サーバントリーダーシップ(支援型リーダー)とは、アメリカのロバート・K・グリーンリーフが提唱したリーダーシップ哲学です。従来の上下関係、支配型リーダーシップと大きく違う特徴が、新時代のリーダーシップとして注目を浴びています。
本記事では、サーバントリーダー(支援型リーダー)に求められる10の特性を中心にサーバントリーダーシップを解説します。サーバントリーダーシップで生じやすい課題と解決策も紹介しますので、ご覧ください。
<目次>
サーバントリーダーシップとは
まずは、サーバントリーダーシップとはどういうものなのか、サーバントリーダーシップの定義やメリットを解説します。
サーバントリーダーシップの意味
サーバントリーダーシップは、アメリカの教育コンサルタントであるロバート・K・グリーンリーフが1970年に提唱したリーダーシップの形式です。最近改めて注目されていますが、じつは概念自体はかなり古いものです。
サーバントリーダーシップの「サーバント(servant)」には、「召使い、使用人」という意味があります。言葉どおり、サーバントリーダーシップの核になっているのは「リーダーは、まずメンバーに奉仕し、その後メンバーを導くものである」という考え方です。
ITなどの諸技術が進化するにつれて、人間には、機械やAIには生み出せない創造的なアイデアやホスピタリティが求められるようになりました。
また、産業のサービス化が進み一人ひとりのメンバーがサービスを生み出す主体となることが増えたり、専門特化が進んだことでプロフェッショナル職がこれまで以上に増えたりしている現状もあります。
時代の変化に伴い、リーダーがすべてを把握して、「リーダーの指示をいかに効率的に実行するか?」が重要だったビジネスの現場は大きく変わりつつあります。いまの時代には、リーダーがすべてを把握することも、リーダー一人で成果を出すことも困難です。
リーダーが決断力を発揮したり、メンバーを鼓舞したりすることが必要なのは変わりませんが、メンバーの主体性を引き出し、メンバー同士をコラボレーションさせることが求められています。その結果、改めてサーバントリーダーシップの考え方が注目されているのです。
サーバントリーダーシップのメリット
サーバントリーダーは、メンバーの自主性を尊重し、一人ひとりの声に耳を傾けます。従って、サーバントリーダーのいるチームでは、それぞれのメンバーが主体性を持って行動しやすくなります。
また、サーバントリーダーシップが発揮された環境では、自分の意見が尊重される、リーダーが自分の意見に耳を傾けてくれるため、提案することへの心理的ハードルが下がり、立場を超えた意見交換が活発化したり、社内コミュニケーションが円滑に機能したりするのも大きなメリットです。
特に、主体性が高いメンバーや専門性が高いメンバーをマネジメントする際には、サーバントリーダーシップが大きな効果を発揮するでしょう。
サーバントリーダー(支援型リーダー)と支配型リーダーの違い
サーバントリーダーは、どういった点で支配型リーダーと異なるのでしょうか。ここでは、両者の特徴を解説したうえで、サーバントリーダーシップへのよくある誤解も確認しておきます。
サーバントリーダー(支援型リーダー)の特徴
サーバントリーダーは、メンバーの主体性を引き出すリーダーです。メンバーの能力や強みなどの資源をうまく活用して、組織の目標を達成します。
サーバントリーダーは指示や命令でメンバーを動かすのではなく、メンバーの意見に耳を傾け、一人ひとりの自主性を尊重しながら、自身もメンバーとともに業務を遂行します。
メンバーの内面にも共感し、精神的にネガティブな状態のメンバーがいれば、傷を癒やそうと働きかけるのもサーバントリーダーの特徴です。また、チームの成長を目指すだけでなく、メンバー個人の成長にもコミットします。
支配型リーダーの特徴
支配型リーダーは、指示や命令でメンバーを鼓舞して動かします。日本語の「支配」という言葉から強い印象を受けますが、支配型リーダーは決して強引なリーダーという意味ではありません。何をすべきかをリーダーが指示する「ティーチング型のマネジメント」を行うリーダーシップです。
いま何を為すべきかをしっかりと指示してメンバーを引っ張っていく支配型リーダーシップは、まだ経験が浅いメンバーに対して有効ですし、緊急事態やメンバーが受け身な時にも効果的です。
「サーバントリーダーシップと支配型リーダーシップのどちらが優れているか?」という議論はあまり意味がありません。それぞれの持ち味を把握して、状況や対象によってリーダーシップを使い分ける「シチュエーショナルリーダーシップ」の考え方が大切です。
サーバントリーダーシップへのよくある誤解
サーバントリーダーシップという概念は、誤解されやすい一面もあります。ここでは、サーバントリーダーシップへのよくある誤解を2つ取り上げて、それぞれの誤解を解いていきます。
- 誤解①:優しいリーダーシップ
サーバントリーダーシップは「優しいリーダー」だと誤解されがちですが、サーバントリーダーに優しいかどうかはあまり関係ありません。サーバントリーダーシップの特徴には、表面上、「優しさ」に見える部分もあります。
しかし、サーバントリーダーは、メンバーの機嫌を伺ったり言いなりになったりするわけではありません。組織の目標達成やメンバーの成長に必要なことは、しっかりとフィードバックを行いますし、時には相手の意向に反する意思決定をする必要もあります。
