リッツ・カールトンが掲げるクレドとは?クレドを導入するメリットや浸透させるポイントを解説

クレドとは?経営理念と同じ/違う?クレドの効果や導入の成功事例を解説

リッツ・カールトンのクレド浸透は、成功事例として非常に有名であり、高級ホテルブランドとしてのリッツ・カールトンを成功に導き、高いサービスレベルとお客様満足度を実現している要因と言われます。クレドとは、ラテン語で信条・約束・志を意味する言葉で、企業の経営理念やバリューともいえるものです。組織がクレドを作成し浸透させることができれば、従業員のモチベーション向上や組織文化の強化、ブランディングなど、さまざまな恩恵が実現します。
 
本記事では、リッツ・カールトンの事例も紹介しながら、クレドを組織に導入するメリットや浸透させるポイントを紹介します。

 

<目次>

リッツ・カールトンを成功に導いたクレドとは?

クレドとは、企業が定める信条や行動指針のことです。クレドを作成・浸透させることで、組織の価値観を明確にして、意思決定や行動の基準、方向性を揃えることが出来ます。

 
クレドの事例として、世界的なホテルチェーンブランドであり、高品質なサービスとおもてなしで知られるリッツ・カールトンが有名です。リッツ・カールトンが成功した秘密は、独自の企業理念である「ゴールドスタンダード」と中核をなす「クレド」にあるとされています。

 

クレドと企業理念、経営理念

企業理念や経営理念は、クレドと対になる概念と言えるでしょう。経営理念や企業理念は、「私たちは社会や顧客にどんな価値を創出するのか?」という組織の外に対して何を為すかが表現されていることが多いでしょう。

 

これに対してクレドは、「私たちはどんな価値観を持った集団であるか?」が表現されていることが大半です。企業理念や経営理念と比較すると、行動指針に近い位置付けと言えるでしょう。

 

なお、行動指針が定められておらず、企業理念や経営理念の中に組織自身の価値観や行動指針が表現されている場合もあります。

 

 

クレドとミッション、ビジョン、バリュー

クレドとミッション・ビジョン・バリューの関係は、先ほど企業理念や経営理念、行動指針のところで説明したものに類似しています。ミッション、ビジョン、バリューもさまざまな捉え方がありますが、HRドクターでは下記のように定義しています。

 

ミッションは、企業が「何のために存在するか」という組織の存在目的や使命であり、経営理念や企業理念と類似のものです。そして、ビジョンは「ミッションを実現して作り出す世界」であり、ミッションをより具体化、目に浮かぶような形で表現したものです。

 

最後に、バリューは「私たちは何を大切にするか」「どんな集団であるか」という組織の価値観、行動規範です。従って、クレドはバリューと同じ位置付けに来るものだと言えます。

 

 

リッツ・カールトンのクレドと浸透施策

クレドの浸透で有名なのが、世界トップランクのラグジュアリーホテルであるリッツ・カールトンです。リッツ・カールトンでは、6項目からなる企業理念「ゴールドスタンダード」の先頭にクレドを記載しています。

 

  • クレド
  • モットー
  • サービスの3ステップ
  • サービスバリューズ
  • 第6のダイヤモンド
  • 社員との約束

 

 

リッツ・カールトンの「クレド」

リッツ・カールトンにおけるクレドの文章は、以下のとおりです。

リッツ・カールトンはお客様への心のこもったおもてなしと快適さを提供することを最も大切な使命とこころえています。

私たちは、お客様に心あたたまる、くつろいだ、そして洗練された雰囲気を常にお楽しみいただくために最高のパーソナル・サービスと施設を提供することをお約束します。

 

リッツ・カールトンでお客様が経験されるもの、それは感覚を満たすここちよさ、満ち足りた幸福感そしてお客様が言葉にされない願望やニーズをも先読みしておこたえするサービスの心です。

引用:リッツ・カールトン企業理念「ゴールドスタンダード」

 

この文章を分かりやすくすると、「ホテルにお越しになられたお客様が『気分がいい』と感じてくださることが最も重要である」という意味です。

 

