社員教育に活用できる助成金一覧と活用法【2020年版】

社員教育に活用できる助成金一覧と活用法【2020年版】

「社員教育に投資しないといけないのは分かっている。ただ、もし助成金を使って費用を回収できるなら越したことはない」とお考えの経営者、人事責任者の方は多くいらっしゃるかと思います。

 

そう考えるのは当然のことです。同時に「助成金を使いたいが、自社にマッチするのはどの助成金なのか分からない」という相談も数多くいただきます。

 

社員教育に関する助成金は厚生労働省管轄のものだけでも30種類以上もあり、さらに地方自治体の助成金や補助金を合わせると、種類は多岐にわたります。その中から自社にマッチする助成金を探すのは、簡単なことではありません。

 

この記事では、社員教育に活用できる助成金を調べる際のポイントや具体的な助成金(地方自治体管轄含む)の種類・概要をご説明します。なお、助成金制度は年度単位での変更も多く、本記事で基本情報をご覧いただいた後、必ず厚生労働省や所轄行政のウェブページで最新情報をチェックしてご利用ください。

 

<目次>

助成金を活用するために調べるポイント

上手に利用すれば、社員教育をはじめ、企業の競争力強化に役立てられるメリットが多いのが教育助成金の制度です。以下のポイントを押さえながらリサーチすれば、自社に合った助成金が見つけやすくなります。

 

実際の助成金利用は、申請経験のある担当者、もしくは社労士でないとかなり手間がかかる場合もあります。助成金の制度に合わせようと思うと、適切なタイミングで研修が出来ない、研修内容に制限が生じる等で本末転倒になってしまう場合もあります。

 

すべての研修で助成金を使うことが適切ではありませんが、計画的に使えるものがあればぜひ活用してください。

 

 

助成金の利用条件

助成金には、対象や企業規模、研修内容などの利用条件が必ず存在します。まず、興味ある助成金があれば、自社や研修を考えている対象が助成金の条件を満たしているかどうかをチェックしてください。

 

 

応募期間

教育に関する助成金は、「事前の利用申請」と「事後の実施報告」、2段階での申請が必要となります。申請期間や事後の報告期間は、助成金ごとに設定されており、期間中に申請や報告をおこなう必要があります。

 

 

助成金額

助成金額も制度や対象ごとに異なります。教育に関する助成金の場合は、「研修時間に発生する人件費の補助」と「研修費用の補助」という2つの組み合わせが基本です。助成金を利用することで発生する手間と助成金額が見合うかも検討してください。

 

 

上限額

助成金のほとんどには、上限金額 (助成限度額)が設けられています。目標達成率や要件に関する設定のある助成金の場合、達成率や要件を満たしているか否かによっても上限額が変わる場合があります。

 

 

手続き方法

応募期間の項目で紹介した通り、助成金の利用を希望する場合は、「実施計画の申請」と「支給申請」、2段階の申請が必要となり、具体的な流れは以下のようになります。

 

  1. 希望する助成金の支給要件に沿った実施計画を立案し、管轄機関に提出する
  2. 計画を実施する
  3. 助成金の支給を申請する
  4. 助成金ごとに定められている支給要件を満たしていると判断された場合、助成金が支給される

 

メリットは多いものの、助成金の申請は必要書類も多く、手続きも煩雑になりがちです。自社に行政への申請書類に慣れた社員がいない場合には、社労士に依頼することもおススメです。

 

最近では、成果報酬で助成金の申請を引き受けている社労士もいますので、そういった社労士を探すのも1つの方法です。社労士にも専門分野があり、採用や教育分野の助成金に慣れている社労士でないと、却って手間がかかってしまうこともありますのでご注意ください。

 

人材開発支援助成金

 

人材開発支援助成金とは、事業主が正規雇用の従業員に対して職務上必要となる専門的な知識・技能を習得させるための職業訓練などをおこなった場合、費用や賃金の一部が支給される助成制度です。助成金の対象となる訓練は次の7コースに分けられており、それぞれ助成内容や対象となる訓練が異なります。

 

今回はメインとなる4コースをご紹介します。

 

 

特定訓練コース

特定訓練コースに該当するのは、「若手人材」や「海外での活躍の可能性を秘めたグローバル人材」の育成訓練、「労働生産性の向上」などを目的とした訓練です。Off-JT(机上研修)、OJT(実地研修)ともに対象となりますが、対象者や支給額などはそれぞれ異なりますのでよくご確認ください。

特定訓練コースの詳細(事業主向け:厚生労働省PDFパンフレット)

 

【対象】

採用5年以内で、35歳未満の若年労働者

海外関連業務に従事する人材育成のための訓練

厚生労働大臣の認定を受けたOJT付き訓練

直近2年間に継続して正規雇用の経験のない中高年齢新規雇用者等(45歳以上)を対象としたOJT付き訓練

 

