エンゲージメントサーベイは、組織メンバーを対象として、仕事への意欲や組織へのコミット・愛着などを図る調査です。エンゲージメントサーベイの結果を活かすことで、エンゲージメント向上の施策を検討・実施することができ、生産性の向上なども期待できます。
記事では、エンゲージメントサーベイを実施する目的や流れ、また、実施の注意点や調査の主要項目なども紹介しますので、エンゲージメントサーベイの導入を検討されているようであればご覧ください。
<目次>
- エンゲージメントサーベイの概要
- エンゲージメントサーベイを実施する目的
- エンゲージメントサーベイの活用で得られるメリットや効果
- エンゲージメントサーベイ実施のポイントや注意点
- エンゲージメントサーベイを実施する流れ5ステップ
- エンゲージメントサーベイに含まれるテーマ
- まとめ
エンゲージメントサーベイの概要
エンゲージメントサーベイは、組織メンバーが仕事や組織に対して、どれだけポジティブな感情を抱いているか、心理的な愛着やつながり、コミットメントがあるかを測る調査です。
エンゲージメントサーベイに類似したものとしては「従業員満足度調査」と「パルスサーベイ」があります。本章では、エンゲージメントサーベイの概要を確認したうえで、他調査との違いも紹介します。
エンゲージメントサーベイとは?
前述の通り、エンゲージメントサーベイとは、組織メンバーが仕事や組織に対して、どれだけ心理的な愛着やつながり、コミットメントがあるかを調べるものです。
意味合いとしては、昔の「愛社精神」といった言葉に近いところもあります。ただし、「愛社精神」という場合、企業と従業員の主従関係・上下関係のようなニュアンスを連想させる部分があります。
しかし、エンゲージメントという場合には、雇用の流動化、つまり転職などが当たり前になり、企業と労働者を対等な関係として見たうえで、(職業や職場選択の自由がある)組織メンバーがどれぐらい精神的に強い、ポジティブなつながりがあるか?という概念です。
エンゲージメントという概念は、日本度で表現すると「帰属意識」という言葉で説明されることもあります。
エンゲージメントが高い状態であれば、従業員は組織に対してポジティブな感情を持ち、組織に所属することへの誇りや満足感がある状態です。仕事に対しても、仕事の意味を見出してやりがいを感じています。エンゲージメントが高ければ、当然モチベーションも高く主体性が発揮されますので、パフォーマンスや生産性も向上することになります。
なお、エンゲージメントという言葉の対象は、大きく分けると「仕事」と「組織(仕事も含む)」の2つがあります。2つはかなり連動する関係でありますが、仕事へのエンゲージメントだけを指す場合は、ワークエンゲージメントという表現をすることが多く、通常のエンゲージメントとは区分して扱われることが多くなります。
ワークエンゲージメントについては、下記の記事で詳しく紹介していますので、ご興味あればご覧ください。
従業員満足度調査との違い
エンゲージメントサーベイによく似ている組織調査が、従業員満足度調査です。
従業員満足度は「組織に対する満足度」を示し、別の表現をするなら「働きやすさ」に近い概念です。従業員満足度とエンゲージメントの違いを似た表現をするなら、エンゲージメントは、「働きやすさ+働きがい」とも言えます。
エンゲージメントサーベイの場合、従業員満足度の設問に加えて、「している仕事の意味づけ」「この組織で働いていることへの誇り」「強みの活用」といったやりがいに関する設問が入ってくるイメージです。
このようにエンゲージメントサーベイと従業員満足度調査は厳密には異なる概念ですが、現実的には「組織の健全度や従業員のモチベーションなどを測る組織調査」という程度の同じ意味合いで使われることも多いでしょう。
パルスサーベイとの違い
パルスサーベイは、従業員の体調やストレス状態、意欲などを調査する手法を指します。
パルスサーベイは従業員の意欲などを調査する点は、エンゲージメントサーベイと類似していますが、パルスサーベイという場合には、以下3つの特徴があるものを指しています。