『気分がいい』に繋がる心のこもったおもてなしや快適さを提供することが、リッツ・カールトンで働く全社員の仕事であり、最も大切な使命であるとしています。

 

クレドに続くゴールドスタンダードの各項目では、クレドの考え方をより具体的な内容に落とし込むことで、リッツ・カールトンの価値観と理念を理解しやすくしています。

 

モットー

ザ・リッツ・カールトンホテルカンパニーL.L.C.では「紳士淑女をおもてなしする私たちもまた紳士淑女です」をモットーとしています。この言葉には、すべてのスタッフが常に最高レベルのサービスを提供するという当ホテルの姿勢が表れています。

 

サービスの3ステップ

  1. あたたかい、心からのごあいさつを。
  2. お客様をお名前でお呼びします。一人ひとりのお客様のニーズを先読みし、おこたえします。
  3. 感じのよいお見送りを。さようならのごあいさつは心をこめて。お客様のお名前をそえます。

 

サービスバリューズ:私はリッツ・カールトンの一員であることを誇りに思います。

  1. 私は、強い人間関係を築き、生涯のリッツ・カールトン・ゲストを獲得します。
  2. 私は、お客様の願望やニーズには、言葉にされるものも、されないものも、常におこたえします。
  3. 私には、ユニークな、思い出に残る、パーソナルな経験をお客様にもたらすため、エンパワーメントが与えられています。
  4. 私は、「成功への要因」を達成し、ザ・リッツ・カールトン・ミスティークを作るという自分の役割を理解します。
  5. 私は、お客様のザ・リッツ・カールトンでの経験にイノベーション(革新)をもたらし、よりよいものにする機会を常に求めます。
  6. 私は、お客様の問題を自分のものとして受け止め、直ちに解決します。
  7. 私は、お客様や従業員同士のニーズを満たすよう、チームワークとラテラル・サービスを実践する職場環境を築きます。
  8. 私には、絶えず学び、成長する機会があります。
  9. 私は、自分に関係する仕事のプランニングに参画します。
  10. 私は、自分のプロフェッショナルな身だしなみ、言葉づかい、ふるまいに誇りを持ちます。
  11. 私は、お客様、職場の仲間、そして会社の機密情報および資産について、プライバシーとセキュリティを守ります。
  12. 私には、妥協のない清潔さを保ち、安全で事故のない環境を築く責任があります。

 

引用:リッツ・カールトン企業理念「ゴールドスタンダード」

 

 

リッツ・カールトンにおける「クレド」の浸透施策① 朝礼

リッツ・カールトンでは、独自の朝礼「ラインナップ」によって、約40,000人もの全社員にクレドを浸透させています。

 

ラインナップとは、全社員に配られたクレドカードの内容を基にしたディスカッションです。毎日の朝礼で、その日に取り上げたクレドの一文について、以下のようなディスカッションをしていきます。

 

  • あなたは、この文章をどのように理解していますか?
  • あなたなら、このシーンでどのように行動しますか?
  • この部分を具体的に言うと、どういう意味になりますか?
  • この取り組みをする前に、知っておかなければならない知識はありますか? など

 

もちろんクレドの内容は、新人教育や各研修においても繰り返し伝えられますが、加えて社員同士のディスカッションや優れた実践事例の共有、ケーススタディを毎日繰り返すことで、クレドの浸透へ繋げているのです。

 

 

リッツ・カールトンにおける「クレド」の浸透施策② 2,000ドルの決済権

リッツ・カールトンでは、社員一人ひとりに「2,000ドルの決済権」などのエンパワーメントを与えることで、クレドの行動指針を実行に移しやすくすると共に、クレドの内容に本気で取り組むことを組織のメッセージとして伝えています。

 

「2,000ドルの決済権」とは、リッツ・カールトンで働くスタッフには1日上限2,000ドルを自由に使う権利が与えられているということです。

 

