障害者雇用納付金制度とは?概要や仕組み、調整金・助成金の種類を解説

更新:2023/07/10

作成:2022/06/13

古庄 拓

古庄 拓

株式会社ジェイック取締役

障害者雇用納付金制度とは?概要や仕組み、調整金・助成金の種類を解説

障害者雇用促進法では、令和4年度の民間企業の法定雇用率を2.3%としています。現在、従業員を43.5人以上雇用している事業主は、障害者を1人以上雇用することが求められています。しかし、中小企業の場合、障害者雇用に向けた準備や積極的な採用活動が難しい側面もあるでしょう。

 

そんな企業が利用できるのが、障害者雇用納付金制度です。記事では、障害者雇用納付金制度の概要・目的・仕組みを解説したうえで、障害者雇用に関する調整金・助成金を紹介します。

<目次>

障害者雇用納付金制度の目的

障害者雇用納付金制度とは、障害者の雇用は事業主が共同して担うべき責任であるという社会連帯責任の理念に基づき生まれた制度です。

 

 

障害者雇用納付金制度の目的

障害者雇用納付金制度の目的を知るには、まず、制度の前提・背景を理解する必要があります。

 

厚生労働省では、障害があってもなくても、誰もが適性と能力に見合った雇用の場に就き、自立して生活できる社会の実現を目指して、障害者の雇用対策を総合的に推進しています。推進の過程で生まれたのが、障害者雇用促進法です。

 

障害者雇用促進法の「障害者雇用率制度」は、全従業員に対し一定割合の人数で、障害者を雇用することを求めています。障害者雇用の状況を数値化したものが「障害者法定雇用率」であり、令和3年3月1日以降、民間企業の法定雇用率は2.3%となっています。

 

一方で、企業が障害者を雇用するには、以下のような準備・整備が必要となり、健常者の雇用より多くの経済的負担が発生する場合もあります。

  • 作業施設・作業設備の改善
  • 職場環境の整備
  • 特別の雇用管理

など

 

厚生労働省では、障害者を雇用する事業主の経済的負担を軽減し、事業主間の負担の公平を図りつつ、障害者雇用の促進と職業を高めることを目的に「障害者雇用納付金制度」を設けています。

 

 

障害者雇用納付金制度の仕組み

障害者雇用納付金制度は、法定雇用率が未達成かつ常用労働者100人超の企業から障害者雇用納付金を徴収します。逆に、法定雇用率を達成している企業に対しては、障害者雇用納付金をもとに障害者雇用調整金、報奨金を支給します。

 

また、障害者を雇い入れる企業が、作業施設・設備の設置などで一時に多額の費用の負担を余儀なくされる場合、助成金として設置費用の補助を申請することも可能です。

 

障害者雇用納付金制度とは?概要や仕組み、調整金・助成金の種類を解説

図引用:事業主のみなさまへ 令和4年度版 ご案内(独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構)

 

 

障害者雇用に関する調整金・助成金の種類

障害者雇用納付金制度とは?概要や仕組み、調整金・助成金の種類を解説

障害者を雇用したときに使える調整金・助成金には、さまざまな種類があります。本項では、令和4年度における基本的な制度内容を解説しましょう。なお、調整金や補助金は年度ごとに変更も生じますので、いま時点での最新情報は必ず厚生労働省のサイトで確認してください。
出典:事業主のみなさまへ 令和4年度版 ご案内(独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構)

 

 

障害者雇用調整金

障害者雇用納付金の申告をしなければならない事業主のうち、法定雇用障害者数を超えて知的障害者、身体障害者または精神障害者を雇用する事業主を対象として調整金を支給する制度です。

 

支給申請が可能かどうかは、前年度(令和3年4月1日から令和4年3月31日まで)の各月における算定基礎日での常用障害者数の年度間合計数が、各月ごとの算定基礎日における法定雇用障害者数の年度間合計数を超えるかで判断します。

 

調整金の額は、以下の計算式で算出します。

  • 調整金の額=(B-A)×27,000円
    (A:各月ごとの算定基礎日における法定雇用障害者数の年度間合計数)
    (B:各月ごとの算定基礎日における常用障害者数の年度間合計数)

 

申請期限は、令和4年の場合、令和4年4月1日から5月16日までです。所定の支給申請書を使って、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構に申請します。申請が通ると、令和4年10月~12月までに、申請者が指定した預金口座に振り込まれます。

 

申請内容に偽りや不正行為があった場合は、支給額の全部または一部の返還が求められます。注意してください。

 

 

在宅就業障害者特例調整金

近年では、IT技術の発達や働き方の多様化によって、職場への通勤が困難な障害者も、在宅での就業がしやすくなっています。こうした背景から生まれたのが、在宅就業障害者特例調整金と在宅就業障害者特例報奨金です。

 

在宅就業障害者特例調整金は、令和4年度障害者雇用納付金申告もしくは障害者雇用調整金支給申請事業主であって、前年度(令和3年4月1日~令和4年3月31日まで)に在宅就業障害者または在宅就業支援団体に対して仕事を発注し、業務の対価を支払った事業主が申請できる制度です。

 

在宅就業障害者特例調整金では、「調整額」に「事業主が前年度(令和3年4月1日から令和4年3月31日まで)に支払った在宅就業障害者への支払い総額を評価額で除して得た数」を乗じて得た額が支払われます。

 

申請期限は、令和4年の場合、4月1日から5月16日です。申請方法(所定の支給申請書を使用)や支給時期(令和4年10月~12月)は、基本的に先述の障害者雇用調整金と同じです。

 

 

