経営陣や管理職にとって必須となるリーダーシップの発揮。本来、リーダーシップは社員全員が発揮できるに越したことはありませんが、とりわけ組織をまとめる経営陣や管理職にとっては不可欠な能力です。
しかし、『リーダーシップは必要だ』ということは全員が賛同しても、『では、リーダーシップとは何か』と問われると、意見がバラバラになるのがリーダーシップ開発の難しいところです。本記事では、企業におけるリーダーシップの定義やリーダーシップとマネジメントの違い、経営に求められる3パターンのリーダーシップについて解説します。
<目次>
経営に求められるリーダーシップとは何か?
リーダーシップの詳しい解説に入る前に、「リーダーシップとは何なのか」、用語の意味や基本的な定義を確認しておきましょう。それぞれの持論もあると思いますが、本記事で扱うリーダーシップの定義になります。
1. 企業におけるリーダーシップとは?
企業におけるリーダーシップとは、誰もがイメージする通り、「組織を率いて目標を達成する能力」です。目標達成に向けて組織を先導するリーダーシップは、船の行き先を決定して、その方向に船を動かす船長の役割によく似ています。
“マネジメントの父”とも呼ばれる経営学者、ピーター・ドラッカーは「リーダーシップとは仕事である」と述べています。
“達成すべき目標や優先順位の決定、組織内での基準を定める決断力を仕事として発揮でき、ときには妥協しながらも維持する”ことが、ドラッカーが提唱するリーダーシップです。リーダーシップとは、「決断力の発揮」を軸として、“達成すべき目標を決定して達成していくプロセス”だといえます。
2. 勘違いされやすいリーダーシップとマネジメントの違い
多くのビジネスシーンで使われる「マネジメント」は、「リーダーシップ」と混同されやすい言葉です。これも、さまざまな文脈の中で、さまざまな定義がありますので、1つに絞ることは難しいですが、一般的にいわれるのは、以下の定義です。
- リーダーシップ:組織に向かう方向とゴールを示して先導する
- マネジメント:目標達成のプロセスを管理する(資源と施策を工面する)
リーダーシップは「意思決定と先導」、マネジメントは「達成へのプロセス」といえます。ただし、事業計画の達成、組織目標の達成は、どちらかだけで成り立つものではなく、リーダーシップとマネジメントの間を行き来しながら実行していくイメージになります。
経営で求められるリーダー像の3パターン
経営に求められるリーダー像は、理想像が1つだけあるのではなく、いくつかのパターンがあります。
この章と次の章では、3つのリーダー像、そして、5つのリーダーシップスタイルを紹介していきます。「決断力」、決断力を支える「組織目的と目標へのコミット」はリーダーとして不可欠なものですが、それを踏まえたうえで、「自分の価値観・強みに応じたリーダーシップ」のスタイルを確立してください。
1. ビジョン提示型リーダー像
組織やチームとしてのミッションやビジョンをメンバーに提示して、進むべき方向性を明確にすることで、求心力や組織としての一体感を生み出すスタイルです。一般的に「リーダー」といった場合、最もイメージされやすいタイプがビジョン提示型リーダー像です。
ビジョン提示型のリーダーは、大きなビジョンを提示して、意思決定には関わるものの、個別具体的な仕事の進め方は、メンバーそれぞれの裁量に委ねる傾向があります。従って、自立性や自発性、またレベルの高いメンバーが集まっている場合、極めて有効に作用するリーダーシップですが、指示待ちで受け身なメンバーに対しては効果を発揮しにくい点が弱点です。
受け身なメンバーは、個々の作業に対して具体的な指示が必要だからです。ちなみに、受け身のメンバーが多いケースでは、いわゆる「強制型」のリーダーシップが効果を発揮することもあります。
この場合、メンバーはリーダーの命令や指示にただ従うだけなので、受け身な姿勢のメンバーにとっては動きやすいのです。ただ、あくまで一時的に機能するだけであって、強制型のリーダーシップを長期的に持続させるのは困難です。
2. 民主的リーダー像
民主的リーダー像は、各メンバーの提案や意見を広く募り、組織の活動に反映していくリーダー像です。3つのリーダー像の中では、相対的に、「最終結果よりもメンバーの意欲や意見等の結果に至るまでのプロセスを重視する」のが民主的リーダー像になります。
