70歳の退職を待たずに年金額がアップ?2022年4月「在職定時改定」制度が開始

更新:2023/07/28

作成:2022/08/11

古庄 拓

古庄 拓

株式会社ジェイック取締役

70歳の退職を待たずに年金額がアップ?2022年4月「在職定時改定」制度が開始

働く高齢者が増えていることを踏まえて、2022年4月の年金制度改定で「在職定時改定」という新しい制度が導入されました。在職定時改定の開始によって、企業側の事務手続きが増えることはありません。

 

しかし、2022年4月の年金制度改正には、高齢者を雇用する企業側の賃金見直しや環境整備に関係するトピックもいくつか入っています。

 

記事では、在職定時改定などの制度が求められる社会的背景や在職定時改定の仕組みと目的、企業に求められる対応、国が行なう高齢者の就労支援などを紹介します。

<目次>

「在職定時改定」制度などが導入される背景

かつての日本は、60歳で定年退職するのが一般的でした。ところが、近年の日本では、高齢化社会へと進むなかで、持続的な経済成長を実現するとともに高齢者の生活や健康の質を向上させるために、60歳以降も働き続けられる環境や仕組みの整備が順次進められています。

 

こうした社会背景・目的のなかで導入されたのが、今回紹介する在職定時改定などの制度です。

 

現代社会における高齢者の健康と労働意欲

一般社団法人 日本老年医学会の調査結果によると、2006年までの10年間で、高齢者における生活機能の基本要因の一つである身体的運動機能の代表的能力は、男女ともに確実に強化され、高齢者の「若返り」が進んでいるとみなして良いことがわかっています。

 

また、内閣府の調査では、現在就労している60歳以上への「何歳くらいまで働きたいか?」という質問において、70歳以降まで働くことを希望する高齢者が8割にのぼっているという結果もあります。

 

上記の調査結果から、体力や健康状態という意味で働ける・働きたい高齢者は増加傾向にあると考えられます。少子高齢化における国力維持の一環として、国側もこうした人々のニーズを叶える仕組みづくりを進めています。

70歳の退職を待たずに年金額がアップ!在職定時改定とは?

70歳の退職を待たずに年金額がアップ!在職定時改定とは?

 

2022年4月の年金改正では、以下のような制度の見直しや新規導入が行なわれています。

 

  • 繰下げ受給の上限年齢引上げ
  • 繰上げ受給の減額率の見直し
  • 在職老齢年金制度の見直し
  • 加給年金の支給停止規程の見直し
  • 在職定時改定の導入
  • 国民年金手帳から基礎年金番号通知書への切り替え

上記の改正内容のなかで、65歳以上70歳未満の高齢者にとって特に重要なトピックが「在職定時改定の導入」です。

70歳までの就業機会の確保の努力義務

まず、2022年3月までの仕組みでは、65歳以降の被保険者期間では、退職もしくは70歳到達による資格喪失時に、年金額が反映されるようになっていました。一方で、2022年4月以降、在職定時改定が導入されると、在職中であっても年1回、毎年10月分から年金額が改定されるようになります。

 

「在職定時改定」制度のメリット・目的

前提として、70歳未満の高齢者は、厚生年金の適用事業所で働いていれば、60歳をすぎて年金を受給していても、厚生年金に加入することが義務付けられています。つまり、年金を受給する一方で、厚生年金の支払いを続ける状態になります。当然、厚生年金の支払い期間や支払額が増えるわけで、年金側に反映される必要があります。

 

一般の人は、上記を読んで、厚生年金に加入しながら働く高齢者は保険料を払った分だけ、随時年金額に反映されるイメージを抱くかもしれません。しかし、2022年3月までの制度では、65歳以降になると、以下いずれかのタイミングでしか、厚生年金の加入実績は反映されませんでした。

  • 企業をやめて厚生年金の加入資格を喪失したとき
  • 70歳になったとき

つまり、従来の仕組みでは、65歳~70歳になる前日までの5年間は、毎月保険料を納めているのに年金額が増えないことになります。

 

高齢者の場合、病気や体力の低下などを理由に、年々働く日数や時間が減る可能性は高いでしょう。そうすれば、収入が減る可能性も出てきます。また、毎月コツコツ保険料を払っているのに、年金額がまったく増えないようでは、働く高齢者のモチベーションも下がってしまうでしょう。

 

こうした問題の解消を目的に生まれたのが、年に1回、加入状況に合わせて年金額が変わる在職定時改定という制度になります。

 

「在職定時改定」制度のデメリット・注意点

在職定時改定には、一つ注意点もあります。それは給与・賞与・年金の合計額が大きい高齢者の場合、年金額がカットされる在職老齢年金の仕組みがあることです。

 

2022年4月以降の在職老齢年金では、基本月額+総報酬月額相当額の合算が47万円を超えた場合に、年金が減額もしくは支給停止になる仕組みになっています。

 

