経営とマネジメント|ドラッカーをもとに概念や必要な7つの能力を解説

更新:2023/07/28

作成:2022/10/04

古庄 拓

古庄 拓

株式会社ジェイック取締役

経営とマネジメント|ドラッカーをもとに概念や必要な7つの能力を解説

経営するうえで、成果を上げるうえで、マネジメントは欠かせないものです。

 

ただ、「マネジメント」という言葉が持つ意味は非常に幅広く、「マネジメントするってどういうこと?」「メンバーのマネジメント能力を高めるためにはどうすればいいの?」「経営幹部に必要なマネジメントは管理職のものとは違うの?」といった疑問が出ることもあるでしょう。

 

本記事ではドラッカーの考え方も踏まえて、マネジメントの概念や必要な能力を解説します。

<目次>

経営陣や管理職に不可欠なマネジメントとは?

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はじめに、経営陣や管理職に大切なマネジメントとは具体的になんなのかを説明します。そのうえで、マネジメントが大切とされる理由を解説します。

 

マネジメントの意味

マネジメントとは「組織が成果を上げるための道具・機能・機関」のことです。

 

もともとはアメリカの経営学者であるピーター・F・ドラッカーが提唱しました。ピーター・F・ドラッカーは“マネジメントの父”とも呼ばれ、現在の企業経営論に基盤を作った人物です。

 

上記の定義は若干分かりづらいですので、より平易な言葉でマネジメントを説明すると、「何とかやりくりして成果を出すこと」とも言えるでしょう。

 

個人が自分自身をマネジメントする「セルフマネジメント」、チームや部課を対象とした「チームマネジメント」、そして、組織や企業全体を対象とした「経営としてのマネジメント」など、マネジメントには幅広い概念があります。

 

組織において“マネジメントする人”であるマネージャーは「自分が管掌する組織の成果に責任を持つ人物」として、組織の計画実行、目標達成に向けた的確なマネジメント力が求められます。

 

マネジメントが大切な理由

マネジメントは企業の持続的な発展や目標達成のために不可欠なものです。

 

目標を明確にして達成に向けた計画を作成し、資源の調達や配分を行ない、実行を管理し、問題や障害に対応して成果を上げるのが“マネジメント”です。

 

これが上述した「何とかやりくりして成果を出すこと」の意味です。個人からチーム、部課、組織全体におけるまで、成果を上げるうえでマネジメントが不可欠です。

マネジメントの役割

経営レベルでのマネジメントには、おもに3つの役割があります。

  • 組織の目的を果たす
  • 人材を指導・育成する
  • 社会に貢献する

 

組織の目的を果たす

マネジメントには企業特有の目的やミッションを把握して使命を果たすこと、組織の目標を達成し維持・発展を実現することが求められます。

 

つまり、経営レベルのマネジメントには、ミッションに紐づく事業を構築・運営して成果を上げるという役割があるのです。

 

人材の指導・育成

人材の指導・育成もマネジメントが果たすべき役割の一つです。

 

メンバーに仕事を通じて自己実現できる機会や対価、地位を与え、一人ひとりの強みを活かせる指導・育成を行い、成果を上げてもらうようサポートします。

 

中長期的に組織の目的を果たすために、人材の指導・育成は必要不可欠です。

 

社会貢献に取り組む

社会貢献に取り組むのもマネジメントの役割です。ここでの社会貢献は別にボランティアをする、CSR投資をするといったことではありません。

 

社会貢献の使命を果たすためには、組織の使命と社会のニーズとすり合わせる必要があります。

 

そして、企業は社会のニーズに応えて、社会貢献につながる目標を達成しなければなりません。
同時に、組織が存在・活動することで社会に不安や混乱を生じさせないよう社会的責任を果たすことも必要です。

マネジメントの種類

次に、マネジメントの種類を紹介します。マネジメントの種類は、階層と領域によって異なります。

 

階層別のマネジメント

組織の階層別にマネジメントを考えると、3つの階層+個人で求められるマネジメントは異なります。

  • トップマネジメント(Top Management)
  • ミドルマネジメント(Middle Management)
  • ロワーマネジメント(Lower Management)
  • セルフマネジメント(Self Management)

トップマネジメントは、経営者や組織の経営陣を指します。組織の基本的な方針や経営計画を決定し、経営資源を配分する権限を持つのがトップマネジメントです。
トップマネジメントは非常に大きな権限を持つからこそ、経営の最終的な責任を担うのもトップマネジメントの役割です。

 

