リファラル採用は、社内からの紹介で人材を採用する採用手法です。リファラル採用は、マッチング精度も高く外部への費用支出も生じないため、企業側が得られるメリットが非常に多くなります。
リファラル採用を実施する場合、社員からの紹介を促進することが大切です。そのため、リファラル採用を積極的におこなう企業では、社員に「紹介料」として報酬を支払うことも一般的になっています。
リファラル採用で「紹介料(報酬)」を社員に支払う場合、報酬の決め方によっては、法律に触れる可能性があります。従ってリファラル採用で「紹介料(報酬)」を支払う場合、いくつかのポイントを把握しておくことが必要です。
記事では、リファラル採用における報酬制度の概要を確認します。そのうえで、後半では、リファラル採用の報酬額を決めるための5つの視点、報酬額の決定で注意すべき5つのポイントを紹介します。
記事の最後では、リファラル採用の成功ポイントも6つ解説しますので、これからリファラル採用の導入をする人は、ぜひ参考にしてください。
<目次>
リファラル採用における報酬制度
リファラル採用における報酬制度は、企業によって異なります。本章ではリファラル制度の概要を確認したうえで、報酬制度の目的や報酬相場を解説します。
リファラル採用の基本
リファラル制度とは、社員から知人や友人を紹介してもらうことで人材を獲得する採用手法のことです。リファラル採用を取り入れるメリットは、以下のとおりになります。
<リファラル採用のメリット>
- 採用コストを削減できる
- マッチング精度が高い
- 転職潜在層にアプローチできる
- 高スキルの人材を獲得しやすい
- 早期離職を防げる
リファラル採用は企業にとってはコストを抑えながら優秀な人材を獲得できるため、多くの企業で導入されている採用方法です。
リファラル採用を実施する企業の多くは、リファラル採用を活性化するために、紹介した社員に対して金銭などによる報酬制度を設けています。
リファラル採用の全体像やメリットは下記の記事で詳しく紹介していますので、ご興味あればご覧ください。
報酬制度を導入する理由
リファラル採用を導入している企業が報酬制度を設けている理由は、社員からの紹介を増やすきっかけを作るためです。
リファラル採用は社員からの紹介がなければ、成功しません。ただし、リファラル採用による紹介は、メンバーが「うちの企業は良い職場だ。合う人にはおすすめしたい」と思ってくれていることが大前提となります。
したがって、リファラル採用では、金銭報酬だけで社員が動くわけではありません。ただし、報酬の存在は、やはり意欲を高める、行動するきっかけになるでしょう。
また、リファラル採用には、人材紹介や求人媒体と比べて採用コストを大きく削減できるメリットがあります。
したがって、リファラル採用の報酬制度は、削減できたコストの一部を社員に還元するという企業の姿勢を社員にメッセージすることにもつなげられるでしょう。
報酬内容
リファラル採用の報酬制度では、紹介した人材が入社した場合に、紹介者に対して報酬を支給します。
支給されるものは金銭であることが多いですが、企業によっては、休暇や旅行、ディナーなどのプレゼントを提供しているケースもあります。
原則は金銭がベースとなりますが、こうした企業では、会社としてのメッセージや風土形成も鑑み、工夫した報酬を提供しているイメージでしょう。
また、報酬ではありませんが、リファラル採用の過程で生じる紹介する人材との飲食代、交通費などの実費は経費として処理できる形にしている企業も多いです。
報酬額の相場
リファラル採用の設定報酬は企業によって異なります。
以下は2018年4月~10月にMyRefer社が実施した「リファラル採用の実施状況に関する統計レポート」による報酬額のデータです。
<リファラル採用の報酬相場>
- なし:21社(14.3%)
- 1~9万円のインセンティブ:69社(46.9%)
- 10~29万円のインセンティブ:46社(31.3%)
- 30万円以上のインセンティブ:10社(6.8%)
上記を見てわかるとおり、1~29万円の幅で設定している企業が全体の78.2%とほとんどになっています。
ただし、14.3%の企業は報酬設定をしていません。また、30万円以上の報酬設定している企業も、6.8%存在します。
なかには、紹介した実績が一定人数を上回った場合に上乗せする制度を設けています。
*出典:MyRefer「リファラル採用の実施状況に関する統計レポート」