これだけ多くの決済権を与えられた社員は、企業から絶対的な信頼を寄せられていることを実感するでしょう。リッツ・カールトンのクレドに書かれた「お客様の『気分がいい』」を実現するとともに、働くメンバーとの信頼関係を強固にする仕組みです。

 

また、日本円で約20万円という金額の大きさは、「お客様の『気分がいい』」を実現するというクレドに対するリッツ・カールトンの本気さに対するメッセージとしても機能しています。

 

クレドの浸透による組織へのメリット

クレドが浸透した組織では、社員のエンゲージメントが高まりチーム・部門間の連携が向上する

組織内にクレドが浸透すると、以下の効果が生まれます。

 

社員のエンゲージメントが高まる

クレドは「私たちはどんな組織であるか?」「何を大切にするか?」「どんな姿勢でミッション・ビジョンに取り組むか?」を明文化したものです。

 

「何を為すために集まったのか?」というミッションやビジョンと併せて、クレドが浸透すると、「この組織では何が正しいとされるか?」「私は何を求められているか?」がより明確になります。

 

ミッション・ビジョン・バリュー、そしてクレドが浸透した組織で働く状態は、ミッション・ビジョンという「目的」に共感し、クレドやバリューという「価値観」に共鳴している状態です。

 

自分の価値観が組織でも大切にされることが分かり、そして、目的と価値観を共有できる仲間と働くわけですので、組織へのエンゲージメントが必然的に高まります。

 

 

チーム間、部門間の連携が向上する

クレドによる価値観の浸透は、チーム内や部門間の連携を進めるうえでも非常に有効です。

 

異なる価値観を持った個人、そして、異なる役割を持ったチームや部門間で連携を取るというのは実は難しいことです。例えば、営業部門と製造部門では、役割が違い、追いかける指標が異なりますので、意見が食い違いやすいことは必然です。

 

しかし、クレドやミッション・ビジョン・バリューが浸透すると、「共通の判断基準」共通言語」が生まれます。事業計画などの「共通目標」と合わさると、論理的なコミュニケーションや建設的な議論が生み出されやすくなります。

 

 

人材育成の軸が出来る

クレドは、組織の行動規範であり価値観です。従って、組織のメンバーはクレドに則って行動することが求められます。

 

さまざまな社員教育を行なう中でも、共通した「知識やノウハウ、考え方を何のために、どう使うべきか?」という基準になるものがクレドです。

 

また、クレドはミッションやビジョンにも紐づいたものとして作られていますので、クレドの浸透度・実践度を高めることが、組織の目指すところへ近づく道になります。従って、クレドは組織内の人財育成の基盤と言えます。

 

さらに、クレドは新入社員から幹部まで共通する言語となります。組織内に共通言語があると、1on1面談やフィードバック、評価等もスムーズになりますし、メッセージも伝わりやすくなります。

 

 

採用精度が向上する

クレドの浸透は採用活動においても効果を発揮します。組織の「価値観」や「行動指針」が明文化されていることで、応募者に対する魅了付けやフィルター効果になります。

 

事例を出すと、楽天グループには「楽天主義」という価値観・行動指針があります。その中では、「成功のコンセプト」として、

 

  • 常に改善、常に前進
  • Professionalismの徹底
  • 仮説⇒実行⇒検証⇒仕組み化
  • 顧客価値の最大化
  • スピード!!スピード!!スピード!!

 

という5か条が掲げられています。

 

採用活動の中で、クレドを前面に押し出すことで、上記に共感する人が惹きつけられますし、逆に、「合わないな…」と言う人は自然と離れていきます。クレドを明確にすることで、惹きつけ効果とフィルター効果が、応募者に対して働きます。

 

クレドを組織に浸透させるポイント

企業でクレドを作成する方法と浸透させるポイント

企業でクレドを定める場合、以下の流れで作成を進めていくことが一般的です。

 

  • ステップ1:クレド作成のプロジェクトチームを設置
  • ステップ2:経営者や経営陣の意見をヒアリング
  • ステップ3:企業内でのアンケート、社員へのヒアリング
  • ステップ4:クレドとしての言語化、決定
  • ステップ5:クレドカードの作成、配布等