在職定時改定の導入前、2022年3月までの年金制度であれば、65歳~70歳までは年金額が増えませんでした。年金額が増えないとは、65歳~70歳までの高齢者が、在職老齢年金の対象にならないことを意味していたのです。

 

一方で、在職定時改定の導入で年金額、つまり収入が増えやすくなると、在職老齢年金に該当することで年金額が減額もしくは停止される可能性も出てきます。

企業に求められる社会的責任

企業には、高年齢者雇用安定法の改正によって、70歳までの就業機会の確保の努力義務が求められるようになっています。また、在職定時改定の制度導入もあり、65歳以上の高齢者の就労環境を用意することは企業の社会的責任になりつつあるともいえます。

 

高齢者の働き方が多様化するなかで、企業は、雇用の仕組みや労務管理、賃金体系の整備などを進める必要があります。

国が行なう高齢者の就労と雇用の支援

国が行なう高齢者の就労と雇用の支援

 

国では、「いつまでも働きたい」と考える高齢者と、「良い形で高齢者を雇用し続けたい」と考える事業主の双方をサポートする制度や環境の整備に力を入れています。本章では、高齢者雇用を推進する国の取り組みを一部紹介します。自社で利用できそうな制度があるか確認してみてください。

 

高齢者雇用をする企業へのサポート

高齢者雇用をする企業への支援で注目したいのは、以下の2つです。

 

・65歳超雇用推進助成金
2022年度は、65歳以上の定年引き上げや高齢者雇用環境の整備をする事業主に、以下3つの助成金コースが用意されています。

 

  • 65歳超継続雇用促進コース
  • 高年齢者評価制度等雇用管理改善コース
  • 高年齢者無期雇用転換コース

上記の助成金をうまく活用することで、高齢者雇用の環境や体制などを整えやすくなります。

 

出典:令和4年度65歳超雇用推進助成金について

 

・高齢者雇用を整備する企業への相談支援
厚生労働省が所管する独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構では、継続雇用制度や定年制度の環境整備をする企業の相談に応じるために、以下の専門員を全国各地に配置しています。

 

  • 65歳超雇用推進プランナー
  • 高齢者雇用アドバイザー

上記のプランナー・アドバイザーは、高齢者雇用に関する専門知識や経験を持つ専門家です。具体的には、人事労務管理の諸問題に詳しい経営コンサルタントや社会保険労務士、人事労務管理の経験者などが以下の4サービスを通して事業主の悩みに寄り添います。

 

  • 相談助言サービス(無料)
  • 提案サービス(無料)
  • 企画立案等サービス(有料)
  • その他のサービス(無料)

こうしたサービスを上手に活用すれば、定年引き上げや継続雇用の環境整備をどうすればいいか?という悩みを解決しやすいでしょう。

 

出典:65歳雇用推進プランナー等による相談・援助(独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構)
出典:65歳超雇用推進プランナー 高齢者雇用アドバイザーのご案内

 

働きたい高齢者を支える地域環境の整備

多くの高齢者が活躍できるようにするには、働きたいお年寄りを地域で支える環境・仕組みも必要です。国では、平成28年(2016年)から、地域における高齢者の雇用促進に役立つ「生涯現役促進地域連携事業」という取り組みをスタートさせています。

 

また、全国各地にあるシルバー人材センターも、高齢者の健康と生きがいづくりを目的に設立された公益社団法人です。国では、こうしたシルバー人材センターなどの組織も支援しています。

まとめ

高齢者の若返りや労働意欲の向上、そして、少子高齢化が進む中での国力維持という視点から、国では在職定時改定などの制度を創設し、高齢者が働きやすい環境づくりを推進しています。

 

2022年4月以降、在職定時改定の開始によって、60歳以降も働く高齢者の厚生年金における加入実績は、1年に1回反映されるように変わりました。結果として、多くの働く高齢者の年金額は、1年に1回上がるようになるでしょう。

 

ただし、給与・賞与・年金の合計額があまりに大きい高齢者の場合、在職老齢年金という仕組みによって、年金額の減額もしくは支給停止になることもあります。2022年4月以降は、在職定時改定の導入と在職老齢年金の基準が変わることで、企業によっては高齢社員から賃金額の変更の相談が来ることもあるでしょう。

 

国による高齢者が働きやすい制度の改正や仕組みづくりは、今後も続いていきます。こうした時代の流れに対応できるように、自社の従業員構成を踏まえて、国の制度なども使いながら環境整備などの準備を進めていきましょう。

著者情報

古庄 拓

株式会社ジェイック取締役

古庄 拓

WEB業界・経営コンサルティング業界の採用支援からキャリアを開始。その後、マーケティング、自社採用、経営企画、社員研修の商品企画、採用後のオンボーディング支援、大学キャリアセンターとの連携、リーダー研修事業、新卒採用事業など、複数のサービスや事業の立上げを担当し、現在に至る。専門は新卒および中途採用、マーケティング、学習理論

著書、登壇セミナー

・Inside Sales Conference「オンライン時代に売上を伸ばす。新規開拓を加速する体制づくり」など

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