報奨金

常時雇用している労働者数が100人以下の事業主に対して、各月の雇用障害者数の年度間合計数が一定数(各月の常時雇用している労働者数の4%の年度間合計数または72人のいずれか多いほう)を超えて障害者を雇用している場合に、一定数を超えて雇用した障害者の数に21,000円を乗じた額を支給する制度です。

 

申請期限は、令和4年の場合は4月1日から8月1日です。報奨金は、所定の支給申請書を使って独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構に申請します。申請が通ると、令和4年10月~12月までに、申請者が指定した預金口座に振り込まれます。

 

 

在宅就業障害者特例報奨金

報奨金の申請対象である事業主が、前年度に在宅就業障害者または在宅就業支援団体に対し仕事を発注し、業務の対価を支払った場合に、「報奨額(17,000円)」に「事業主が当該年度に支払った在宅就業障害者への支払い総額を評価額(350,000円)で割って得た数」を乗じて得た額を支給する制度です。

 

申請期限は、令和4年の場合は、4月1日から8月1日です。報奨金は、所定の支給申請書を使って独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構に申請します。申請が通ると、令和4年10月~12月までに、申請者が指定した預金口座に振り込まれます。

 

 

特例給付金

令和3年度より始まった制度です。短時間ならば働くことができる障害のある労働者を雇用する事業主に対して支給されるものになります。特例給付金の申請ができるのは、以下の3要件を満たしている事業主です。

  • 常用障害者を雇用する事業主
  • 支給対象である週の所定労働時間が10時間以上20時間未満の障害者を雇用する事業主
  • 納付金の未申告・未納、申請対象の障害者への適切な雇用管理を欠いたことによる労働関係法令などの違反による送検処分がない事業主

 

特例給付金の額は、申請対象期間に雇用した週の所定労働時間10時間以上20時間未満の障害者の合計数に支給単価を乗じて計算します。支給単価は、申告義務があるかどうかで異なります。

  • 申告義務がある事業主:7,000円
  • 申告義務がない事業主:5,000円

 

特例給付金の申請期限も、申告義務の有無で異なります。所定の支給申請書を使って独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構に申請してください。

  • 申告義務がある事業主:令和4年4月1日~5月16日まで
  • 申告義務がない事業主:令和4年4月1日~8月1日まで

 

申請が通ると、令和4年10月~12月までに、申請者が指定した預金口座に振り込まれます。

 

 

各種助成金

各種助成金は、障害者を雇い入れたり、雇用を継続するために職場環境を整備したりする事業主に対し、申請に基づき費用の一部を助成するものです。令和4年度は、以下のような助成金が提供されています。自社の障害者雇用や教育、措置に合ったものを活用しましょう。

 

 

【雇い入れた場合】

  • 特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース)
  • 特定求職者雇用開発助成金(発達障害者・難治性疾患患者雇用開発コース)
  • トライアル雇用助成金(障害者トライアルコース・障害者短時間トライアルコース)

 

 

【施設などの整備や適切な雇用管理の措置を行なった場合】

  • 障害者雇用納付金制度に基づく助成金

 

 

【職業能力開発をした場合】

  • 人材開発支援助成金(障害者職業能力開発コース)

 

 

【職場定着のための措置を実施した場合】

  • キャリアアップ助成金(障害者正社員化コース)

 

出典:障害者を雇い入れた場合などの助成(厚生労働省)

 

 

障害者雇用納付金制度の意義を正しく理解する

障害者雇用は、企業に課せられた義務となっています。障害者の雇用の促進等に関する法律・43条第1項で、常用雇用労働者数が43.5人以上の事業主の場合、障害者を1人以上雇用し、障害者雇用状況報告書をハローワークに提出することが義務付けられています。

 

上記の法律では、事業主に対して、毎年6月1日現在の高年齢者および障害者の雇用に関する状況を、本社所在地最寄りのハローワークを経由して、厚生労働大臣に報告することも義務付けています。

 

報告の義務を守らない場合、同法第46条第1項に基づき雇入れ計画作成命令(2年計画)の発出などの障害者雇用率達成指導が行なわれる流れです。

 

また、平成28年4月1日施行の「障害者の雇用の促進等に関する法律」の改正によって、障害者に対する雇用分野における合理的配慮の提出も義務化されるようになりました。そのため、障害者からの相談に対応する体制の整備も事業主の義務になります。

 

事業主は、法定雇用率を達成することはもちろんのこと、障害者に対する配慮や差別禁止、安定雇用に向けた取り組み、活躍できる環境の整備なども進めていく必要があります。

 

罰則規定などに関しても、成立から徐々に適用規模を引き下げられていく流れになっていますので早期に対応することが賢明です。

 

 

まとめ

企業は、障害者雇用納付金制度の調整金や助成金を活用することで、障害者の雇い入れや定着に向けた施策を実施しやすくなります。ただし、調整金や助成金には申請期間や申請条件があります。

 

調整金や助成金の制度を利用したい場合は、厚生労働省が所管する独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構のホームページで適用条件を確認して進めましょう。

著者情報

古庄 拓

株式会社ジェイック取締役

古庄 拓

WEB業界・経営コンサルティング業界の採用支援からキャリアを開始。その後、マーケティング、自社採用、経営企画、社員研修の商品企画、採用後のオンボーディング支援、大学キャリアセンターとの連携、リーダー研修事業、新卒採用事業など、複数のサービスや事業の立上げを担当し、現在に至る。専門は新卒および中途採用、マーケティング、学習理論

著書、登壇セミナー

・Inside Sales Conference「オンライン時代に売上を伸ばす。新規開拓を加速する体制づくり」など

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