書籍『LIFE SHIFT』がベストセラーになり、“人生100年時代”というキーワードが普及しました。また、終身雇用も崩壊するなかで“キャリア構築”に関心を持つ個人も増えるようになっています。
こうした流れを受けて、企業の人材育成でもキャリアデベロップメントプログラム(キャリア自律やキャリア支援)を導入することが大切になってきています。
本記事では、キャリアデベロップメントプログラムの概要とメリット・デメリットを確認します。
確認したうえで、キャリアデベロップメントプログラムを導入する際のプロセスやキャリアデベロップメントプログラムの実施スタイルを紹介します。
<目次>
- キャリアデベロップメントとは?
- キャリアデベロップメントが企業にもたらす効果やメリット
- キャリアデベロップメントが企業にもたらすデメリットや注意点
- 企業でのキャリアデベロップメントプログラムの導入プロセス
- 異動を含むキャリアデベロップメントの実施スタイル
- まとめ
キャリアデベロップメントとは?
企業が人材育成や能力開発に取り組むなかで、企業と従業員は、構造的に以下のように異なるニーズ(目的)を持つことが大半です。
- ・企業のニーズ
- ⇒自社で活躍するための能力を身に付けさせたい
- ・従業員のニーズ
- ⇒成長して自社に限定せずキャリアアップを図りたい
終身雇用が前提となっていた時代は、従業員ニーズの(自社に限定せず)という欲求はあまり顕在化されていませんでした。
しかし、終身雇用が崩壊して転職も当たり前となるなかで、両者のニーズがずれることが増えてきています。
こうしたことを背景に実施されるキャリアデベロップメントプログラムは、企業と従業員のニーズを両方満たすために行なわれる「計画的な能力開発・キャリア構築」を指す言葉です。
具体的には、以下のような仕かけや要素を組み合わせて行なわれます。
- キャリア研修
- キャリア面談
- 配置
- 自己啓発の支援 など
キャリアデベロップメントプログラムは、Career Development Programの頭文字をとって、CDPと呼ばれることもあります。
キャリアデベロップメントが企業にもたらす効果やメリット
企業の人材育成にキャリアデベロップメントを導入することで、以下のような効果やメリットが得られます。
従業員が望むキャリアを可視化できる
キャリアデベロップメントを行なうことで、従業員が目指すキャリア、また、キャリア実現のために行なっている自己啓発などの可視化が可能となります。
それぞれが目指していることや個人的に学習していることなどを理解すると、企業側で、個人のキャリア希望を踏まえたうえで人材育成や配置の取り組みもしやすくなるでしょう。
たとえば、「将来はプロジェクトマネージャーになりたい」などのニーズがわかれば、抱いた夢や目標を考慮した配置もしやすくなります。
また個人のキャリア希望を踏まえたマネジメントをすることで、仕事への動機づけを図ることも可能です。
主体的にキャリア開発に取り組む社員を育てられる
キャリアデベロップメントを実施する際には、各従業員に自分自身のニーズ(将来の理想像やキャリアパスなど)を考えてもらうことになります。
自らが実現したいキャリアなどの目的意識を持ったキャリア自律度の高い社員は、仕事におけるパフォーマンスも高くなりますし、スキルアップの機会などにも主体的です。
自社へのエンゲージメントが高まり離職率を下げられる
キャリアデベロップメントの考え方で人材開発を進めていけば、以下のような離職理由につながる不満や不安が生じにくくなります。
- 「この企業で働いていて、自分が希望するキャリアアップはできるのだろうか……」
- 「次の配属先に行ったら、もう営業スキルは向上できないだろう……」
- 「企業は自分のキャリアのことなど考えてはくれない……」 など
キャリアデベロップメントを適切に実施していくと「企業は自分のキャリアを応援してくれている」という気持ちが生じます。
実施した結果、企業へのエンゲージメントや帰属意識が高まっていくでしょう。
また、キャリアデベロップメントプログラムを通じて、社内における異動やキャリア開発の選択肢を示すことができれば、「(社外に)転職する」確率を下げることもできます。
