近年の日本では、少子化が進み、労働力不足が顕著になっています。
一方で、外国人労働者の採用促進は進んでいるものの、日本自体の魅力度の相対的な減少、記録的な円安などの要因から、外国人の即戦力人財などが流入しにくくなっている側面があります。
こうしたなかで注目されているのが、日本の大学や大学院などに通う外国人留学生の採用です。
記事では、外国人留学生の現状と採用のメリットを確認します。そのうえで、外国人留学生を採用・受け入れる際のポイントや注意点も解説します。
大卒の少子化がいよいよ始まるなか、外国人留学生の採用ノウハウを早めにためておくことが有効です。ぜひ参考にしてください。
<目次>
外国人留学生の現状
まずは、外国人留学生の現状として、近年の推移や出身国、採用状況を確認しましょう。
外国人留学生数の推移
独立法人日本学生支援機構の「2021(令和3)年度 外国人留学生在籍状況調査結果」によると、2021年までの過去10年間における外国人留学生の数は、以下のようになっています。
- 2011年:163,697人
- 2012年:161,848人
- 2013年:168,145人
- 2014年:184,155人
- 2015年:208,379人
- 2016年:239,287人
- 2017年:267,042人
- 2018年:298,980人
- 2019年:312,214人
- 2020年:279,597人
- 2021年:242,444人
上記の数字を見ると、外国人留学生の数は、東日本大震災の翌年には僅かに減少したものの、2019年には30万人を超えるところまで伸びていることがわかります。
なお、2020年・2021年に減少しているのは、コロナ禍によって外国人留学生の受け入れが停止した影響です。
文部科学省では、コロナ禍の影響で減少した外国人留学生の受け入れを、2027年をめどにコロナ禍前の水準に回復させる方針を固めています。
そのため、2021年の段階でかなり減少した外国人留学生の数は、文部科学省の施策によって徐々に回復し、2019年のピークを更新していくと考えられます。
出典:2021(令和3)年度 外国人留学生在籍状況調査結果
出典:留学生数、5年後にコロナ前水準の回復目指す…目安は外国人31万人・日本人12万人
外国人留学生の出身国
独立法人日本学生支援機構の「2021(令和3)年度 外国人留学生在籍状況調査結果」によると、外国人留学生の多い出身国は、以下のとおりです。
- 1位:中国
- 2位:ベトナム
- 3位:ネパール
- 4位:韓国
- 5位:インドネシア
- 6位:台湾
- 7位:スリランカ
- 8位:ミャンマー
- 9位:バングラデシュ
- 10位:モンゴル
外国人留学生の採用状況
株式会社マイナビでは、「2021年卒 企業外国人留学生採用状況調査」を公開しています。
調査結果によると、2021年卒において外国人留学生を採用した(する予定)企業の割合は36.4%で、コロナ禍前の2018年卒と比べると21ポイント増加しています。
ただし、この数字は、企業規模によって大きく変わってきます。
たとえば、従業員数100人未満の企業では、85.1%の企業が外国人留学生を採用していないという結果になっています。
なお、日本企業が外国人留学生を採用する目的の上位は、以下のとおりです。
- 1位:国籍問わず優秀な人材の確保のため
- 2位:応募があったため
- 3位:外国語の必要な業務があるため
また、外国人留学生を採用した企業の82.9%が、入社後の活躍ぶりに不満を抱いていないという結果になっています。
外国人留学生の採用メリット
外国人留学生の採用には、以下の効果・メリットがあります。
少子化への対応
少子化といわれて久しい日本ですが、実は、少子化の一方で大学進学率が上昇し続けてきたことで、大学生の人数自体は減少していません。
しかし、最近では、大学進学率も頭打ちになりつつあり、2022年卒前後をピークに、今後は大卒人数も減少していくと考えられます。
つまり、今後の新卒市場は「供給される学生数が毎年減っていく」という超売り手市場になります。
こうしたなかで、外国人留学生の採用に力を入れて採用ターゲットを広げられれば、大手と比べて不利になりやすい中堅中小企業やベンチャー企業でも、新卒採用に成功する可能性を高められるでしょう。
アグレッシブな人材の確保
異国である日本に留学し、なおかつ日本企業での就職を希望する学生は、高い夢や目標、モチベーションを持っていることも多いです。
こうした外国人留学生を採用すれば、高いモチベーションや勤勉さなどが日本人メンバーへの良い刺激になるでしょう。
