新人社員の配属先が営業部門となる企業は非常に多いでしょう。営業職は、直接顧客と接して、売上をつくる最前線ですので、営業を経験させてから他の部門や職種に配属するという企業も多くあります。
では、新入社員を営業として戦力化するには、どのような研修やフォローが必要でしょうか。売上をつくる仕事だからこそ一刻も早く戦力化して欲しいですし、結果が売上として目に見えるからこそ、いつまでも成果が上がらないと早期離職に繋がる危険性もあります。
記事では、新人営業に求められるスキルや新入社員を営業として戦力化するためのポイントや整理したうえで、テキストをお伝えします。
<目次>
新人営業が成果を出すために必要な5つの基礎スキルとは?
新人が営業職として1人前になるには、いくつかのスキルが必要です。ここでは、基本的なビジネスマナー等は習得しているという前提で、営業として必要な5つのスキルを紹介します。
- 自社および自社商品(サービス)に関する知識
- 関係構築力
- ヒアリング力
- 提案力
- クロージング力
以下で、それぞれ解説します。
自社および自社商品(サービス)に関する知識
営業は当然、自社の商品、サービスを提案する仕事です。自社の商品(サービス)および、提供者である自社について、しっかりとお客さんに説明できるだけの知識が必要です。
- 自社のミッションやビジョン、概略
- 自社の強み、特徴
- 自社商品(サービス)の強み、特徴
- 競合他社との比較
- 顧客事例
- 顧客が商品(サービス)を必要とする分野の周辺情報
関係構築力
顧客との円滑なコミュニケーションを図るには、良好な関係を築くためのスキルが必要です。また、顧客に対してスムーズにサービス提供をするためには、営業アシスタントや自社の製造部門等の社内における関係構築も求められます。
関係構築力は、第一印象やコミュニケーション力が必要とされますが、根底となるのは、商品紹介や提案といった自分の話をする前に、まず相手の話を理解する姿勢です。相手に興味、関心を持って、傾聴する習慣をつくれると、お客様や社内との信頼関係も築きやすくなるでしょう。
ヒアリング能力
商品(サービス)の購入を検討するお客様は、多くの場合、商品(サービス)そのものが欲しいわけではありません。商品(サービス)を通じて得られるベネフィット(便益)、自分の課題解決やなりたい姿の実現を求めています。
従って、顧客にしっかりと提案するためには、顧客の課題や欲求を聞き出す力、話の中から課題や興味、関心を見つけ出すスキルが必要です。顧客を深く知ることこそ、トップセールスへの道に繋がります。
ヒアリング能力は、適切な質問や傾聴姿勢、聞いた情報の整理・分析する論理性等も必要です。現状の悩みや課題を本音で打ち明けてもらうためには、信頼関係を高める取り組みも重要となるでしょうし、顧客のことを理解するだけの商品(サービス)や周辺領域の知識も必要です。
提案力
営業職に求められる提案力とは、「顧客の課題を解決、願望を実現できるソリューションとして、自社の商品やサービスを魅力的かつ分かりやすく説明できる」ということです。
分かりやすく説明する力はもちろんのこと、自社サービスを導入することで実現する世界やビジョンをイメージさせるスキルも必要となります。提案力が高まると、商品に関心を持つ顧客の購買意欲を高めやすくなるでしょう。
クロージング力
クロージング力とは、商談をまとめる力です。具体的には、商品の購入によって生じる効果と課題を理解してもらったうえで、さまざまなハードルを調整してもらい、「購入に導く」「意思決定を後押しする」能力です。
クロージングにおいては、ここまでに紹介したすべてのスキルが必要となるでしょう。また、お客様がハードルやリスクに感じることをしっかりと想定し、解決するための引き出しをたくさん持つことも重要です。
新入社員を「売れる営業」として戦力化するための5つのポイント
ここでは、新入社員を営業して育成するために必要な基礎的なポイントを5つご紹介します。
- 自社営業の分析
- モチベーションの維持
- 目標設定とフィードバック
- ロープレの実施
- 外部の利用
1. 自社の営業マンの行動を分析する
ひとくくりに「営業」といっても、商品(サービス)によって、必要となるスキルは大きく変わります。
例えば、営業の必要スキルに影響する要素としては
- 新規顧客/既存顧客
- 個人顧客/法人顧客(経営者、マーケティング、購買、人事、総務…)
- 有形商材/無形商材
