採用や定着に悩む企業が多いアミューズメント業界。その中で、ユニフォームをパーカーに変えたことで求人応募数を前年同月比145%に増加させた会社があります。
単なる制服変更ではなく、身だしなみの全面自由化、組織文化の刷新を同時に進めたNEXUSホールディングス株式会社( D’station)。人事戦略部 次長の木村 護氏と、営業部 サブマネージャーの新居 芹花氏に、変革の経緯と現場の実感を伺いました。
<目次>
- アミューズメント業界が抱える採用・定着の課題
- 「パーカーをユニフォームに」という選択に至った背景と意思決定
- 検討時に出てきた懸念
- ユニフォーム刷新と同時に進めた、組織文化の変革
- 数字が示した効果─応募数145%
- 「自分らしく働ける」が生んだもの
- 業界への波及と、コスト面の意外な事実
- 残る課題と、これからの展望
- 取材協力
アミューズメント業界が抱える採用・定着の課題
店内が見えない業界の宿命─イメージの薄さと時給競争力の低下
群馬県で創業したNEXUSホールディングス株式会社は、元々運送業が前身です。そこから事業転換し、現在は全国に68店舗(2026年3月時点)のパチンコホール( D’station)を展開するアミューズメント業界第3位の大手として知られ、パチンコ以外にも飲食・フィットネスなど「人と携わる仕事」を中心に多角的な事業を展開しています。2025年7月には創業30周年を迎えました。
業績は安定する一方で、年々課題となっていたのが従業員、社員やアルバイトの採用と定着です。人事戦略部 次長の木村 護氏は「店内が外から見えないため、実際にどんな仕事をしているのかイメージしづらい。またアミューズメントが少し敬遠されがちな業界というのは今もあります」と話します。
また、以前はパチンコホールは他の仕事と比べて時給が高い傾向にありました。とくに同社の場合、大手法人というアドバンテージを活かし、地方では相対的に高時給という強みがありました。しかし、最近はどの業種においても採用難から全体的にアルバイト時給が上がってきた中で、その差も縮まっています。
業界イメージと時給競争力の低下という二つの壁は、アルバイトスタッフの採用と定着課題として重くのしかかっていました。
「パーカーをユニフォームに」という選択に至った背景と意思決定
世代交代が生んだ、発想の転換
転機となったのは、創業30周年と社長交代が重なったタイミングでした。このタイミングで、創業者・星野敏代表から、星野万里氏が社長に就任しました。そして、新社長が自ら発案・実行に移したのがパーカーへのユニフォーム刷新プロジェクトです。
木村氏は「この取り組みで一番知っていただきたいのは、社長の星野万里が自分自身で考えて動かしたプロジェクトだということです」と強調します。プロジェクトは、社長への正式就任以前から動き出していました。
それまでのユニフォームは、ホテルライクなジャケットスタイル。アミューズメント業界では、接客サービスの質の高さ、おもてなしを前面に出そうとした結果、ホテルのサービスマンのようなユニフォームが業界標準になっています。一方で、「結果的にどこの法人も似たり寄ったりのユニフォームになってしまっていたというのが正直なところ」と言います。
接客品質やイメージを高めようとした業界全体の努力が、皮肉にも画一的な見た目となっていた状況です。
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海外経験が変えた「見た目への固定観念」
新社長・星野万里氏はイギリスへの留学経験を持ち、海外の生活・価値観を体得した人物です。その経験のなかで気づいたのが、「接客の質は見た目には影響されないのではないか」という問いでした。
国内でもユニクロやメガネブランド「OWNDAYS(オンデーズ)」がカジュアルな服装で高品質のサービスを提供していることに着目し、「多様性の時代に、見た目に縛られず、清潔感と品位を保ちながら、従業員が自由に自己表現できる環境をつくりたい」という考えへとたどり着きます。
木村氏は、その着眼点を「接客のクオリティというのは、見た目には影響されないのではないか。それよりも、従業員たちが髪型や髪色、身だしなみについて自由に自己表現できる環境のほうが、働きやすさ、人間味のある接客のクオリティや質につながるのではないかという発想です」と補足します。
検討時に出てきた懸念
「従業員かお客様か分からない」
懸念がなかったわけではありません。最も多かったのは「パーカーでは従業員とお客様の見分けがつかないのではないか」という懸念です。これまでのユニフォームとは明らかに異なるデザインになり、「お客様からスタッフ識別が難しくなるのではないか」という意見は妥当なものです。
対応策として打ち出したのが、ネックストラップ付きの「スタッフ」名札による視覚的な識別の確保です。また同時に、接客そのものの質を高めることを改めて徹底しました。木村氏「見た目が変わるからこそ、接客の姿勢や挨拶を強化するいい機会だと捉えました。名札だけに頼るのではなく、人事戦略部として、接客品質の見直し施策にも同時に取り組みました」と言います。
