新卒採用を行なっている企業では、内定者フォローに悩む担当者も少なくありません。一般的な採用スケジュールでは、6月上旬に内定を出した後、入社までに10ヵ月ほどの期間があることになります。
早期採用を行なっている企業では3年次に内定通知・承諾をもらうことも珍しくなく、入社まで1年以上開くケースもあります。内定後は主導権が学生にうつりますので、内定辞退を防ぎ、無事に入社してもらうためには内定者フォローが重要です。
記事では、内定者フォローの重要性や内定者が望んでいること、有効な施策を解説します。
<目次>
内定者フォローはなぜ重要か?
内定者フォローの対象は2種類あり、1つは「内定を出してまだ承諾していない人」、もう1つは「内定を承諾した学生」です。
前者は「内定承諾」、後者は「辞退防止(意欲高い状態での入社)」が目的となり、採用活用ではどちらの内定者フォローも重要な取り組みになります。ただし、両者は目的が異なることから、アプローチの方法を変える必要がありますし、ポイントも変わります。
「内定を出してまだ承諾していない人」の内定承諾を獲得するためには、学生の気持ちを内定までになるべく高め、内定承諾してくれる状態で内定を出して、即承諾をもらえるのが理想的です。
採用活動における主導権は「内定を出したあと」から内定者側へ移りますので、気持ちが高まっていない状態で内定を出して内定保留になると、後から内定承諾をもらえる可能性はかなり低いです。
しかし、現実的にはすべての学生から即承諾をもらえるわけではありません。内定保留者が一定人数存在するようであれば、フォローする仕組みを作っておく必要があるでしょう。
また、最近は内定承諾後に就職活動を継続する学生が増えています。従って、内定承諾後のフォローも欠かせない取り組みです。
どちらにせよ、内定者フォローがうまくいかず辞退されてしまえば、選考に費やした工数が無駄になってしまいます。特に新卒採用の場合は、採用活動の終盤・終了後に辞退が生じてしまうと、もう一回母集団形成して同じレベルの人材を1名採用する難易度が高く、内定者フォローは欠かせない取り組みです。
内定者が内定者フォローに望むこと
内定辞退が生じる大きな理由は「不安」です。学生は「説明会や面接で言われた内容は本当なのか」「本当にこの企業でいいのか」といったさまざまな不安を抱えており、不安が解消されない場合に内定を辞退することになります。
内定者にとって「この企業を選ぶ」ことは「他の企業という選択肢を捨てる」ことです。人間の心理として、何かを捨てる際には不安が付きまとうものですので、安心して意思決定・入社してもらうためには不安を取り除くことが大切です。
つまり、内定者フォローで必ず生み出すべきものは「安心感」です。もちろん入社に向けた「ワクワク感」等も大切ですが、「安心感)がない状態で「ワクワク感」を生み出すことは困難です。
まずは内定者や内定承諾者にどのような「不安」があるかを想定して、解消するためのフォローを行なっていくことが基本です。
内定承諾前の不安
・『説明会などでいわれてきたことが本当か確認したい』
必要な情報は説明会や面接の中で伝えているはずですが、それでも学生の心には「本当なのか?」という不安が生じるものです。
不安やネット上の情報から「企業は採用するために良いことだけを伝えている」と考える学生も増えており、自社の良い側面ばかり伝えてしまうと、逆に「嘘じゃないのか?」「本当なのか?」という不安が生じやすくなってしまいます。
したがって、良い情報だけでなく、ネガティブな情報も共有したり、違う人・違う側面から同じ情報を繰り返し発信したりするのが効果的です。
・『企業の雰囲気を詳しく知りたい』
企業としては座談会や選考を通じて学生に情報を伝えているつもりですが、「信じていいのか?」「他の選択を捨てていいのか?」という気持ちを背景に、「自分が納得するまで確認したい」という心理が学生には生じます。
特にオンライン採用が主流となった昨今、企業の雰囲気などに対する不安は以前よりも生じやすくなっています。