【特定訓練コースで押さえるべきポイント】

・正規雇用の従業員のみが対象となる

・対象となる事業主は、主に中小企業や事業主団体、中小建設事業主団体(大企業も対象となるが、助成金額や助成率が異なる)

・Off-JTとOJTが組み合わさった訓練コースを実施する必要がある

・OJTとOff-JT、それぞれにかかった経費が助成金の対象となる

 

 

一般訓練コース

一般訓練コースとは、特定訓練コース以外が対象の訓練コースで、経費助成率は30%~45%、助成金額は賃金助成で従業員1人/1時間当たり380円~480円となっています。

一般訓練コースの詳細(事業主向け:厚生労働省PDFパンフレット)

 

【対象】

・Off-JTのみが対象

 

【一般訓練コースで押さえるべきポイント】

・通信制等により実施される訓練(指定されている「一般教育訓練給付指定講座」のみが対象)でも利用可能

 

 

教育訓練休暇付与コース

教育訓練休暇付与コースとは、有給教育訓練休暇制度を導入している企業において「従業員本人が有給等を利用して訓練を受けた場合に助成対象となる」コースです。このコースには「教育訓練休暇制度」と120日以上の休暇が対象となる「長期教育訓練休暇制度」の2種類があり、それぞれ助成金の仕組みや助成金額が異なります。

 

助成金額は20万円~36万円となっているほか、長期教育訓練休暇制度では1人/1日当たり6,000円~7,200円の賃金助成があります。

教育訓練休暇付与コースの詳細(事業主向け:厚生労働省PDFパンフレット)

 

【対象】

・有給休暇教育制度を導入し、従業員が当該休暇を取得し、訓練を受けた場合

・120日以上の長期教育訓練休暇制度を導入し、労働者が当該休暇を取得し、訓練を受けた場合

 

【教育訓練休暇付与コースで押さえるべきポイント】

・「長期教育訓練休暇制度」では定額助成と、有給による休暇取得に対しての賃金助成が受けられる

 

 

特別育成訓練コース

特別育成訓練コース(旧キャリアアップ助成金の人材育成コース)とは、一般職業訓練や有期実習型訓練、中小企業等担い手育成訓練に該当するコースです。助成金額は賃金助成で475円~960円/時間、経費助成は対象となる訓練時間によって7万円~50万円となっているほか、支給額は1事業1年度当たり1,000万円が上限となっています。

特別育成訓練コースの詳細(事業主向け:厚生労働省PDFパンフレット)

 

【対象】

・Off-JT(一般職業訓練・有期実習型訓練・中長期的キャリア形成訓練・中小企業等担い手育成訓練)

・OJT(有期実習型訓練・中小企業等担い手育成訓練)

 

【特別育成訓練コースで押さえるべきポイント】

・OJT、Off-JTともに助成対象となる

・通信制の訓練(一般教育訓練給付指定講座のみ)も対象となる

 

人材開発支援助成金には、このほかにも建設労働者認定訓練コース、建設労働者技能実習コース障害者職業能力開発コースも設けられています。

 

キャリアアップ助成金

キャリアアップ助成金

キャリアアップ助成金とは、派遣労働者や短時間労働者といった非正規雇用者を対象として、企業内でのキャリアアップに関する取り組みを実施した場合に事業主に支給される助成金で、以下の7コースが設けられています。

キャリアアップ助成金の詳細(事業主向け:厚生労働省PDF資料)

 

 

正社員化コース

正社員化コースとは、就業規則などの制度に基づいて「有期契約労働者等を正規雇用労働者等に転換または直接雇用した場合」に対象となるコースです。助成金額は、転換した雇用形態や企業規模などによっても異なりますが、27万円~57万円となっています。 

【正社員化コースで押さえておくべきポイント】

・正規雇用には、「多様な正社員(勤務地・期間限定正社員、短時間正社員)」も含まれる

 

 

賃金規定等改定コース

賃金規定等改定コースとは、「全てまたは一部の有期契約労働者等における基本給の賃金規定等を増額改定した場合」に対象となるコースです。助成金額は対象労働者数や企業規模などによって異なり、3万3,250円~28万5,000円となっています。対象労働者が11人から100人の場合は1人当たり9,500円~3万6,000円となります。

【賃金規定等改定コースで押さえておくべきポイント】

・賃金規定等を2%以上増額改定した場合に対象となる。ただし、全ての労働者が対象となっているか、あるいは雇用形態別、職種別などを限った改定かによって助成金額は大きく異なる。

 

 

健康診断制度コース

健康診断制度コースとは、「有期契約労働者等を対象に“法定外の健康診断制度”を新たに規定した場合」に対象となるコース。助成金額は企業規模などによって異なり28万5,000円~48万円となっています。

【健康診断制度コースで押さえておくべきポイント】

・対象となるのは、「法定外の健康診断制度」を新たに規定したことに加えて、1事業所あたり4人以上に実施した場合

 

