続いて、組織に経験学習モデルを導入する際のポイントについて紹介します。
導入研修を実施する
経験学習モデルを導入して「日々の業務で経験学習を実践しましょう」といわれても、社員にとっては意味がわかりません。まずは、経験から学ぶことの重要性や経験学習の流れを理解するための導入研修を実施することが必要です。
研修では「経験→内省→概念化→実践」のサイクルやそれぞれの役割・やり方を学んだうえで、実際の経験を題材にして、ワークショップ形式で経験学習のやり方を身に着けます。
経験学習モデルは誰もが無意識にやっているプロセスですが、少し馴染みの薄い単語も出てきます。難しいものだと誤解されてしまうと導入が進みませんので、わかりやすいレクチャーをできる外部講師を使うこともお勧めです。
実践の場を組み込む
経験学習サイクルを促進するためには、日常や教育に実践の場を組み込むことが不可欠です。日常業務で、誰もが経験はしますが、不足しているのは「内省」「概念化」「実践」のサイクルを回す能力と機会です。実践の場として組み込める5つの施策を紹介します。
夕礼
日常における経験学習を効果的にするにはタイムリーさが重要です。「内省」は「経験」から時間が経過しないうちにしないと忘れてしまいます。
そこで、日常業務においてお勧めするのが「夕礼」です。その日を振り返って完了するという意味でも、夕礼で経験学習を実践することは最適です。
日誌
日誌や日報、週報なども経験学習モデルの定着に活用できます。記入する項目を経験学習モデルのサイクルを意識した設計とすることで、日誌の記入=経験学習モデルの実践となり、社員が自走しやすくなります。
経験学習を意識させる設計としては、以下のような設問を盛り込むことが有効です。
- 今日うまくいったことは何か?
→よりうまくやる、成功を再現するポイントは何か? - 今日うまくいかなかったことは何か?
→もし、もう一度やるならどうするか?
「振り返って学びにつなげる」問いを日誌に盛り込むことで、日常を学びにつなげる経験学習が回るようになります。さらに、社員が経験学習の考え方や習慣が身に着いて自走できるようになる点もポイントです。
1on1
1on1ミーティングも日誌や日報、週報よりも長いスパンの振り返りに活用でき、経験学習モデルの実践に有効です。経験学習を実践するうえで、日誌や日報など日常の具体的な行動は、比較的難易度が低いのですが、自分自身の内面や価値観に紐づくような部分は自分だけで内省を実践することが難しくなります。
特に、自分自身の内面を客観視することに慣れていない社員は、1on1での対話を通じて経験学習を実践することが有効です。
自身の経験や内省を上司に説明する過程で思考が整理されて、気付きにつながりやすくなります。また、自分一人では視点が偏りがちになりますが、1on1では上司が自身の視点とは異なる角度からの質問をすることで、新たな気付きや深掘りが実現します。
リフレクション研修
1on1よりもさらに長いスパンで振り返りを実施するリフレクション研修も効果の高い取り組みです。リフレクション研修とは、日常業務から離れ、一定期間の仕事や自分の働き方を客観的に振り返って、内省することに焦点をあてた研修です。
この研修を受講すると、自身の成長や価値観を自覚したり、また、考え方や行動パターンの課題などが見えてきたりします。新入社員であれば、入社3ヶ月後、1年後、2年後など、節目となるタイミングで実施するとよいでしょう。
また、新卒・中途を問わず入社3年、新しい業務に取り組んだり管理職になったりした3年後など、マンネリ化や停滞が起こりがちなタイミングで、業務から離れてしっかりと深く内省するリフレクション研修を活用することも非常に有効です。
なお、前者の振り返り研修は、比較的実施の難易度は低いため社内で実施するとよいですが、後者のマンネリ化や停滞を打破するためのリフレクション研修は、しっかりとした内省へと導くために相当の力量が求められますので、外部講師への依頼がお勧めです。
ジョブローテーション
短期的な振り返りの習慣、また長期的な振り返りと気付きの指導により経験学習モデルが社内に定着すると、ジョブローテーションが人材育成の効果的な手段となります。
ジョブローテーションによる多様な経験が、単に新たな業務を体験するのではなく、しっかりと振り返って概念化しながらマネジメントや経営の能力を身に着けていくことにつながるからです。
経験学習モデルの効果に注目した人材育成を主眼としたジョブローテーションは、そのポストで学習できるものに着目して人材を配置します。さまざまな業務を経験するなかで、共通している部分や他の業務における体験から活かせる部分を発見し抽象化する力が鍛えられます。
ただし、短期的な業績達成という観点からは、ポストに求められるスキルを持つ人材を配置するジョブローテーションとのバランスが大切です。経験学習モデルに基づくジョブローテーションは、社員の成長を通じ企業に発展をもたらしますが、長期的な施策と考えてください。
人事施策と連携させて活用する
経験学習モデルは人事施策との連携によって、さらに活用が進みます。「人材育成」と「評価制度」「ナレッジマネジメント」について説明します。
人材育成
経験学習モデルは人材育成において有効な手段の一つです。人材育成は、業務と切り離したOff-JTだけでなく、OJTに代表されるように現場の各部門においても行なわれるものです。
部門や職種を問わず現場の活動における人材育成は、経験学習モデルが非常に有効です。内省と概念化の習慣を社員が身に着ければ、日常業務が学習の機会となりますし、OJTなどもより有効になるでしょう。
例えば、営業部門であれば日々の商談に対して振り返りを実施することで、改善点や成功の要因などの気付きがもたらされます。こうした習慣によって社員の成長が加速し、企業全体の成長・発展へとつながっていきます。
経験学習モデルを用いた内省と概念化の取り組みを各部門に浸透させ、人材育成の基本的な取り組みとして定着させましょう。
評価制度
経験学習モデルを評価制度と組み合わせることで、社員の成長を促すことが可能です。四半期や半期サイクルでの人事評価に経験学習モデルを組み込むことで振り返りの機会とするのです。
社員は評価シート内に内省、概念化、実践のサイクルを記述します。評価面談を評価のフィードバックに留めず、評価者がコーチング的なアプローチによって経験学習モデルを動かすことで相手の成長に役立てることができます。
ナレッジマネジメント
ナレッジマネジメントと経験学習モデルを組み合わせることで、個々の体験を更に組織の学びへとつなげることができます。
経験学習のなかで気付いたノウハウをデータベースに登録したり、ベストプラクティスとして発表の場を設けて社内で共有したりするなどが効果的です。社員の経験を属人化せず、全社で共有するナレッジマネジメントの活用によって、経験学習モデルの効果はさらに高まります。