ミドルマネジメントはいわゆる中間管理者層です。たとえば、部長、課長、支店長、工場長、マネージャーなどがミドルマネジメントに当たります。
ミドルマネジメントは、トップマネジメントをサポートしつつ、組織の方針や経営計画を現場に落とし込んで実行することが役割です。
同時にロワーマネジメントや現場、顧客からの意見を集めて、事業計画や方針への反映を提言するのもミドルマネジメントの仕事です。

 

このように、トップマネジメントと現場のパイプ役を果たすのがミドルマネジメントです。組織の規模が大きくなるほど、ミドルマネジメントの重要度は増していきます。

 

ロワーマネジメントは係長、主任、チームリーダーなどの現場の監督者層を指す言葉です。直接現場の業務を指揮・統制するのがロワーマネジメントです。
プレイングマネージャーとして活動することが多いのもローアーマネジメントの特徴でしょう。

 

最後に、セルフマネジメントとは組織の全員に求められるものです。自分自身の心身、言動、姿勢、タスクなどをマネジメントするのがセルフマネジメントです。

 

セルフマネジメントはプレイヤー層はもちろん、すべてのマネジメント階層に必要不可欠な能力です。自分自身をマネジメントできていない人が、他人をマネジメントすることはできません。

 

人と組織におけるマネジメントの領域

マネジメントを人と組織の視点でとらえると、大きく3つの領域で考えることができます。3つの領域はそれぞれ仕事が異なります。

  • 組織運営
  • 人材管理
  • メンタルヘルス

組織運営は組織内のプロジェクトを管理し、さらなるパフォーマンスの向上やコミュニケーションが良好な体制づくりに責任を担います。

 

チームマネジメント、ナレッジマネジメント、プロジェクトマネジメントなどが含まれます。

 

人材管理とはメンバーのスキルや状況を把握して、適切な人材配置や強みを活かした育成を行なうことです。

 

成果を促すために、メンバーのモチベーションを向上させることも人材管理の仕事の1つです。おもにタレントマネジメント、パフォーマンスマネジメント、モチベーションマネジメントなどがあります。

 

メンタルヘルスの領域では、職場内でのストレスやメンバー一人ひとりの不調を管理して、能力を発揮して働きやすい環境づくりを行ないます。
おもにアンガーマネジメント、ストレスマネジメント、メンタルヘルスマネジメントなどがあります。

マネジメントの具体的な業務例

マネジメントにはさまざまな業務があります。そのなかでも代表的な業務例を4つ紹介します。

  • 目標設定
  • 計画立案と進捗管理
  • 人材育成
  • 資源の調達と配分

 

目標設定

チームや組織の目標設定は、一定期間をかけてチームや組織がどこにたどり着くのかというゴールの設定です。共通目標の存在は、チームや組織に方向性をもたらし、メンバーの協働をもたらします。

 

設定するゴールには、ミッションやビジョン、上位目標と紐づくこと、また、現実的に挑戦可能であることが求められます。

 

現実の組織運営ではチームや組織で設定した目標を、さらに個人に落とし込むことも多いでしょう。個人に落とし込む際には、単に数値を分解するのではなく、個人にとっての意味を付与することが大事です。

 

メンバーの目標設定は後述する人材育成にも関連します。能力やレベル、意欲、強みなどを把握したうえで、人材育成につながる目標を設定しましょう。

 

計画立案と進捗管理

目標を定めたら、目標達成に向けた達成方針や計画を作成します。目標と達成方針・大枠の計画づくりは状況に応じて、順番が入れ替わったり、並行して実施したりすることもあるでしょう。

 

例えば「A事業を伸ばす」という大枠方針があって、それを踏まえて売上目標や成長率の目標を設定する順番になることもあるでしょうし、その逆もありえます。

 

計画の立案で大事なのが、目標設定と同じく上位目標との整合性や実現可能性です。

 

「目標達成に意味がある」、かつ「目標を達成していける・手が届きそうである」という確信の両方がそろうと、計画実行に向けたメンバーのモチベーションが向上します。

 

従って、目標を達成できるという計画をきちんと作成してメンバーに共有する、メンバーと一緒に計画を作成することはマネジメントにおいて非常に重要です。

 

そして、計画をきちんと実行することも大事です。『経営は実行』という名著もありますが、実行されない計画が成果を生み出すことはありません。

 

計画を実行する過程では、かならず計画との狂いが生じます。計画とのギャップをリカバリーして目標達成に届かせるように進捗管理、課題解決していく必要があります。

 

人材育成

人材育成もマネジメントにおける非常に重要な業務です。短期的な目標達成はもちろん、自分の仕事を権限移譲していけるメンバーを育てることが中長期的な組織の成長につながります。

