社員からの紹介者を採用するリファラル採用、取り組んでいる企業の多くが、紹介した社員への報酬制度を導入しています。
報酬制度を導入することで、社員の紹介意欲を高めて、リファラル採用を活性化させることが狙いです。
ただし、リファラル採用で報酬を支給する際は、職業安定法に抵触しないように注意が必要です。
記事では、リファラル採用における報酬額の調査結果や報酬を支払うときの注意点などを紹介します。リファラル採用を活性化させるうえでぜひ参考にしてください。
<目次>
リファラル採用における報酬制度
リファラル採用における報酬制度は、企業によって異なります。本章ではリファラル制度の概要を確認したうえで、報酬制度の目的や報酬相場を解説します。
リファラル採用の基本
リファラル制度とは、社員から知人や友人を紹介してもらうことで人材を獲得する採用手法のことです。リファラル採用を取り入れるメリットは、以下の通りです。
<リファラル採用のメリット>
- 採用コストを削減できる
- マッチング精度が高い
- 転職潜在層にアプローチできる
- 高スキルの人材を獲得しやすい
- 早期離職を防げる
リファラル採用は企業にとってはコストを抑えながら優秀な人材を獲得できるため、多くの企業で導入されている採用方法です。
リファラル採用を活性化するため、リファラル採用を実施する企業の多くが紹介した社員に対して金銭などによる報酬制度を設けています。
リファラル採用の全体像やメリットは下記の記事で詳しく紹介していますので、ご興味あればご覧ください。
報酬制度を導入する理由
リファラル採用を導入している企業が報酬制度を設けている理由は、社員からの紹介を増やすきっかけを作るためです。
リファラル採用は社員からの紹介がなければ、成功しません。
リファラル採用の大前提は、社員が「うちの会社はいい職場だ。合う人にはお勧めしたい」と思ってくれていることです。
従って、金銭報酬だけで社員が動くわけではありません。
ただし、やはり報酬の存在は意欲を高める、行動するきっかけになります。
また、リファラル採用は人材紹介や求人媒体と比べると採用コストを大きく削減することが出来ます。
従って、削減できたコストの一部を社員に還元するという会社の姿勢を社員にメッセージすることにもつながります。
報酬内容
リファラル社員の報酬制度では、紹介した人材が入社した際、紹介者に対して報酬を支給します。
支給されるものは金銭であることが多いですが、企業によっては、休暇や旅行、ディナーなどのプレゼントを提供しているケースもあります。
金銭をベースとして、会社としてのメッセージや風土形成も考えて、工夫した報酬を提供しているイメージです。
また、報酬ではありませんが、リファラル採用の過程で生じる紹介する人材との飲食代、交通費などの実費は経費として処理できる形にしている企業も多いです。
報酬額の相場
リファラル採用の設定報酬は企業によって異なります。
以下は2018年4月~10月にMyRefer社が実施した「リファラル採用の実施状況に関する統計レポート」による報酬額のデータです。
<リファラル採用の報酬相場>
- なし:21社(14.3%)
- 1~9万円のインセンティブ:69社(46.9%)
- 10~29万円のインセンティブ:46社(31.3%)
- 30万円以上のインセンティブ:10社(6.8%)
上記を見て分かる通り、1~29万円の幅で設定している企業が全体の78.2%と殆どになっています。
ただし、報酬を設定していない企業も14.3%、30万円以上の報酬設定している企業が6.8%となっています。
また、企業によっては紹介した実績が一定人数を上回った場合に上乗せする制度を設けています。
*出典:MyRefer「リファラル採用の実施状況に関する統計レポート」
リファラル採用の報酬額を決める5つの視点
リファラル採用の報酬額は以下5つの視点で決めるとよいでしょう。1つずつ解説していきます。
- 採用単価
- 採用課題
- 雇用形態・勤務期間
- 採用者の経験・スキル
- 紹介人数
1.採用単価
報酬額を考える上で、まずは自社の採用単価を把握することが重要です。
例えば、人材紹介会社や転職エージェント経由での採用が多い場合、採用単価は100万円を超えていることが多いでしょう。
その場合、報酬額を高めに設定しても採用コストを大きく下げられるはずです。
反対に、転職サイトや自社HPなど採用単価が低い方法がメインの場合、あまり高額の報酬を設定すると、採用コストダウンという意味ではあまり役立たないでしょう。
採用単価だけが大切なわけではありませんが、費用を使う活動である以上、リファラル採用の報酬額を考える上で、採用単価はまず押さえておくべき情報です。
2.採用課題
自社の採用課題から報酬額を検討する視点もあります。
採用課題を解決する手段がリファラル採用になるようであれば、報酬額を高めに設定しても進める余地は十分にあります。
たとえば、採用課題から考えると…。
- ・高スキル人材を獲得できない
- ⇒一定の条件を満たす人材に対しては、報酬額を上乗せする
- ・応募者が集まらない
- ⇒応募があった時点で報酬が発生する仕組みにする
