たけち歯科クリニック|「スタッフが幸せに働ける環境」が顧客満足を生み出す。自己理解を通して、スタッフの自主性を発揮する職場をつくる。

更新:2023/09/22

作成:2022/08/28

たけち歯科サムネ(R)

「自分を理解することで相手を理解する」。スタッフ一人ひとりが自主性をもって、よりよい治療に取り組むたけち歯科クリニック。Great Place to Work® Institute Japan 2022年版日本における「働きがいのある会社」ランキングでは、初エントリーにして見事にランクイン。歯科クリニックという職場において、どのように働きやすい組織づくり、人材育成を行っているか、理事長の武知幸久様にお話しいただきました。

<目次>

貴院の事業内容について教えてください

近影

1997年にたけち歯科医院を開業し、2011年にたけち歯科クリニックを開設しました。患者様の立場に立った歯科医療の提供を行っており、いわゆる歯を削って埋めるだけではなく、歯の予防治療による患者様の健康維持に力を入れています。また、事故や虫歯などで歯を失った方にインプラントによるかみ合わせの治療を積極的に進めていくことも大事な仕事です。

最近、国も歯科検診にもっと注力するよう提言しています。歯科疾患を予防することはメタボリックドミノを防ぐことにもなりますし、また予防歯科で健康を保つことは近年課題となっている医療費の高騰を防ぐことにも繋がります。

このような当院のこだわりを表現したものとして、以下9つのポイントを掲げています。

  • 01 予防に力をいれています
  • 02 患者様との信頼関係を大切にします
  • 03 いつも患者様の内なる思いに耳を傾ける努力をします
  • 04 いつも笑顔(スマイル)で応対します
  • 05 いつも患者様に笑顔でお帰りいただけるよう努めます
  • 06 自分自身が受けたい治療をご提供します
  • 07 おもてなしといたわりの気持ちをいつも大切にしています
  • 08 治療の内容、お口の状態を詳しくご説明します
  • 09 いつも清潔で安心できる院内環境づくりに努めています

より満足度の高い治療のために行っていることは何でしょうか?

患者様により満足していただくためには、私たちスタッフのスキルアップが求められることはもちろん、マネージャー層がそのための環境を整えていかなければなりません。そこで日々スタッフの考えや要望を吸い上げて、現場からフィードバックをもらいながら、働きやすさとやりがい実現のために役立てています。

また、スタッフ自身も患者様と向き合うなかで、「一人の人間として成長できる場」にしていきたいと考えています。入社したスタッフに対する当院の説明でも「医療を提供するだけではなく、人間としての育成を研究・実践する組織です」と伝えています。

また、当院で働くうえでは、治療技術のみならず、患者様の心を理解することを学んでいただいています。スタッフ研修も治療技術以上に顧客満足に重きを置いています。

たとえば、その一つとして、自分の仕事と患者様やスタッフとの繋がりを考えるため、「システム思考」の研修を取り入れています。

システム思考では、物事をひとつの側面だけでとらえずに全体像を見て、様々な要素を踏まえながら全体最適な解決策へとアプローチしていきます。

また、研修の中では「自分のことを理解できているからこそ、人を理解できるようになる」という考え方も大切にしています。

私たちは接し方ひとつで、人の行動や思考に影響を及ぼすことがあります。そこで、自分がどんな考え方を持って人に接するのか、改めて意識してもらうようなアプローチです。

たとえば、患者様が虫歯になったとき、その背景や患者様が持つ虫歯への考え方は様々です。それらを理解していくことはもちろん大切ですが、まず自分の頭の中でどう考えているかを理解する。そして、自分の考えと患者様の考えを照らし合わせることで、より正しい治療法を見出していくようなイメージです。

GPTW2022でベストカンパニーに認定されました。おめでとうございます。歯科医院という分野で、こうした組織開発への取り組みをしようと思った経緯を教えてください

GPTWには2022で初めてエントリーしました。応募したきっかけは、「スタッフの働きがいや働きやすさ」を考えたときに、一般企業の取り組みを見習うことが大きなメリットになると考えたからです。

私たちの仕事はサービス業であり、夜間まで患者様対応をしたり、昼休みも短くなったりするなど従業員の負担は少なくありません。ただ、だから仕方ないということはないはずです。同じようにサービス業などで従業員への負荷がある中で社内に働きがいをつくるための工夫を行っている企業はたくさんあります。