キャリアデベロップメントが企業にもたらすデメリットや注意点
キャリアデベロップメントを導入するときには、以下の点で注意が必要です。
設計、運営の手間がかかる
キャリアデベロップメントを運営するうえでは、従業員の希望キャリアや成長ニーズに耳を傾けていく必要があります。当然、一定の手間がかかることになります。
また、企業側で、従業員の希望すべてを叶えることはできません。希望を叶えられない従業員に対しては、個別でケアしていく手間も生じるでしょう。
キャリアデベロップメントは、さまざまなメリットがある一方で、企業側の都合や一存で配置や教育を設計・実施しにくくなる側面もあります。
育成途中に離職する場合もある
企業側が、いくら従業員のニーズやキャリアパスを聞き、希望に副えるように教育プログラムや配属を行なっても、必ず自社に残ってくれるとは限りません。
育成途上で従業員が離脱することは、キャリアデベロップメントを導入する/しないに関わらず生じることです。
しかし、キャリアデベロップメントを導入して、特に個別の育成対応をしていった上位層の離職は、何もしてなかった場合と比べて「多く手間をかけてきたのに……」と、精神的な衝撃の度合いが高まることもあるでしょう。
企業でのキャリアデベロップメントプログラムの導入プロセス
企業でキャリアデベロップメントプログラムを導入するときには、以下の流れで準備や運用をしていくとよいでしょう。
キャリアパスを整理する
まず、組織内で実現できるキャリアパスを整備します。最近では、マネジメントコースとプロフェッショナルコースといった形で複線的なキャリアパスを設けることが一般的です。
キャリアパスを完全に固定化することはできませんが、各コースで昇格していくに際してどのような経験をしていってほしいか、どういうスキルが必要かを言語化していきましょう。
次のステップで、キャリアパスを踏まえて、各職種内でキャリアラダーを整備していきます。そのため、次のステップでは、評価制度や等級制度との対応を意識しながら、大枠を作っていきましょう。
キャリアラダーに落とし込む
キャリアラダーとは、「キャリア(経歴)」と「ラダー(はしご)」を組み合わせたキャリア開発プランのことです。
キャリアパスに必要な仕事や役職などを難易度に応じて細分化し、各ステップのなかで能力開発できるようにする仕組みになります。
たとえば、IT企業に入社した新卒人材が「システム開発のプロジェクトマネージャーを担えるようになりたい」というニーズを持っていた場合、プロジェクトマネージャーになるまでに必要な仕事や役職を以下のように落とし込むイメージです。
- 1.「プログラマー」としてシステム開発に参加する
- 2.「システムエンジニア」としてプログラム設計に携わる
- 3.「プロジェクトリーダー」としてシステム開発チームを率いる
- 4.「プロジェクトマネージャー」として開発プロジェクトを管理する
- ⇒それぞれの階層で身に付くスキル、求められるスキルを定義する
ラダーを上がっていくための教育・研修プロセスを整備する
次は、上記のはしごを登っていくために必要な教育プログラムやプロセスを整備します。
- 1年目は、e‐ラーニングでプログラミング研修(計12回)を受講してもらう
- 1年目の10月以降は、研修内容を実践できるプロジェクトに配属する
- 6月にビジネススキル研修、10月にIoT基礎研修も受講してもらう など
キャリア研修を実施する
上記までの整備ができたら、キャリア研修を実施していきます。キャリア研修は、従業員にキャリア自律と自らのキャリア開発を考えてもらうきっかけになる場です。
キャリア研修はライフプランを描き、キャリアデベロップメント、実現に必要な能力開発などに落とし込んでいく流れが一般的です。
ただし、年代や性別などによっても、キャリア研修のポイントは若干異なりますので、対象層に応じた設計が大切です。
定期的にキャリア面談やアンケートを実施する
キャリア研修は、従業員個別に計画を考えてもらうとはいえ、あくまで1対多での対応となります。
そのため、各従業員が描いたキャリアデベロップメントのプランが適切か、また、実際どのように実現していくのかなどは、個別に対応していく必要があります。
