試用期間に解雇(クビ)にできるか?|認められるケースと注意事項を解説

更新:2023/07/28

作成:2023/02/11

古庄 拓

古庄 拓

株式会社ジェイック取締役

試用期間に解雇(クビ)にできるか?|認められるケースと注意事項を解説

採用の決裁者や経営者の方でも、労務に詳しくない方の中には「試用期間=お試し期間中であり、期待するほど働かない場合はクビにできる、試用期間後に解雇にできる」と考えている方もいます。

 

しかし、実際には試用期間中といえども、簡単に解雇(クビ)することはできません。

 

記事では、試用期間中や試用期間後の解雇が可能なのか、どのような場合に認められて、どのような場合に不当解雇になるのかを解説します。

 

また、解雇の手続きや解雇以外の対応策についても紹介しますので、参考になれば幸いです。

<目次>

試用期間とは?

多くの企業で入社後の数ヶ月を「試用期間」とした労働契約を契約しています。試用期間とは、そもそも法的にはどのような位置づけなのでしょうか。

 

試用期間とは?

従業員を採用するに際しては、合否は履歴書や経歴書などの書類と適性検査など、そして、数回の面接で応募者を判断することになります。

 

もちろん採用選考の精度をあげることが大切ですが、一方で、採用選考だけで、その人が本当に自社に向いているのかは実際に働いてもらって、能力や適性、勤務態度などを見てみないとわからない部分もあります。

 

また、これは応募者側も同様であり、企業のホームページなどの情報と面接だけでは、会社の雰囲気や実態は判断しきれません。

 

そのため、お互いの確認期間として、多くの企業が3~6ヶ月程度の試用期間を設けているわけです。

試用期間中の労働契約

試用期間中というのは、確かに継続して雇用できるかを見極める期間ではありますが、「まだ採用選考中である」という意味ではありません。

 

採用選考を経て内定を出し、入社した従業員とは、試用期間中であってもすでに雇用契約(労働契約)を結んだ状態になります。

 

そのため、試用期間の扱いは、法律上は試用期間中は解約(解雇)する権利を留保している状態ということで、「解約権留保付労働契約」といわれています。

 

試用期間と本採用との違い

試用期間中は、本採用と異なる労働条件で働かせることが可能です。

 

給与を本採用より低くすることも可能ですし、都道府県労働局長の許可を受ければ、試用期間中は最低賃金を下回らせることも可能です。

 

ただし、社会保険については本採用と同じ扱いになり、加入要件を満たす場合は、必ず加入させなければなりません。

 

ただし、アルバイトの場合は早期離職が多いこともあり、試用期間中は時給が違うといったケースはよくありますが、正規雇用の場合には、試用期間中の待遇を落とすような形にすると内定辞退されてしまうことも予想されますし、試用期間中も本採用時と同じ待遇にしている会社が殆どです。

なお、試用期間中と試用期間満了後とでは雇用形態は変化しません。

 

もし試用期間中は、契約社員として有期雇用契約とし、本採用後に正社員として雇用したい場合は、改めて雇用契約書の取り交わしが必要になります。
 

本採用拒否とは?

試用期間終了後に、解雇する、つまり、本採用を拒否することを「本採用拒否」と呼びます。

 

本採用拒否は、通常の解雇と比べてハードルが若干低く、通常の解雇よりも広い範囲の解雇事由が認められています。

 

ただし、企業には採用選考を経て内定を出して、労働契約を締結している責任があり、本採用拒否であっても簡単に解雇できるわけではありません。

 

基本的にほぼ試用期間中の解雇と同様であり、採用選考で見抜くことが困難な瑕疵がある、もしくは生じ、会社から教育や指導しても明らかに改善しないといった合理的、かつ、社会通念上で相当と思われる事情が必要です。

 

なお、本採用拒否が認められるのは試用期間中の解雇はほぼ同様と記述しましたが、試用期間中の解雇は、「試用期間の終了を待たずに性急に解雇した」と判断される傾向にあり、本採用拒否よりも若干厳しい視点で見られる可能性が高くなります。

試用期間でクビ(解雇)にできるのか?

試用期間の働きぶりを見てクビにすることに問題はないでしょうか。

 

試用期間でも簡単に解雇は認められない

前述したように、試用期間だからといって簡単に解雇することはできません。

 

企業側は採用選考をしたうえで、従業員と雇用契約を締結したわけで、仮に従業員に課題があったとしても企業側は慎重に対応する必要があります。

 

試用期間中といえども、原則は本採用後と同様であり、「企業の風土と合わない」など、客観的な合理性のない漠然とした理由、欠勤が一日あっただけで勤怠不良とみなす、高い業績目標を達成できなかったといった社会通念上相当であると認められない理由で解雇すれば、企業側の権利濫用であり、不当解雇とみなされます。

 

不当解雇として訴訟になる可能性もある

実際に試用期間の従業員を解雇、また本採用拒否して訴訟を起こされ、裁判で不当解雇と判断されたケースは多数あります。

 

試用期間であっても、解雇する場合には慎重に行う必要があります。

 

また、試用期間については、就業規則や雇用契約書に明示することが義務付けられています。

 