- 認知された分野の商品/新規性の高い商品
- 高単価/低単価
- 商談期間
等があります。
自社の営業スタイルやセールスステップを分析して、1人前の営業マンになるためにどんなスキルが必要かを分析しましょう。
2. モチベーションの維持
実績や経験がほとんどない新人時代は、度重なる失敗や成績の伸び悩みで、モチベーションが下がりやすいです。とくに営業の仕事は、結果やプロセスが数値として見えやすいため、上手くいかないとモチベーション低下を起こしやすいといえます。
そして、営業という対人の仕事は、モチベーションが低くなると、仕事のパフォーマンスや説得力に影響してしまい、さらに営業成績が下がるという悪循環に陥ってしまいます。
新人営業のモチベーションを維持するためには、比較的売れやすい商材から営業を始めさせるのもおすすめです。また、セールスステップをしっかりと分解したうえで、スモールステップ(アポイント数、商談数)を達成させていくことも有効です。成功体験の積み重ねによって、適度な自信を付けさせましょう。
また、新人育成を続けていれば、落ち込む時期やポイントを予想することが可能です。落ち込んだタイミングでしっかりコミュニケーションを取り、ポイントを的確に指摘し叱咤激励していきましょう。
3. 目標設定とフィードバック
さまざまな職種がある中でも、営業は目標を数値として設定しやすい職種です。必ず具体的な目標設定をおこない、「目標と実績、GAPとの差を埋めるための達成計画」のPDCAを回していきましょう。常にゴール、達成から逆算して行動を考える習慣を新人のうちから付けさせることが重要です。
目標設定では、自社のセールスステップに合わせて、以下のようなプロセス指標とゴール指標、2種類を設定するのが良いでしょう。
- 架電数
- 接触数
- アポイント獲得数
- 商談数
- 単独商談数
- 商品(サービス)提案数
- 受注件数
- 受注金額
- 売上金額
ゴール指標だけですと、なかなか達成することが難しくなってしまいます。ゴールへの道筋を示すプロセス指標を設定して、確実に実績を積み上げさせることが育成のポイントです。なお、目標の難易度が高すぎて、達成できないことが続くとモチベーションが落ちてしまいます。適切なラインを設定しましょう。
4. ロープレの実施
経験のない新人を営業として鍛えるうえでは、ロールプレイングが非常に有効です。アポイントの獲得、会社案内、ヒアリング、サービス説明、クロージング等、営業活動のフェーズを分解して、ロールプレイングで鍛えていきましょう。
ロールプレイングの効果を高めるためには、
- 事前準備(ロープレイングの設定を準備する)
- 真剣にやる(本番と同じ真剣さで最後までやり切る)
- フィードバックの質(良い点と改善点を的確にフィードバック)
の3つがポイントです。3つのポイントを押さえたうえで、ロールプレイングの回数を積み重ねていきましょう。
営業の育成が上手い会社では、大半の場合、ロールプレイングが新人教育の中に組み込まれています。例えば、
- アイスブレイク、会社案内、ヒアリング、サービス説明、クロージング、すべてのロープレで「合格」をもらわないと、顧客との商談はできない
- 週1回、WEB会議で全国の拠点等と繋いで「ロープレ道場」(公開ロープレ)を実施する
- 単独商談にデビューするまでに社内で100回のロープレを繰り返す「100本ノック」
等です。
なお、営業成績が伸び悩み、自信を失っている新人には、ロールプレイングのフィードバックで良いポイント、成長しているポイントを褒めてあげるのもおすすめです。新人を「1人前の営業」に育て上げるには、定期的なロールプレイングを通して、営業スキルのブラッシュアップをおこなっていきましょう。
5. 外部を利用する
営業を育成するうえでは、ときには外部研修やコンサルタントの力を借りることも有効です。自社で営業のセールスステップや共通言語が確立されている場合は、社内で実施したほうが良いかと思いますが、そうでない場合には、営業のフレームワークを浸透させる意味でも、外部研修やコンサルタントの利用も検討すると良いでしょう。
新入社員の営業研修に取り入れるべき内容
新入社員の営業トレーニングには、前のブロックで紹介した「ロールプレイング」が非常に有効ですが、その前段階として下記のような内容を指導すると良いでしょう。
なお、営業育成において、重要なものは共通言語です。社内で営業として活躍する、商談を成功させるためのフレームワークや考え方が共通言語として根付いていると、ロールプレイングやOJTに入ってからの指導やフィードバックもスムーズになります。
