企業を取り巻く環境変化の激しい現在では、「リーダーシップ」はどの階層の社員にも求められるものになりつつあります。そのため、近年では、リーダーシップ研修を実施する企業は、とても増えるようになりました。
リーダーシップ研修を効果的に行なうには、実施目的や対象を明確にすることが重要です。なぜなら研修内容は、研修の目的や対象、組織のどの階層向けに実施するのか、どのようなリーダーシップを求めるのかに応じて変わってくるからです。
記事では、リーダーシップ研修を実施する目的を整理したうえで、具体的な研修内容や実践的な能力開発につなげる方法を解説します。
<目次>
リーダーシップ研修を実施する目的と対象者は?
一般に「リーダーシップ研修」というとき、異なる2種類の研修が混じっています。
まずは、チームリーダーや課長・係長などの現リーダーや新任リーダー、あるいはリーダー候補である層を対象とするリーダーシップ研修です。この場合の“リーダー”とは、“管理職”に近い意味合いで使われており、研修では、管理職として必要な「リーダーシップ」にフォーカスして、マインドセットや必要なスキルを学んでいきます。
もう一つは、若手や全社員を対象としたリーダーシップ研修です。全社員などを対象とする場合の“リーダーシップ”は、“セルフリーダーシップの発揮”を指します。セルフリーダーシップは、「主体性」などの単語ともニュアンスが近いでしょう。
若手や全社員を対象とした研修では、セルフリーダーシップを発揮する心構えなどを座学やワークを通じて身に付けていきます。
管理職としてのリーダーシップも、下地となるのはセルフリーダーシップになります。そのため、両者には重複する内容もありますが、似て異なるものです。従って、リーダーシップ研修に向けて準備や計画を始めるときには、まず、どちらの対象向けに実施したいのかで切り分けをする必要があります。
本記事では、前者の「管理職」や「プロジェクトリーダー」および候補者を対象としたリーダーシップ研修を解説します。現管理職や候補者向けのリーダーシップ研修を行なう場合、以下の内容を学ばせる目的となることが多いでしょう。
組織の成果に責任を持つリーダーとしての自覚とスキル
管理職は、人を動かして、組織の成果に責任を持つ役割です。プレイヤー層と比べると、より高い責任感と、周囲に影響をおよぼせる強いセルフリーダーシップが必要となります。同時に、リーダーシップの「意識」だけでなく、組織の成果を上げるための「スキル」も必要となります。
リーダーに必要な人間性や意識
人を動かすためのリーダーシップは、前提としてメンバーや周囲から信頼される人間性や人格が求められます。人間性と人格は、一朝一夕で身に付くものではありません。しかし、メンバーとの信頼関係を築き、成果を上げ続けるには不可欠なものです。
メンバーや周囲に良い影響を与えて動かすためのコミュニケーション力
管理職は、メンバーを動かして成果を上げる、体験やフィードバックを通じてメンバーを成長させることが求められます。そして、実際のプロセスでは、メンバーとの信頼関係を土台として、メンバーとコミュニケーションを取りながら成果創出や人材育成を進めます。当然、管理職としてリーダーシップを発揮するためにはコミュニケーション技術が必要となります。
リーダーシップを発揮するために必要な要素や能力
管理職としての「リーダーシップ」はマインドや心構えだけではなく、「組織の成果を上げる」ためのスキルと一体です。
リーダーとしてのマインドや心構えがなければ成果を上げられないことはいうまでもありません。しかし、マインドや心構えがあっても、実際に成果を上げるスキルがなければ、求められる成果につなげることはできません。
リーダーとしてメンバーや周囲と信頼関係をつくり、組織で成果を上げるために必要な要素や能力は、カッツモデルによる3分類(テクニカルスキル・ヒューマンスキル・コンセプチュアルスキル)で考えるとわかりやすいでしょう。
カッツモデルとは、組織内の各階層で求められるビジネススキルと成果を上げるための重要度をわかりやすく分類したものです。ハーバード大学の経営学者・ロバート・カッツ氏によって生み出されたこの考え方は、カッツ理論とも呼ばれます。
カッツモデルでは、組織内の階層を以下の3つに分けて考えていきます。
※本来のカッツモデルは管理職のみを対象としていますが、ロワーマネジメントを一般的なホワイトカラーのプレイヤー層を含む形で置き換えても理解しやすいため変更しております。
テクニカルスキル
仕事で成果を上げるための実務能力です。管理職であれば、目標設定や達成計画の作成、タスクブレイクと進捗管理などの能力が求められるでしょう。
ヒューマンスキル
他者と信頼関係をつくりコミュニケーションを取る「対人関係力」全般です。自分で動いて成果を上げるプレイヤーから、人を動かして成果を上げる管理職になると、ヒューマンスキルの重要度が高まります。