そのためにもサーバントリーダーは、日頃からメンバー一人ひとりの声に耳を傾け、信頼関係を築くことが必要です。さらに指摘の仕方やコミュニケーションの取り方にも工夫して、必要なことははっきり指摘しつつ、メンバーの主体的な成長を促します。
- 誤解②:誰に対しても万能
サーバントリーダーシップが注目されていると聞くと、「サーバントリーダーシップは万能だ」「これからのリーダーはサーバントリーダーであるべきだ」と捉えられてしまう傾向があります。
確かに、時代背景の中で、専門分野を持つプロフェッショナルが集まったプロジェクトを運営したり、メンバーの主体性を発揮させたりするためには、支配型リーダーシップよりもサーバントリーダーシップが適しています。
しかし、サーバントリーダーシップはどのようなメンバーに対しても万能というわけではないのです。受け身なメンバーや経験の浅いメンバーには、支配型リーダーシップのほうが有効なケースも多くあります。
チームの状況やメンバーの特性をよく見極め、状況や対象に合わせて柔軟にリーダーシップの取り方を変えていけるようになることが大切です。
サーバントリーダーに求められる「10の特性」
サーバントリーダーシップの概念の普及に取り組んでいる日本サーバント・リーダーシップ協会は、サーバントリーダーに求められる素質として、次の10の特性を揚げています。
1.傾聴
メンバーの意見に耳を傾け、相手が本当に伝えたいことを引き出します。傾聴は、部下の主体性や意見を引き出すうえで基本となる行為です。
2.共感
メンバーの立場に立って物事を考えます。誰しも完ぺきではないことを理解して、相手のことを受け入れ、気持ちを理解しようとします。
3.癒し
メンバーの心身に配慮します。メンバーが落ち込んでいる時には心の傷を癒して、相手がもともと持っている力を回復させます。チームに欠けているところや傷ついているところがあれば、各メンバーの強みを活かして補えるようにします。
4.気付き
物事を敏感に感じ取って、本質を見ます。自分自身、そして自分の関わるチームや部署にアンテナを立て、リーダーが気付きを得るだけでなく、フィードバックして相手にも気付きを与えます。
5.説得
リーダーとしての権限や権力で服従させるのではなく、相手が納得できるように、相手の同意を得ながら話を進めます。
6.概念化
個人やチームのビジョンを明確に提示します。単なる業務目標を超えた大きなビジョンによりメンバーを鼓舞します。
7.先見力、予見力
現状を俯瞰し、過去の経験とも照合しながら、未来に起こりうる出来事や問題を予測して対策を打ちます。
8.執事
相手より一歩引いた場所から、メンバーの利益に貢献します。
9.人々の成長に関わる
メンバーの成長に関心を持ちます。一人ひとりの可能性や価値に気付き、それぞれの成長へと積極的に関わります。
10.コミュニティ作り
メンバーに対する愛情と癒しにあふれ、それぞれが大きく成長できる協力的なコミュニティを作ります。
サーバントリーダーシップで生じやすい課題と対策
サーバントリーダーシップで生じやすい課題は、方向性のズレと意思決定の遅れです。その解決策を、以下で解説します。
組織のミッション・ビジョン・バリューの策定
ミッション・ビジョン・バリューは組織に1つだけとは限りません。組織の中で自チームが担う役割を踏まえて、自チームのミッション・ビジョン・バリュー、プロジェクトのミッション・ビジョン・バリューを策定することは、メンバーの方向性を揃える効果があります。
1on1の実施
上司が部下の話を傾聴する1on1ミーティングは、サーバントリーダーシップと相性が良いスタイルです。1on1の頻度をこまめに設定し、頻繁にメンバーとのコミュニケーションを取ることで、方向性のズレを回避したり、早めに情報をキャッチすることで意思決定が遅れることを防げたりします。
シチュエーショナルリーダーシップの考え方
対象や状況に応じて、最適なリーダーシップを発揮することが重要です。ビジネスを成長・拡大させるうえでは、迅速な意思決定が求められることもあるでしょう。
そのような場合には、メンバーの合意を取ったうえで、メンバーから意見をもらったうえでリーダーが意思決定する「衆議独裁」の形で意思決定を任せてもらう選択肢もあります。
リーダーとしてのあり方を固定しすぎず、状況に合わせて柔軟にリーダーシップを発揮していきましょう。
まとめ
サーバントリーダーシップは、アメリカの教育コンサルタント、ロバート・K・グリーンリーフによって提唱されました。メンバーの自主性を尊重し、一人ひとりの声に耳を傾けるサーバントリーダーシップは、従来の支配型リーダーシップにはないメリットを持つリーダーのあり方として近年注目されています。
サーバントリーダーには、以下の「10の特性」が求められます。
- 傾聴
- 共感
- 癒し
- 気付き
- 説得
- 概念化
- 先見力、予見力
- 執事
- 人々の成長に関わる
- コミュニティ作り
サーバントリーダーシップは、従来までの支配型リーダーシップを否定するものではありません。自分が発揮できるリーダーシップスタイルの形を拡げることで、状況や対象に応じたより適切なリーダーシップを発揮できます。記事を参考にぜひサーバントリーダーシップの考え方を取り入れてみてください。