ベネフィット
前のブロックでも少しご紹介しましたが、顧客が欲しいものは商品(サービス)ではなく、それによってもたらされるベネフィット(便益)であるという考え方です。
ベネフィットの考え方は、以下のたとえが非常に有名です。
『顧客が欲しいものはドリルではない。穴である』
このたとえは、お客様がドリルという商品(サービス)が欲しいわけではなく、ドリルによって得られる穴(ベネフィット)が欲しいということを端的に示しています。
ベネフィットという考え方が浸透すると、営業がヒアリングすべきもの、提案すべきものがまったく変わってきます。
営業がヒアリングすべきことは、「どんなドリルが欲しいか?」ではなく、「どんな穴をあけたいのか?」「何のためにあけるのか?」「なぜ穴が必要なのか?」「どんな状況であけるのか?」「誰があけるのか?」といったことであることが分かります。
また、提案も「このドリルは素晴らしいんです」ではなく、「お客様が欲しい穴をあけるためには、このドリルは最適です」というものになるでしょう。
ベネフィットという考え方は、新人営業を育成するうえでは、まず初めに教えたい概念です。
セールスステップと「4つの不」
商談において顧客が購入を意思決定するうえでは、「4つの不」を解除することが必要であるといわれています。「4つの不」とは
- 不信 : 目の前の営業、また商品(サービス)、会社を信じていいのか?
- 不要 : 本当にこの課題を解決する、願望を実現することは必要なのか?
- 不適 : この商品(サービス)が解決/実現に最適なのか?
- 不急 : いま意思決定する必要があるのか?
です。
また、商談自体も、上記の順番に沿っておこなうことがスムーズです。
- 不信の解除 : 信頼関係の構築、プロとしての権威付け
- 不要の解除 : 背景、状況のヒアリング(顧客が欲するベネフィットの把握、課題や必要性の整理)
- 不適の解除 : 上記を踏まえた提案
- 不急の解除 : いま買う理由の共有と意思決定ステップの合意、クロージング
「4つの不」も社内で共通言語とすることで、OJTにおける指導やフィードバックが非常に効果的となるでしょう。
コミュニケーションスタイル
自他のタイプによってどのような接し方が適切かを学ぶのが、コミュニケーションスタイルです。コミュニケーションスタイルでは、ソーシャルスタイル理論に基づき、コミュニケーションスタイルを4つのタイプに分類します。
- アナリティカル(論理的/計画的)
- ドライビング(現実的/成果主義)
- エミアブル(有効的/安定的)
- エクスプレッシブ(社交的/直感的)
営業では、例えば、「相手がドライビングであれば、端的かつロジカルに説明して、相手に主導権を持たせる」、「相手がエクスプレッシブであれば、感情的な繋がりを意識して、得たいベネフィットをイメージさせる」といったように、相手のコミュニケーションスタイルに応じて適切な提案方法があります。
自分自身のコミュニケーションスタイルを知ることで、自分が取りがちなパターンを把握することができます。そのうえで、相手のコミュニケーションタイプを察する方法と相手のタイプに合わせた適切なコミュニケーションスタイルを学びます。
コミュニケーションスタイルを知ることは、相手に合わせたコミュニケーションを取ることで商談をスムーズに進められるだけでなく、相手と自分のコミュニケーションタイプの違いによるストレスを減らすことにも繋がります。
新人営業のパフォーマンスを上げ、ストレスを減らすためにも、ぜひ共通言語としたい概念です。
まとめ
企業にとって、営業は業績をつくるための最前線であると同時に、最も顧客と近く、顧客や市場の声が分かる場所です。従って、新人の配属先としても営業部門に配属するという会社は非常に多く、配属された新人営業の戦力化は非常に重要なテーマです。
営業は多様なスキルも必要であり、また数字が結果に直結しやすい部署です。従って、教えることが非常に多い研修を、行きあたりばったりでおこなっていると、早期の戦力化ができないだけでなく、結果を出せない新人のモチベーションを低下させ、早期離職に繋がる可能性も出てきます。
ですから、新人営業の戦力化をスムーズに進めることは、会社の業績としても、定着や活躍促進としても重要です。記事で紹介した営業の必要スキルや教えておくべき概念を踏まえて、ぜひ新人営業の早期戦力化に取り組んでください。