360度評価は、1人の対象者の評価を上司だけでなく、同僚など複数の関係者が評価に関わって実施する評価制度です。多様な視点で評価ができるというメリットがある一方で、運用の難しさやデメリットもあります。
記事では、360度評価とは何か、またメリット・デメリット、正しい運用のポイントなど、基礎知識を分かりやすく紹介します。
<目次>
- 360度評価とは?
- 360度評価が注目される背景
- 360度評価を導入するメリット
- 360度評価を導入するデメリット
- 360度評価を効果的に運用するためのチェックポイント5つ
- 360度評価は客観性と納得感の高い評価方法!正しく運用して人材育成を促進させましょう
360度評価とは?
360度評価は、1人のメンバーに対して、直属の上司だけでなく、同僚や部下など仕事で関わる複数の関係者が評価する人事評価手法です。メンバーの職務遂行能力やスキル、日常の職務行動や勤務態度などを上司、同僚、部下など複数人の視点から、多角的に評価します。
上司だけの目線ではなく、複数の視点から見ることで公平で透明性の高い評価を実践するための人事評価になるとされています。
360度評価の目的
360度評価の目的は、人材を適切かつ公正に評価することです。複数の関係者が評価に関わることによって、多角的な視点から、メンバーの働きぶりや組織への貢献を適切に評価できるようになります。
360度評価が注目される背景
360度評価が注目される背景には、成果主義や働き方の変化がありますので、簡単に紹介しておきます。
成果主義の浸透
現代、組織における年功序列の評価制度は崩壊し、成果主義を導入する企業が増えています。成果主義の導入により、給与の査定だけでなく、昇進や人材育成などさまざまな場面で、従来以上に適切かつ公平に人事評価することの重要性が高まりました。
その中で、たとえば「上司には忖度して媚びへつらうが、周囲からの評判は極めて悪い」といった人材を昇格させるわけにはいきません。そこで、組織への貢献度や仕事ぶり、人格、能力などを公正に評価する手法として、360度評価が注目されます。
多様な働き方に対応するため
近年では、コミュニケーション手段のIT化やリモートワークの普及により、働き方が多様化しています。上司と部下が対面して仕事しないケースも多くなり、従来のように、上司が部下の働きぶりを直接確認することが難しい場合もあります。
一方、知識労働型社会になった中で、周囲と連携・協働して価値を生み出す動きはこれまで以上に重要になっています。そこで、上司だけではなく共に働くメンバーが評価に参加して、多角的に評価できる360度評価が注目されるようになりました。
360度評価を導入するメリット
- 評価の客観性が担保できる
- 評価への納得性が高まる
360度評価を導入するメリットは、おもに次の2つです。
評価の客観性が担保できる
360度評価によって、評価の客観性が担保できます。「上司」という一方向からだけの評価にはどうしても精度の限界があります。
評価者の主観や無意識の評価バイアスがあった場合には、評価に強く影響をおよぼすことになりますし、評価者が多忙によって部下の日常業務を観察する機会がなかったり、適切に目標の達成度を管理できていなかったりして、正確な評価を行なうのが難しいことも少なくありません。
360度評価では、「上司」という立場からは見えていない部分を「同僚」や「部下」など、他の関係者からの評価によって補えるため、評価の客観性が担保され、適切な評価がされやすくなります。
評価への納得性が高まる
複数の関係者が評価に関わることによって、評価者が1人の場合に比べ、評価に対する納得感が高まります。評価者が上司1人のみの場合は、納得いかない評価を受けたときに「上司の評価が適切でない」「公平ではない」と懐疑的になってしまう可能性も考えられます。
一方で、複数の立場の異なる関係者から評価された場合であれば、自己評価よりも低い評価であったとしてもことで納得感を持って受け入れやすくなるでしょう。
360度評価を導入するデメリット
- 評価者の主観が含まれる
- 評価の不正が行なわれる可能性がある
- 運用に工数がかかる
- 人間関係の悪化につながる可能性がある
360度評価を導入するデメリットも解説します。
評価者の主観が含まれる
人事評価、とくに定性的な貢献度や取り組み姿勢、仕事への向き合い方などは評価者の主観から完全に逃れることは不可能な側面があります。
ただ、上司は、主観が混じりやすいとはいえ、複数の部下や過去の部下と比較することで客観的な基準を持ちやすい側面があります。
一方で、360度の評価でメンバー同士が評価したり、メンバーが上司を評価したりする場合、評価者経験がなかったり比較対象が無かったりすることで個人的な感情や社内政治などの主観が強く混じった不適切な評価が混ざりやすい部分もあります。
評価の不正が行なわれる可能性がある
360度評価はお互いに評価するからこそ、メンバー間で馴れ合いが生じ、お互いを不当に高く評価し合うなどの不正が行なわれる可能性があります。