 

クレドの導入で最も重要なのは、作成よりも浸透させることです。言葉だけが掲げられ、浸透していないクレドは、社員のエンゲージメントを落とす恐れもあります。従って、作成時点から「いかに浸透させるか?」を考慮して進めることが大切です。

 

クレドの作成と浸透は以下のような点がポイントです。

 

 

社員参画型でクレドを作成する

クレド導入による効果を高めるには、まずメンバーに「何のために作るのか?」を理解してもらう必要があります。何度も繰り返し説明していきましょう。

 

また、クレドは経営陣の意向が反映されることが多くなりますが、作成ステップにおいては社員主導のプロジェクトにしたり、社員の意見を聞いたり、社員とディスカッションしたりすることが重要です。

 

既に決められている企業理念やミッション・ビジョンがあれば、改めてミッションやビジョンについて議論したり、幅広い社員の声を集めるためにアンケートを使ったりしてもよいでしょう。クレドの作成プロセス自体が、浸透施策の一つだと考えて取り組みましょう。

 

 

繰り返し浸透施策を行なう

クレドの導入プロジェクトを実行する時、意識の9割は「浸透」に振り向けることが大切です。クレドのような行動基準が浸透するためには、「覚える」、「自分の仕事と結びつく」、「自分の仕事で実践する」という3つのステップを踏む必要があります。

 

まず一つ目の「覚える」を実現するために、いつでも確認できるようにクレドを記載したカードを配布することがおすすめです。

 

そして、「自分の仕事と結びつく」「自分の仕事で実践する」というステップを進めるためには、クレドカードを基にして、クレドの確認や唱和、自分の仕事への紐づけ、実践者の表彰等を以下のようなシーンに絶え間なく組み込みましょう。

 

  • 朝礼
  • チームミーティング
  • 経営陣のメッセージ
  • 表彰制度
  • 研修 など

 

 

経営陣、リーダー陣が実践する

クレドが浸透していく過程では、経営陣やリーダー陣による実践が欠かせません。経営陣やリーダーがクレドと反する行動をしていたら、クレドが浸透することはありません。そして、組織へのエンゲージメントも下がってしまいます。

 

行動規範を定めたからには、経営陣やリーダー陣は「社員に見られている」ことを意識して、クレドに基づいて行動することが求められます。

 

また、「クレドに反する行動をした」社員をどう処遇するかも組織へのメッセージです。クレドに反する行動をした社員を放置してしまうと、「クレドは形だけのものだ」というメッセージになります。

 

まとめ

クレドとは、組織の価値観や行動指針を示したものです。

 

経営理念やミッション・ビジョンが「組織が何のために存在するか?」「社会や顧客にどんな価値を提供するか?」を定めたものであるのに対して、クレドやバリューは「私たちは何を大切にするか?」「この組織においてどんな行動がされるべきか?」を定めたものです。

 

クレドの浸透は、組織へのエンゲージメント向上や社員教育の軸形成、組織内の連携強化などさまざま効果があります。ただし、クレドは作成することよりも、浸透させることが大変です。

 

クレドの導入に興味があれば、記事で紹介したリッツ・カールトンの事例なども参考にぜひ自社での導入に取り組んでください。

著者情報

近藤 浩充

株式会社ジェイック|常務取締役

近藤 浩充

大学卒業後、情報システム系の会社を経て、ジェイックに入社。執行役員としてIT技術者の派遣を行う「IT戦略事業部」の創設、全社のマーケティング機能を担う「経営戦略室」室長を歴任。取締役/教育事業部長として、社内の人材育成、マネジメントで手腕を磨く。2013年には中小企業向け原田メソッド研修の立ち上げを企画推進し、自部門および全社の業績を向上させた貢献により、常務取締役に就任。カレッジ事業本部長、マーケティング本部長、教育事業本部長等を歴任。

著書、登壇セミナー

・社長の右腕 ~上場企業 現役ナンバー2の告白~
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・withコロナ時代における新しい採用力・定着率向上の秘訣
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