サーバントリーダーシップとは?特性やメリット・デメリットを紹介

サーバントリーダーシップとは?特性やメリット・デメリットを紹介

サーバントリーダーシップとは、リーダーがメンバーのニーズを理解し、支援することで、組織全体の成功を促進するリーダーシップスタイルの1つです。

 

リーダーシップというと「先頭に立って引っ張る」といった統率力のイメージが強いかもしれませんが、昨今異なるリーダーシップのあり方として注目されているのがサーバントリーダーシップです。

 

サーバントリーダーシップは、メンバーの主体性を引き出す、またプロフェッショナルメンバーの生産性を高めるといった部分で大きな効果をもたらします。

 

本記事ではサーバントリーダーシップの特徴や実施に必要な要素やメリット・デメリットをわかりやすく解説します。

<目次>

サーバントリーダーシップとは?

サーバントリーダーシップとは?

 

サーバントリーダーシップは、「相手に奉仕することで相手の力を引き出す」リーダーシップを意味します。人材の力を引き出すことで組織を強くするリーダーシップです。

 

注目されている背景

世界的に仕事の分業化や専門化が進み、また、ホワイトカラーを中心に知識集約型ビジネスが広がっています。そして変化が激しく、先行きが不透明なVUCAの時代ということもあり、リーダーが正解を知っており、全ての意思決定を間違いなく行なえる状態ではなくなっています。

 

そのなかで、先頭に立って物事を決めていくリーダーではなく、一種の“コーディネーター”として、さまざまなプロフェッショナル人材の力を引き出し、能力を高め、成果を上げていくリーダーが求められています。

 

したがって、「奉仕することで力を引き出す」スタイルである、サーバントリーダーシップの考え方が改めて注目を集めています。

 

従来型リーダーシップとの違い

従来型のリーダーシップは、リーダー自身が先頭に立ち、指示や命令により組織を引っ張り、成果を上げるスタイルです。『強さ』をイメージさせるリーダー像ともいえるでしょう。

 

一方のサーバントリーダーシップは、『サーバント(執事)』という言葉のとおり、個々の能力を引き出し、自主的に働いてもうらことで組織の生産性を高めて成果を上げるスタイルです。

 

なお、サーバントリーダーシップに『優しい』『頼りない』といったニュアンスはありません。メンバーを尊重しながら主体性の向上をサポートするリーダーシップです。

サーバントリーダーシップの10の特性

サーバントリーダーシップの10の特性

 

サーバントリーダーシップを発揮するうえでは、以下に挙げる10の特性が重要であるとされています。個々の特性を見ていくと、どのようなリーダーシップなのか、また、それにはどのような行動をすればいいのかが見えてきます。

 

傾聴【特性①】

サーバントリーダーには、メンバーの話をじっくりと聴く姿勢が求められます。メンバーの意見をしっかりと聞き出し、メンバーが望んでいる内容をきちんと理解することが重要です。

 

メンバーの声と同時に、自分の内なる声にも耳を傾けることで、メンバーの意見と自分の心の声を総合したうえで、サーバントリーダーとして選ぶべき行動を考えます。

 

共感【特性②】

メンバーの意見を傾聴するためには、メンバーの気持ちや感情に共感的である必要があります。「共感」は“同じように感じる”同感とは違います。「メンバーがそう感じている」「そう見ている」という感情や事実を受け止めるのが共感です。

 

メンバーに共感を示さず、上司としての権力で指揮命令しても、メンバーの気持ちは動きません。常にメンバーの立場に立って物事をとらえる意識を持つ必要があります。メンバーに共感する姿勢を持つことで、メンバーからの信頼を得やすくなります。

 

癒し<【特性③】/h3>
組織において欠けている部分や傷ついている部分を補うのも、サーバントリーダーに求められている役割の一つです。メンバーが精神的にダメージを受けているなら、癒しを与える必要があります。

 