 

メンバーの仕事に対する意欲をうまく引き出し、能力を発揮できる環境づくりと動機づけを行なう必要があるでしょう。

 

メンバーの強みを引き出し、活躍させられるかどうかはマネジメントの技量にかかっています。業務内容を把握して状況に応じて相談に応じたりアドバイスを行なったりすることも大切です。

 

人材育成に際しては、自分自身がロールモデルとなるように自分の課題に取り組んだり、強みを生かしたりすることも大切です。

 

また、実際の指導に際してはティーチングとコーチングをうまく使い分けて指導する必要もあります。

 

セルフマネジメントからロワーマネジメント、ミドルマネジメント、トップマネジメントへと階層を上げていくにしたがって、「他人(メンバー)の力で成果をあげる」割合が増えていきます。

 

従って、人材育成をきちんとしていけるかは、マネジメントの階層が上がるほど重要になっていきます。

 

資源の調達と配分

組織の方針決定や実行に際して重要になるのが、人・物・金といった経営資源です。

 

下層のマネジメントでは、与えられた資源で最大の成果を上げることが主要なミッションですが、マネジメントの階層が上がっていくに従って、資源の調達と配分が重要な役割になってきます。
資源の配分とは、新規事業や新規サービス、どの施策にどれくらいの予算や人員を投下するのかなどです。

 

また、ミドルからトップマネジメントになってくると、不足する人員の採用にコミットする、銀行やVCなどから資金を調達するなど、資源の調達も重要な仕事です。

マネジメントに必要な7つの能力

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経営レベルのマネジメントに必要な能力を7つ紹介します。

 

 □リーダーシップ
 □決断力
 □分析力
 □問題解決力
 □プロジェクトマネジメント力(管理能力)
 □コミュニケーション力(人を動かす力)
 □人間性

 

リーダーシップ

後述しますが、概念としてのマネジメントとリーダーシップは異なります。ただし、ビジネス現場においては、マネジメントポジションの人にマネジメント能力とリーダーシップ能力の双方が求められます。

 

ここでのリーダーシップはミッションやビジョン、目的・ゴールを定めてメンバーを鼓舞する力です。

 

決断力

リーダーシップにも紐づいて、マネジメント階層に求められるのが決断力です。ビジネスでは、マネジメントポジションの人に持ち込まれる意思決定は正解がわからないものが大半です。

 

とくにマネジメント階層が上がるほど、正解が見えない意思決定を迫られます。

 

正解を導くためには、ミッションやビジョン・バリュー、事業計画、リソースやリスクなど、さまざまな視点から検討したうえで決断することが求められます。

 

より良い判断も大事ですが、早く決断することも必要です。正しい判断は正しい情報に立脚するものですが、一方で、“正解”を探そうと情報収集ばかりして決断が遅れることもマネジメント失格です。

 

意思決定の不可逆性や選択肢のリスクをきちんと見極めたうえで、より早く、より適切に意思決定することが求められます。

 

分析力

決断の精度を上げるために、分析力は大切です。例えば組織の未来を創造するには、客観的な視点から自社を分析して方針を検討する必要があります。

 

経営レベルの分析であれば、マーケティングやアカウンティング、ファイナンスの知識やフレームワークを活用することが不可欠です。

 

ミドルやロワーマネジメントなどのレベルであれば、論理的思考により状況を整理したり問題の要因を探ったりすることが求められます。

 

マネジメントの階層が上がっていくにしたがって状況は複雑になり、本質を見抜くコンセプチュアルシンキングなども重要になってくるでしょう。

 

問題解決力

日々発見される問題を「いかに迅速に解決するか?」もマネジメントに必要な能力です。状況を分析することと、問題を解決する(時には解決しないことを選択する)力は別物です。

 

適切に問題解決するためには、そもそも適切な問題設定が必要です。

 

また、問題の解決策を考えるうえでは、前述したロジカルシンキングやクリティカルシンキング、ラテラルシンキングやコンセプチュアルシンキングなど、さまざまな思考力やフレームワーク、知識が役に立ちます。

 

そして、最終的にはメリット・デメリットがある選択肢のなかからひとつに決めて実行する決断力が求められるわけです。

 

プロジェクトマネジメント力(管理能力)

組織で成果を出そうと思うと、作成した計画や考えた施策をしっかりと実行する必要があります。

 

実行するには計画や施策をタスクレベルまで分解して、期日を決めて、進捗を管理するプロジェクトマネジメント力が必要です。

 