民主的リーダーが組織を率いるメリットは、新しいアイディアの発掘が期待しやすくなる点です。メンバーの話に耳を傾け、その意見を多く取り入れていた徳川家康も、民主型のリーダーシップを発揮する部分があったといわれています。
このタイプのリーダーの難点は、多くの意見が集まるため、結論が出にくくなってしまうことです。そのため、トラブル対応等の緊急性の高いシーンでは、決断が遅くなる、リスクを伴う意思決定ができなくなる傾向があります。人間関係を友好的に保ちながら目標達成へ導くことを重視する「人間中心型リーダー像」も、民主的リーダー像と似ている部分があります。
意見が出やすい、和気あいあいとした職場環境になりやすいメリットがありますが、人間関係を大事にしすぎた場合、企業が追求すべき業績が犠牲になる、結果的に目標を達成できないというデメリットも想定できます。責任や原因の所在も曖昧になりやすいのも弱点です。
3. ペースセッター型リーダー像
リーダー自らが手本を示し、ペースメーカー(先頭に立つ人)として、背中で皆を引っ張っていくタイプがペースセッター型です。自らが手本を示すことで、各メンバーに対して明確なゴールと、そこに至るまでのプロセスのイメージを与えられる点が、このタイプのメリットです。
高い目標や壁があっても、リーダー自身がまず成功例や基準を示して見せることで、メンバーのモチベーションを上げて目標達成へと導きます。ただ、リーダー自身のスキルが高いことに加えて、各メンバーのスキルも高水準でなければ、ペースセッター型のリーダーシップは機能しません。
メンバーのスキルが一定の基準に達していなければ、リーダー自身がすべてをカバーしなければいけない状況に陥ります。創業当時は、経営者がペースセッター型のリーダーシップを発揮することが有効な場合も多いでしょう。また、トラブル対応や緊急時にも有効な側面があります。
しかし、組織のトップがずっとペースセッター型のポジションに留まるのは、企業経営の観点からはあまり好ましくありません。経営者は、企業の長期的なビジョンや戦略策定といった意思決定をおこなう立ち位置に、いずれ移動しなければいけないからです。
そのため、組織が成長する過程で、他の優秀な社員にペースセッター型のポジションを引き継ぐことが得策です。
自分に適したリーダーシップの種類と特徴は?
この章では、前章で紹介した3つのリーダー像に加えて、5つのリーダーシップスタイルを紹介します。古くから研究されてきたリーダーシップには、長い歴史の中で変遷したさまざまな理論があります。ここでは、その中でも代表的な5つのリーダーシップスタイルを紹介します。
1.カリスマ型リーダーシップ
「どのようにすれば、リーダーはフォロワーとなるメンバーからカリスマとして認めてもらえるか?」に着目したリーダーシップスタイルです。カリスマ型リーダーシップを成功させるには、地に足のついた現実的かつロジカルな戦略設計と、企業が目指すビジョンを明確に提示し、リスクも一手に引き受ける「背中で語る」模範姿勢が求められます。
いわば、前章で紹介したビジョン提示型リーダー像+ペースセッター型リーダー像を1人で兼ね備えたようなリーダーシップです。このリーダーシップは、メンバーや市場ニーズをつかむことに長けている特徴があります。カリスマ型リーダーシップがうまく機能した場合、組織における大きな実績や挑戦的なプロジェクトが成功しやすくなります。
ただし、問題点は、リーダーの影響力が強すぎた場合、メンバーがリーダーに依存しすぎたり、後継者の育成がなかなか進まなかったりする場合があることです。
2.変革型リーダーシップ
組織内の危機の把握や、進むべきビジョンの構築に長けたリーダーの理論です。不確実な環境下でメンバーにマインド面から影響を与え、価値観や信念等の根本から行動を変えようとするリーダーシップとなります。
このタイプには、メンバーに対して向かうべき到達点を明確に提示することが求められます。変革型リーダーシップ理論の具体例では、経営者の交代によるV字回復や倒産危機を脱するといったケースがよくあげられます。これは、ビジョン提示型リーダーの類型といえるでしょう。
3.EQ型リーダーシップ
「心の知能指数」と呼ばれるEQに着目したリーダーシップです。EQ型リーダーシップの特徴は、人間の感情が、行動や組織に大きな影響を与えることを前提にした理論であるということです。
「頭では分かっているけど、気持ちが付いてこない」とか、「論理と感情が結びつくと、爆発的なパワーに繋がる」等、感情が行動に与える影響が非常に強いことはイメージできるでしょう。
