厚生労働省の報告(令和2年雇用均等調査)によると、男性の育児休業取得率は2020年に12.65%となり、過去最高を記録したことがわかっています。しかし、女性の育児休業取得率の80%以上と比べると、男性の水準は非常に低い実情があります。
こうしたなかで創設されたのが、“産後パパ育休”制度(出生時育児休業制度)です。
記事では、産後パパ育休制度(出生時育児休業制度)の概要と、産後パパ育休中の育児休業給付や社会保険料の免除などを紹介します。記事後半では、産後パパ育休の新設にともなって企業が検討する必要がある対応を確認します。
<目次>
産後パパ育休(出生時育児休業制度)とは?
“産後パパ育休”とは、2022年10月1日から始まる出生時育児休業制度の通称です。本章では、まず、産後パパ育休がどのようなものかを確認しましょう。
産後パパ育休制度の概要
産後パパ育休の概要は、以下のとおりです。
- 対象期間・取得可能日数:子の出生後8週間以内に4週間まで取得可能
- 申出期限:原則休業の2週間前まで
- 分割取得:分割して2回取得可能(最初にまとめて申し出ることが必要)
通常の育休とは別に取得可能
産後パパ育休のポイントは、通常の育休にプラスして取得できることです。基礎となる育児休業制度は、「育児休業法」という形で1992年4月1日から施行されたものになります。制度が創設された背景には、以下の3つの社会的要因があったとされています。
- 女性の職場進出
- 核家族化の進行などの理由による家庭機能の変化
- 少子化にともなう労働力不足への懸念 など
女性の場合、出産翌日から8週間、産後休業が取得可能です。一方で、出産をしない男性には、産後休業がありませんでした。また、男女の両方が取得できる育児休業の申出期限は、原則として開始の1ヵ月前までと決められています。
すると、たとえば、妻が出産予定日より2ヵ月も早く出産(早産)をした場合、赤ちゃんが生まれたばかりの最も忙しい時期に、夫は原則1ヵ月前までの申し出が必要となる育児休業制度の計画的な取得が難しくなります。
産後パパ育休では、従来の育休制度におけるこうした問題を解消するために、申し出期限を休業の2週間前までにするとともに、育児休業制度とセットで取得することも可能としています。
出典:男性の育児休業取得促進等に関する参考資料集
出典:育児・介護休業法 改正ポイントのご案内
休業中の就業も可能
産後パパ育休では、労使協定を締結している場合に限り、労働者が合意した範囲で休業中に就業することも可能となっています。産後パパ育休中に就業する場合、以下の流れで手続きを行ないます。
- 1.労働者が就業しても良い場合は、事業主にその条件を申し出る
- 2.事業主は、労働者が申し出た条件の範囲内で候補日・時間を提示(候補日がない場合は、その旨を伝える)
- 3.労働者が同意する
- 4.事業主が通知する
なお、就業可能日などには上限があります。
- 休業期間中の所定労働日・所定労働時間の半分
- 休業開始・終了予定日を就業日とする場合、当該日の所定労働時間数未満
たとえば、普段は以下の労働条件で働く男性メンバーが、2週間の産後パパ育休を取得すると仮定します。
- 所定労働時間:1日8時間
- 1週間の所定労働日:5日
上記のメンバーの休業期間だけに着目すると、所定労働日は10日、所定労働時間は80時間です。この数字に制度の上限を当てはめると、産後パパ育休の2週間で就労できる日数・時間数は、以下のとおりになります。
- 就業日数の上限:5日
- 就業時間の上限:40時間
- 休業開始・就業予定日の就業:8時間未満
なお、2022年10月1日から始まる産後パパ育休と育児休業制度、2022年9月30日までの現行・育児休業制度を比較すると、以下のとおりになります。
産後パパ育休も育児休業給付の対象
産後パパ育休も、育児休業給付(出生時育児休業給付金)の対象となります。ただし、休業中に就業日がある場合は、就業日数が最大10日(10日を超える場合は就業している時間数が80時間)以下である場合に、給付の対象となる仕組みです。
なお、上記は、28日間の休業を取得した場合の日数・時間です。休業日数が28日より短い場合、その日数に比例して短くなります。
休業中の社会保険料の免除について
産後パパ育休中は、産前産後休業中や育児休業中と同様に、以下の社会保険料が免除されます。
- 健康保険料
- 厚生年金保険料
雇用保険の場合は、産後パパ育休中に勤務先からの給与支給がない場合、保険料負担も生じない仕組みです。
出典:育児休業、産後パパ育休や介護休業をする方を経済的に支援します
産後パパ育休の新設にともない企業が取るべき対応
産後パパ育休制度の創設にともない、企業には、以下の対応が義務付けられるようになります。
産後パパ育休制度や社会保険料の扱いなどの説明・周知
2022年10月1日以降は、本人または配偶者の妊娠・出産などを申し出た労働者に対して、事業主は育児休業制度などに関する次の事項の周知と休業の取得意向の確認を、個別に行なうことが義務付けられるようになります。
- 1.育児休業・産後パパ育休に関する制度
- 2.育児休業・産後パパ育休の申し出先
- 3.育児休業給付に関すること
- 4.労働者が育児休業・産後パパ育休期間に負担すべき社会保険料の取り扱い
個別の周知・意向確認は、以下の方法で行ないます。
- 1.面談(オンラインも可能)
- 2.書面交付
- 3.FAX(労働者が希望した場合のみ)
- 4.電子メールなど(労働者が希望した場合のみ)
取得を控えさせるような形での個別周知と意向確認は、もちろん認められません。
社員に対する教育・研修(ハラスメント対策)
2022年の改正では、産後パパ育休などの申し出や、期間中の就業を申し出なかった労働者に対して、育休の取得を妨げる以下のような取り扱いは禁止されています。
- 上司に育休取得の相談をしたら、「男性のくせに育休なんてありえない!」と言われた
- 先輩に育休取得の予定を伝えたら、「自分は取得しなかった!あなたも諦めるべきだ!」と言われた
こうした不利益な取り扱いを防ぐには、育休などを取得する社員へのハラスメント防止の教育・研修をする必要があります。
事務手続きなどの窓口設置
産後パパ育休をスムーズに取得してもらうため、相談窓口や効率的な事務手続きなどの環境整備も義務付けられています。なお、厚生労働省では、社内研修で使える資料・動画や、事例紹介などの情報も公開中です。この資料などを活用しながら、自社に合った産後パパ育休の環境整備をしていくとよいでしょう。
参考:男性の育休に取り組む社内研修資料について
参考:研修用資料活用方法(厚生労働省委託事業「イクメンプロジェクト」)
まとめ
産後パパ育休は、2022年10月1日から創設される制度の一つです。産後パパ育休では、原則休業の2週間前までの申請で、子の出生後8週間以内に4週間までの休業取得が可能としています。
休業中の就業も可能であるほかに、育児休業給付の対象であったり、休業中の社会保険料が免除されたりといったメリットもあります。
企業は、産後パパ育休の創設にともない、以下の対応をとる必要があります。
- 産後パパ育休制度や社会保険料の扱いなどの説明・周知
- 社員に対する教育・研修(ハラスメント対策)
- 事務手続きなどの窓口設置
最近では、男性に対するパタニティハラスメントが大きく報道されたり、SNSで炎上したりして企業イメージが棄損されるケースも生じています。厚生労働省の資料などを参考にしながら、自社に合った環境整備をしていく必要があるでしょう。