当院も努力していますが、そういった意味では同じアセスメントの中で一般企業と比べてどう評価されるかに関心もありました。初めての挑戦ですので厳しい評価もあるでしょうし、むしろ課題や不足点への指摘が、今後の改善点を見出すための機会になるとも考えていました。その中で認定いただいたことは大変光栄に思います。

ただ、アセスメントの結果などをみると、評価制度などに関する耳の痛い指摘もありました。早速、評価制度については、今年の初めから評価基準の作成をはじめています。評価基準作成は、それこそGPTWに関連する企業にお手伝いいただくことになり、GPTWへの挑戦が新たな横の繋がりを生み出すきっかけになりました。

認定いただいたことは、社内、とくにチームリーダーなど、マネジメント層のモチベーションアップになり、やりがいにつながっているようです。

たとえば、会社のバリュー(働く規範)のつくり直しを行いました、マネジメント層が積極的に関わり、「このバリューは当院のパーパスである『医療を通して、豊かで温かい人との繋がりを社会に築く』につながっているか?」「バリューにコミットして働けているか?」など積極的な意見が出るようになりました。

バリューなどは放っておくと単なるお題目になってしまいがちです。ただ、今回GPTWに挑戦したことを通じてマネジメント層がバリューに対して当事者意識を持ってくれるなど、いい方向に働いていると感じます。

次年度以降も連続して認定されたいとは思いますが、社員がどう経営層をみているか、ふたを開けてみないとわかりません。引き続き、去年より今年と努力していきたいところです。

社員教育の取り組みをさらに詳しく教えてください

集合写真

先ほど社内研修で顧客満足のために自分を理解し、自己認識を高める点について触れましたが、当院では「可能性を解放しよう!~Be the Change~」「人はいつでも自分の目の前の出来事を認識する方法を変えられる」というメッセージをスタッフに向けて掲げています。

上記のメッセージは米ハーバード大学の成人発達研究を踏まえたもので、自分の認知世界を広く変えていくことが成長につながるという考え方です。会社としては、人材育成の取り組みを通じて、認知世界を広げるきっかけを提供しているわけです。だからこそ、人材育成を通じて、スタッフに気付きがあるかどうかが大切になるでしょう。

人の成長を図るための目安として水平軸と垂直軸があると捉えています。水平軸は“量的成長”を示し、具体的には技術や知識の蓄積です。一方で、垂直軸(バーティカル)の“質的成長”は人としての器の成長、認知する世界の広がりを示すものです。

当院では、この垂直軸、質的成長に着目して、“認知が広がることで自分の世界が変わり、患者様への対応も変わっていく”ことを人材育成の柱にしています。同じ物事でも、自分のとらえ方次第で行動や結果が変わってくるのです。当院としては、人材育成を通じて、スタッフが自分の成長のために認知を拡げていく、そのきっかけをつくってあげたいと考えています。

そのような考え方になった経緯はあるのでしょうか?

こうした考えに至るまで、当院でも社員教育に大きな問題を抱えていたことがあります。

かつて“自分の右腕”と思っていたスタッフがいたのですが、突然退職するという話になりました。理由を聞くと「あなたにはついていけない、疲れました」という返事がありました。そのスタッフの退職をきっかけに他のスタッフも次々と離職し、最終的にはほとんどのスタッフが辞めてしまいました。

「このままではいけない」とマネジメントに関する様々な勉強をするものの、良い結果には繋がりませんでした。その時に振り返ったのが、右腕と思っていたスタッフの「疲れました」という言葉です。人をそこまで疲弊させてしまったのはどういうことなのか、考えてみました。

すると思い返せば当時、患者様のためとはいえ、自分の目的が成功や成長に固執しすぎており、いかに医院の業績をアップさせるかということにこだわりすぎていた、という理解(認知)に至りました。

確かに、それでは働く人がついてこられません。これをきっかけに私自身、会社や業績よりも人そのものに興味関心が向くようになりました。

歯科医院というのは、スタッフ10数人程度までの小規模なところが大半です。その規模であれば、経営者が一人で頑張ればなんとかなり、業績を上げることもできなくはないかもしれません。しかし、50数名のスタッフを抱えるようになると、当然ながら一人では何もできません。自ずとマネジメントの目的や手法、人材育成への姿勢も変えていく必要があると感じます。

そこで始められたのが「バーティカルワークショップ」なのですね?