- 週次や月次といった高頻度で実施
- 3~5問程度と負担が少ない設問数
- 組織の状況把握よりも従業員個々のケアが主目的
パルスサーベイとエンゲージメントサーベイが大きく異なるのは、調査頻度と1回当たりの設問数です。エンゲージメントサーベイの場合には、頻度は半年や1年に1回、数十問程度の設問数で実施して、部署や属性単位での分析を詳細に行う形になります。
パルスサーベイについては、以下の記事でも詳しく解説しています。調査の概要や実施するまでの流れについてもわかるようになっているので、ぜひご一読ください。
エンゲージメントサーベイを実施する目的
エンゲージメントサーベイを実施する目的は、組織の現状を把握、課題を発見して、人事施策に生かすことです。
組織の課題を発見する
エンゲージメントサーベイの結果は組織の現状把握と課題発見につながります。「組織」内部の問題は、売上や利益などの業績面からではすぐ発見できないものです。
エンゲージメントサーベイは、基本的に匿名で回答してもらうことで、メンバーの本音を拾うことが出来、組織内部における定性的な課題を発見できます。たとえば、以下のようなテーマに関するものです。
- 人事制度への納得感
- 経営層や管理職への信頼や尊敬
- 組織風土や情報共有などへの満足度
- 仕事のやりがい
- キャリア展望の状況
上記のような定性面の課題は、中長期的に売上や利益などの最終的な業績面に反映されてくるものですが、業績などに影響してくる状況までいたってしまうと、手を打つことがかなり困難です。
課題発見に加えて、エンゲージメントサーベイを定期的に実施することで組織の状態が改善しているか、あるいは悪化しているかなどの傾向も見ることが出来ます。
人事施策に生かす
エンゲージメントサーベイで見えてきた組織課題は、人事施策などに反映して改善していきます。
- 人事制度の改定
- キャリアパスの整備
- 経営層とのコミュニケーション
- 管理職の研修
- ミッションやビジョンの浸透
- キャリア研修やキャリア自律の促進
- 特定部署や職種へのテコ入れ
エンゲージメントサーベイの活用で得られるメリットや効果
エンゲージメントサーベイで得られた結果を分析し、改善策を実施するPDCAを回していくことで、以下4つのメリットや効果があります。
- エンゲージメント向上
- 生産性の向上
- 離職率の低下
- 人事トラブルの軽減
ひとつずつ見ていきましょう。
エンゲージメント向上
エンゲージメントサーベイによって組織の課題をキャッチすることで、適切な対策が可能になります。組織が抱えるよくある課題として、上司や部下・同僚との信頼関係の有無、業績アップのためにやるべきことがわかっているか、などが挙げられます。
前章で紹介したような様々な人事施策を通じて、状況を改善できればエンゲージメントの維持や向上が期待できるでしょう。
生産性の向上
エンゲージメントは個人と組織の生産性にも直結してきます。たとえば、厚生労働省の調査では、働きがいと労働生産性に以下のような相関関係が見られています。
(引用:第2節 「働きがい」と様々なアウトカムとの関係性について)
知識労働や感情労働など、頭脳や感情を使う仕事に従事する人が増えているなかで、エンゲージメントや働きがいといった精神的な要素が生産性やパフォーマンスに及ぼす影響度は年々増加しています。
離職率の低下
エンゲージメントが高い企業ほど、離職率は低い傾向にあります。
京セラの創業者である稲森和夫氏が掲げた「全従業員の物心両面の幸福を追求する」という経営理念は、まさにエンゲージメント向上を示したものといえるでしょう。
- 働きやすさ
- 待遇
- ミッションやビジョンへの共感
- 仕事のやりがい
- 組織風土
- 上司や同僚との関係性
エンゲージメントを向上させることで上記のような“物心両面の幸福”を実現していければ、自然と離職率は低下していきます。離職率の低下は採用コストの削減や生産性の向上、ノウハウの蓄積などにつながり、組織の生産性UPにもつながります。
人事トラブルの軽減
