企業が事業を一気に成長させたいとき、ビジネスモデルによっては、大量採用が必要になることがあります。
一方で、近年では、誰もが口コミを投稿できる形にインターネット社会が発展した中で、企業活動に向けられる社会の目は厳しくなっています。
なかには、「大量採用=従業員を使い捨てにする、離職率が高い」といったイメージを持つ人もいます。
今の時代に大量採用を成功させるには、悪評につながるリスクなども把握したうえで、獲得した人材の定着や活躍につながるポイントを押さえて取り組んでいく必要があります。
記事では、新卒と中途における大量採用の必要性と大量採用に関するリスクを確認したうえで、大量採用を成功させるためのポイントを紹介します。
<目次>
大量採用の必要性
多くの場合、正規雇用の大量採用は、以下のような目的・背景で必要になります。
- 1.中長期的な成長戦略・事業計画
- 2.中長期的な組織の維持
たとえば、「5年後に関西で首都圏と同規模の事業本部を開設する」という計画がある場合、開設を見越して採用を大幅に増やす必要があるかもしれません。
また、組織構成を見た際に特定世代の構成比率が高く、一気に定年退職することが想定される場合、計画的に新卒採用を大量にする必要があるかもしれません。
中途における大量採用の場合には、新卒よりももう少し短期的な視点で実施されるケースが多く、事業計画の実現に向けて実施されることが多いでしょう。
たとえば、「関西拠点を設立して、一気に営業を強めたい」「インサイドセールス部門を強化するのに一気に採用する」といった背景です。
特に労働集約型のビジネスモデルの場合、高い成長率を実現するためには大量採用が必要になってくる側面があります。
他にも上記のようにエリア展開にともなって一気に採用が必要となるケースもあるでしょう。
なお、非正規雇用の場合、中途採用以上に短期的な事業・成長計画に対応する目的が多くなるでしょう。
- 今年の12月に首都圏最大級の物流センターを開業する(⇒検品とピッキング担当者を大量採用)
- コロナ禍による顧客ニーズの変化に対応するために、オンラインサポートを強化したい(⇒コールセンター担当者の大量採用)
大量採用に関するリスク
冒頭で紹介したとおり、近年では、企業の社会的責任に関する意識が高まり、かつSNSなどが発達した中で、企業に向けられる目が厳しくなっています。
こうしたなかで大量採用を行なう際には、以下のリスクに注意する必要があります。
風評リスク
社会的な価値観が変わったなかで、「大量採用=大量離職」と見られる側面があり、大量採用をすることで社外に「ブラック企業」といった印象を与える可能性も考えられます。
特に新興企業が高い成長率を実現するためには、いまの従業員数に対して多くの人材を採用する場合(たとえば現社員数の20%以上を採用するケースなど)、「あの企業は大丈夫かな?」という見られ方をすることも増えるでしょう。
こうした見方をされないためにも、日頃からCSR(企業の社会的責任)を意識した経営を行ない、労働者を守る取り組みのアピールをしておく必要があります。
育成工数やノウハウの不足
過去に大量採用をしたことがない場合、育成ノウハウの不足や育成工数の不足が問題になることがあります。
たとえば、採用した人材が思うように活躍しないなどの場合、採用側にそのような気がなくでも、結果的に大量離職となってしまうこともあるでしょう。
最近では、OPENWORKなどの口コミサイトもあるため、退職者に悪評などを書き込まれると、先々の採用にも影響が出てきます。
したがって、大量採用する場合には、採用を成功させることも大変ですが、しっかりと定着・活躍させられるように採用基準を維持したり、受け入れを準備したりしておくことが非常に大切です。
事業環境の変化
大量採用は、実施する時点では、事業上の勝算や必要性があって行なうものです。
一方で、実際に新人が入社してくる時点で、大量採用の計画段階から事業環境が変わっている場合もあるでしょう。
日本で正規雇用(無期雇用)した場合、雇用調整することは非常に難易度が高くなります。
したがって、労働集約型で人件費比率が高いビジネスモデル、P/L構造になっている場合は、事業環境の変化に対するリスクも検討して、本当に正規雇用で大量採用して良いのかも十分に検討する必要があるでしょう。
特に新卒採用の場合、ある程度の早期採用を実施しようとすれば、採用活動の開始から入社まで1年半~2年かかります。
景況感含めて外部環境が変わることもありますので、注意が必要です。
大量採用を成功させるポイント
