「内定」は、企業がすべての選考を通過した応募者に採用通知(内定通知)を出すことを指します。
それでは、内定と内々定の違いとは何でしょうか? 意外とあいまいに使われていたり、微妙なニュアンスがあったりすることもあり、HR関係者を除くと、きちんと説明できる方は意外と少ないかも知れません。
本記事では、新卒採用で耳にすることの多い「内定」と「内々定」をテーマに、意味の違い、また、企業による内定取り消しの可否、人事担当者が押さえておくべきポイントを解説します。
<目次>
内定と内々定の違い
最初に、内定と内々定の違いについて確認します。
内定とは?
一般的に「内定」とは、企業がすべての選考を通過した応募者に採用通知(内定通知)を出すことを指します。
採用通知には、いつから働き始めるかといった条件や、内定を取り消す場合の取消事由などが書かれており、「会社として正式に採用したい」という意思表示にあたるものが内定通知です。
一般的に、応募者は内定通知の内容をふまえて、内定承諾書にサイン・捺印をして企業に提出する流れとなります。
なお、「内定を出す」という場合の内定は、上記の通りですが、内定承諾を提出した状態を「内定」と呼ぶこともあります。
たとえば、「内定状態」などという場合の“内定”は、主に「内定承諾から入社まで期間」を指すことが多いでしょう。
なお、“労働条件通知書を兼ねた内定通知”が発行され、それを確認したうえで学生や応募者が承諾書を提出すると、その時点で労働契約が成立すると解釈されています。
内定と内々定の違いは?
「内定」に対して、「内々定」は「正式に内定を出す前に、口約束で内定を出そうと思っている旨を伝える」といった意味合いで使われる言葉です。
内々定は、とくに新卒採用の領域で使われる言葉であり、新卒採用スケジュール(いわゆる“就職協定”や“採用協定”)を形上で守るために編み出された言葉という側面があります。
2023年時点で政府が主導する新卒採用スケジュールでは、4年次の6月1日が選考解禁、そして、10月1日が内定解禁となっています。
従って、スケジュールを守ろうと思うと、10月1日以降でないと正式には内定を出せないということになります(だからこそ、10月1日に各社で内定式が実施されます)。
それに対して、たとえば、6月1日選考解禁までに面談を重ねて実質の内々定を伝える、また、6月の1週目に一気に選考を実施して、内々定を通知するといったことが実施されています。
法律上、契約などは書面でなく口頭であろうが成立するということは知っている方が多いでしょう。
その意味では採用オファーとしての「内定」と「内々定」はほぼ同義であるといってもよいでしょう。内々定だからといって、企業が一方的に取り消したりすることはできません。
ただし、「内々定」の場合、基本的には口頭で実施されるため、取り消されたとしても応募者は泣き寝入りになってしまいがちです。
また、内々定の場合には、一般的に労働条件の通知・書面の交付は実施されませんので、承諾の意思を伝えたとしても労働契約は成立しません。このあたりが内定と内々定の違いと言えるでしょう。
企業側による内定取り消しが認められるケース
内定・内々定、いずれの状態にしても、基本的には求職者側から辞退することはまったく問題ありません。
職業選択の自由が大原則であり、内定や内々定の辞退に対して拒絶したり条件を付けたりすることは出来ません。
一方で、労働者保護の観点から、企業側から内定取り消しをすることはかなり強い制約があります。
とくに労働条件通知書を兼ねた内定書を交付して承諾をもらっている場合は労働契約が成立していると解されますので、その状態での内定取り消しは「解雇」と同様の扱いです。
そうでない場合にも、基本的には内定取り消しが認められるケースは解雇の基準に準じるものであり、内定取り消しをする正当かつ合理的な理由がなくてはなりません。
本章では、企業側による内定取り消しが認められる可能性があるケースを解説します。
就業開始日までに学校を卒業できなかった場合
内定者が就業開始日までに大学や専門学校を卒業できなかった場合、採用の前提条件である学校卒業が満たされない、入社日が守れないため、企業側からの内定取り消しが認められます。
入社後に想定していた業務の遂行が難しくなった場合
怪我や病気によって入社後に想定していた業務の遂行が難しくなった場合も、内定の取り消しが認められる可能性があります。
ただし、この場合でも、内定を取り消さざるを得ない合理的な理由として認められる場合に限ります。
たとえば、業務の遂行に支障のない範囲の病気やケガ、また、企業側が内定前段階で応募者の健康問題を知っていた場合などは、内定の取り消しは認められません。
経歴詐称など、重大な虚偽申告があった場合
経歴詐称など、重大な虚偽申告があった場合も、内定取り消しが認められる可能性があります。経歴とは、新卒であれば学歴や資格、中途であれば前職での職位や業務経験、保有資格、犯罪歴などです。
これらの情報は、採用選考において、応募者の適性や能力を判断するための重要な項目とされているためです。
ただし、これらの経歴を詐称していたとしても、詐称の程度によっては取り消しが認められないケースもあります。
刑事事件などで逮捕された場合
入社までの間に、内定者が犯罪や反社会的行為を行ったり、刑事罰を受けたりした場合も、内定取り消しが認められる可能性が高いでしょう。
ただし、犯罪や刑事罰を理由とする場合、その行為に対して内定を取り消さざるを得ない客観的な合理性や社会的な相当性がなくてはいけません。
例えば、マスコミで報道されるレベルの犯罪で処罰されたなどの場合であれば、内定者を採用した会社の社会的信用性を損なうリスクが考えられるため、認められる可能性は高いでしょう。
逆に、軽微な違反や過失など、内容や程度によっては、内定取り消しは不当とみなされる場合もあります。
反社会的勢力とのつながりが認められた場合
内定後に、内定者が反社会的勢力と関係を有していることが調査等で判明した場合も、内定を取り消すことが認められています。