リファラル採用の報酬額を決める5つの視点
リファラル採用の報酬額は以下5つの視点で決めるとよいでしょう。それぞれを解説していきます。
- 採用単価
- 採用課題
- 雇用形態・勤務期間
- 採用者の経験・スキル
- 紹介人数
1.採用単価
報酬額を考えるうえで重要なことは、まずは自社の採用単価を把握することです。
たとえば、人材紹介会社や転職エージェント経由での採用が多い場合、採用単価は100万円を超えていることが多いでしょう。
こうした場合、リファラル採用の報酬額を高めに設定しても、採用コストを大きく下げられるはずです。
逆に、転職サイトや自社ホームページのように採用単価が低い方法がメインの場合、あまりに高額の報酬を設定すると、採用コストダウンという意味での効果性は低くなるでしょう。
リファラル採用の報酬額を考えるうえで、採用単価だけが大切なわけではありません。ただ、採用が費用を使う活動である以上、採用単価は最初に押さえておくべき情報になります。
2.採用課題
自社の採用課題から報酬額を検討する視点もあります。
採用課題を解決する手段がリファラル採用になるようであれば、報酬額を高めに設定しても進める余地は十分にあるでしょう。
たとえば、採用課題から考えると……
- ・高スキル人材を獲得できない
- ⇒一定の条件を満たす人材に対しては、報酬額を上乗せする
- ・応募者が集まらない
- ⇒応募があった時点で報酬が発生する仕組みにする
といった設定の仕方もあり得ます。ただし、制度を複雑にすると運用されづらくなりますので、その点は注意しましょう。
3.雇用形態や勤務期間
リファラル採用の対象は正社員とは限りません。対象者に正社員以外も含まれる場合は、雇用形態に応じて報酬額を設定するとよいでしょう。
たとえば、アルバイトや契約社員などの非正規雇用は、現状の採用単価も正社員より安い傾向があるため、採用単価と連動してリファラル採用の報酬も低めに設定することになります。
また、非正規雇用者をリファラル採用する場合は、決定した勤務期間や稼働日数などに比例させて報酬を設定する方法もあります。
なお、アルバイトやパート社員は、正社員よりも離職率が高い傾向にあります。
報酬を渡した直後に退職してしまったといったことを防ぐために、「勤務を始めて3ヵ月経過後」といった形にすることもひとつです。
また、報酬が低い分、“紹介した人と紹介された人の双方に支払う”といったやり方にすることも可能でしょう。
4.採用者の経験・スキル
採用したい人材のスペックが高く、なかなか通常の採用手法では応募を獲得できない、採用できない場合も高額な報酬を設定するとよいでしょう。
ただし、前述のとおり、ポジションによって報酬額を変えると、制度が複雑化します。そのため、多くの企業では、一律に設定しています。
“採用者の経験・スキルに応じて報酬額を変える”などの差別化は、運用に支障のない範囲で行なったほうがよいでしょう。
5.紹介人数
紹介人数に応じて報酬額を変える方法もあります。
リファラル採用などで人材を紹介してくる社員は「紹介特性」を持っており、多くの人が万遍なく紹介するのではなく、少数の人が複数の紹介をするケースが多くなります。
したがって、そういった社員のモチベーションを高めるためには、「3人目以降は報酬額に◯◯円を上乗せする」といった設定をしておくことも一つです。
また、「年間で最も紹介した社員に××円を支給」といった形で報酬設定している企業もあります。
報酬額を決める上で注意すべき5つのポイント
法律では、報酬に関するルールが決められています。リファラル採用に関する報酬の支払いで違法とみなされないためには、ポイントを理解して法律に沿った設定にしておくことが大切です。
この章では、リファラル採用の報酬を決める際に注意したいポイントを5つ解説します。
職業安定法による規制
リファラル採用で報酬を設定する際、職業安定法で「有料での職業紹介」が規制されていることを知っておく必要があります。職業安定法でいう「有料での職業紹介」とは、いわゆる人材紹介サービス、エージェントの仕事のことです。
職業安定法の第30条では、「有料での職業紹介」について以下ルールを定めています。
<職業安定法30条における「有料での職業紹介」の規制>
② 前項の許可を受けようとする者は、次に掲げる事項を記載した申請書を厚生労働大臣に提出しなければならない。
一 氏名又は名称及び住所並びに法人にあつては、その代表者の氏名
二 法人にあつては、その役員の氏名及び住所
