先輩や上司の立場になると、避けて通れないのが後輩や部下育成です。「なかなか信頼関係を築けない」「思うように成長しない」等、後輩や部下育成に頭を抱えるOJTトレーナーや先輩、上司の方も多いでしょう。
記事では、後輩や部下育成で成果をあげている上司が実践している7つのポイントを紹介します。
<目次>
【後輩育成】7つの重要ポイント
後輩育成や部下育成では、実務的なスキルやノウハウを教え、OJTの中で能力向上を図っていくことが基本です。また、目標やスキルを分かりやすく教えたり、状況把握して適切な指示をしたりするコミュニケーション力も必要です。
ただし、これらのスキルだけでは後輩や部下は思い通りに育ちません。後輩育成や部下育成を効果的にするために不可欠な「信頼関係を築く」「学ぶ姿勢を作る」「主体性を引き出す」といった点に寄与する7つのポイントを解説します。
誠実な関心を寄せる
マザー・テレサが言ったとされる『愛の反対は憎しみではない。無関心だ』という言葉があります。人は「相手が自分に関心を持っていない」と感じると、気持ちが大きく落ち込みます。従って、後輩育成や部下育成では、相手に誠実な関心を寄せることが何よりの基本となります。
後輩や部下を「成果をあげるための駒」として扱う場合と、相手の成長を願いながら「人格を持った個人」として扱う場合、どちらが相手と信頼関係を築けるでしょうか。当たり前ですが、「人格を持った個人」として扱う方が信頼関係を築けます。
人格を持った個人として相手を扱うために必要なことは、誠実な関心を寄せ、相手を知ることです。いま後輩育成に携わる立場や部下を持つ立場であれば、相手のことをどれぐらい知っているか考えてみてください。例えば以下のような相手のパーソナルな側面です。
- 名前
- 年齢
- 誕生日
- 家族構成
- 価値観
- 趣味
- 悩み
- 将来の夢 など
すべてに答えることが出来るようであれば、きっと相手と信頼関係を築けているのではないでしょうか。逆に、いくつか答えられないとしたら、ぜひ興味を持って訊いてみてください。相手との信頼関係が深まるでしょう。
上記をチェックする際には、以下のチェックシートも活用してください。
期待を明確に伝える
人には「相手の期待に応えたい」という欲求があります。また、「目指すゴール」が明確になればなるほど能動的に動くことができ、主体性も引き出されやすくなります。
期待が明確に伝われば、後輩や部下は「自分は何を期待されているのか」「期待に応えるためにはどんな結果を出せばいいのか」「そのためにはどうするべきなのか」と自分で考えるようになり、育成効果もアップします。
上司や先輩が「これぐらい分かっているだろう」「当たり前のことだろう」「こういう役割を果たして欲しい」と思っていることが、相手に伝わっていないことは良くあります。
- 業務上の目標
- 将来のキャリア
- 相手に発揮して欲しい強み
- 業務に取り組む中での成長テーマ
- 職場における役割
- 仕事への取り組み姿勢
- 自分とのコミュニケーションに関すること
上記のような期待事項をしっかりと言語化して、繰り返し伝えていきましょう。
まず受け止める
後輩育成には悩みがつきものです。例えば、後輩が意見を言わない、報連相が出来ない、トラブルを起こしたなど、育成が進むごとにさまざまな問題が発生します。
経験や解決策を持っている先輩や上司は、課題点をつい指導したり、アドバイスしたりしたくなりますが、我慢してまずは相手の話を聞きましょう。後輩の話を最後までじっくり聴き、価値観や考え方、気持ちをしっかりと受け止めましょう。こうすることで後輩は安心して話せる状態となり、信頼関係が深まります。
とくに、「後輩があまり意見を言わない」「報連相が出来ない」といった場合は、意見を言わないのではなく「言いたくない」、報連相が出来ないのではなく「報連相しにくい」環境を先輩や上司が作っている場合もあります。
相手との信頼関係が出来ていなかったり、悪気はなくても、相手の話を遮ってアドバイスしたり否定したりしている可能性もあります。まずは相手を受け止めるコミュニケーションを目指しましょう。
心の栄養を満たす
健康な肉体の維持と成長に「食事の栄養」が必要であるように、健全な精神の維持と成長には「心の栄養」が必要です。そして、心の栄養を満たす効果的な手法が「ストローク」と呼ばれるものです。
ストロークとは「人との関わり、コミュニケーション」を意味しており、以下の4つがあります。
- 肉体的ストローク
- 心理的ストローク
- 条件付きストローク
- 無条件ストローク
それぞれに肯定的な意図を込める、否定的な意図を込めるという2パターン、全部で8通りのコミュニケーションがあります。
後輩や部下に対して効果的なストロークを与えることで心の栄養を満たし、高いモチベーションを保てるようにしましょう。心の栄養が不足すると、自己肯定感が下がり、ネガティブな思考のループにはまったり、時にはうつ状態に陥ってしまったりします。
以下が8パターンのストロークの具体例です。青色が「効果的なストローク」、黄色が「注意が必要なストローク(利用してよいがマイナス面もあるので注意が必要)」、赤色が「非効果的なストローク(避けるべきストローク)」です。