試用期間を設けている企業は、就業規則や雇用契約書、労働条件通知書などに正しく反映されているかを今一度確認しておくといいでしょう。

試用期間でのクビ(解雇)が認められるケース

試用期間に解雇が認められる事由としては、どのようなケースがあるのでしょうか。具体的にみていきましょう。

 

病気やケガで就業が難しくなった

心身の健康状態に問題があり、明らかに業務を行っていくことが困難である場合には、試用期間中の解雇ができます。

 

採用選考後に企業の責任ないところで生じた自由であり、解雇することに妥当性があると判断されることが大半でしょう。

 

ただし、一時的に働けなくなった場合に療養のために休業する期間、また、その後30日間は解雇することができません。

 

簡単な仕事から徐々に復職することも難しいだろうと判断されたときのみ、解雇を選択することができますが、休職後に会社から一方的に解雇することはできません。

経歴や保有資格などを詐称していた

応募の際に提出した履歴書や職務経歴書の内容に重大な虚偽があった場合、保有資格などを詐称していたことが判明した場合、そして詐称していた内容が採用の意思決定に明確に影響している場合は、経歴詐称として解雇することが可能です。

 

故意に経歴を詐称していた場合は、内定を出したプロセスにおいて、企業側に非がない瑕疵があったということで、試用期間中であっても解雇が認められる可能性が高くなります。

 

ただし、経歴詐称を理由に解雇する場合、「経歴詐称がなければ採用しなかった」ということが条件になります。

 

顕著な勤怠不良である

正当な理由がない遅刻・欠勤を繰り返し、企業側が指導をしているにも関わらず、勤怠状況が改善しない場合は、正当な解雇事由として認められています。

 

何か月に何日遅刻・欠勤したら解雇が認められる、といった基準はありません。

 

なお、遅刻や欠席を繰り返していることに対して、繰り返し指導しても直らない場合のみ、正当な解雇事由となります。

 

遅刻や欠勤に対して企業側の指導がない場合は、正当な解雇と認められないので注意が必要です。

 

また、「勤怠不良に対して継続的な指導や教育を行なったが是正されなかった」という記録をきちんと残しておくことが大切です。

著しい協調性の欠如

企業側が従業員に対して指導しているにもかかわらず反抗を続け、改善の見込みがない場合には解雇事由として認められます。

 

ただし、解雇の正当な理由として認められるためには、反抗的な行為が「繰り返し行われ」「指導して本人が努力しても改善せず」「業務に支障をきたす」ことが条件です。

 

勤怠不良の場合と同様に、問題行動に対して注意したという事実を明確に残しておく、また改善しなければ最終的には解雇する可能性があると明確な警告をしたうえで、厳重注意→出勤停止→減給→解雇といったように、段階を踏んで手続きを進めることが大切です。

 

明らかに能力が不足している

試用期間での能力不足を理由とした解雇は、ほとんどの場合で認められません。

 

なぜなら基本的に採用選考時に確認可能な情報であり、採用選考を踏まえて企業が内定を出したからには企業に責任があると考えられるからです。

 

ただし、教育する期間を設けて指導を実施した、配置転換も試みたけれどもどのポジションにおいても能力が不足しているといった場合は、正当な解雇事由とみなされる可能性もあります。

 

繰り返しになりますが、能力不足を理由として解雇が認められるには、勤怠不良や協調性の欠如と同様に、「著しい問題がある場合」に限られます。

 

そのことを明確に示すために、教育の機会を十分に与え、組織として適切な援助を行ったという事実を残しておく必要があります。

 

企業としてのやるべきことをやったにもかかわらず、改善が認められなかったという場合に初めて解雇が正当であると認められます。

 

「企業側が一方的に設定した試用期間中の業績目標を達成できなかった」といった理由で解雇にすることはできません。

試用期間でクビ(解雇)にすると問題になるケース

繰り返しとなりますが、訴訟などになった場合、企業側には選考を経て採用の意思決定をした責任があるとみなされます。

 

そのため、前章で説明したような「雇用継続することに明らかに問題があり、指導しても直らず解雇が妥当である」という状況を企業側で説明しないと不当解雇とみなされる確率は高くなります。

 

本章では、その中でも不当解雇とみなされることが多いパターンをいくつか紹介します。

 

未経験者や新卒社員を能力不足で解雇する

未経験者や新卒社員を雇用して、試用期間の仕事の結果が想定のレベルに達していなかったとして、能力不足を理由として解雇することは不当解雇とみなされる可能性が高いでしょう。

 

未経験者や新卒社員は企業側に育成責任があり、試用期間の3ヶ月~6ヶ月程度の期間で能力がないと結論付けるのは早計だと判断されるためです。

プロセスを見ずに結果だけでの判断

同業種の経験者を採用した場合であっても、試用期間で思ったような結果を出せないことはあり得ます。

 

指導されたプロセス通りに業務を行ったにもかかわらず、目標とする結果に未達だったということで本採用を拒否することは不当解雇のリスクが高くなります。

 

企業側にはプロセス状況や改善見込みを確認し、適切な指導、配置転換を行うことが求められます。

 

