会になっている日本では、高齢者が働きやすい環境を整備するために、国によってさまざまな制度の創設や改正が行なわれています。令和4年4月の年金制度改正のトピックで注目されているのが、特別支給の老齢厚生年金における支給停止に関する内容です。

 

記事では、まず「特別支給の老齢厚生年金」と今回の制度改正に関係する「在職老齢年金」の基礎知識を紹介します。そのうえで、令和4年4月以降、特別支給の老齢厚生年金の仕組みがどう変わるか、また、企業にどんな影響があり得るかを紹介します。

<目次>

特別支給の老齢厚生年金【基礎知識】

人差し指を掲げるビジネスマン

高齢者が60歳以上になっても働き続ける場合、無職の高齢者と同様に年金を受給することが可能です。ただし、一部の高所得者は働くことで年金額が減額もしくは支給停止になることがあります。

 

本章では、上記に関連する制度である「特別支給の老齢厚生年金」と、その減額・支給停止に影響する「在職老齢年金」という2つの制度の基本を解説します。

 

 

特別支給の老齢厚生年金とは?

まず、老齢厚生年金ですが、昭和61年(1986年)の年金制度改正によって支給開始の年齢が65歳になりました。

 

ただし、受給開始年齢を段階的に、スムーズに引き上げるために設けられたのが「特別支給の老齢厚生年金」制度です。厚生年金の加入期間が1年以上あり、老齢基礎年金の受給資格をクリアしていれば、60歳~64歳まで老齢厚生年金が特別に受給できます。この仕組みが、特別支給の老齢厚生年金と呼ばれるものです。

 

この仕組みは、仕事をしている高齢者にも適用されますので、仕事をしている高齢者は、特別支給の老齢厚生年金の受給対象となる場合、仕事の賃金と年金、双方の支払いを受けることになります。

 

なお、厚生年金の適用事業所で働く70歳未満の人は、60歳を過ぎて特別支給の老齢厚生年金を受けていても、厚生年金への加入が義務付けられています。したがって、特別支給の老齢厚生年金をもらいながら、同時に厚生年金の支払いもするという形になります。

 

 

在職老齢年金とは?

60歳以降も働き続ける高齢者が、勤務先からの月給・賞与のほかに、特別支給の老齢厚生年金を受け取った場合、無職で特別支給の老齢厚生年金だけを受給する高齢者と比べて収入が多くなり、不公平感が出てしまいます。

 

そもそも、厚生年金は、退職によって労働者の収入がなくなったあとの所得を保障する目的でつくられた制度です。したがって、働き続けている高齢者に厚生年金が支払われることは制度の目的から考えても少し違和感があるともいえます。

 

こうした背景から、法律で定めた水準以上の収入がある高齢者の年金額を減額もしくは支給停止にする仕組みが設けられています。この仕組みを「在職老齢年金」と呼びます。

令和4年4月から65歳未満の在職老齢年金制度が見直し

基準以上の収入がある高齢者の年金額を減額もしくは支給停止する在職老齢年金制度ですが、令和4年4月の法改正で基準の見直しが実施されました。改正前(令和4年3月末まで)の条件と、令和4年4月改正後の条件は以下のとおりになります。

 

令和4年4月以前の収入制限・支給停止の条件

従来の制度では、年金の減額もしくは支給停止の条件が、「65歳未満」と「65歳以上」で異なっていました。

  • 65歳未満:月の収入が28万円を超えた場合に減額等の対象となる
  • 65歳以上:月の収入が47万円を超えた場合に減額等の対象となる

 

いままでの制度では、上記の基準に則って、以下の式で、減額・支給停止額の計算が行なわれていました。

  • 65歳未満:支給停止額=(基本月額+総報酬月額相当額-28万円)×1/2×12
  • 65歳以上:支給停止額=(基本月額+総報酬月額相当額-47万円)×1/2×12

 

基本月額とは、老齢厚生年金(年額)を12で割った額、つまり、年金による月の収入額です。基本月額は年金月額と呼ばれることもあります。

 

そして、総報酬月額相当額は、月給(標準報酬月額)に直近1年間の賞与を12で割った額、つまり、就業することによって得られる収入を月で均した収入額です。なお、標準報酬月額も聞きなれない言葉ですが、社会保険料の計算をしやすくするために設けられている報酬月額の等級ごとに設定されている区切りの良い計算用金額を指します。

 

 

令和4年4月以降の収入制限・支給停止の条件

令和4年4月の改正で、65歳未満の人も、支給停止もしくは減額の基準が65歳以上と同じ47万円に緩和されることになりました。

 

したがって、新しい仕組みでは、特別支給の老齢厚生年金を受給している人が、在職老齢年金による減額もしくは支給停止の対象になるかは年齢に関係なく、以下の基準で判断、また減額金額を計算できます。

・減額もしくは支給停止の基準額:
⇒月の収入が47万円を超えた場合
・支給停止額の計算式
(基本月額+総報酬月額相当額-47万円)×1/2×12

65歳未満の在職老齢年金制度が見直しになった理由とは?