肯定的 | 否定的 | |
肉体的ストローク | ・ハイタッチ ・拍手 ・握手 ・グッドポーズ ・OKポーズ | ・叩く ・胸ぐらをつかむ ・物を投げる |
心理的ストローク | ・褒める ・任せる ・じっくり話を聞く ・意見を尊重する ・感謝を伝える ・信頼を示す | ・叱る ・注意する ・陰で悪口を言う ・欠点を非難する ・文句を言う ・反対する |
条件付きストローク | ・優勝したら奢ってやる ・予算達成したら海外旅行だ ・お前は素直だから好きだ | ・嘘をつくことはとても嫌いだ ・約束を守れないと信頼できない ・意思決定の遅さは改善すべきだ |
無条件ストローク | ・あなたがいるだけでOK ・存在そのものに感謝している ・どんな時も信じている | ・お前はダメな奴だ ・あなたは嫌い ・顔も見たくない ・もう来ないでくれ |
「褒める」と「叱る」のバランスを取る
部下や後輩を成長させるためには、褒めるだけではなく叱ることも大切です。上のストロークの表でも、「条件付きストローク(否定的)」は青色になっているように、相手の言動を修正して成長させる意図での「叱る」コミュニケーションは必要不可欠です。
「叱ったら後輩のモチベーションが下がってしまう」と考える方も多いですが、それは叱り方が間違っているからであり、正しい叱り方をすればモチベーションや信頼関係は保たれます。
- 感情的にならない
- 叱る理由を明確に伝える
- 部下への対応を平等にする
- 言動を対象にする
- 失敗そのものを責めない
叱ることは相手の成長を支援するプロセスです。失敗そのものや相手の性格や人格ではなく、失敗のプロセス、是正して欲しい言動を対象にして、成長への期待を込めて端的に叱りましょう。
ただし、必要な行為とはいえ、叱られてばかりではモチベーションが高まりません。褒めると叱るは、3:1の比率が効果的だと言われます。
部下や後輩を褒める時は結果を褒めることはもちろん、小さな成果や以前から成長したポイント、結果を出すまでの努力なども褒めてあげると、モチベーションアップに繋がります。
- 小さな成果も褒める
- 結果だけでなく努力も褒める
- 長所を見つけて褒める
- 成長箇所を褒める
- 相手に与えた影響等を褒める
仕事を任せる
後輩や部下は仕事での体験を通じて、最も大きな学びを得ます。また、人は自分が信頼されていると思うと信頼に応えようとします。従って、部下や後輩を信頼して仕事を任せることは、相手の主体性や責任感を引き出し、成長を加速させる効果があります。
部下や後輩に仕事を任せるうえでは、「仕事が進まない」「ミスが発生する」といったこともあるでしょう。ただし、進捗の遅れやミスをゼロにしようと思ったら、いつまでも任せることは出来ません。先輩や上司の立場でカバーできる、取れるリスクを考えながら、仕事を任せましょう。
ただし、仕事を「任せる」ことと「放置する」ことは異なります。
- 何が目標なのか?
- どんな権限を任せるのか?
- 破ってはいけないルールは何か?
- 自分はどのように支援できるのか?
- 進捗報告をどのように行うのか?
といったことをキチンと合意してケアすることが、成功率を高めます。また、最終的な責任を後輩や部下に押し付けてはいけません。後輩や部下の失敗によるトラブルやクレームは上長の責任として引き受け、安心して挑戦できる状況を提供しましょう。
キャリアを一緒に考える
終身雇用が崩壊し、会社の倒産や買収も当たり前となった現代、若手社員のキャリアや自己成長に対する意識は、シニア世代よりも格段に高まっています。
そのため、「何年後、どのように組織で活躍したいか」「どれだけの待遇を得たいか」「どんなビジネスパーソンになりたいか」など、後輩のキャリアを一緒に考えることも、現代の上司にとっては重要な仕事の一つです。
絶対にやってはいけないのが、後輩のキャリアプランに対して「うちの部署じゃ無理だな」「それはちょっと難しい」などの否定的な言葉をかけることです。無理だと分かれば後輩のモチベーションは下がり、再び心を開いてもらうのは難しくなってしまいます。
後輩のキャリアプランがどんなに困難であったとしても、まずは「共有してくれてありがとう」というスタンスで受け止めてあげましょう。どうしたら理想のキャリアを実現できるのかを一緒に考え、サポートしていくことが、仕事を頑張る動機付けに繋がります。
まとめ
後輩育成や部下育成では、実務的な能力面の指導をするだけでは、望む成長は得られません。後輩や部下と信頼関係を築き、主体性を引き出すことが大切です。記事では、成果をあげる上司がやっている部下指導のポイント7つを解説しました。
- 誠実な関心を寄せる
- 期待を明確に伝える
- まず受け止める
- 心の栄養を満たす
- 「褒める」と「叱る」のバランスを取る
- 仕事を任せる
- キャリアを一緒に考える
後輩や部下育成は、育成プログラムの品質と共に、育成する立場となる先輩や上司の姿勢が問われます。7つのポイントを参考に、部下や後輩の主体性をどんどん引き出して成長させてください。