三 有料の職業紹介事業を行う事業所の名称及び所在地
四 第三十二条の十四の規定により選任する職業紹介責任者の氏名及び住所
五 その他厚生労働省令で定める事項
③ 前項の申請書には、有料の職業紹介事業を行う事業所ごとの当該事業に係る事業計画書その他厚生労働省令で定める書類を添付しなければならない。
④ 前項の事業計画書には、厚生労働省令で定めるところにより、有料の職業紹介事業を行う事業所ごとの当該事業に係る求職者の見込数その他職業紹介に関する事項を記載しなければならない。
⑤ 厚生労働大臣は、第一項の許可をしようとするときは、あらかじめ、労働政策審議会の意見を聴かなければならない。
⑥ 第一項の許可を受けようとする者は、実費を勘案して厚生労働省令で定める額の手数料を納付しなければならない。
引用:e-Gov法令検索
リファラル採用で報酬の報酬が「職業紹介」とみなされた場合、職業安定法に抵触することで1年以上10年以下の懲役または20万円以上300万円以下の罰金が課せられます。
企業が職業安定法に抵触しないためには、大きく2点「賃金・給与としての支払い」「妥当な報酬額」を押さえておくことが必要です。それぞれの詳細は、後述しましょう。
なお、2021年4月1日に職業安定法に基づく指針が一部改正されたことで、募集広告における「就職お祝い金」などの名目の金銭提供が禁止になりました。
具体的には、求職者に金銭を提供し、求職の申し込みを勧奨することが禁止された形です。
リファラル採用では、たとえば、紹介される側の人材に対して「就職のお祝い金がもらえる」のような勧誘を大々的に行なった場合、職業安定法に抵触する恐れがあります。注意しましょう。
出典:「就職お祝い金」などの名目で求職者に金銭等を提供して求職の申し込みの勧奨を行うことを禁止しました(厚生労働省)
賃金・給与としての支払い
リファラル採用の報酬が、職業紹介における報酬とみなされないためには、賃金・給与として支払うことが必要です。
なお、賃金・給与として支払う場合、労働基準法の定めに基づいて、就業規則にリファラル採用を業務として記載しておく必要があります。
労働基準法15条で、賃金や給料に関する事項は就業規則に明示することが求められています。整備を怠ると法律違反になります。注意しましょう。
<労働基準法15条>
② 前項の規定によつて明示された労働条件が事実と相違する場合においては、労働者は、即時に労働契約を解除することができる。
③ 前項の場合、就業のために住居を変更した労働者が、契約解除の日から十四日以内に帰郷する場合においては、使用者は、必要な旅費を負担しなければならない。
引用:e-Gov法令検索
金額の妥当性
報酬額をあまりに高く設定してしまうと「職業紹介の報酬」とみなされるリスクが生じます。適切な金額に設定することも大切です。
リファラル採用の報酬額の妥当性を考える目安のひとつが、有料職業紹介の報酬相場です。
有料職業紹介の報酬相場は、採用者の理論年収の30~35%程度となっています。例えば、理論年収500万円の人であれば150万~175万円が報酬相場です。
リファラル採用の報酬額を有料職業紹介よりも明らかに低い金額で設定しておくことで、職業紹介とみなされるリスクを下げやすくなるでしょう。
なお、リファラル採用の報酬は、先述のとおり賃金・給与として支払うことになります。そのため、月額給与と比較して「妥当性のある金額か?」という視点で考えておくことも必要です。
採用状況による見直し
リファラル採用の報酬は、採用状況に応じて内容を変えることも大切です。
条件の見直しを行なわずにリファラル採用を続けた場合、集まる人材に偏りができるなどのように、企業の成長を妨げるデメリットが発生する可能性があります。
リファラル採用で報酬を支払うときには、採用状況や不足する人材を踏まえて、定期的に報酬制度を見直すことも大切でしょう。
リファラル採用を成功させるポイント6つ
リファラル採用に報酬を設定することで社員が積極的に動いてくれる可能性が高まるものの、成功させるポイントは他にもあります。
リファラル採用を成功させるポイントは、以下の6つです。
- 紹介したくなる職場をつくる
- 求人状況を共有する
- 社内規定などを整備する
- 社員に定期的に声がけする
- カジュアル面談を実施する
- 他の採用方法と併用する
できることから取り入れてみてください。
1.紹介したくなる職場をつくる