たくさんの人材を採用しても、その数年後に大半が離職してしまったり、企業が求める活躍をしなかったりすれば、大量採用の意味がなくなります。
一方で、大量採用をする場合、基本的なオペレーションをするだけでも、かなりの工数がかかってくるものです。
大量採用を成功させるには、以下のポイントを意識しながら採用活動を進めるとよいでしょう。
複数チャネルの有効活用
大量採用を成功させるには、やはりそれだけ多くの母集団が必要です。
採用基準を妥協しないためにも、母集団の余裕のあるなかで面接などの選考を行なっていけることが理想的です。
そのためには、1つの採用チャネルに依存して求職者を待ち続けるのではなく、採用チャネルを手広く広げておくことが大切になります。
RPO(採用代行・アウトソーシング)の活用
先述のとおり、たとえば、「新拠点の設立に向けて50人の中途採用をする」となれば、既存の人事メンバーだけではとても業務がまわらないことも多いでしょう。
残業などをすることで採用業務を回せたとしても、担当者の負担が大きくなれば、面接の質の低下や連絡ミスなどが生じやすくなりますし、いまの時代には労務的な問題も生じます。
このように大量採用にともなう一時的な工数を吸収するには、採用代行サービス(RPO)を活用することもおすすめです。
RPOで、採用活動の各プロセス、特に単純作業部分を切り出すとよいでしょう。
内定者フォロー
採用活動は、自社に合う人材を獲得して終わりではありません。
コストをかけて獲得した内定者を入社させたあとは、組織になじませ、活躍してもらい、定着させることまでできて、初めて採用活動の成功といえます。
近年では、新卒の通年採用が一般的になったことで、特に新卒学生の内定辞退が増えている実情もあります。
たとえば、内定通知からすぐに入社する場合、内定者フォローはあまり必要ないかもしれません。
一方で、新卒採用や新店舗のオープニングスタッフなどで入社まで期間が空く場合は、以下のような内定者フォローにも力を入れ、接触頻度を高く保つ必要があるでしょう。
- 不安の解消につながる定期的な情報発信
- SNSやWebツールを使った双方向かつ定期的なコミュニケーション
- 内定者同士のコミュニケーション機会と人間関係の醸成(新卒の場合)
- 座談会や交流会による魅力の再訴求(新卒の場合)
- 内定者アルバイト(新卒の場合) など
育成体制の整備と仕組み化
大量採用した人材が組織に馴染み、自分の能力を発揮できるようにするには、オンボーディングの考え方に基づく育成の仕組みと体制を整備しておく必要があります。
特に急成長を志向する場合、現場での受け入れだけに任せてしまうと、業務面のスキル指導はある程度できても、しっかりとした育成計画が作られない、マインド面や業務ノウハウ以外の組織社会化のケアが不十分になりがちです。
オンボーディングによる基本的な仕組みとしては、新人が短期離職する代表的な原因である以下の5つを解除できるものを考えていくのがおすすめとなります。
- ・準備の壁:受け入れ準備がきちんとされていない
- ⇒対策例:受け入れ準備や育成計画の作成をチェックリスト化する
- ・人間関係の壁:入社後に人間関係を作れない
- ⇒対策例:全社員への告知、ブラザーシスター制度の導入
- ・期待値の壁:新人の入社意図と組織の期待値がズレる
- ⇒対策例:1年間程度のOJT計画を作成して共有する
- ・学びの壁:必要な学びが得られない
- ⇒対策例:OJTでの実務教育以外に、共通言語や組織の沿革、MVV、暗黙知、価値観などを学ぶ機会をつくる
- ・アウトプットの壁:成果を上げられない
- ⇒対策例:OJT計画をテンプレート化して品質を高める
まとめ
大量採用は、エリア展開や組織の急成長を志向したりする際に生じるものです。
特に労働集約型のビジネスモデルの場合、高い成長率を志向するには大量採用が必要になることが多くなるでしょう。
大量採用を行なうときには、以下3つのリスクへの対策が必要です。
- 風評リスク
- 育成工数やノウハウの不足
- 事業環境の変化
大量採用を成功させるには、まずは複数チャネルを有効活用してしっかりと母集団を形成する、また、RPOや非正規雇用を使って工数を吸収しましょう。
そのうえで、人事は内定辞退を防ぎ、リアリティショックを軽減するための内定者フォロー、また、育成体制の整備と仕組み化を進めることが非常に大切です。
大量採用は、入社後の受け入れに失敗して悪評となるケースが多くあります。
採用活動自体と同じぐらい、入社後の受け入れ準備、定着・活躍の支援をしっかりと準備しましょう。