といった設定の仕方もあり得ます。ただし、制度を複雑にすると運用されづらくなりますので、その点は注意が必要です。
3.雇用形態や勤務期間
リファラル採用の対象は正社員とは限りません。募集する人が正社員以外も含む場合は、雇用形態に応じて報酬額を設定するといいでしょう。
アルバイトや契約社員などの非正規雇用は、現状の採用単価も正社員より安く、連動してリファラル採用の報酬も低めに設定することになります。
また、非正規雇用者をリファラル採用する場合は、決定した勤務期間や稼働日数などに比例させて報酬を設定する方法もあります。
なお、アルバイトやパート社員は、正社員よりも離職率が高い傾向にあります。
報酬を渡した直後に退職してしまったといったことを防ぐために、「勤務を始めて3か月経過後」といった形にすることもひとつです。
また、報酬が低い分、紹介した人と紹介された人の双方に支払うといったやり方にすることも可能です。
4.採用者の経験・スキル
採用したい人材のスペックが高く、なかなか通常の採用手法では応募を獲得できない、採用できない場合も高額な報酬を設定するとよいでしょう。
ただし、前述の通り、ポジションによって報酬額を変えると制度が複雑化しますので、一律にしている企業が多くなります。
採用者の経験・スキルに応じて報酬額を変えるなどは運用に支障のない範囲で行った方がよいでしょう。
5.紹介人数
紹介人数に応じて報酬額を変える方法もあります。
リファラル採用などで人材を紹介してくる社員は「紹介特性」を持っており、多くの人が万遍なく紹介するのではなく、少数の人が複数の紹介をするケースが多くなります。
従って、そういった社員のモチベーションを高めるためには、「3人目以降は報酬額に幾ら上乗せする」といった設定をしておくこともひとつです。
また、「年間で最も紹介した社員に××円を支給」といった形で報酬設定している企業もあります。
報酬額を決める上で注意すべきポイント
リファラル採用で報酬制度を取り入れることは、社員が紹介を考えるきっかけになります。
一方で、リファラル採用に報酬制度を取り入れる際は、以下3つのポイントを押さえておきましょう。
- 職業安定法による規制
- 賃金・給与として支払う
- 金額の妥当性
上記のポイントを押さえないと法律に抵触してしまうリスクもあります。順番に確認しておきます。
職業安定法による規制
リファラル採用で報酬を設定する際、職業安定法で「有料での職業紹介」が規制されていることを知っておく必要があります。
「有料での職業紹介」とは、いわゆる人材紹介サービス、エージェントの仕事を指します。
リファラル採用の報酬が「職業紹介」とみなされると、職業安定法に抵触してしまいます。
制度上、1年以上10年以下の懲役または20万円以上300万円以下の罰金となります。
抵触しないためには大きく2点「賃金・給与としての支払い」「妥当な報酬額」を押さえておくことが必要です。順番に解説します。
<職業安定法30条における「有料での職業紹介」の規制>
② 前項の許可を受けようとする者は、次に掲げる事項を記載した申請書を厚生労働大臣に提出しなければならない。
一 氏名又は名称及び住所並びに法人にあつては、その代表者の氏名
二 法人にあつては、その役員の氏名及び住所
三 有料の職業紹介事業を行う事業所の名称及び所在地
四 第三十二条の十四の規定により選任する職業紹介責任者の氏名及び住所
五 その他厚生労働省令で定める事項
③ 前項の申請書には、有料の職業紹介事業を行う事業所ごとの当該事業に係る事業計画書その他厚生労働省令で定める書類を添付しなければならない。
④ 前項の事業計画書には、厚生労働省令で定めるところにより、有料の職業紹介事業を行う事業所ごとの当該事業に係る求職者の見込数その他職業紹介に関する事項を記載しなければならない。
⑤ 厚生労働大臣は、第一項の許可をしようとするときは、あらかじめ、労働政策審議会の意見を聴かなければならない。
⑥ 第一項の許可を受けようとする者は、実費を勘案して厚生労働省令で定める額の手数料を納付しなければならない。
引用:e-Gov法令検索
賃金・給与として支払う
リファラル採用の報酬が、職業紹介における報酬とみなされないためには、賃金・給与として支払うことが必要です。
なお、賃金・給与として支払う場合、労働基準法の定めに基づいて、就業規則にリファラル採用を業務として記載しておく必要があります。
労働基準法15条で、賃金や給料に関する事項は就業規則に明示することが求められていますので、ここをしっかりとクリアしておきましょう。
<労働基準法15条>
② 前項の規定によつて明示された労働条件が事実と相違する場合においては、労働者は、即時に労働契約を解除することができる。
③ 前項の場合、就業のために住居を変更した労働者が、契約解除の日から十四日以内に帰郷する場合においては、使用者は、必要な旅費を負担しなければならない。
引用:e-Gov法令検索
金額の妥当性
報酬額をあまりに高く設定してしまうと「職業紹介の報酬」とみなされるリスクが生じますので、適切な金額に設定することも大切です。
リファラル採用の報酬額の妥当性を考える目安のひとつが、有料職業紹介の報酬相場です。