試用期間途中での解雇

試用期間の途中で解雇することは、企業が従業員に与えるべき試用期間を十分に与えなかったと判断され、不当解雇となる可能性が高くなります。

 

試用期間中に正当な理由もなく従業員が休み続けたり、業務に重大な支障をきたすような協調性の欠如があったりして、指導や配置転換しても改善の見込みがないなど、明らかな理由がない限り解雇はできません。

試用期間でクビ(解雇)にする場合の注意点

雇用した従業員を解雇するには慎重な姿勢で臨む必要があります。企業が注意すべき点にはどのようなことがあるでしょうか。

 

適切な労務管理の実施

従業員を解雇するには正当な根拠が必要になります。

 

前述の通り、まず就業規則や労働条件通知書、雇用契約書に試用期間および試用期間中、また本採用拒否に関する事項をきちんと記載しておく必要があります。

 

試用期間については、就業規則や労働条件通知書、雇用契約書に明示することが義務付けられています。

 

試用期間を設けている企業は、試用期間中の解雇について記載があるかを、今一度確認しておきましょう。

適切な試用期間の長さ

試用期間の長さについて法律上の規定はありませんが、必要以上の長期間に渡って試用期間として本採用を遅らせることは、公序良俗違反と見なされる可能性があります。

 

2~3か月間程度が妥当、最長で6か月程度が許容範囲と考えられます。

 

解雇事由を明確にする

試用期間に解雇する場合であっても、解雇理由を明確にして、社会通念上、解雇が相当であると思えることを証明できるようにしておく必要があります。

 

記録等をきちんと取ったうえで本人に明確に通知することで、後々のトラブルを防ぐことができます。

解雇する際の手順

試用期間に解雇する場合の手順はしっかり確認しておき、正しい手続きで行うようにしておきましょう。

 

解雇事由の確認

就業規則には解雇事由を明記することが定められています。

 

対象となる従業員の解雇について、自社の就業規則に記載されている解雇事由に該当するかを確認しておきます。

 

ただし、就業規則に書かれていれば、どんな理由でも認められるわけではないので、ご注意ください。

解雇予告

試用期間の開始日から14日を過ぎて解雇する場合は、30日以前に解雇予告をしなければなりません。

 

解雇予告をしない場合は、解雇予告手当に相当する金額を支払う必要があります。

 

開始から14日以内の場合は、解雇予告は不要ですが、解雇する前に改善できる余地があると判断されることが多く、不当解雇となる可能性が高いでしょう。

 

 解雇通知書

解雇予告は口頭で行った場合も法的には有効とされていますが、後々トラブルの原因になることもあるので、「解雇通知書」を作成したほうがよいでしょう。

 

解雇通知書には、解雇する日付と解雇の具体的な理由を記載します。

試用期間で問題がある場合の解雇以外の対応策

雇用した従業員を解雇するというのは、できれば避けたいものです。解雇以外の対応策も把握しておくといいでしょう。

 

退職勧奨

退職勧奨によって従業員を退職させることも可能です。ただし本人に辞める意思がなければ、退職を拒否することができます。

 

いき過ぎた退職勧奨は、退職強要とみなされ違法になる可能性がありますので、注意しなければなりません。

試用期間の延長

設定した試用期間では適性の判断が難しい場合などは「試用期間に延長の可能性があること」を就業規則や労働契約書に記載していれば、試用期間を延長することができます。

 

ただし、試用期間が延長されることで従業員の立場が不確実なまま長期間おかれることになるので、必要最低限の期間でなければなりませんし、延長理由が合理的である必要もあります。

 

配置転換

社内の状況などもあわせて、本人に適している業務が他にあると思われる場合、解雇の前に配置転換することが望ましいでしょう。

 

指導や配置転換の受け入れ努力をしたということが、解雇する際には大切になります。

まとめ

日本企業の多くは入社から数か月程度を「試用期間」と位置付けています。

 

試用期間は従業員・企業の双方にとっての確認期間であり、本採用後の解雇と比べると、試用期間終了時の解雇(本採用拒否)などは若干許容範囲が広くなっています。

 

ただし、採用選考を踏まえて内定を出した企業には責任があり、安易な理由で解雇することはできません。

 

判断を誤ると、訴訟等を起こされた際に不当解雇とみなされて、解雇の取り消しや賠償金の支払いを明示される可能性もあります。

 

大前提として組織で雇用し続けるのに明らかに瑕疵があり、指導や教育しても直らなかったということを記録する、そのうえで社労士や弁護士とも確認して対応するようにしましょう。

著者情報

古庄 拓

株式会社ジェイック取締役

古庄 拓

WEB業界・経営コンサルティング業界の採用支援からキャリアを開始。その後、マーケティング、自社採用、経営企画、社員研修の商品企画、採用後のオンボーディング支援、大学キャリアセンターとの連携、リーダー研修事業、新卒採用事業など、複数のサービスや事業の立上げを担当し、現在に至る。専門は新卒および中途採用、マーケティング、学習理論

著書、登壇セミナー

・Inside Sales Conference「オンライン時代に売上を伸ばす。新規開拓を加速する体制づくり」など

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