なかには自分の目で確かめないと安心できないという内定者も多いため、実際に企業の雰囲気を確認できるようなイベントなどを計画するのが効果的です。
・『どんな人が同期になるのかを知りたい』
内定承諾を考える際に、自分以外の内定者(同期)が気になる学生も多くいます。優秀な人材ほど「誰と一緒に働くか」を意識する傾向が強いため、内定者同士の交流の場をつくることがおすすめです。
ただし、交流した際に「雰囲気が合わない」「レベルが低い」と感じると、内定辞退を促す結果にもなり兼ねないので、「誰と会わせるか・どのような場をつくるか」はしっかりと設計する必要があります。
内定承諾後の不安
内定承諾後に生じる不安も、基本的には内定前の不安と同じです。内定承諾後は、選考段階に比べてコミュニケーション頻度が落ちる傾向にあるため、「本当にこの企業で良かったのか?」という不安が生じやすくなります。したがって、「あなたの選択は間違っていない」と承認し続けてあげることが大切です。
不安を解消するうえで最も重要になるのは接触頻度です。
内定承諾後は誰しも不安が強まるものです。人事からの定期的な情報発信やリクルーターからのコミュニケーション、内定者アルバイトなどによる接点、内定者プロジェクトなどを通じた内定者同士のコミュニケーションを実施し、企業と内定者の接点が途絶えないようにしましょう。
内定者フォローに有効な施策
内定者フォローに効果的な施策として、基本となる4つの施策を紹介します。
座談会や懇親会
接触頻度を増やすことは内定者フォローの基本であり、最も効果的な施策です。特に座談会や懇親会は、顔を合わせた双方向のコミュニケーションが可能となります。SNSや電話などでの接触に加えて、定期的に実施するようにしましょう。
オンラインであれば遠方の内定者も気軽に参加できますし、参加する社員も拠点などを選ばずに依頼することが可能です。SNSなどでの軽い接触をはじめ、オンラインイベントでの定期的な接触や、内定式や対面での接触等を組み合わせてフォローを行なっていきましょう。
なお、座談会や懇親会は企業や社員の雰囲気が感じられやすい分、悪印象を与えてしまうこともあります。一度悪印象を与えてしまうと覆すことは難しいので、参加社員の選定や態度・言葉遣いなどには十分注意が必要です。
連絡をとりやすい環境
SNSなどのコミュニケーションツールを導入し、人事から定期的に情報を発信したり、内定者が気軽に質問・反応できる環境を作ったりするのもおすすめです。
SNS等でのコミュニケーションは、レスポンスの速度、既読・未読の状態から内定者の入社意欲を測る材料を得ることもできます。レスポンスが遅かったり、未読が多かったりする場合は、入社意欲が落ちている可能性が高いので、個別に連絡すると良いでしょう。
個別の連絡以外では、1対1や数人での面談等も有効です。座談会や懇親会は十分なコミュニケーションが取りにくかったり、ネガティブな意見や懸念事項は出にくくなったりします。したがって、個人が本音で質問・発信しやすい場をつくることも意識しておきましょう。
内定者研修やワークショップ
内定者研修やワークショップ、イーラーニングなどの入社前研修プログラムを実施すると、内定者の不安を和らげる効果が期待できます。
入社後に必要となるスキルや資格などの勉強をしてもらうことで、「この企業で本当に良かったのか?」という不安を軽減させ、入社後の自分をイメージしてもらいやすくなります。また、他の内定者と一緒に研修を受けたり、作業したりすることで一体感が生まれ、モチベーション維持にも効果が期待できるでしょう。
ただし、いきなり難易度の高い研修をしてしまうと「ついていけないかも」という不安を生み、離脱者が出てしまうこともあります。実施の難易度は、内定者の状況と照らし合わせて検討するようにしましょう。
状況把握と納期の設定
内定承諾前の「本当にこの企業で良いのか?」という悩みには終わりがありません。したがって、内定承諾に向けたフォローにおいては、内定者の状況を把握したうえで、承諾の期日を設定することも有効です。