組織内で仕事をしていると、計画どおりに物事が進まない、また、メンバー同士が衝突したり、顧客に心ない言葉を投げられたりする場合もあるでしょう。サーバントリーダーはメンバーに寄り添って、前向きな言葉をかけることでメンバーの心を癒し、本来の力を発揮できるようにします。

 

気づき【特性④】

サーバントリーダーにとって「気づく力」は大切です。組織をさまざまな視点から観察し、変化や兆しを素早くとらえましょう。偏見にとらわれず、フラットな目線で物事を見る姿勢が重要です。

 

顧客の動向、予期せぬ成功や失敗、メンバーのモチベーションや言動、世間のトレンドなどにアンテナを張り、メンバーに手を差し伸べたり、情報提供をしていったりしましょう。

 

説得【特性⑤】

サーバントリーダーシップは、役職や権限によって指揮命令するスタイルではありません。相手の納得を得たうえで合意を目指すのが、サーバントリーダーが行なうべき説得です。自分の意見を押しとおすのではなく、メンバーの意見も踏まえながら、双方にとって、また、チームにとって、win-winとなる結論を出す必要があります。

 

概念化【特性⑥】

メンバーを鼓舞するために、抽象的な物事をわかりやすく伝えるスキルが概念化です。例えば、ミッションやビジョン、パーパスなどは中長期的な概念であり、同時に「自分たちが何のために仕事しているのか?」という根本的な理由です。

 

サーバントリーダーは抽象的な概念を理解し、メンバーにわかりやすく伝えることで、チームを作り上げていきます。なお、一方的に発信するだけではなく、メンバーの意見や価値観、ビジョンを踏まえながら、それを一つに統合していくためにも概念化の力が必要です。

 

先見力・予見力【特性⑦】

サーバントリーダーに求められる要素として、先見力・予見力も挙げられます。過去の事例や現在の状況から、今後発生する可能性のある出来事を予測する能力です。

 

先見力・予見力を発揮することで、チームに起こり得るトラブルを予防できます。また、先々を見据えて大きな方針を決めていくことで、メンバーの主体性を引き出したり、メンバーの自主性に任せたりする余白を生み出すこともできるでしょう。

 

執事【特性⑧】

組織の先頭に立って引っ張る従来型のリーダーシップと違い、サーバントリーダーシップの役割は、メンバーをサポートすることです。その象徴となるのが「執事」という概念です。

 

執事は“メンバーの下に立つ”という意味ではなく、“メンバーが持っている力を存分に発揮できるように環境を整える”という意味でとらえるのが適切です。メンバーを献身的にサポートする執事役に徹することで、メンバーの長所が発揮され、能力も伸びていくでしょう。

 

人々の成長に関わる【特性⑨】

サーバントリーダーは、メンバーの成長を実現することで組織の目標を達成し、生産性を高めていきます。結果への効率性だけを追い求めるのでなく、結果を出すまでのプロセスでメンバーに積極的に関わり、意見を交換したりフィードバックしたりする心掛けが大切です。

 

コミュニティ作り【特性⑩】

サーバントリーダーシップでは、メンバー同士が対等な立場で連携・協働するコミュニティの構築を目指します。上下関係で結ばれたピラミッドではなく、同じ目標を共有して、メンバーの成功をチームで喜び、誰かのミスを全員でカバーし合えるようなコミュニティが理想です。

サーバントリーダーシップのメリット

サーバントリーダーシップのメリット

 

サーバントリーダーシップのスタイルはどのようなメリットがあるのでしょうか。サーバントリーダーシップが生み出す主なメリットを紹介します。

 

メンバーの主体性が向上する【メリット①】

従来型のリーダーシップは、どちらかというとリーダーが先頭に立って指揮・命令していくスタイルです。極端にいえば、メンバーはリーダーの指示に従うことが大切です。指揮統制型のスタイルは、短期的な効率性は実現しますが、メンバーは主体性を失い、受け身になりがちです。

 

