個人の問題ではなく、人事が置かれた環境の課題

吉田氏は、営業や開発職と比べて人事のキャリアパスが見えにくいと言われることについて、個人の問題ではなく、人事が置かれている環境の問題が大きいと捉えています。大きく分けて「成果を出しづらい外部環境」と「専門家が育ちにくい内部構造」の2つがあります。
成果を出しづらい環境という意味で、たとえば採用業務は、人口減少の中で成果を出すことが以前より格段に難しくなっています。テクノロジーの進化も激しく、社員の価値観や働き方も多様化しています。そのような状況の中で、経営陣でさえ結果を出すことが難しいのに、人事はさらに難しい立場に置かれていると吉田氏は語ります。
人事が専門家として育ちにくい要因
吉田氏は、人事が専門家として育ちにくい構造の要因を3点挙げます。
まず慢性的にタスクが溢れていることです。人事では、事業部から経営から依頼や相談がひっきりなしに来て、解決を求められる課題・扱うテーマはどんどん広がっているのに人事のリソースは増えないということが起こりがちです。
またジョブローテーションの問題もあります。人事のローテーションスパンは法務や経理と比べると短い傾向があり、3年程度で異動になる会社も多く、じっくり専門性を磨く時間が確保しにくい状況があります。
さらに「外部サポートが充実しているという逆説的な問題もある」とも指摘します。採用業務を例に挙げると、人材エージェントと上手くコミュニケーションして、アドバイス等に従えば、採用経験がなくても採用業務をこなせてしまうケースも多くあります。しかし、その状態で、人事としての採用に関する能力が高まったかというと、そうとも言えません。外部サポートが充実するほど、人事側が育たないという構造が生まれています。
人事としての専門領域を積み上げる

人事という仕事の中にはいくつかの領域があります。どこからキャリアを積み上げれば良いでしょうか。吉田氏は「キャリアを積み上げるべき領域の順序などはない」とします。採用と労務はどの会社にも必ずある機能であり、人事としてキャリアを築くスタート地点になることが多いでしょう。一方で、大企業であれば組織開発や人事制度から配置が始まるケースもあります。スタート地点よりも大事なのは、人事のプロとして“ステージ”を意識できているかです。
人事のプロとして成長していくためには、まず1つでいいので経営陣を超える専門領域を持つことです。経営陣が本気を出しても採用できなかった人材を採れる。役員が想定していた以上の人材育成の施策を打てる。吉田氏は、まず1つのテーマでそうした専門性を作ることが重要だと語ります。
そして次のステップは、それを3つ以上にすることです。「私は採用は強いですが、他は分かりません」という状態では、経営陣が求める“経営に貢献する結果”ではなく、“特定領域を上手くやる”ことにしかコミットできず、人事のプロとは言えません。たとえば「誰かが活躍しない」という事象に対して、問題は採用なのか、育成なのか、制度なのかを複合的に診断してソリューションを提供するためには、最低でも3つ以上の領域が必要です。吉田氏は「2つ目、3つ目の専門領域を作れるかが、人事のプロとしての分岐点です」と指摘します。