期日を設定する際には、「何が引っ掛かっているのか」「どうやって就活を終えれば納得できるのか」をフラットな立場で話し合い、「いつまでにどのような状態になるのがベストであるか」の合意をとると良いでしょう。
承諾期日までの間は、内定者と年齢が近く、比較的志向性が似ている社員をリクルーターとして付ける手もあります。気軽に質問・相談ができる環境をつくることで、内定者の不安を解消しやすくなるでしょう。
内定者フォローの事例
内定者フォローは、前章で紹介した以外にもさまざまな施策があります。いくつか紹介しますので、自社に適した施策を検討する参考にしてください。
内定者自身による活動(内定者プロジェクト)
内定者プロジェクトは、内定者に翌年の採用活動に取り組んでもらったり、内定者の立場でSNS発信をしてもらったりと、内定者自身に活動してもらう施策です。ベンチャー企業などを中心に広く実施されており、企業側の立場に巻き込んでしまうことで、「この企業でいいのか」という不安が生じにくくなります。
ただし、内定者に活動してもらううえでは、労務的な管理(時給を支払う対象と自主的な活動範囲の区分けなど)やコンプライアンスにも注意が必要です。
入社前のブラザーシスター制度
ブラザーシスター制度とは、新入社員一人ひとりに対して相談相手となる先輩社員をつける制度です。本来は新入社員が対象になりますが、入社前の内定承諾者に実施するのも効果的です。
内定承諾者がいても、人事はまだ採用活動の真只中であることはよくあります。特に数十人規模の採用をしている場合、内定承諾者全員をケアすることはとても難しいでしょう。ブラザーシスター制度を導入することで、内定者への細かなフォローが行ないやすくなります。
SNSの活用
気軽に発信ができるSNSは、内定者のフォローにも有効です。LINEやSlackなどでグループを作って、人事から発信したり、内定者と交流を持ったりすると、接触頻度を保ちやすくなります。
例えば、グループウェアを提供するサイボウズ株式会社では、自社サービス「サイボウズLive」を活用した内定者フォローを行なっています。SNSのような感覚で近況や写真を投稿することができるため、コミュニケーション頻度が保たれるとともに、連帯感も高められます。また、自社商品やサービスの理解を深めるのにも効果的な施策です。
内定者アルバイト
入社前に実際の現場で働いてみることで、帰属意識の向上や入社前研修としての効果が期待できます。また、内定者アルバイトは組織側の工数をあまり割かずに内定者との交流をつくれる施策でもあります。
採用人数によっては実施が難しいこともありますが、入社後の仕事をイメージしたり、社内メンバーと人間関係を構築したりするうえでも内定者アルバイトは効果的です。採用時にはわからなかった内定者の個性や強みが見える可能性もあるでしょう。
ただし、社内の日常もすべて伝わることになるので、辞退の引き金となるリスクもあります。
入社後のキャリアプラン形成
内定者研修やワークショップを通じて、入社後のキャリアプラン形成などを行なうのも有効な施策です。例えば株式会社ニトリホールディングスでは、内定者フォローに入社から定年までのキャリアプランを10年単位で考えていく「エンプロイー・ジャーニーマップ」を導入しています。
入社後の10年でどこに配属され、どのような仕事をしたいか、どのようなスキルを身に付けたいかを具体的に描くことで、「この企業で良かったのか?」という入社前の不安を軽減できます。
また、プログラムを工夫して、各部門や職種で学べることやキャリアに必要な経験などをレクチャーすることで、配属後のギャップも軽減できるでしょう。
まとめ
内定者フォローは、内定承諾率の向上や承諾後の辞退を防止するうえで欠かせない取り組みです。座談会や懇親会の開催、内定者研修などで内定者との接触頻度を保ち、双方向の関わりを通じて内定者の「本当にこの企業で良いのか?」という不安を解消することが重要になります。
内定者フォローにはさまざまな施策があるので、他社の事例を参考にしつつ、自社に最適な施策を導入しましょう。内定者が安心して入社できるよう、積極的に取り組んでいきましょう。