 

賃金規定等共通化コース

賃金規定等共通化コースというのは、「有期契約労働者等と正社員の共通賃金規定等を新しく規定・適用した場合」に対象となるコースです。助成金額は企業規模などによって異なり、42万7,500円~72万円となっています。

【賃金規定等共通化コースで押さえておくべきポイント】

・対象となる有期契約労働者等1人当たり1万5,000円~2万4,000円となっている

 

 

諸手当制度共通化コース

諸手当制度共通化コースというのは、「有期契約労働者等と正社員との間で共通となる諸手当制度を新たに規定・適用した場合」に対象となるコースです。助成金額は企業規模などによって異なり、28万5,000円~48万円となっています。

【諸手当制度共通化コースで押さえておくべきポイント】

・対象となる有期契約労働者等1人当たり1万2,000円~1万8,000円、共通化した諸手当2つ目以降に関しては、1手当当たり12万円~19万2,000円となっている

 

 

選択的適用拡大導入時処遇改善コース

選択的適用拡大導入時処遇改善コースとは、選択的適用拡大の導入に伴い、「社会保険適用となる有期契約者等の賃金引上げを実施した場合」に対象となるコース。助成金額は2万2,000円~16万6,000円となっており、基本給の増額割合や企業規模などによって異なります。

【選択的適用拡大導入時処遇改善コースで押さえておくべきポイント】

・増額割合は3%~14%以上まで5段階に分かれており、助成金額はその割合によって大きく異なる

 

短時間労働者労働時間延長コース

短時間労働者労働時間延長コースとは、「有期契約労働者等の週単位での所定労働時間を5時間以上延長し、社会保険適用とした場合」に対象となるコースです。助成金額は3万4,000円~28万4,000円となっており、企業規模や労働時間などによって異なります。

【短時間労働者労働時間延長コースで押さえておくべきポイント】

・前述の「賃金規定等改定コース」あるいは「選択的適用拡大導入時処遇改善コース」と併せて実施し、労働者の手取り金額が減少しない取り組みをした場合は1時間以上5時間未満の延長でも助成対象となる

 

自治体が独自に出している助成金

厚生労働省に加えて、各都道府県でも独自の助成金を出しており、その中には社員教育に活用できる助成金もあります。例えば、東京都では東京都中小企業訓練助成制度という助成制度があり、概要、対象者、助成対象となる要件などは以下のようになっています。

 

<東京都中小企業職業訓練助成制度>

都内の中小企業または中小企業の団体が実施する短時間の職業訓練に対し、助成金が支給される制度。

 

【対象者(申請者)】

・中小企業事業主(資本金や常用労働者数、産業分類による制限あり)

・共同団体(該当団体や構成員の割合に関する制限あり)

 

【助成対象となる要件】

・Off-JT訓練

・職務に必要となる専門的な技能などの習得や向上、または専門的な資格の取得が目的であること

・交付決定日から定められた期日までに訓練を開始し修了すること

・コースごとに定められている申請者、訓練内容、訓練時間、訓練場所、修了者数に関する要件を満たしている必要がある

 

 

まとめ

ご紹介してきたように、社員教育で活用できる助成金には大きく分けて以下の2種類があります。

 

・国(厚生労働省)が実施している人材開発支援助成金、キャリアアップ助成金

・自治体独自で実施している助成金(東京都中小企業職業訓練助成制度など)

 

社員教育において、上記のような国や自治体実施の助成金を活用できる場合もあります。社員教育を実施する中では、助成金制度の活用を検討してみるのも一案です。今回ご紹介したポイントを押さえながらリサーチすれば、自社に合った助成金が見つけやすくなるはずです。

 

ただし、助成金利用は、申請経験のある担当者もしくは社労士でないと、かなり手間がかかる場合もありますし、助成金制度に合わせようと思うと、適切なタイミングで研修が出来ない、研修内容に制限が生じることもあります。助成金ありきで研修を考えるのではなく、研修を考えたうえで、助成金を当てはめることが出来るかを考えたほうが良いでしょう。

 

なお、助成金制度は年度単位での変更も多く、本記事で基本情報をご覧いただいた後、必ず厚生労働省や所轄行政のウェブページで最新情報をチェックしてご利用ください。

著者情報

知見寺 直樹

株式会社ジェイック 取締役|上海杰意可邁伊茲企業管理咨詢有限公司 副董事長

知見寺 直樹

東北大学を卒業後、大手コンサルティング会社へ入社。その後、株式会社エフアンドエム副本部長、チャレンジャー・グレイ・クリスマス常務取締役等を経て、2009年ジェイック常務取締役に就任。総経理として上海法人(上海杰意可邁伊茲企業管理咨詢有限公司 )の立ち上げ等を経て、現在はHumanResourceおよび事業開発を担当する。

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