エンゲージメントの向上は、離職率の低下に加えて、組織内で発生する人事トラブルの軽減にもつながります。
人事トラブルとは、たとえば、ハラスメントやメンタルヘルスの発症、それらに伴う休職や離職、また最悪のケースでは訴訟など。また、ここまでいかなくても、人間関係の悪化による部門間や上司‐部下、同僚間のトラブルなどです。
人事トラブルへの対応は、人事や幹部層を巻き込んで、工数的な負担を生じさせます。また、精神的なストレスもかかりやすいですし、何よりプラスの価値を生み出す作業ではありません。
エンゲージメントサーベイによって組織内の状況を把握し、改善に努めることで人事トラブルを減少させられれば、幹部層や人事は未来を見据えて、より本質的な仕事に打ち込むことが出来るでしょう。
エンゲージメントサーベイ実施のポイントや注意点
エンゲージメントサーベイを実施するにあたって押さえておきたいポイントや注意点5つを紹介します。
従業員の理解を得る
調査を実施する前に従業員の理解を得ておかないと、正確な回答結果を得られない恐れがあります。とくにエンゲージメントが低い状態になるほど、従業員が本音で回答してくれず、精度の低い結果になってしまいやすいでしょう。
エンゲージメントサーベイを実施する際は、事前に調査の目的や意義、また匿名性がある旨などを伝えて理解を得ることが大切です。従業員の理解を得たうえで実施すれば本音で回答してくれるようになり、組織改善に繋がるデータを集められます。
不利益が生じないことを周知する
従業員の理解を得る際に、不利益が生じないことも忘れずに伝えましょう。エンゲージメントが低い企業ほど、従業員から組織への信頼がありません。結果として、たとえば「匿名と言っているけど、個人を特定されて評価などに反映されるのではない」などと思われる恐れがあります。
調査に対して悪い印象を持たれてしまうと回答率が下がるうえに、精度の低い結果しか得られません。実施する際は従業員に対して不利益になることはなく、また、組織改善に繋げるための調査であることを、しっかり伝えるようにしましょう。
従業員の負担に注意する
多くのエンゲージメントサーベイは設問数が50~70問と多く、回答に一定の時間がかかります。したがって、従業員が回答しやすくするために、回答期間を十分に取るなど、負担がかからないような工夫を取りましょう。
調査のコストと時間
エンゲージメントサーベイを外部のツールやサーベイ会社などに依頼する場合には当然コストが発生します。中小規模であれば、数10万円~100万円程度が相場になるでしょう。
コストを最小限に抑えたい場合は、無料で利用できるサーベイを使うことも可能です。ただ、無料で利用できるサーベイの場合には、今後は担当者の工数がかかったり、外部に依頼する場合よりも十分な精度や結果の比較対象がなかったりすることもありますので、一長一短です。
調査結果の活用
エンゲージメントサーベイの結果が出たら、きちんと向き合って改善に向けた議論をすることが大切です。結果を眺めるだけでは「こういう傾向がある」「肌感覚と似ている」といった感想にしかならず、改善策には結びつきません。
特にエンゲージメントサーベイを継続的に実施する場合、従業員に改善プロセスを共有しないと「何のために調査しているのか」と思われ、回答意欲や回答率が徐々に下がってしまいます。
調査結果が出たら改善策を検討・実施するだけでなく、従業員への共有も怠らないようにしましょう。場合によっては、従業員にも結果を公開して、一緒に議論などの場を持つことも有効です。
エンゲージメントサーベイを実施する流れ5ステップ
エンゲージメントサーベイを実施する流れは、以下の5ステップです。
ステップ1.調査方法を決める
まずは、エンゲージメントサーベイの実施手段を決める必要があります。調査ツールや依頼先によって得られる結果や改善検討のフォロー、また実施する際にかかる負担や費用も変わってきます。各ツールやサーベイ企業の特徴などを比較検討し、実施するエンゲージメントサーベイを決めましょう。
ステップ2.従業員へ説明する
