今まで少子化とは無縁だった新卒採用も、22卒からついに新規の大卒者が減少し、今後は難易度が上がり続ける市場になっていきます。
こうした厳しい環境で企業が良い組織をつくるには、優秀な人材を新たに採用するだけでなく、オンボーディングを通して採用した人材の短期離職を防ぎ、スムーズな受け入れを通じて即戦力化を支援することが大切です。
記事では、オンボーディングの概要や注目される背景、メリット、実践ポイント、実際にオンボーディングを取り入れている企業の事例を紹介します。
<目次>
オンボーディングとは?
オンボーディングとは、採用した新人が組織や部署に馴染み早期に即戦力化(能力を発揮)するプロセスをサポートする仕組みの総称です。オンボーディングは、「飛行機や船に乗り込む」という意味を持つon‐boardが語源となります。
近年の人事領域やビジネスシーンでは、組織に新しく合流した人に適切なサポートを行なって環境に馴染んでもらうプロセスを指す言葉として、オンボーディングという言葉がすっかり認知されるようになりました。
オンボーディングを実施するメリット
社内でオンボーディングを実施すると、以下の効果やメリットが期待できます。
・新人の短期離職を防止できる
オンボーディングが実施されている企業では、新人が社内に馴染むために必要な共通言語の理解や価値観の共有などの学習プロセスが用意されています。オンボーディングを実施することで、まず、新人(新卒・中途社員)の定着率がアップします。
また、共通言語や価値観などを早い段階で習得することで、既存社員とのコミュニケーションやより良い関係構築もしやすくなるでしょう。
・新人を早期戦力化できる
組織内で成果を上げるには、業務に必要な知識を身に付けるだけではなく、組織に馴染んで、持っている能力を十分に発揮できるようになることが必要です。ここでの“馴染む”には、組織内の共通言語、暗黙知、意思決定スタイル、人間関係といった、能力を発揮するために必要な要素の習得が含まれます。
オンボーディングを実施すると、業務面も含めて組織に馴染んで能力を発揮することが加速します。結果として、新人を早く即戦力化できるようになるでしょう。したがって、オンボーディングは、新卒だけでなく、むしろ中途社員の受け入れでも非常に大切な取り組みになります。
・受け入れ部門の負担が軽減できる
オンボーディングを実施しない企業の場合、初期研修までは人事部門が主導するものの、初期研修以降のOJTなどは受け入れ部門に任されることが多いです。
ただ、受け入れ先が繁忙期であるとか、新人の受け入れ経験が少ない部署では、新人受け入れが負担となったり、受け入れプロセスのクオリティが低かったりする可能性も出てきます。
一方、全社でオンボーディングのプロセスを整備すると、受け入れの標準プロセスが作られるため、受け入れ部門側の負担が軽減され、かつ、一定以上の品質でOJTなども提供することが可能になります。
オンボーディングに注目が集まっている背景
厚生労働省の「平成30年雇用動向調査結果」によると、年間で14.6%もの労働者が離職しています。もともとは年功序列・終身雇用で雇用の流動性が極めて低かった日本ですが、この数十年で個人の転職、企業にとっては中途採用が当たり前となりつつあります。
一方で少子化、労働人口の減少は進み、22卒以降はついに大卒の減少によって新卒採用の難易度が上がり始めるようになります。こうした背景から考えても、中途人材を受け入れる、苦労して採用した人材を定着・戦力化させるオンボーディングはとても重要な取り組みになります。
人事が知っておきたいオンボーディング実践ポイント
人事担当者がオンボーディングの仕組みづくりをする場合、以下のポイントを押さえて準備を進めることがおススメです。
新人がぶつかる5つの壁
「5つの壁」とは、新人が短期離職する代表的な理由のことです。オンボーディングを実施する場合、以下の5つの壁を解消できるプログラムや仕組みを意識することが大切になります。
・準備の壁
企業全体や部署、チームなどが新人の受け入れ準備をしているかどうかです。Googleの社内調査では、入社初日の受け入れ準備が整っていれば、次の3ヵ月以内のパフォーマンスが最大30%アップすることがわかっています。
・人間関係の壁
新人が馴染めるように、以下のような人間関係の問題がクリアされているかどうかです。
- 新人の入社や配属が周知されている
- 新人をサポートする体制や役割が整っている
- 新人のサポートや育てる気持ちがある など
・期待値の壁
個人側の入社意図や価値観と組織の風土、業務内容、ミッションなどの期待値が、実際に現場に配属されるまでにすり合わせられているかどうかです。
例えば、新人側の「どのような理由で入社したのか?」や、組織側の「こういう人材になってほしい」といった互いの期待値が共有できていれば、配属後に生じる認識のズレなども予防しやすくなります。
・学びの壁
新人が企業に馴染み、活躍するうえで必要となる知識や考え方を学ぶ仕組みのことです。具体的には、以下のようなものが該当します。
- 企業の文化や価値観
- 組織風土や意思決定に影響を与える沿革や歴史
- 意思決定の仕組み
- 組織内の「人」
- 共通言語や暗黙知
・アウトプットの壁
