人材育成で多くの企業が悩んでいるのが、「何をしたらいいのかわからない」「他社で行なっている教育手法を真似てみたが、うまくいかない」などです。こういった課題が生じる原因のひとつは、人材育成のゴールが不透明であることです。
記事では人材育成のゴールを見える化できる『スキルマップ』の概要や作成ステップを紹介します。
<目次>
- スキルマップを作成する目的
- スキルマップを作成するメリット
- スキルマップの作成ステップ
- スキルマップを作成するポイント
- スキルマップの作成テンプレート【職業/職種別】
- まとめ:スキルマップのテンプレートを活用して効果的な人材育成を!
スキルマップを作成する目的
スキルマップとは、「業務で必要なスキルを洗い出し、社員一人ひとり、もしくはチームや組織が、業務を遂行できるスキルを持ち合わせているかを一覧にした表」のことです。
必要なスキルを見える化したうえで、個々人のスキル状況を把握することで、効果的な人材育成が可能になります。企業によっては、力量表、力量管理表、技能マップと呼ぶこともあり、海外では「Skills Matrix」とも呼ばれます。まずはスキルマップ作成の目的を確認しておきます。
人材育成の体系化
人材育成で、育成対象者に「1人前の仕事」をしてもらうためには、必要なスキルやノウハウを身に付けてもらう必要があります。
実際の業務を遂行するうえでは、様々なスキルが必要であり、1つのスキルだけではありません。スキルマップを活用して人材育成を体系化することで、業務に必要なスキルを効率的に身に付けてもらうことが可能になります。
人材育成の標準化と指導者の負担低減
スキルマップを作成して、業務に必要なスキルが可視化されることは、人材育成の標準化にも繋がります。「どういったスキルをどういった順番で、どのレベルまで身に付ける必要があるか?」が明確になることで、指導者によって人材育成の内容に差が出てしまうことを防止できます。また組織内の仕事の質を統一することにもつながります。
スキルマップを作成するメリット
本章ではスキルマップを作成することのメリットを紹介します。一部、目的と重複する部分もありますが、読み流していただければと思います。
①人材育成の効率化
育成対象者に「どのようなスキルを身に付けてもらうべきか?」「どのような知識を知っていれば良いのか?」をスキルマップで可視化し、指導者と育成対象者で共有することで、育成対象者も全体像やゴールを理解して、人材育成を効率化できます。
②育成状況の見える化
スキルマップに対して育成対象者自身がセルフチェック、また指導者がチェックすることで、育成対象者が苦戦している業務や理解できていない仕事が明確になるので、ポイントを押さえた指導がしやすくなります。さらに指導者以外からも状況が見えやすくなるので、サポートもしやすいでしょう。
③育成対象者のモチベーションアップ
スキルマップに対して、「出来るようになった/身に付いたらチェックを入れる」ことで育成対象者は成長実感を得やすくなります。成長実感の獲得は、次に学ぶモチベーションにも繋がります。
イメージはラジオ体操の参加カードにスタンプが押されていく、また、RPGゲーム等でレベルアップしていく感覚です。とくに業績的な貢献が見えづらい、成果が出るまでに時間がかかる場合にはスキルマップによる成長実感の獲得が有効です。
④OJTの安定化と指導者の負荷軽減
スキルマップを作成することで、育成対象者に身に付けて欲しいスキルが明確になると、安定した育成が可能になります。OJTを初めて担当する指導者の場合、人材育成に苦戦することが多いでしょう。
経験が浅い指導者は、育成対象者に「なんとか様々なスキルや知識を身に付けて欲しい」と行き当たりばったりでレクチャーを行なってしまうことがあります。
しかし、スキルマップでゴールとステップが明確になっていれば、経験が浅い指導者も何を教えればいいのか、と迷ったり焦ったりすることなく、安定したOJTを実施できるようになります。
⑤オペレーションへの活用
スキルマップを作成するメリットは、新人や若手育成の効率化だけではありません。スキルマップを作成する過程で業務フローを明確化、タスクを細分化、そして、必要なスキルを言語化することで、副業やパートナー企業に業務を外注する等のオペレーションも容易になります。
スキルマップの作成ステップ
次は、スキルマップを作成するための具体的入ステップを紹介します。
【スキルマップ作成ステップ①】作成目的を確認する
最初にスキルマップを作成する目的を明確にしましょう。スキルマップの作成目的を明確にしないと、「作成すること」が目的となってしまいます。
たとえば、
- 新人の育成
- 職場全体のレベル向上
- 中期的な管理職育成