ワークショップ1

はい。バーティカルワークショップのバーティカルは、先ほど紹介した“質的成長”の考え方を示しており、ワークショップでは米ハーバード大学の成人発達研究の考え方を学び、自分がどういう仕組みでものを考え発想するに至っているかなど、「自分のことを理解する」ことを目的にしています。

私もバーティカルワークショップで自分のことをよく知ることができました。それまでは医院の成功のため、その思いを認めてもらいたい、努力して一番になりたいと考えていましたが、これだけでは単なる自分のエゴになります。ワークショップで、そこからもう一段しっかりと自分への理解(認知)を進めていくと、「人とつながっていたい」というシンプルな理由にたどり着きました。

このように自分の思考の癖などにいち早く気付き、自分自身を深く理解して、バーティカル(質的)な成長へと結び付けていきます。

こちらのワークショップは、自分の内面に踏み込んでいくだけに、主にマネジメント層のメンバーを対象に行っています。内面に踏み込んでいくものですので、外部のプロコーチに手伝っていただき、自分のことを理解するきっかけづくりにしています。

ある参加者からは「目の前の出来事に対する認識を変えることができて、すっきりした」という意見もありました。

目の前の出来事に対する認識を整理していくことで、患者様に対してもより理想的な治療を提供できるものと期待しています。患者様の幸せが即ち私たちの幸せになり、それが結果的に生産性のアップや離職率の低下にもつながるものと考えています。

「バーティカルワークショップ」以外にはどんな取り組みをされていますか?

ほかには人材育成の機会として、「1on1ミーティング」も意欲的に取り組んでいます。こちらはスタッフ一人ひとりの主体性を養うことを目的にしており、ミーティングでは「どんなチャレンジをしたいか?」などをスタッフから聞き、マネージャーと共にどう実現するか?ということを考えていきます。

1on1ミーティングは何かを示唆してあげる場ではなく、スタッフに自身がやりたいことを見つけてもらい、それを応援してあげるための場です。スタッフの主体性アップが重要な目的です。

今年11月に分院を設立予定なのですが、そのマネジメント候補を募ったときにすぐに手が上がりました。誰もいなければ分院の話は諦めようとも思っていたのですが、正直安堵しました。これも、1on1ミーティングで「やりたいことを大事に」と伝え、スタッフの主体性醸成に取り組んできたことが実を結んだ形になるかと思います。

1on1ミーティングは企業でもよくある手法ですが、単なるティーチング(面談)になったり形骸化したりしているケースも多く見受けられます。そこで当院では、まずマネジメント層に対して「聴くトレーニング」を事前に行い、相手の話を聴けるような状態になってから1on1ミーティングを実施してもらっています。

働きやすい職場づくりの取り組みについても教えてください

朝礼

スタッフのやりがい向上に向けた施策のひとつとして、院内で上司や部下、同僚などによる360度フィードバックを年に1回行っています。

これは自分の“職場での振る舞い”や“他者からの見え方”といった人物像を浮き彫りにするものです。“自分自身が見た自己”と“他者から見た自己の情報”を分析することで自己理解を深めて成長につなげる「ジョハリの窓」の考え方なども参考にした取り組みです。

以前はフィードバックを無記名で実施していましたが、今は記名式も導入しています。無記名だと無責任なものや具体性のないものも見受けられましたが、記名式だと責任感が芽生えるようになったのか、きちんとフィードバックを書いてくれ、より意味あるものになっています。私も受けており、ネガティブなことも含めて、スタッフから多くのことを指摘され、勉強になりました。

なお、360度フィードバックはスタッフが自分たちで検討して開始した制度です。だからこそ、スタッフ全員がコミットして、毎年アップデートされていますし、「来年はこう改善したい」など目標設定もして、それぞれの主体性を伸ばすために効果的な制度になっています。

こうした制度を自分たちで始める、いい職場づくりのためにスタッフ自身が考えてくれている――そんな様子は見ていて頼もしく、また有難いもので、手前味噌ながら社外にも自慢できる姿だと自負しています。