ヒューマンスキルには、人材育成やメンバーを動かすためのコミュニケーション力、また、リーダーとして信頼される人間性やあり方も含まれます。
コンセプチュアルスキル
管理職になると、プレイヤー時代よりも高い視点、長い時間軸で物事を見ることが求められます。そのときに必要となるのが、成果を上げるための勘所を見抜いたり、ビジョンを描いたりする概念化力です。
本質的な結論や解決策を見出すクリティカルシンキングや、組織にミッションやバリューを浸透させたり、明るいビジョンでメンバーを鼓舞したりするためにも必要な力です。
リーダーシップ研修の具体的な内容
管理職としてのリーダーシップ研修では、おもに以下の内容を扱います。
組織における「リーダー」の役割や責任
リーダーとしての役割・責任を認識させます。
- 現場をまとめて、日々の業績をつくる
- 若手、新入社員を育成し、戦力化する
- 企業の方針を現場に伝わる言葉に翻訳し、指導する
- 現場で起きていることを報告し、方針に反映させる
リーダーに求められる人格や考え方
リーダーにどのような人間性や人格が必要かを確認したうえで、対人関係力を向上させるために、必要な思考やスキルを学んでいきます。
- 人間性や人格、あり方
- 自分以外の立場で物事を見たり、考えたりする力
目標達成スキル
目標達成に必要となる考え方やフレームワークを扱います。
- ロジカルシンキング
- KPIマネジメント
- PDCAサイクル
など
人のマネジメントに必要なコミュニケーション技法
自他のコミュニケーションスタイルを確認したうえで、メンバーとの信頼関係を築いたりするために用いる以下のような技法を学びます。
- ラポール形成
- チームビルディング
- ファシリテーション
- 1on1の実施方法
- 動機づけの理論
など
人材育成に必要なコミュニケーション技法
人材育成に必要なコミュニケーション技法を身に付けていきます。
- 褒める/叱る
- コーチング
- 適切なフィードバック技法
など
リーダーシップ研修を設計する際のポイント
効果性の高いリーダーシップ研修を実施するためには、設計時に以下の点に注意をしていく必要があります。
対象と目的の決定
リーダーシップ研修を企画する場合、まず「リーダーシップ」が何を指すのかというすり合わせが重要になるでしょう。「リーダーシップ」という言葉は、「コミュニケーション力」と同じように、非常に重要な概念である一方、人によって想像する内容が違います。
そのため、リーダーシップ研修を設計するときには、まず、「誰のどのようなリーダーシップを強化したいのか?」という対象と目的を明確にします。そして、誰を対象にして、理想と現状のどのようなギャップを埋めるのか、足りない要素を補強するのか、強みを伸ばすのかなどを決めていきましょう。
研修概要の決定
研修のゴールが決まったら、次は研修概要を決定していきます。まず、研修の大まかな内容を決めていく必要があります。研修内容に応じて、集合研修、e-ラーニング、オンライン研修など、適した実施方法も変わってきます。
管理職層を対象にする場合、スケジュールの調整も難しくなることが多いです。そのため、管理職向けのリーダーシップ研修では、早めに研修概要と実施方法、日程を決めていったほうがよいでしょう。そのうえで、研修の詳細カリキュラムを詰めていきましょう。
研修の効果性を高める工夫
研修の効果性を高めるために重要な原理は、「4:2:4の法則」として知られています。この法則では、実は、研修の効果性に影響を与えるのは、研修本番(2割)以上に、研修の前(4割)、研修の後(4割)であるということを示しています。
従って、研修プログラムを練ることと同時に、研修前後に関して以下のような準備をしていきましょう。
- 前向きな姿勢で参加してもらうための事前アナウンス など
→なぜ研修を実施するのか? どのようなメリットがあるのか? といった意識づけ
- 研修内容を「実践」してもらうための仕掛け
→アクションへの落とし込みやフォロー研修、実施結果の発表会など
まとめ
リーダーシップ研修を実施する場合、対象と目的を明確にすることが重要です。
リーダーシップ研修と一口にいっても、現管理職と候補者を対象にしたものと、一般社員を対象にしたものでは意味合いが大きく異なります。管理職層を対象とした場合、目的は組織の成果を上げるためのマインドとスキルを身に付けることになります。
一方で、一般社員を対象とした場合、目的はセルフリーダーシップを発揮できるようにすることが中心になることが多いでしょう。
また、管理職向けのリーダーシップ研修では、以下のようなものがプログラム内容になってきます。
- 組織の成果に責任を持つリーダーとしての自覚とスキル
- リーダーに必要な人間性や意識
- メンバーや周囲に良い影響を与えて動かすためのコミュニケーション力
など
変化が激しいビジネスシーンにおいて、リーダーシップは全メンバーに求められる力です。ぜひ目的を明確にして、効果的なリーダーシップ研修を実施してください。