等の目的に応じて、どの程度までスキル項目を細分化するかも異なってきます。
作成に入る前に、「どんな目的で」「誰が対象で」「どのくらいの育成期間を想定して」「何をゴールに」といったポイントを明確にしましょう。
【スキルマップ作成ステップ②】業務フローと業務名を洗い出す
目的やゴールが決まったら、次に対象業務について、業務フローを洗い出し、さらに業務フロー内に含まれる業務を細分化して名称をつけます。細かく作成することで、業務の抜け漏れをなくしたり、育成対象者に対してより丁寧な説明をしたりすることが可能になります。
【スキルマップ作成ステップ③】業務の詳細を記述する
ステップ②で出た項目に対して、具体的な業務の詳細を記述します。ここには、どういった行動を取るか、どういった知識が必要かを詳細に記述することで、育成対象者と理解のミスマッチが生じることを防ぐことができます。
【スキルマップ作成ステップ④】スキルレベルの評価基準を設定する
最後に、各業務の到達レベルを何段階かで設定します。一般的には、3~5段階のレベルに区別することが多いです。3段階であれば、
レベル3:その業務を指導できる
レベル2:1人で安定した品質を保って実施できる
レベル1:マニュアルを見ながら実施できる
レベル0:実施できない
といったイメージです。業務難易度や業務内容、スキルマップの運用方法に合わせて検討してください。
スキルマップを作成するポイント
この章では、スキルマップで人材育成の効果性を上げるために押さえておきたいポイントを紹介します。
スキルマップを作成する目的やゴールを明確にする
繰り返しになりますが、スキルマップを作成する目的やゴールを明確にすることが重要です。目的やゴールを考える要素として、
- スキルマップ作成する目的は?
- スキルマップの対象となるのは?
- どんなスキルを習得して欲しいか?
- どのくらい時間軸で育成を考えるか?
- どのような状態をゴールとするか?
などのポイントを押さえてゴール設定をしましょう。
業務フローやタスクを可能な限り細分化する
作成ステップ内でも記載しましたが、業務を「実行ベース」で、可能な限り「具体的に細分化する」ことで、精度の高いスキルマップとなります。
「どんな知識やスキルを身に付けて欲しいか?」から考えると意外と抜け漏れが生じがちです。業務フローから考えて細分化していくことで抜け漏れも防げますし、スムーズに指導しやすいスキルマップとなるでしょう。
スキルマップの作成テンプレート【職業/職種別】
最後に、職業/職種別でスキルマップのテンプレートを使った業務フローや細分化した業務名、業務詳細の事例を簡単に紹介します。本ページの下部からテンプレートをダウンロードできますので、下記を参考に作成してみてください。
テンプレート例①:営業職
「アポイント獲得」の業務フロー
アポイントの取得
①自社サービスの熟知
②トークスクリプトの作成
③架電
①自社サービスの特徴や強み、顧客事例や価格帯を理解する
②ヒアリング用にオープン/クローズドクエスチョンの内容をまとめ、架電の準備をする
③顧客リストで顧客情報(属性)などを確認し、実際に電話をする
マーケティング【テンプレート例②】
「SEOに則った記事制作」を身に付けて欲しい場合
SEO記事制作
①KWの選定
②記事のアウトライン構成
③記事の執筆
①SEOツールで自社サービスのターゲットや検索ボリュームに合わせたKW選定をする
②上位表示されている競合の記事を見て、執筆に必要なアウトラインを作る
③ペルソナや読み手、KWの検索意図や目的に沿った内容で記事を執筆する
経理(製造業)【テンプレート例③】
原価計算表の基本的な作成スキルを身に付けて欲しい
原価計算
①原価計算の目的や知識を理解する
②費用別原価計算を行なう
③部門別原価計算を行なう
④製品別原価計算を行なう
①財務会計や管理会計、直接費と間接費、変動費と固定費などを理解している
②労務費などの借方を費目別に分類し、それぞれを記録と集計する
③製造間接費を、発生部門別に合理的な割合をもって配分する
④製品の種類ごとに製品一単位の原価を計算する
参考:キャリアマップ、職業能力評価シート及び導入・活用マニュアルのダウンロード(厚生労働省)
まとめ:スキルマップのテンプレートを活用して効果的な人材育成を!
スキルマップは、人材育成を効果的なものにするうえで有効なツールです。記事ではスキルマップの全体像から作成ステップ、事例までを紹介しました。スキルマップは「レベル」の概念を取り入れることで、新人や若手育成だけでなく、中堅層から管理職への育成ステップ等までカバーすることができます。
本記事の内容を参考に、ぜひ自部門や組織でのスキルマップ作成に取り組んでみてください。