これは、2007年に政府が発表した「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針」に従い、各都道府県が「暴力団排除条例」を制定したことが背景にあります。
これに伴い、求人企業は「反社会的勢力に対する基本姿勢の宣言」や、契約書に反社条項(暴排条項)を記載することが義務付けられています。
ただし、反社会的勢力との関係性が低いなど、程度や内容によっては、内定取り消しが不当とみなされる可能性があります。
業績悪化等、経営上やむを得ない事情が生じた場合(整理解雇の4要件を満たす必要あり)
上記で上げたのは、いずれも内定者側の事由によって、内定取り消しが認められる可能性のあるケースです。
これに対して、労働契約成立後に企業側から一方的な内定取り消しを行う事は、解雇と同等の扱いとされ、原則として認められていません。
ただし、業績悪化等、経営上やむを得ない事情が生じた場合は、以下に挙げた整理解雇の4要件を満たした場合に限り、例外的に内定取り消しが認められる可能性があります。
- 1.人員削減の必要性が認められること
- 2.解雇回避のために会社が尽力したこと
- 3.解雇対象者の選定に合理性があること
- 4.対象者に必要な説明を行うなど、解雇手続きに妥当性があること
整理解雇の4要件の詳細は、日本労働組合総連合会のホームページにて確認ください。
(参照元)日本労働組合総連合会|労働相談Q&A
人事担当者が押さえておくべき内々定から内定までの実務
記事の最後では、内定通知を出すタイミングや内定通知書の出し方など、内々定から内定までの実務において、人事担当者が押さえておくべきポイントをお伝えします。
内々定から内定通知までの流れ
企業によって流れは様々ですが、新卒採用における内々定から内定通知までの流れを簡単に説明します。
- ・応募者に内々定の連絡をする
- ↓
- ・内定が決定した応募者に内定通知書と内定承諾書を送る
- ↓
- ・応募者が内定承諾書に署名と捺印をして内定承諾書を企業に提出する
- ↓
- ・内定承諾書を受け取り、これをもって採用を決定する
内々定および内定の通知を出すタイミングについて
新卒採用で上述した政府主導の採用スケジュールを遵守する場合、内々定の通知は卒業年度の6月以降、内定の通知は10月1日以降となります。
ただし、政府主導の採用スケジュールはあくまでも「要請」であり、とくに強制力があるものではありません。
従って、現在では、形式上だけでもスケジュール守っているのは一部の大手企業に限定されるといっても過言ではありません。
もはや名残として、10月1日(第1営業日)に内定式を実施している企業は多い程度といえるでしょう。
内定の連絡方法について
正式に内定が決まった際、企業側が最初に行うべきことは、応募者への連絡です。
応募者にとって、選考結果の連絡は非常に重要です。たとえ自社の優先度が高かったとしても、内定の連絡を受け取るまでは就職活動を継続する応募者は多くいるはずです。
応募者の不安を和らげるためにも、内定を出すことが決まったら、電話かメールを使い、合格した旨を迅速に伝えるようにしましょう。
その際、内定通知書などの書類を後日送付することも、同時に伝えておくと良いでしょう。
内定通知書および内定承諾書について
内定の連絡を行った後は、内定手続きに当たり必要となる内定通知書および内定承諾書を作成して応募者に送付します。
【内定通知書】
内定通知書は、内定を決めた応募者に対して、正式に内定の事実を知らせる書類です。
内定通知書はとくに法的な書類ではなく、発行義務はありませんが、求職者への安心感としても作成・送付するのが一般的です。内定通知書には、以下に示した事項を記載すると良いでしょう。
- 応募へのお礼、および採用が決定した旨の通知
- 差出人(代表者もしくは人事責任者の名前を記入)
- 入社日(中途など入社日が決まっていない場合は、いつまでに案内するかを記載)
- 同封書類の一覧
- 入社までに提出が必要な書類の案内
- 担当者の連絡先
※なお、内定通知書を労働条件通知書を兼ねるものにする場合は、上記以外に労働条件通知書の所定項目を満たす必要があります。
【内定承諾書】
内定承諾書は、内定者がその企業に入社する意思表示を示すための書類です。内定承諾書は内定通知書と一緒に同封し、内定者には記名・捺印の上、企業に返送してもらうようにしましょう。
内定承諾書では、主に以下の項目を記載します。
- 宛名(代表者の名前を記入)
- 内定者自身に記入してもらう項目(日付、署名、捺印)
- 内定者が入社を承諾する旨
- 入社に関する注意事項
書類送付後の対応について
内定通知書および内定承諾書の送付後は、内定者からの返答を待つことになります。企業側にとっては、内定承諾の連絡が来るのが望ましいわけですが、実際には辞退の返事が来ることもあります。
内定辞退の連絡を受けたら、選考を受けてくれたことに対するお礼を伝えましょう。
内定辞退はどうしても一定数出てしまうものですが、内定者への関わり方の工夫で承諾率を上げることも可能です。
HRドクターでは、内定承諾率を少しでも向上させる方法を解説した記事を掲載しているので、ご興味あればご覧ください。
まとめ
記事では、内定と内々定の違い、企業側から内定の取り消しが認められる可能性のあるケースについて、および、内々定から内定までの実務の流れについて解説しました。
内定(内々定)は、企業にとっても応募者にとっても大きな意味を持つものです。そのため、内定が持つ意味合いを正しく理解し、適切に対応することが求められます。
内定(内々定)を出す際には、応募者の意思や状況を尊重し、丁寧なコミュニケーションを心がけましょう。本記事をご覧になり、採用活動の参考になれば幸いです。
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