仕事におけるアウトプットの壁とは、端的に「成果を上げる」ことです。壁を解消するには、成功体験を感じられるプロジェクトへの参加や、周囲からフィードバックできる仕組みづくり、適切な目標設定と達成へのサポートが必要となります。
オンボーディングの設計プロセス
オンボーディングの効果性を高めるためには、以下の流れで設計や実施を繰り返していきましょう。
・目標設定
まず大事なのは目標設定です。入社から半年~1年後をイメージして「どういう人材になってほしいか?」「どのような目標を達成してほしいか」を目標設定することが重要であり、設定した目標がOJT計画などを考える起点となります。
求める具体的な状態や姿は、部門や人材の経験(新卒か?中途か?)などによって変わってきますので、「期待値を言語化する」ステップ自体を、受け入れ時のプロセスとして組み込んでおくとよいでしょう。
・目標を起点にプログラム設計
設定した「なってほしい姿(目標)」を起点としてプログラムを設計していきます。はじめは、以下の2つの軸で考えていくとよいでしょう。
- 組織への統合(馴染む)プロセス
- 業務スキルを身に付けて成果創出するプロセス
オンボーディングの基本フォーマットは人事部門で設計するとよいでしょう。前述のようにオンボーディングのプログラム自体に、以下のような「受け入れ部門に考えてもらうこと」の実施などをプロセスの一つとして設定することがおススメです。
- 入社半年後や1年後等の期待像、期待成果
- そのために必要なスキルや知識
- スキルや知識を習得していくOJT計画の作成
など
・オンボーディングの実施とフォローアップ
設計したプログラムに沿ってオンボーディングを実施していきます。決めたことをしっかりと一つひとつ実行していきましょう。初めのうちは作ったプランの精度も低いですので、臨機応変に対応していくことが大切です。
・プログラムのPDCAを回す
プログラムを実施後は、振り返りを行ないましょう。新人の定着や戦力化がうまくいかない場合、新人個人の問題のほかに、組織や企業全体にオンボーディングの問題が生じている可能性も考えられます。
新人が目標に到達できない、短期離職した、OJT研修がうまくいかないなどの問題が生じた際には、原因を振り返り、プログラムに反映していくなどの修正を加えていきましょう。そして、PDCAを3~5回繰り返すことで、自社に合ったオンボーディングプログラムが完成します。
オンボーディングを取り入れている企業事例
オンボーディングを実施する企業の事例を紹介しましょう。
キユーピー株式会社
工場勤務のメンバーにスキル向上の機会を平等に与える目的で、3年間のオンボーディング期間を設けています。
オンボーディングの取り組みの特徴は、普段の業務と平行してスキルアップに励むことを可能にするために、外部機関のeラーニングを活用している点です。eラーニングの導入で、今まで不足していた電気やポンプ、圧縮機などの知識が必要な基礎教育プログラムが充実したそうです。
工場のように各自がシフト勤務をしていて集団研修の実施が難しい場合は、eラーニングなどの外部教育を活用したほうが、無理のないタイミングやペースで学習を行なえるかもしれません。
サイボウズ株式会社
サイボウズ株式会社のオンボーディングは「初日わくわくプロジェクト」というものです。特徴は、すべてリモートで行なえるオンボーディング施策という点です。
新入社員の自宅に届くオリジナルボックスには、以下のように「入社前にワクワクできるもの」が詰まっています。
- 入社前に見てもらう映像
- 入社から1年をかけてページを集めて完成するオリジナルバインダー
- 入社後に必要な備品
- 歓迎メッセージ
など
また、入社後もキャリア入社向けのオンボーディング研修、また例えば部門別で「営業本部向けの営業人材の研修」などが用意されています。
LINE株式会社
LINE株式会社で導入しているのは、「LINE CARE」というオンラインサービスです。「LINE CARE」は、新人などの社員がわからないことを何でも聞ける、いわゆる駆け込み寺のようなオンボーディングの仕組みです。
新人の多くは、入社初期に、以下のような悩みや問題を抱えがちです。
- 社内の細かなルールがわからない
- 先輩が忙しそうで質問しづらい
- 配属部署に悩みを相談できる人がいない
など
そんな時期に「LINE CARE」を活用することで、相談や質問ができないことで生じる「つまずき」を解消し、業務に集中しやすくする仕組みです。組織に馴染むプロセスを俗人的にしない工夫の一つです。
まとめ
オンボーディングは、採用した新人が組織に馴染み、早期戦力化(能力発揮)することをサポートする施策の総称です。オンボーディングを実施すると、以下のメリットが得られます。
- 新人の短期離職を防止できる
- 新人を早期戦力化できる
- 受け入れ部門の負担が軽減できる
新人が企業に馴染むには、準備・人間関係・期待値・学び・アウトプットの壁をクリアすることが大切です。クリアするには、以下のプロセスでオンボーディングのプログラムを設計していく必要があります。
- 目標設定
- 課題や問題をもとにプログラム設計
- オンボーディングの実施とフォローアップ
- プログラムのPDCAを回す
オンボーディングを通して新人の定着率をアップさせたい場合は、以下のページからダウンロードできるチェックリストも活用してみてください。