必要となる経営資源の状況、特に予算や人的工数なども把握しながら、優先順位をつけて進めていかなければなりません。

 

コミュニケーション力(人を動かす力)

上記のプロジェクトマネジメント力は「物」や「タスク」にフォーカスして解説しましたが、マネジメント階層は他人を動かして組織の成果を上げるポジションでもあります。

 

どれだけ優れた計画や問題解決策も実行されなければ、絵に描いた餅で終わってしまうのが現実であり、計画やプロジェクトを実行するのは「人」になるわけです。

 

従って、マネジメント階層には、目的や目標、計画をメンバーに発信してきちんと理解してもらうコミュニケーション力、発信力が大事です。
メンバーに目標や自分の考えを理解してもらわなければ、誰も動いてくれません。

 

同時に、一方的に伝えるだけでなく、相手の意見を聞いて理解することも非常に大切です。さらに、大前提となる信頼関係を構築する力も必要です。

 

人間性

メンバーや周囲との信頼関係を構築するうえで、マネジメントには人間性が求められます。人間性は人格や器量と表現することもできるでしょう。

 

ドラッカーは「リーダーシップが発揮されるのは、 人格においてだからである」と言い、マネジメントには真摯さ(インテグリティ)が必要だと強く主張しています。

 

そして、「真摯さ(インテグリティ)の欠如した者は、人間という最も重要な資源を破壊し、組織の精神を損ない、業績を低下させる」とも断言しています。

 

人間性や人格は、“マネジメントに必要な能力”という表現と相容れないように聞こえるかもしれません。

 

しかし、マネジメント階層には他人を動かして成果を上げることが求められる以上、そこには信頼関係を構築するための人間性が不可欠です。

 

そして、人間性はその他の能力やスキルと同じように磨くことが可能です。だからこそ、人間性はマネジメントにとって必要な能力だといえるでしょう。

経営やマネジメントに関するよくある質問

最後に、経営やマネジメントに関するよくある質問をいくつか紹介、回答します。

 

リーダーシップとの違いは?

リーダーシップとはミッションやビジョンなどの方向性やゴールを示し、メンバーを鼓舞することです。

 

一方、マネジメントはリーダーが示した方向性や目標を理解して、資源や手段・進捗を駆使して、ゴールにたどり着くことです。

 

リーダーシップは”どこに梯子をかけるかを示すこと”、マネジメントは”実際に梯子をかけて上ること”とイメージすればわかりやすいでしょう。

 

違う言い方をすれば、リーダーシップは主に“Why”や“What”を扱い、マネジメントは“How”を扱います。

 

ただし、現実的には組織のマネジメントポジションであるマネージャーやリーダーは、リーダーシップとマネジメントの両方を担う必要があります。

 

マネジメントでよく耳にするドラッカーとは?

ドラッカーは“マネジメントの父”と称されるオーストリア出身の経営学者です。

 

現在の企業経営に多大な影響を与えており、著書の執筆のみならず、世界を代表する多くの大企業にコンサルティングを行ないました。

 

“マーケティングの父”と呼ばれるコトラーは、「自分がマーケティングの父ならば、ドラッカーがマーケティングの祖父である」とドラッカーの影響力を語っており、マネジメントとマーケティング、双方において現在の基盤となる思想を生み出したのがドラッカーです。

経営に必要なマネジメントの役割と能力を理解してビジネスに役立てよう

会社経営に不可欠なマネジメントは、階層で考えるとトップマネジメント、ミドルマネジメント、ロワーマネジメント、セルフマネジメントと大別できます。

 

各階層で求められるマネジメント能力は異なる部分もありますが、記事内で紹介した7つの能力は、各階層で共通して求められる要素です。

 

階層を上がっていく中では能力のレベルUP、また、能力を支える知識面のインプットなどが必要になってきます。

 

自分やメンバーのマネジメント能力を評価し、強みを伸ばし、弱みを補っていくうえで、記事で整理・解説した内容が参考になれば幸いです。

著者情報

古庄 拓

株式会社ジェイック取締役

古庄 拓

WEB業界・経営コンサルティング業界の採用支援からキャリアを開始。その後、マーケティング、自社採用、経営企画、社員研修の商品企画、採用後のオンボーディング支援、大学キャリアセンターとの連携、リーダー研修事業、新卒採用事業など、複数のサービスや事業の立上げを担当し、現在に至る。専門は新卒および中途採用、マーケティング、学習理論

著書、登壇セミナー

・Inside Sales Conference「オンライン時代に売上を伸ばす。新規開拓を加速する体制づくり」など

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