繰り返しになりますが、リファラル採用の大前提は、自社の社員に「うちの企業は良い職場だ。合う人には紹介したい」と思ってもらうことです。
報酬はあくまで紹介するきっかけの一つであり、「紹介したい」と思える職場でなければ、リファラル採用の応募者は増やせません。
報酬だけで動かそうとするのではなく、社員が心から自身の友人・知人を呼びたいと思える職場づくりに取り組む必要があるでしょう。
2.求人状況を共有する
採用の対象となる求人情報を社内に共有することも、リファラル採用を成功させるポイントです。
求人が社内公開されていないと、社員は「どのような人を紹介すれば良いのだろう?」と混乱してしまい、リファラル採用への姿勢が消極的になります。
リファラル採用を実施するのであれば、社内掲示板などで求人を共有し、社員が紹介すべき人をイメージできるようにしておきましょう。
求人を共有・更新することが、リファラル採用のことを思い出すきっかけにもなります。また、社内公募やキャリア自律を促進するきっかけにもなるでしょう。
3.社内規定などを整備する
繰り返しますが、リファラル採用に報酬制度を採り入れるうえでは、前述のとおり、就業規則や賃金規定に明記しておくことが必要です。
オペレーション・コンプライアンス的な視点での整備を怠ると、採用者の入社後にトラブルが起きたり、職業安定法に抵触してしまったりする恐れがあります。
リファラル採用の場合、準備に大きな手間がかかるわけではありません。はじめのうちに、きちんと対応しておきましょう。
4.社員に定期的に声がけする
リファラル採用を成功させるには、定期的に発信することが非常に大切です。
採用のことをいつも考えているのは専任の「採用担当者」だけであり、それ以外の社員は自分の仕事で忙しく行なっています。
したがって、リファラル採用を成功させるには、「思い出してもらう」ための定期的な声がけが何より大切です。
以下のような情報を定期的に発信することで、社員に「該当する人、興味を持ちそうな人はいるかな?」とイメージしてもらうとよいでしょう。
- 採用しているポジション
- 友人・知人への声のかけ方
- リファラル採用成功事例
5.カジュアル面談を実施する
リファラル採用の場合、いきなり採用選考をするのではなく、まずはカジュアル面談から入ることがおすすめです。
リファラル採用は、求人媒体などのからの応募とは異なり、応募者の志望意志が低い、場合によっては転職意欲も低い状態から始まることが多くなります。
そのため、いきなり“採用選考”となるとハードルが上がってしまいます。
リファラル採用を成功につなげるには、まず、人事や部門長クラスとのカジュアル面談を挟み、自社について知ってもらうことから始めるのがよいでしょう。
カジュアル面談以外にも、ミートアップやカンファレンスなどもおすすめとなります。
たとえば、クラウド会計ソフトを提供する株式会社freeeでは、社員が呼び込みやすくする目的で自社に友人・知人を招待するイベントを行なっています。
6.他の採用方法と併用する
リファラル採用に取り組む上では、他の方法とも併用して採用活動を進めるようにしましょう。
リファラル採用は、採用コストが安い、ミスマッチングが少ない、優秀層に出会えるなど、メリットだらけの採用手法です。
ただ、“自社社員に紹介してもらう”という仕組み上、リファラル採用には、応募者数や採用数を計画することが難しい側面があります。
そのため、リファラル採用での実績が安定するまでは、安定かつ計画的に応募者を確保できる他の方法と併用することが大切です。
まとめ
リファラル採用で社員に積極的に動いてもらう方法の一つが、報酬制度を取り入れることです。
リファラル採用に報酬制度を組み込んでいる企業への調査では、1~29万円という金額が全体の約80%と最多になっています。
なお、リファラル採用で報酬制度を取り入れる際には、「職業紹介」における報酬とみなされることを防ぐために、報酬に関する規定を就業規則に記載し、賃金・給与として支払う必要があります。
報酬額の設定では、月額給与と比較して妥当な金額に収めることも大切でしょう。
リファラル採用は、企業にとって実施のメリットが高い採用方法です。
ただし、リファラル採用を強化するには、大前提として社員が知人・友人に紹介したいと思えるような「良い職場」を作ることが大切になります。
リファラル採用を成功させるポイントは、以下の記事でも詳しく解説しています。これからリファラル採用を導入する人は、ぜひ参考にしてください。