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「効果が見えにくい」
コスト面の不確かさも議論になりました。アルバイトを含めると相当な人数が対象となります。そのためユニフォームを全面的に刷新するには、一定の費用が生じます。しかし、効果がどの程度出るかは事前に予測しにくい投資です。木村氏は、「会社として効果が予測しづらいのは確かでした。でも、変えなければ現状のまま。そういう考えで進めました」と話します。
パーカーユニフォームの導入は2025年8月。まず新店・Super D’station 東金店でパーカーユニフォームを先行導入し、反応を確認。その結果を踏まえて、全社展開へと移行しました。トップダウンだけでなく、小さく試してから広げるという慎重さもユニフォーム刷新のプロジェクトを支えていました。
ユニフォーム刷新と同時に進めた、組織文化の変革
全面自由化へ─身だしなみ規定の撤廃
ユニフォーム刷新は単独の施策ではありません。ユニフォーム変更に先立って、創業30周年の式典で身だしなみ規定の全面撤廃が発表されました。髪色・髪型・ネイルをすべて自由化するという大胆な転換です。
従前の身だしなみ規定の「男性は黒髪限定」「髪は襟にかからない長さ」といった厳しめのものでした。「業界内でも規定がきっちりしているほうだったと思います。そこから完全に自由という形にかなり振り切って、現場からの反応は非常に好評だった」と木村氏は振り返ります。
さらに同じタイミングで役職呼びを廃止し、全員「さん付け」に統一。部長・店長・マネージャーといった呼称をなくし、組織をフラットにしていく動きも一気に進めました。木村氏は「相談のしやすい環境、風通しのいい職場というのが、かなり整っていったと感じています」と話します。
身だしなみの自由とパーカーは、セットで意味を持つ
こうした流れのなかで、ある種のシンボルとして進んだのがユニフォームのパーカー化です。「身だしなみが自由になったとき、今までのカチッとしたユニフォームでは合わない部分が出てくるというのは自分自身も感じていましたし、現場からも意見が上がっていました。パーカーやTシャツで、自分の髪色や髪型に合わせたデザインや色を選べるというのは、身だしなみ自由化と非常にマッチした施策でした」と木村氏は話します。そして、身だしなみ規定の改訂とパーカーユニフォームという施策が複合的に組み合わさったことが、応募数や従業員満足度への効果をより高めたと見ています。
パーカーのデザインと色は従業員が自由に選べる形とし、事前アンケートで全員の意見を収集。店舗ごとに配色のバリエーションを用意しました。ボトムスとシューズは私物の自由着用とし、パーカーまたはTシャツのアウターを会社支給という形をとっています。「従業員の意見をしっかり尊重して取り入れた。一番自身が働きやすいユニフォームを選んでもらうという姿勢を大切にしました」と言います。
数字が示した効果─応募数145%
求人写真が変わり、若年層の応募ハードルが下がった
パーカー導入後、求人応募数は前年同月比145%に上昇しました。2025年7月以降、応募数が前年比100%を下回る月は一度も出ていません。変化の背景を木村氏はこう分析します。「まず身だしなみ自由化によって若年層の応募の敷居が下がったこと。そしてもう一つが求人媒体に使う写真が大きく変わったことです。今まではホテルマンのようなカチッとしたユニフォームで笑顔の写真が定番でしたが、パステルカラーのピンクや白、明るいブルーのパーカーを着た写真になって、これがユニフォームなの?という驚きと親しみが生まれています。今まで弊社の求人ではできなかった若年層への訴求効果が、相乗効果として出てきています」。
ただし、145%という数字は一つの施策だけによるものではない、とも言及します。「どの求人媒体が効果的かを人事戦略部で常に試行錯誤しており、様々な複合的な要因があっての数字です。ただユニフォームを変える前と後で明らかに違うというのは、数字としてはっきり出ています。ユニフォームを変えたことの成果は非常に大きいです」。
「自分らしく働ける」が生んだもの
初めてパーカーを着た日の驚きと喜び
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店舗スタッフとして勤務し、また、新卒採用のリクルーターとしても活躍する営業部 サブマネージャーの新居 芹花氏は、30周年式典でパーカーユニフォームへの刷新を初めて知ったといいます。「今までのユニフォームは落ち着いた色のホテルマンのようなカチッとしたデザインだったので、本当に大胆なデザインとカラー展開にまず驚きました。思い切った方向転換、カジュアルなものに変わったという驚きが、最初の正直な印象でした」。
「実際に着てみると、印象はすぐにポジティブに変わりました。私たちは店舗内で動き回ることが多い仕事です。Tシャツやパーカーになって、とにかく動きやすくなりました。ボトムスやシューズは自分の私物で選べるので、自分の個性を出しながら働けるというのもすごくポジティブでした」と新居氏は話します。