一方、メンバーを尊重してサポートするサーバントリーダーのもとでは、各メンバーは自分で考えて行動するようになります。メンバーの主体性が向上し、当事者意識を持って仕事に取り組むようになるでしょう。そういった状態では、新しいアイデアが生まれやすくなり、組織の生産性向上にもつながります。

 

また、冒頭で紹介したようにVUCAの時代、また、産業がサービス化して現場でサービスが生み出されて提供されるなかで、リーダーがすべての正解を知っていることはあり得ません。その点でもメンバーの主体性を引き出すことは重要なテーマだといえます。

 

顧客満足度の向上につながる【メリット②】

サーバントリーダーシップのもとで、自分に共感して寄り添ってもらった、また自分の意見を聞いて取り入れてもらった経験があるメンバーは、自分がされたように顧客に寄り添い、顧客の意見を聞くようになります。その結果、組織全体が顧客志向になり、サービス運営や商品開発などにも反映されることが期待されます。

 

従来型のリーダーシップのもとでは、メンバーはリーダーの指示を重視して、顧客よりもリーダーを見てしまうかもしれません。それでは、ユーザーファーストの雰囲気は生まれません。組織が顧客優位の雰囲気になりやすい点は、サーバントリーダーシップを取り入れた組織が手にするメリットの一つといえるでしょう。

 

従来型リーダーシップはピラミッド型組織であり、その頂点にリーダーがいます。しかし、サーバントリーダーシップにおける組織形態は逆ピラミッド型であり、最上位にリーダーではなく顧客がおり、リーダーは一番下でメンバーを支えるという感覚です。

サーバントリーダーシップのデメリット

サーバントリーダーシップのデメリット

 

サーバントリーダーシップには、メリットだけでなくデメリットやリスクもあります。万能なスタイルではなく、どんな状況や条件であれば有効に働くのかをしっかりと理解したうえで、導入を検討することが大切です。

 

メンバーの主体性や知識が求められる【デメリット①】

サーバントリーダーシップでは、メンバーに主体性や知識が要求されます。自ら考えて行動するのが不得意なメンバーや知識・経験が浅いメンバーにとっては、主体的な提案や意思決定が求められるサーバントリーダーシップは難しいものです。

 

相手の答えを引き出すコーチングが万能ではないのと同様に、サーバントリーダーシップにも適した対象と適さない対象があります。主体的に動くのが苦手なメンバー、また、知識・経験が浅いメンバーが多い場合は、トップダウン方式の従来型リーダーシップの方が適したケースも多いでしょう。

 

方針を決定するのに時間がかかる【デメリット②】

メンバーの話に耳を傾けながらチームを動かしていくサーバントリーダーシップでは、メンバーの意見を尊重しすぎるあまり、組織としての方針決定に時間がかかるケースもあります。

 

チームのメンバーが多くなるほど、さまざまな意見が飛び交う状況になるでしょう。サーバントリーダーは基本的に全ての意見を聞かねばならず、意見をすり合わせているうちに業務の進捗が大幅に遅れる事態にもなりかねません。

 

例えば、トラブル対応や組織全体を変革していくような際には、従来型のリーダーが先頭に立って引っ張っていく強いリーダーシップが適している場合も多いでしょう。

サーバントリーダーシップを組織に浸透させるには?

サーバントリーダーシップを組織に浸透させるには?

 

サーバントリーダーシップの概念を組織に導入する際は、どのような点に気をつければよいのでしょうか。サーバントリーダーシップを組織に浸透させるためのポイントを解説します。

 

上層部の意識改革

サーバントリーダーシップを組織に浸透させるためには、上層部の意識改革が必要です。経営陣自らがサーバントリーダーとしての意識や精神を取り入れ、組織全体に示していかなければなりません。

 

部署レベルでサーバントリーダーシップが浸透すればよいと考えているうちは、組織全体への浸透は難しいでしょう。組織全体のリーダーたる上層部こそ、サーバントリーダーシップの10の特性を重視する必要があります。

