組織としてのパフォーマンスを高めるための要素としては、従来は管理職のリーダーシップに注目されることが多かったですが、最近は管理職のリーダーシップと並んで、メンバーのフォロワーシップという考え方に注目が集まっています。
自律的かつ主体的なフォロワーシップは、リーダーシップ形成の第一歩であるとして、組織のパフォーマンスに加えて、リーダー育成の視点からも大切な概念です。
記事では、フォロワーシップの重要性、フォロワーシップとリーダーシップの違いやフォロワーシップの種類、育成ポイントを解説します。
<目次>
フォロワーシップとは?リーダーシップとの違いと関係性
フォロワーシップとは、部下やメンバーがリーダーを「自律的に支援する」ことをいいます。フォロワーシップは、アメリカのカーネギーメロン大学のロバート・ケリー教授が提唱したもので、著書である『The Power of Followership』をきっかけに浸透していきました。
部下やメンバーというのは、リーダーの指示に従いながら業務を行なっていくのが基本ですが、指示されたことしかできないとなると、どれほど優秀なリーダーでも生産性を上げることはできません。
フォロワーシップは、リーダーや管理職の指示に対して従属的に従うという概念ではありません。リーダーの言動に対して部下やメンバーが意見したり、自主的に働きかけたりすることで、チーム全体のパフォーマンス力を向上させるものです。
フォロワーシップをわかりやすく表現したものとして「裸の男とリーダーシップ」というビデオが有名です。主体的な自律的なフォロワーシップとは何か、組織におけるフォロワーシップの重要性が良くわかる動画ですので、ぜひご覧ください。
ビデオでもわかるように、リーダーというのはフォロワーがいて初めて成り立つものです。そして、フォロワーこそが、リーダーシップを意味あるものとして、大きな成果を作り出すのです。
リーダーシップとの違い
リーダーシップとは、フォロワーに対してビジョンや目標達成のための具体的な方法を示し、パフォーマンスを最大限に引き出すことで目標を達成させる力です。
一般的にはメンバーを誘導し、引っ張っていくイメージが強いのですが、実際はメンバーが働きやすい環境をつくったり、メンバーの潜在能力を引き出したりする、「メンバーを支える」という側面もあります。
- フォロワーシップ :主体的かつ自律的にリーダーを支援する
- リーダーシップ :フォロワーに目的や具体的目標を示して導く
従来までの人材育成では「リーダーシップの育成」にウェイトが置かれていましたが、組織のパフォーマンスにおけるフォロワーの重要性や、リーダーシップ開発におけるフォロワーシップ育成の重要性が研究されてきたことから、近年は「リーダーシップ開発のステップとしてのフォロワーシップ開発」に取り組む組織も増えています。
フォロワーシップの効果
ロバート・ケリー教授によると、組織の結果に対してリーダーが及ぼす影響は1~2割ほどであるのに対し、フォロワーが及ぼす影響は8~9割とかなり大きくなります。
組織の中で実際に活動して物事を動かすのはフォロワーとなりますので、納得できる比率です。リーダーはリーダー単体で成果を上げられるわけではないのです。どちらが重要ということではありませんが、フォロワーシップの重要性をあらためて気付かせてくれる研究発表です。
上記のように重要性の高いフォロワーシップですが、フォロワーシップ開発の効果は、
- チーム全体に影響を与える「組織的効果」
- フォロワー個人に影響を与える「個人的効果」
の2つに分類されます。フォロワーシップ開発は、組織のパフォーマンス向上、メンバー個人の成長にもつながるということです。
具体的なフォロワーシップ開発の効果は以下のものです。
<組織的効果>
- 目的、方針を共有し実行できる
- リーダーの判断・決断ミス、抜け漏れが防止できる
- 現場情報のボトムアップができる
- チームの一体感が向上する
- 提案・提言しやすい環境づくりができる
など
<個人的効果>
- 自立的に考え、積極的に行動できるようになる
- 私情に流されず仕事ができるようになる
- ほかのメンバーと協働できるようになる
- マネージャーとしての予備的訓練ができる
- 個人のパフォーマンスと評価向上につながる
など
フォロワーにおける5つの種類
組織の意思決定やビジョン先導を行なうリーダーに対して、実行を担うメンバーは「フォロワー」と呼ばれます。フォロワーは大きく5つに分類することができます。下記5つのうち、「模範型フォロワー」を育成していくことが、組織におけるフォロワーシップ開発の目標です。
上記はフォロワーシップの概念を提唱したロバート・ケリー氏による分類で、「貢献力(積極性)」と「批判力(主体性)」という軸からフォロワーを5つのタイプに分類しています。
若干、軸の意味が想像しにくいかもしれませんが、
- 貢献力(積極性):組織として決定した施策を推進・実行する
- 批判力(主体性):組織としてより良い意思決定をするために意見・提案する