調査対象となる従業員に、調査目的・意義や不利益がない旨などを説明して実施していきます。ポイントと注意点のところで紹介した通り、「より良い職場づくりに取り組んでいきたい」という意図、また、匿名性で不利益がないことなどをきちんと説明することで、回答率が上がり、また従業員の本音を反映した結果が得られるでしょう。
ステップ3.調査の実施
従業員への説明が終わったら、調査を実施しましょう。調査方法によりますが、設問数が多い場合にはある程度の回答期間を設ける方がよいでしょう。逆に、設問数が少ない場合には、全社会議などで実施して一気に回収してしまうほうが良いかもしれません。いずれにしても、対象となる社員全員がきちんと回答する状態をつくることが大切です。
ステップ4.結果の分析と課題の明確化
調査結果が出たら分析して、課題を明確にします。検討するにあたっては全体の傾向を踏まえたうえで、属性でも分析し、セグメントごとに特徴的な課題がないかもチェックするとよいでしょう。
設問の項目によりますが、属性で分析する場合には以下のような要素が考えられます。
- 部署
- 職種
- 階層
- 年代
- 性別
- 新卒入社/中途入社
全体平均などと結果と比較してみると、分析がしやすいでしょう。また、継続的にエンゲージメントサーベイを実施している場合は、前年結果と比較することがおすすめです。そのうえで、解決すべき課題の優先度の高さを検討し、打つべき施策を決めていきます。
ステップ5.施策の実施
課題を改善するための施策を実施します。そして、次のエンゲージメントサーベイで効果検証するイメージです。
エンゲージメントサーベイは定期的に行うことが一般的です。施策を実施する際には「どこの項目の結果を改善したいのか」という意図を明確にして、次回の調査結果で、変化を生み出せたかを確認して振り返ることが大切です。
エンゲージメントサーベイに含まれるテーマ
具体的なテーマの切り分け方などはサーベイの種類によって違いがありますが、エンゲージメントサーベイの設問や結果で取り扱う領域は、大きくは以下3つのような領域です。
- 組織への満足度
- 仕事への満足度
- キャリアや成長に関する満足度
ひとつずつ見ていきましょう。
組織への満足度
「組織への満足度」には、以下の設問が含まれて来ることが多いでしょう。
- 働きやすさ
- 待遇・評価制度
- ダイバーシティ(働き方の多様性)
- 経営層・上司への信頼感
具体的な設問内容としては、たとえば「自社を知人・友人に勧めたいか」「自社で働くことに誇りを持っているか」などが挙げられます。
仕事への満足度
「仕事への満足度」はエンゲージメントサーベイにおいて、先述の「組織への満足度」と並んで重要な質問群です。自分が取り組んでいる仕事に対して誇りや意味を感じているか、といったことを扱います。
具体的には、たとえば、「業務遂行にあたって必要な知識・スキルを十分に身につけているか」「仕事で期待されていることを把握しているか」などの設問です。
キャリアや成長に関する満足度
「キャリアや成長に関する満足度」では、組織における自身のビジョン・将来像についての質問などが取り扱われます。
たとえば、「この組織で働くことが自分のキャリアにつながると感じられているか」「自分の望むキャリアを実現できる機会があるか」「仕事を通じて自分の成長を感じられているか」といった質問です。
まとめ
エンゲージメントサーベイは、メンバーの組織や仕事への満足度やコミットメント、やりがいなど、心理的なつながりを測る調査です。
エンゲージメントサーベイの結果を活用して改善施策を打つことで、エンゲージメントと生産性の向上、離職率の低下など、組織にとって望ましい結果が得られるでしょう。
エンゲージメントサーベイはある意味では、“組織の健康診断”ともいえます。定期的に状況を把握して改善策を打っていくことで、状態が悪化する前に改善、また、良い状態を維持することができます。
記事で紹介した導入時の検討ポイントや注意点、実施の流れなども参考に、ぜひより良い組織づくりに取り組まれてください。
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