さらに評価の不正だけでなく、低く評価されることを避けるために「上司が部下を叱らない」「同僚の低レベルな仕事を許容してしまう」といった悪しき組織文化が生まれるリスクもあります。
運用に工数がかかる
360度評価では、評価者の選定から、評価の実施や集計、本人へのフィードバックまで、運用側に工数がかかります。
例えば、1人の対象者を5人が評価するとすると、今までの5倍の評価回収や集計を行なう必要があります。また、50人の組織であった場合、通常の評価であれば、評価者は10人弱になりますが、360度評価を組織全体で実施する場合には50人全員が評価者となります。
つまり、評価者トレーニングから評価の回収・納期管理といった手間は膨れ上がることになります。このように、360度評価の導入を検討する際には、運用側の負担が大きいことも考慮に入れておく必要があります。
人間関係の悪化につながる可能性がある
360度評価では、メンバー同士が評価し合うため、人間関係の悪化につなげる可能性があります。特に低評価に対しては、「誰が低い評価をしたのか」といったネガティブな感情が生まれがちです。
360度評価を効果的に運用するためのチェックポイント5つ
□ | 実施目的と評価結果の反映先を明示する |
□ | 評価基準やルールを明示する |
□ | 人間関係の悪化につながらないように慎重に運用する |
□ | 360度評価だけで評価を決定しない |
□ | 研修や人材育成目的での利用に限定する |
360度評価は、適切に運用しなければ運用の負担だけが増えて効果がでなかったり、人間関係の悪化につながったりするリスクがあります。360度評価を効果的に運用するためのチェックポイントを紹介するので、確認してみてください。
実施目的と評価の反映先を明示する
360度評価の実施目的を社員に理解してもらうことが重要です。実施目的が十分に理解されていない状況では、評価に参加する負担や複数人から評価を受ける心理的ストレスなどから、反発が生まれる可能性があるためです。
また、360度評価を適切に運用するためには、評価をどのように使うのか、評価結果がどこに反映されるのかなども明示しておいた方が良いでしょう。全面的に報酬制度に直結するといった形になると、前述したようなリスクが生じやすくなります。
評価基準やルールを明示する
評価基準やルールが不明確になると、不慣れたメンバーの評価に主観が反映されやすくなります。評価基準をしっかりと提示、また、具体的な言動ベースでの評価基準にするなど、評価に迷いにくいようにすることが大切です。
人間関係悪化につながらないように慎重に運用する
360度評価ではメンバー同士が互いに評価し合うため、評価対象者が納得のいかない評価を受けた場合に、評価者に対して不信感を抱くこともあるでしょう。また、評価に個人的な好き嫌いや嫉妬などの感情が反映されることもあります。
不信感やマイナスな感情が反映された360度評価は、職場の人間関係を悪化させる原因になるかもしれません。360度評価が人間関係の悪化につながることがないように、フィードバックの方法や運用には慎重さが必要です。
360度評価だけで評価を決定しない
繰り返しになりますが、360度評価は、人事評価することになれていないメンバーも評価に関わるため、それぞれの主観が入りやすいです。そのため、360度評価だけで評価を決定したり、報酬に反映したりすることはリスクが高いといえます。
影響が大きければ大きいほど、不正な運用やネガティブな影響も出てきやすくなります。360度評価は、他の人事評価制度と組み合わせて、部分的に導入するのが良いでしょう。
研修や人材育成目的での利用に限定する
前述の内容を踏まえて、360度評価は研修や人材育成の目的に限定して利用することも一つです。360度評価はデメリットも大きい反面、360度評価が持つ「多角的な視点から自己認識と他者認識のギャップを明らかにする」という効果は人材育成の視点では非常に強力なパワーがあります。
例えば、フィードバックを得られにくくなる幹部や管理職層に対して、業績評価とは切り離したところで360度評価を実施して、マネジメントや成長目標を考える参考とすることは非常に有効でしょう。
評価結果をしっかりと咀嚼して受け入れるためのレクチャーとともに研修などで利用することがお勧めです。
360度評価は客観性と納得感の高い評価方法!正しく運用して人材育成を促進させましょう
360度評価は、複数人の関係者が評価に関わるため、客観性と納得感が高いと言われる評価方法です。成果主義が主流となりつつある現代では、従来以上に人事評価の重要性が高まっており、360度評価は、メンバーの働きぶりや組織への貢献を適切に判断するための有効な評価手法となり得ます。
ただし、360度評価は人間関係の悪化につながったり、メンバー同士で不正が行なわれたりするリスクもあるため、慎重な運用が必要です。
全面的に報酬制度と連携させるのではなく、研修と組み合わせて実施したり、フィードバックが得にくくなる幹部や管理職層を対象に部分的に組み込んだりするなど、人材育成的な視点を持って導入することがおすすめです。