有料職業紹介の報酬相場は、採用者の理論年収の30~35%程度となっています。例えば、理論年収500万円の人であれば150万~175万円が報酬相場です。
リファラル採用の報酬額を有料職業紹介よりも明らかに低い金額で設定しておくことで、職業紹介とみなされるリスクを下げられるはずです。
なお、先述の通りリファラル採用の報酬は賃金・給与として支払うことになります。そのため、月額給与と比較して妥当性のある金額かという視点も必要になります。
リファラル採用を成功させるポイント6つ
リファラル採用に報酬を設定することで社員が積極的に動いてくれる可能性が高まるものの、成功させるポイントは他にもあります。
リファラル採用を成功させるポイントは、以下の6つです。
- 紹介したくなる職場をつくる
- 求人状況を共有する
- 社内規定などを整備する
- 社員に定期的に声がけする
- カジュアル面談を実施する
- 他の採用方法と併用する
できることから取り入れてみてください。
1.紹介したくなる職場をつくる
繰り返しになりますが、リファラル採用の大前提は、自社の社員に「うちの会社はいい職場だ。合う人には紹介したい」と思ってもらうことです。
報酬はあくまで紹介するきっかけの1つであり、「紹介したい」と思える職場でなければ、リファラル採用の応募者は増やせません。
報酬だけで動かそうとするのではなく、社員が心から自身の友人・知人を呼びたいと思える職場づくりに取り組む必要があります。
2.求人状況を共有する
採用の対象となる求人情報を社内に共有することも、リファラル採用を成功させるポイントです。
求人が社内公開されていないと、社員は「どんな人を紹介すればいいのだろう?」と混乱してしまい、リファラル採用への姿勢が消極的になります。
社内掲示板などで求人を共有し、社員が紹介すべき人をイメージできるようにしておきましょう。
求人を共有・更新することが、リファラル採用のことを思い出すきっかけにもなりますし、社内公募やキャリア自律を促進するきっかけにもなります。
3.社内規定などを整備する
リファラル採用に報酬制度を採り入れる上では、前述の通り、就業規則や賃金規定に明記しておくことが必要です。
オペレーション・コンプライアンス的な視点での整備を怠ると、採用者の入社後にトラブルが起きたり、職業安定法に抵触してしまったりする恐れがあります。
リファラル採用の場合、大きな手間があるわけではありませんので、初めにきちんと対応しておきましょう。
4.社員に定期的に声がけする
リファラル採用を成功させるには、定期的に発信することが非常に大切です。
採用のことをいつも考えているのは専任の「採用担当者」だけであり、それ以外の社員は自分の仕事で忙しくしています。
従って「思い出してもらう」ための定期的な声がけが何より大切です。
以下のような情報を定期的に発信することで、社員に「該当する人、興味を持ちそうな人はいるかな?」とイメージしてもらいましょう。
- 採用しているポジション
- 友人・知人への声のかけ方
- リファラル採用成功事例
5.カジュアル面談を実施する
リファラル採用の場合、いきなり採用選考をするのではなく、まずはカジュアル面談から入ることがお勧めです。
リファラル採用は、求人媒体などのからの応募とは異なり、応募者の志望意志が低い、場合によっては転職意欲も低い状態から始まることが多くなります。
そのため、いきなり“採用選考”となるとハードルが上がってしまいます。
まずは人事や部門長クラスとのカジュアル面談を挟み、自社について知ってもらうことから始めるのがよいでしょう。
カジュアル面談以外にもミートアップやカンファレンスなどもおススメです。
例えば、クラウド会計ソフトを提供する株式会社freeeでは、社員が呼び込みやすくするために会社に友人・知人を招待するイベントを行っています。
6.他の採用方法と併用する
リファラル採用に取り組む上では、他の方法とも併用して採用活動を進めるようにしましょう。
リファラル採用は、採用コストが安い、ミスマッチングが少ない、優秀層に出会えるなど、メリットだらけの採用手法です。
一方で、リファラル採用が自社社員に紹介してもらうという仕組み上、応募者数や採用数を計画することが難しい側面があります。
そのため、リファラル採用での実績が安定するまでは、安定かつ計画的に応募者を確保できる他の方法と併用することが大切です。
まとめ
リファラル採用で社員に積極的に動いてもらう方法の1つが、報酬制度を取り入れることです。
導入企業への調査では、1~29万円というレンジが全体の約80%と最多になっています。
リファラル採用で報酬制度を取り入れる際には「職業紹介」における報酬とみなされないように就業規則に記載して賃金・給与として支払う、月額給与と比較して妥当な金額に収めるといったことが大切です。
社員が知人・友人に紹介したいと思えるような「いい職場」を作り、報酬制度も絡めて、メリットが大きいリファラル採用を推進していきましょう。
リファラル採用を成功させるポイントについては、以下の記事でも詳しく解説しています。
効率的かつ効果的な採用方法のノウハウを知れる資料も提供しているので、ぜひ参考にしてみてください。