アクティブラーニングは研修の効果性が高まる、学習の定着率が高いとして、学校教育でも企業研修でも幅広く取り入れられている手法です。
一方で、一般的な講義形式とは異なるアクティブラーニングでどのような課題が生じやすいか?どう対策すればよいか?などをきちんと理解している方は意外と少ないかもしれません。
記事では、本格的なアクティブラーニングを行なううえでの課題を、失敗事例や解決策とともに解説します。
<目次>
企業のアクティブラーニング導入時の課題
通常の研修にグループワークや双方向性など、アクティブラーニングの要素を取り入れる程度であれば大きな課題は出にくいですが、複数回にわたるワークショップやグループワークなど本格的なアクティブラーニングを導入・運用する際には、おもに下記5つが課題となりがちです。
- 受講者の質に研修の質が依存してしまう
- 評価が難しい
- 研修時間がより多く必要となる
- 課題や資料の選択が難しい
- 講師の力量が求められる
受講者の質に研修の質が依存してしまう
本格的なアクティブラーニングは自ら考え、他者と共同作業する学習手法です。他者とのコミュニケーションや協働を通じて学んでいく性質上、参加意欲や積極性や知識が欠如している受講者がいる場合、研修全体の質、他受講者の満足度に影響が出てしまいます。
評価が難しい
アクティブラーニングは知識のインプットが目的ではないため、参加者の評価をテストなどで実施することが難しくなります。また、グループワークの最終的なアウトプット品質だけで評価を決めることも適切ではありませんので、参加者を評価する場合は、参加姿勢や貢献度、アウトプットなど、複数の軸で評価を考える必要があります。
研修時間がより多く必要となる
アクティブラーニングは座学とは異なり複数人でワークやディスカッションするため、知識をインプットするタイプの研修に比べると時間がかかります。
また、知識インプット型の研修であれば、「これぐらいの時間で、これを教えて、これぐらいの状態にする」という設計がしやすいですが、アクティブラーニングの場合、参加者同士のコミュニケーションや協働状況によって、学びの進行が変わります。したがって、研修プログラムを設計するうえでもタイムテーブルを組みにくいという側面があります。
課題や資料の選択が難しい
アクティブラーニングはワークショップ形式を取ることが多く、知識インプット型の研修と比べると、テキストや資料は簡易になります。一方で、適切なテーマ設定や議論をスムーズに進行させるための資料など、課題や資料の選択は難しくなります。
講師の力量が求められる
アクティブラーニングの講師の役割は、研修の目的や目標から逸れないようにファシリテーションすることです。受講者の進捗もグループによって異なり、出てくる質問や相談なども想定外のものが登場したりします。講師にはコミュニケーションやファシリテーションのスキルはもちろん、対応力が求められます。
アクティブラーニングの失敗事例
下記はアクティブラーニングの過去の失敗事例を調査して、原因を図示したアクティブラーニング失敗原因マンダラです。大学のアクティブラーニングを対象としたものですが、企業でのアクティブラーニング失敗要因と対策を考えるうえでも有効です。
なお、企業での実施を考えるうえでは、学生を“参加者”、教育を“講師”、大学を“組織”や“経営層”と置き換えていただくとイメージしやすくなります。
目的の理解不足による失敗
上記は大学の授業で「企業と学校が連携して、商品開発を行なった事例」の分析です。失敗事例にあった大きな要因が、「商品開発の議論に終始してしまい、流通や販売といった開発の先に必要な要素を見失ってしまった」というものです。
現象と原因 | ・目先で議論しやすい盛り上がる“商品開発”の話に終始して、“流通”や“販売”といった要素が抜け漏れていた ・グループワークで周囲に同調してしまう学生が多く、批判的な意見が出なかった ・学生の興味範囲が狭くなっていた ・教員がきちんと冒頭で全体図を示したり、途中で介入したりするといったアドバイスが不足した |
対策 | まずポイントは「何を学ばせるか?」の目的をきちんと設計することです。目的に応じて、上記の「商品開発の話に終始してしまう」といった陥りがちな罠も、事前レクチャーで回避する、途中で介入する、事後にフィードバックするなど、選択肢が変わります。事前に対策するようであれば、グループワークの冒頭に議論のフレームワークを示したり、途中で適切に介入したりすることが有効です。 また、課題に入る前に、参加者同士が馴れ合いにならず、良質なアウトプットを作るためにきちんと議論する土台をつくるような導入のワークを実施することも大切です。 |