したがって、キャリア研修はキャリア面談などとセットで実施することが効果性を高めるポイントです。キャリア研修の実施後は、上司なども関わって個別面談をしていくことがおすすめです。
さらに、キャリアに関する希望や展望は変わっていくものですので、キャリア面談を1回やって終わりではなく、キャリアプランの変更やブラッシュアップに関するアンケートや面談を定期的に行なって、考えたり整理してもらったりする機会を作ることが大切です。
定期的にキャリア面談することで、離職原因となる仕事やキャリアの不安・不満も汲み取りやすくなります。
なお、キャリア面談は、組織内での実施と組織外での実施を組み合わせることがおすすめです。
上司や人事は、組織の制度や実情をよく理解していることがメリットである一方、従業員からすると「本音を相談しにくい」側面があります。また、対応できる工数の限界もあるでしょう。
上記に対して、組織外のキャリアコンサルタントは本音で相談しやすい、またフラットな気持ちでコンサルタントの質問やコメントを聞ける一方で、組織独自の制度などに基づくアドバイスはできません。
したがって、組織外のキャリアコンサルタントを使ってキャリアの展望や現状における不安や感情を整理する、整理したうえで組織内での相談をしたい人に対しては人事や上司が対応するというフローにするのも効果的です。
異動を含むキャリアデベロップメントの実施スタイル
キャリアデベロップメントのプランを実現していくうえでは、社内異動を必要となることも多いでしょう。従業員の主体性を生かす社内異動のやり方としては、以下のようなものがあります。
社内求人制度
新規事業や欠員補充などで人材が必要なポジションを社内に開示し、希望条件に合う従業員が自ら応募する制度です。
自発的な部署移動となるため、従業員側のモチベーション向上につながりやすい利点があります。
「次のプロジェクトに参加してみたい」「自分のスキルを試してみたい」といったニーズにも対応できる仕組みになるでしょう。
社内FA(社内フリーエージェント)
希望する仕事ができる部署や職種に対して、従業員が自ら経験・スキルを売り込み、異動・転職を勝ち取れる制度です。
受け入れ部門にも、モチベーションが高く優秀な人材を獲得できるメリットがあります。
社内の公募制をもう一段高めた形といえます。従業員により広い機会を提供できる一方で、利用するには能動性が必要となりますので、上位層などを対象として施策になるかもしれません。
キャリアアンケート
以下のような内容のアンケートを実施して異動希望を確認します。
- 目指したいキャリアパス
- キャリアパスを実現するために、従事したい仕事・役職
- キャリアパスを実現するために、実践していること
- 現状業務からの異動希望の有無
定期的なキャリアアンケートを実施することで、人事異動を従業員のニーズに合わせやすくなるでしょう。
まとめ
キャリアデベロップメントプログラムは、企業と従業員のニーズ、双方を満たすために行なわれる計画的な能力開発のことを指します。
キャリアデベロップメントプログラムには、以下のメリット・デメリットがあります。
- 従業員のキャリアに関する希望や現状を可視化できる
- 主体的にキャリア開発に取り組む社員を育てられる
- 企業へのエンゲージメントを高め離職率を下げられる
- 設計、運営の手間がかかる
- 育成途中に離職する場合もある
また、実際にキャリアデベロップメントプログラムの導入を検討する場合は、以下のステップで考えるとよいでしょう。
- 1.社内のキャリアを整備する
- 2.キャリアパスを整理する
- 3.キャリアラダーに落とし込む
- 4.ラダーを上がっていくための教育・研修プロセスを整備する
- 5.キャリア研修を実施する
- 6.定期的に面談やアンケートを実施する
なお、離職防止やキャリア自律の向上などにつなげるためには、キャリアデベロップメントプログラムを、社内の求人制度や社内FA、キャリアアンケートなどと組み合わせて実施することがおすすめです。
なお、HRドクターを運営するジェイックでは、国家資格キャリアコンサルタントによるキャリア面談を提供するサービス「Kakedas」を提供しています。
キャリアデベロップメントプログラムやキャリア面談の施策をお探しの方は、ぜひ資料をご覧ください。