「その日の気分で選べる」が、仕事への気持ちを変えた
自分らしさを出せる環境が、仕事への向き合い方にも直結しています。「カラー展開やデザインが豊富な中から、その日の気分で着たいものを選べるというのが、より自分らしく働けることにつながっています。自分の好きなものを身につけることで気持ちが明るくなります。接客がメインの仕事ですので、それがお客様とのコミュニケーションにも直結している実感があります」。
変化は個人の気持ちだけにとどまりません。「従業員同士でも『今日この色着てるんだね』といった会話が増えて、職場の雰囲気が明るくなり、従業員同士の距離も近くなった実感があります」と新居氏は続けます。
お客様との距離が縮まり、接客に新しいきっかけが生まれた
お客様からの反応も想定以上でした。「ユニフォームが変わってすぐの頃は、常連のお客様から『制服変わったの?』『今日なんか違うね』と、声をかけていただくことが多かったです。髪色等を褒めていただけることが増えて、そこから会話が自然に広がるケースも多くなりました。これまでなかった接客のきっかけが生まれるようになっています」。
一方で、お客様とスタッフの見分けがつきにくいという意見も一部あったと言います。新居氏は「“従業員である”ことをしっかり行動で示していくことが大切だと思っています。そういった声に対しては、接客の部分をより丁寧にすることが大事だと現場でも共有しています。」と話します。
一連の動きで、会社への印象も変化したと言います。「時代に合わせた取り組みを大胆にやってくれた。若い世代の個性を尊重してくれる会社なんだという印象になりました。社員の意見を取り入れてくれる、風通しのいい会社だなという感じ方は、ユニフォームの変化がきっかけになっていると思います。そういった部分が、長く働きたいという気持ちにもつながっています」。
新居氏はリクルーターとして学生向けの合同説明会にも参加していますが、そこでも手応えを感じると言います。「ユニフォームが変わりました、身だしなみが自由になりましたという話をすると、学生からのポジティブな反応がとても多い。食いついてくれる感覚があります」。
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業界への波及と、コスト面の意外な事実
取り組みが業界全体に広がった
自由化の影響は、社内だけに留まりません。「弊社がパーカーユニフォームと身だしなみ自由化を打ち出したことで、他の大手や中小も、一人ひとりの個性を尊重するというワードを打ち出すようになり、求人票やプレスリリースで同様の取り組みを発信し始めたところが出てきました。弊社の規模で実施した施策に、他社がすぐに同じことをやるという事例はこれまでなかったのですが、今回は業界内に波及していった実感があります」と木村氏は言います。
ランニングコストは低下
コスト面で意外な事実もありました。全面的なユニフォーム刷新は、一見すると費用がかかる取り組みに見えますが、実際には年間のランニングコストは低下しています。「10年前に変えたホテルライクなユニフォームは、夏はベスト付き、冬はロングジャケットがありました。ユニフォームの製作費に加えて、全従業員分のクリーニング代はかなりの費用になっていました。今はパーカーまたはTシャツのアウターが会社支給で、ボトムスやシューズは各自の私物です。会社が支給するのが上着だけになったことで、年間のランニングコストは低下しました」と木村氏は話します。
経費は減りながら、従業員満足度と採用効果が上がる。コストと効果の両面でポジティブな結果が出る施策となっていることも、注目すべき点です。
残る課題と、これからの展望
給与面の改善が、次のステップ
成果が出ている一方で、課題もまだまだあると言います。そのひとつが給与水準だと言います。木村氏は「採用や定着の観点から、給与面についても当然考えています。具体的な内容はまだお伝えできる段階ではありませんが、近いうちにご紹介できればと思っています」と話します。
ユニフォーム刷新で応募は増えたものの、時給水準によっては他社に流れてしまうケースも依然としてあります。働く環境・文化の改善と、給与面の充実をセットで進めていくことを、次のステップとして明確に意識されています。
ユニフォームは「10年使うつもりはない」─常に見直す姿勢
「今回パーカーにしたからといって10年使おうとは全く思っていない」──それが星野社長の言葉です。「定期的に社内アンケートを実施しながら、使いづらい部分や改善点を少しずつブラッシュアップしていきます。数年後にはまた時代に合わせた別の形に変えることも視野に入れており、常に見直しをかけていく姿勢でいます」と木村氏は言います。
今回の取り組みは、「ユニフォームを変える」という表面的な話だけではなく、働く環境や組織文化を変える、自分らしく働ける場を作るという経営姿勢の転換を、「ユニフォーム」をシンボルとして伝えている点です。インパクトのあるシンボルを活用して、多くの会社が悩む人手不足・採用難に挑んだ事例から学べる点は何でしょうか。