メンバー間の貢献度の乖離による失敗
参加者の議論やアウトプットへの参加度や貢献度にムラが出てしまった。
現象と原因 | ・参加者の選抜を実施しなかった ・学生のリーダーシップやファシリテーションスキル不足 ・メンバーの自主性に任せて進行した |
対策 | これもアクティブラーニングの目的次第でどう介入するか、介入しないかは異なります。例えば、リーダーシップやマネジメントに関する研修であれば、途中では一切介入せずに、事後に「貢献度や参加度に乖離が生じたまま進行した」という進行をフィードバックして考えさせるというやり方もあります。 こちらも事前に対策するようであれば、ワークを進行するうえで、いくつかのフェーズを作ってフェーズごとに責任者を替えたり、役割をつくって役割分担を実施したりする方法があります。 また、途中で講師から見えている偏りの現状を客観的にフィードバックするといったことも有効です。 研修の目的や位置づけによっては、参加者をきちんと選抜して能力や意欲を担保するということも大切です。 |
自主性を尊重し過ぎたことによる失敗
過剰介入になってしまうことを警戒した結果、教育が介入をほぼ行なわず、結果的に、教師と学生の連携がうまくできず、学生の行動量が減り、目標もどんどん下がっていく結果となった事例。
現象と原因 | ・教員の介入不足 ・何を重視するかの目的、ゴール設定の甘さ ・学生の基本スキルやレベルの低さ ・教育と学生間でゴール基準のすり合わせ不足 |
対策 | 繰り返しになりますが、アクティブラーニングでまず一番重要なことは目的とゴール設定です。講師の価値観や感覚で介入するしないを決めるのではなく、「研修の目的とゴールが何で、ゴールに到達するために介入が必要か不要か」という視点で判断が必要です。 また、場合によっては、講師と受講者できちんとゴールをすり合わせることも大切です。例えば、「実際に企業が投資を判断するレベルの事業計画をつくる」のか「新規事業のアイデアを考える」のかで認識がズレていたら大問題です。 始めにきちんと講師と受講者でゴールをすり合わせておけば、介入やフィードバックも最小限で済むようになります。 |
アクティブラーニングの課題を解決するために必要なこと
アクティブラーニングを実践するにあたって、特に決められたやり方があるわけではありません。しかし、アクティブラーニングを成功させるには、下記に挙げたようなコアとなる要素があります。きちんとポイントを押さえて進行することで、効果的なアクティブラーニングを実現しやすくなります。
□ | 必要な雰囲気作りを行なう |
□ | 質問によって参加者を刺激する |
□ | 参加者に話させる、書かせる |
□ | 参加者間で相互学習させる |
□ | 自分たちの経験や事例から学ばせる |
【どうしたら成功する?】アクティブラーニング導入のポイント
アクティブラーニングを成功させるには下記2つのポイントに注目することもポイントです。
□ | 研修の目的や対象、目標を明確にする |
□ | 研修が現場に活かされる工夫が必要 |
研修の目的や対象を明確にする
アクティブラーニングはあくまで“学習方法”の一つです。したがって、研修を成功に導くためには、研修自体の目的や対象、ゴールが明確になっていることが重要です。
研修のゴールを決めてから、ゴールに向かうためにはどのようなアクティブラーニングの手法が適しているのかを決めるようにしましょう。上述のとおり、介入したほうがよいか否かなども研修のゴール設定によって異なります。
アクティブラーニングは現場で臨機応変に対応するからこそ、判断軸となる目的やゴールをきちんと定める必要があります。
研修が現場に活かされる工夫が必要
アクティブラーニングは、通常の知識インプット型の研修等に比べると、ディスカッションしたり、何かを生み出したり、参加者にとっても刺激があり、主体性が生まれやすい形式です。
一方で、テーマ設定によっては、「面白かった」で、やって終わりになってしまう可能性が高くなります。したがって、研修の目的やゴール設定にもリンクしますが、研修内容を現場に生かすという視点での工夫が大切です。
アクティブラーニングのワークで扱う課題の内容を日常業務のなかから取り上げるといったやり方もありますし、自分たちの学びを言語化して整理して職場でどのように実践するのかを落とし込む時間を取るといった方法もあります。
まとめ
アクティブラーニングは、一方的に話を聞くような研修と比べて、参加者の主体性を引き出し、学習効果も高くなります。本格的なアクティブラーニングを企業研修に取り入れようと思う際には、記事で紹介した起こりがちな課題なども踏まえて、ぜひポイントを押さえて実践してください。