従って、EQ型リーダーシップには、組織や実務の改革よりも、メンバーの感情への働きかけを重視する特徴があります。EQ型リーダーシップでは、以下の4点を重視したコミュニケーションを図ることで、メンバーの感情を動かし、組織の方向づけをしていきます。
- リーダー自身の感情を認識する
- リーダー自身の感情をコントロールする
- メンバーの気持ちを認識する
- 人間関係を適切に管理する
この理論によるリーダーシップが発揮された組織では、メンバーがリーダーに対して忠誠心を持ち、職務に対して意欲的に取り組む傾向があります。デメリットは、人の感情を無視しにくいため、急激な変化対応等には弱いという点です。
4.ファシリテーション型リーダーシップ
リーダーが組織内において上下関係のない中立的な立場をとり、メンバーの意見を傾聴することで意見を最大限に引き出せるように働きかける理論です。このリーダーシップを発揮するためには、組織の目的やゴール、意思決定プロセス等をあらかじめ明確にしておく必要があります。また、このタイプのリーダーには、議論の舵取りスキルも欠かせません。
ファシリテーション型リーダーシップは、メンバーそれぞれを尊重しながら関係性の構築をおこない、1つの目的に向かって協働を促します。従って、決まった意思決定に対するオーナーシップを発揮しやすくなるという利点があります。
一方で、多くの意見に耳を傾けることで意思決定のスピードが遅くなったり、血を流すような大きな組織変革がおこないにくかったりする点になります。EQ型リーダーシップと併せて民主的リーダー像の類型といえるでしょう。
5.サーバント型リーダーシップ
リーダーがメンバーを支える逆ピラミッド構造の支援形式です。「サーバント(Servant)=使用人」という語がつくサーバント型リーダーシップでは、リーダーの役割は「メンバーが個々の力を最大限に発揮できる環境を整える」ことになります。
サーバント型リーダーシップにおけるメリットは、メンバーがリーダーから理解され、尊重される、また自分が成果を上げることを支援してくれる感覚を持ちますので、メンバーのモチベーションが高まります。また、フラットな関係を築けるため、リーダーとメンバー間、メンバー間でのディスカッションが進み、アイディアも出やすくなります。
一方で、組織変革やトップダウンによる対応は困難です。専門分野を持ったプロフェッショナルが集まった一時的なプロジェクト型組織等には適したリーダーシップかも知れません。
ここまで3つのリーダー像と5つのリーダーシップスタイルを紹介してきました。繰り返しになりますが、現在のリーダー論においては、1つの理想的なリーダー像があるのではなく、組織の外部環境や内部環境に応じて最適なリーダーシップは変わってくるというのが主流です。
状況と自分の適性に合わせて、
- 「共通の目的地やゴールを示す」ビジョン型
- 「メンバーの意見を取り入れる」民主型
- 「自らの背中で示す」ペースセッター型
をうまく混ぜていきましょう。
なお、リーダーシップはさまざまな方法がありますが、その中で変わらない基本機能が「意思決定」であることは忘れてはなりません。ときに、リーダーシップとは「衆議独裁」であるともいわれます。“組織メンバーの意見を聞いて議論を尽くしたうえで、最終的にはリーダーの責任において独断する”ことがリーダーシップなのです。
まとめ
企業経営で求められるリーダーシップには、さまざまな種類が存在します。なかでも、
- 「共通の目的地やゴールを示す」ビジョン型
- 「メンバーの意見を取り入れる」民主型
- 「自らの背中で示す」ペースセッター型
という3つのリーダー像は、リーダーが持つべき側面をそれぞれ象徴的に表しているといえるでしょう。状況や自分の適性も踏まえたうえで、最適なリーダーシップを発揮していきましょう。
上記のリーダーシップを支えるスキルは、根幹となるのは意思決定力です。そして、ビジョンメイクするためのコンセプチュアル・スキル、また、ビジョンを組織に浸透させたり、メンバーの意見をくみ取ったりするヒューマン・スキルも不可欠です。的確に意思決定をおこなううえでは、普段から情報を集めて整理する分析力、思考力も必要です。
これらのスキルは、リーダーになったから身に付くものではありませんし、経営者や管理職だけでなく、全社員が持っておくのが理想です。強い組織力を発揮できる企業へと成長を遂げるためにも、経営陣だけでなくすべての社員を対象としたリーダーシップを高める取り組みを日頃から実施していきましょう。