思案するミドル社員

在職老齢年金は、賃金に加えて特別支給の老齢厚生年金を受給する「働く高齢者」と「無職の高齢者」の収入格差、不公平感をなくす目的で、昭和40年に創設された制度です。

 

しかし、日本が高齢化社会となっているなかで、60歳を過ぎた高齢者が働きやすい環境・制度の整備が求められるようになっていますし、実際に働いている高齢者も増加しています。

 

こうした中で、しっかりと働いて給与水準が上がると年金額が減額・支給停止されてしまう在職老齢年金の仕組みと今の基準額は、逆に高齢者の労働意欲を削ぐ部分があるとして、在職老齢年金の見直しに関する議論が生まれ、令和4年4月の制度改正につながりました。

 

 

在職老齢年金の見直しと高齢者の勤労意欲

ただし、在職老齢年金制度の見直しと高齢者の勤労意欲(就業)の関係に、明確なエビデンスはありません。

 

問題視されてきた在職老齢年金による就業の抑制効果は、分析を行なう研究者によって、効果の判断・意見に大きな違いがあります。

 

特に基準額が47万円へと引きあがる65歳~69歳の区分に関しては、3人の研究者が「効果が確認できなかった」と回答しています。この辺りも改正内容が在職老齢根金の廃止ではなく、基準額の見直しとなった一因でしょう。

出典:在職老齢年金制度の見直しとその影響(株式会社大和総研 シニアエコノミスト 神田慶司)

 

 

加速する高齢者の就業支援と環境整備

少子高齢化が進む中で、国力を維持するために、国による高齢者が働ける環境・制度の整備は今後も加速していきます。

 

なお、関連する研究では、

・現代の高齢者は、過去の高齢者と比べて通常歩行の速度などから見ても若返っている
⇒身体的に働ける高齢者が増えている・70歳以降まで働くことを希望する高齢者も8割にのぼっている
⇒高齢者自身も働くことを望んでいる

 

といったデータもあり、国では以下のような高齢者が働きやすい仕組みの整備に力を入れています。

  • 高齢者が働ける企業への支援
  • 高齢者が地域で働ける場の拡大
  • 高齢者が地域社会を支える活動ができる場の拡大
  • 高齢者の再就職支援の強化

など

企業への影響

令和4年4月に実施された65歳未満の在職老齢年金制度の見直しに関して、企業への直接的な影響はありません。

 

ただし、これまで在職老齢年金制度による減額・支給停止を避けるために28万円の基準額を下回るように働いていた60歳以上の高齢者が、47万円の基準額に変わったことでより多く稼げる環境を望むことは十分にあり得ます。

 

企業の状況によりますが、その場合、高齢者雇用の賃金制度や雇用の仕組みを見直す必要がある場合もあるでしょう。制度等の見直しをする場合、高齢者だけでなく60歳未満の社員も納得できる制度設計が必要です。

 

いずれにしても、国による高齢者雇用を促進させる取り組みは今後も間違いなく加速していきます。自社の状況に応じて対応する動きを早めにしておくことが大切です。

まとめ

特別支給の老齢厚生年金とは、老齢基礎年金の受給資格を満たしていれば、仕事を続けている60~64歳の高齢者も、本来であれば65歳以上が対象となる老齢厚生年金を受給できるものです。

 

しかし、その場合、働き続ける高齢者は勤務先からの給与と年金の両方を受け取ることになり、年金のみを受け取る無職の高齢者と経済格差が生じてしまいますし、退職後の生活保障である年金の制度目的からも違和感が生じる部分があります。

 

そこで、勤務先から受け取る月給・賞与と年金の合計額が法律で定められた一定の基準を超える場合に、年金が減額もしくは支給停止になるのが在職老齢年金の制度です。

 

令和4年4月の改正で、在職老齢年金における減額もしくは支給停止の基準が緩和され、60~64歳の場合は従来まで月28万円だった基準額が47万円に変わりました。

 

60歳以上の社員を雇用している企業では、在職老齢年金制度の見直しによって、高齢者からの要望が生じたり、賃金制度の再設計が求められたりする可能性があるでしょう。なお、国による高齢者雇用を促進する制度整備は今後も加速しますので、企業でも必要に応じて早めに検討・対応することが望ましいでしょう。

著者情報

古庄 拓

株式会社ジェイック取締役

古庄 拓

WEB業界・経営コンサルティング業界の採用支援からキャリアを開始。その後、マーケティング、自社採用、経営企画、社員研修の商品企画、採用後のオンボーディング支援、大学キャリアセンターとの連携、リーダー研修事業、新卒採用事業など、複数のサービスや事業の立上げを担当し、現在に至る。専門は新卒および中途採用、マーケティング、学習理論

著書、登壇セミナー

・Inside Sales Conference「オンライン時代に売上を伸ばす。新規開拓を加速する体制づくり」など

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