 

また、コミュニケーションが希薄な従来の組織では、サーバントリーダーシップは浸透しにくいと覚えておきましょう。まずは経営陣や管理職の意識を変え、社員と積極的なコミュニケーションを取る姿勢が大切です。

 

逆ピラミッド型組織への意識

サーバントリーダーシップは、逆ピラミッド型の組織概念と組み合わさって真価を発揮します。逆ピラミッドの最上部に位置するのは顧客であり、次いで顧客接点等を担う現場社員、そして、現場社員を支える中間管理職、最後に組織全体に奉仕する経営層です。

 

しかし、日本企業の多くはピラミッド型の組織形態で運営されています。サーバントリーダーシップの実施を唱えてみせても、意識がピラミッド型組織のままではサーバントリーダーシップは浸透しにくいでしょう。

 

サーバントリーダーシップを浸透させるには、本当の意味で「顧客志向」を大切にして、逆ピラミッド型組織の意識を浸透させる必要があります。

サーバントリーダーシップで有名な企業事例

サーバントリーダーシップで有名な企業事例

 

サーバントリーダーシップで成功した企業の事例をいくつか紹介します。実際にどのような形で成功に至っているのか確認し、自社への導入を検討する際の参考してください。

 

スターバックス

アメリカ発祥の大手コーヒーショップ『スターバックスコーヒー』は、サーバントリーダーシップに力を入れている企業の一つです。

 

『経営陣よりも現場で働く社員の方が大切』をモットーに、サーバントな文化・人を大切にする文化を原動力とし、一貫して現場を重視した経営を行なっています。

 

ストアマネージャーを対象に『奉仕型セミナー』を実施するなど、人とのつながりを大切にするさまざまな取り組みを進めているのが特徴です。

 

資生堂

日本の大手化粧品メーカー『資生堂』も、サーバントリーダーシップを経営の中心概念に置いている企業です。逆ピラミッド型組織を取り入れて経営改革を推進、社内の意識改革に取り組んできました。

 

サーバントリーダーシップの導入に取り組み始めた当時は、社長自らが現場に足を運び、現場スタッフの声を集めました。そして、意見や要望を実際に具現化することで、数々の改革を実施してきました。

 

当時の社長は著書の中で、「変革の必要性や可能性を現場に理解してもらい、主体性を持ってゴールに進むようモチベートすることが大切である」と述べています。

まとめ

産業がサービス化して変化が激しい現代に注目されているのがサーバントリーダーシップです。サーバントリーダーシップは、メンバーの主体性を引き出し、組織の生産性を向上させることが期待できます。

 

サーバントリーダーシップは決して万能なわけではなく、メンバーが一定の知識や意欲をもった組織に向いているスタイルです。
ただし、トップダウン式の従来型リーダーシップに限界を感じているなら、メリット・デメリットも理解したうえで、サーバントリーダーシップの導入を検討してみてはいかがでしょうか。

 

何か大きな組織変革をして取り入れるだけがやり方ではなく、経営陣や管理職がサーバントリーダーとしての意識を持つだけでも、組織風土やメンバーのモチベーションに大きな影響を与えるでしょう。

著者情報

近藤 浩充

株式会社ジェイック|常務取締役

近藤 浩充

大学卒業後、情報システム系の会社を経て、ジェイックに入社。執行役員としてIT技術者の派遣を行う「IT戦略事業部」の創設、全社のマーケティング機能を担う「経営戦略室」室長を歴任。取締役/教育事業部長として、社内の人材育成、マネジメントで手腕を磨く。2013年には中小企業向け原田メソッド研修の立ち上げを企画推進し、自部門および全社の業績を向上させた貢献により、常務取締役に就任。カレッジ事業本部長、マーケティング本部長、教育事業本部長等を歴任。

著書、登壇セミナー

・社長の右腕 ~上場企業 現役ナンバー2の告白~
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