ととらえていただくとイメージしやすいでしょう。
模範型フォロワー
模範型フォロワーは貢献力と批判力がともに高い、理想的なタイプです。リーダーに対して主体的に提案・発言することはもちろん、決定した施策を実行していくことにも強いパワーを発揮します。必要であればリーダーシップを発揮することもできるタイプであり、理想的なフォロワーシップ、将来のリーダー候補です。
順応型フォロワー
順応型フォロワーは、貢献力は高いですが、批判力が低い一種の“イエスマン”タイプのフォロワーです。リーダーからすると、指示すればそのとおりに動いてくれる従順なメンバーですが、個人・組織としてリーダーに依存している状態であるともいえます。
順応型フォロワーばかりが増えてしまうと、組織の発展はリーダーの能力値で止まってしまいます。
孤立型フォロワー
孤立型フォロワーは、貢献力が低く批判力が高いタイプです。リーダーに対して盲目的な従属はせず、提案や意見を述べる力や判断力があるものの、積極的に行動する力に欠けています。
組織内で一種の“批評家”“評論家”になってしまいがちで、孤立してしまうケースも少なくありません。しかし、うまく信頼関係を築き、行動力を身に付ければ模範型フォロワーとなれる可能性があります。
消極型フォロワー
消極型フォロワーは、貢献力と批判力がどちらも低いタイプです。自主性がなく、指示されたことを最低限にこなすだけであり、エンゲージメントや思考力が低い状態です。
実務型フォロワー
実務型フォロワーは、貢献力と批判力が両方とも中くらいのタイプです。自分の得意な領域に関しては、模範となるフォロワーシップを示すこともあり、自分のコンフォートゾーンを広げていく挑戦ができれば、模範型フォロワーを目指すことが可能です。
フォロワーシップを発揮する人材育成 5つのポイント
フォロワーシップを育成するうえで目指すべき「模範型フォロワー」。本章ではフォロワーシップを発揮する「模範型フォロワー」を育成するポイント5つをご紹介します。
上司の仕事を知る
フォロワーシップを発揮するには、まず上司の責任範囲や役割、視界を把握する必要があります。多くの場合、上司が物事を捉えたり考えたりする範囲や時間軸はメンバーよりも広く、長くなります。上司の視界を理解できないと、適切なフォロワーシップを発揮することは難しいでしょう。
上司の組織・役割におけるゴール、仕事内容、興味関心などを知るようにしましょう。上司が担っている責任や役割をしっかり把握することで、上司と信頼関係を築き、適切なフォロワーシップを発揮しやすくなります。
小まめな報連相
ビジネス場面において報連相は基本中の基本です。しかし、仕事に慣れてくると報連相が疎かになり、自分の思考や判断で行動するようになりがちです。自律的に思考・判断できることは望ましいことでもありますが、報連相が不足すると、上司の視点や判断を正しく把握できなくなってしまいます。
特に、幅広い領域に責任を担う上司の興味関心や課題感は、組織メンバーが思っている以上のスピードで変化します。小まめな報連相を通じて、上司の興味関心などをキャッチアップしましょう。
コミュニケーション力を強化する
上司を理解して、フォロワーから適切な報連相をするうえで、コミュニケーション力は不可欠です。ビジネスにおけるコミュニケーション力は単なる会話力ではなく、相手の話を理解する力や伝える力、気配りする力等です。
また、自分がしていない仕事(上司の役割や仕事)を理解するためには、ロジカルシンキングや想像力、一定のビジネス知識なども必要です。
業務スキルの強化
フォロワーシップを発揮するには、上司とのコミュニケーションだけではなくスキルも必要です。実際に仕事を進める、また自分や組織の生産性を高め、仕事を改善していく能力がないと、十分なフォロワーシップを発揮することはできません。
リーダーの指示を理解して、実行のリーダーシップをとっていく。またリーダーに対して意見や提案をしていく。どちらにおいても、一定の業務スキルが必要です。
メンバーを巻き込む
フォロワーとして信頼されていけば、リーダーに代わってメンバーをまとめたり、業務改善をしたりすることも少なくありません。特に実行部分に関しては、メンバーを巻き込んで、目標を達成するために全員のベクトルを合わせる力も必要になってきます。
まとめ
フォロワーシップとは、部下やメンバーが主体的・積極的にリーダーを支援して、組織目標を達成していくものです。フォロワーシップの発揮は、組織全体のパフォーマンス向上につながるとともに、フォロワー個人の成長にもつながるものであり、リーダー人材育成の一環としても注目されています。
リーダーに対するメンバー(フォロワー)は5つの種類に分けられ、貢献力(積極性)と批判力(主体性)の双方が高い「模範的フォロワー」を育成することが組織におけるフォロワーシップ開発のゴールであり、次世代リーダーの育成につながります。
フォロワーシップは教育によって高めることができるので、ぜひ研修やOJTを通じて人材育成に取り組んでいきましょう。