他にも社内の改善点を見出すアンケートも毎年行っています。アンケートは職場の課題点を見出して次につなげる重要な役割を果たしています。

このように、まずは自分を認知・理解することで、仕事に対する気付きを得る。さらに主体的な行動ができる場づくりをすることで、会社の中で自分たちがやりたいことを見出して実践できるようになる。この働き方がスタッフ全員の幸せに繋がり、それが患者様の満足度にも繋がっていくと考えています。

貴院ならではの「ドクターマネージャー制度」をはじめ、今後の働きやすい職場づくりについての展望を教えてください

ドクターマネージャー制度も、当院の勤務医による発案でスタートした仕組みです。あるとき、勤務中の様子をみたら、新人歯科医師に対して歯科助手が「先生、今の説明じゃ患者さんにはわかりません。もっとこう言わないと…」とお尻を叩くような場面があり、これはまさに「ドクターのマネジメント」をしている役割だと思いました。

「歯科助手」ですと“歯科医師を助ける人”になってしまいますが、もっと重要な役割をしているはずだと。そこで「ドクターマネージャー」が誕生したのです。ドクターマネージャーという名付けには、“助手”として働くのではなく、主体性を持った働き方をしてほしいという想いがあります。

歯科医師というのは基本的に歯をどう治すかに意識が行きがちです。これは仕方ないところですが、そのために患者様の思いに耳を傾けられなくなったり、治療に対する意識のずれが生じてしまったりしては意味がありません。そこで“歯科医師と患者様をつなぐコーディネーター”としてドクターマネージャーが大事なポジションを担っています。

当院のドクターマネージャーは現在7名であり、異業種出身の方を採用するようにしています。前職が同業、歯科助手の方ですと即戦力ではあるのですが、前職での経験がかえって邪魔をして、自分で歯科医師に対する限界をつくってしまうからです。

逆に異業種出身であればそうした枠を持たず、「歯科助手とはこういうものだ」という意識がありません。入り口から考え方が違うので、歯科医師へのコミュニケーションも積極的で、関わる歯科医師も「やってみようか」という気になります。

ドクターマネージャーは、任された方々も自分で仕事をつくれる楽しさがあり、業務に面白みを見出すことが容易になります。逆に“指示を受けるだけの方”は、やはり“助手”になってしまうので、ドクターマネージャーには不向きかもしれません。ドクターマネージャーのメンバーには、これからもやりたい仕事を自由につくり出してほしいと思います。

ワークショップ2
余談ですが、治療が終わると歯科医師は患者様に背を向けてカルテを書いたりしますが、これでは患者様の顔を見ることができません。私は歯科医師に「治療後の患者様の表情こそがあなたの施術結果を表しています」と話しています。

その表情をみて次に生かすことができるよう、当院ではカルテ記入のときも患者様の方を向けるような形でカウンターを設置しています。

細かいように思えるかもしれませんが、当院が目標とする「スタッフが明るい笑顔で対応し、患者様の笑顔が絶えない」クリニックの実現、より良い職場づくりのためには、こうしたことも大切なポイントのひとつだと考えています。

先に述べた通り、過去に職場づくりで大きな失敗をして、最近はようやく良好な職場づくりができつつあるかと感じることもありますが、まだまだ道半ばです。とくに人材育成について今後も様々な取り組みを考えています。

たとえば、入社3~4年目になると成長の踊り場となり、「自分はこのままここで働いていいのか」といったモヤモヤ感が現れてきます。じつは来年もう一つ分院を立てる予定ですが、これは3年目のスタッフに主軸になってもらいたいと考えています。

他にも5~6年目のスタッフには組織全体を運営するスキルを学ぶ機会をつくるなど、年次や成長度合いに応じて育成するステージをつくっていき、いずれは会社レベルのマネジメントチームもつくっていきたいですね。

組織が成長する中で独立したスタッフもこれまでにいます。聞いてみると、彼らも当院で研鑽してきた経験があるにも関わらず、日々抱えるのは人の悩みだそうです。皮肉でもありますが、人材育成、人の悩みは永遠のテーマなのかもしれません。

なお、そうした独立したスタッフのところでも、当院のマネージメントスタッフがサポートしており、これを事業化することも計画中です。当院から独立しても、ひとつのネットワークとして新たな広がりを見出し、お互いがより成長できる場づくりをしていきたいと思います。

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