なお、株式会社マイナビの「2021年卒 マイナビ企業外国人留学生採用状況調査」によると、入社した外国人留学生の57.7%が「活躍している」と企業から高く評価されています。
海外展開への布石
企業が海外進出・展開を考えている場合、進出予定国の外国人留学生を採用することで、進出時の中核メンバーを確保できます。
現地の文化や慣習、言語などを知っている外国人留学生を採用し、日本で自社の商品サービス知識、仕事のやり方を覚えてもらうことで、現地進出時もスムーズに進みやすくなるでしょう。
新たなビジネスアイデアの創出
外国人は、日本人とは異なる文化・価値観・視点を持っていることが多いです。
そのため、たとえば、新製品の開発チームなどに外国人留学生の新人を入れると、日本人メンバーでは思いつかない案や視点が出てくることもあるでしょう。
社内雰囲気の活性化
先ほども少し触れましたが、外国人留学生を採用すれば、彼らのアグレッシブさや高いモチベーションによってチームに活気が生まれます。
また、社内におけるダイバーシティや相互理解を進めるうえでも、外国人留学生のような多様な人材を積極的に採用し、彼らが活躍できる風土や体制などを整備していくことは有効でしょう。
外国人留学生を採用・受け入れる際の注意ポイント
外国人留学生を採用し、活躍・定着につなげていくには、以下のポイントを大切にする必要があります。
就労ビザに関する基礎知識と取得サポート
外国人留学生を採用する場合、ビザを学生向けの「留学」から「技術・人文知識・国際業務」などの就労ビザに切り替える必要があります。
なお、出入国在留管理庁では、4月入社のモデルケースなどを公開しています。初めて外国人留学生を採用する際は参考にするとよいでしょう。
たとえば、12月までに内定を獲得した外国人留学生がビザを切り替える場合、大きく分けて以下2つの手続きが必要となります。
- 在留資格変更許可申請(12月~翌3月頃)
- 就労資格への変更許可(3月末~4月)
なお、春先はビザ変更申請が集中するため、一般的な審査期間である1~2ヵ月間より多くの時間がかかる可能性が高くなります。
このような出入国在留管理庁のモデルケースなどの情報も確認したうえで、早めの手続きすることが大切です。
出典:日本の大学等を卒業した留学生の方が日本で就職する際に必要となる手続について(出入国在留管理庁)
日本語力の確認
外国人留学生が企業で活躍するには、高い日本語力が不可欠です。
しかし、ヒューマングローバルタレント、グローバルパワーの調査結果によると、7割超の日本企業が「最高水準の日本語力」を求める一方で、そのレベルを満たす外国人は4割弱にとどまることがわかっています。
ただ、たとえば、IT業界などの仕事であれば、外国人の日本語力が多少低くても、エンジニア同士である程度のコミュニケーションができる傾向もあります。
また、外国人留学生の日本語力が低い場合、翻訳機能のついたコミュニケーションツールの用意や日本語学校などへの派遣でカバーすることも検討の余地があるでしょう。
勤務条件の明確化
日本のメンバーが当たり前のように守っているルールや勤務条件も、外国人留学生にとっては、もともとの価値観や習慣の違いから違和感を覚える場合もあります。
こうした認識の違いによるトラブルを防ぐには、勤務条件なども書面にして、説明を納得してもらったうえで実際の勤務に入ってくことが大切です。
なお、労働基準法第15条第1項では、使用者に対して、労働条件の明示を義務付けています。
一般の日本人採用では、労働者本人が書面を読めば理解できることが多いため、さらっと説明して終わるようなケースが多いでしょう。
しかし、外国人留学生を採用する場合には、認識のズレを解消するために、丁寧に説明することが大切です。
労働条件の明示に関する具体的な方法やポイントは、以下の資料を参考にしましょう。
日本人とは違うキャリア意識の考慮
クルートワークス研究所の客員研究員・田中信彦氏の調査結果では、上海における大卒者の平均勤続年数が2年以下であり、日本人と比べてかなり短い数字になっていることがわかっています。
また、先述のとおり、多くの外国人留学生は非常にアグレッシブであることから、キャリアでも高みを目指す傾向があります。
結果として、外国人留学生は、自分自身の成長やキャリアを積み重ねられる環境でないと判断すると、すぐ離職・転職する傾向にあるといえます。
したがって、外国人留学生を採用するなら、彼らの高いキャリア志向に対応していく必要があります。
出典:中国で長期雇用は実現できるか―成長志向に応える仕組みとは―(リクルートワークス研究所・客員研究員 田中 信彦 )
出身文化に合わせた就労環境
優秀な外国人留学生に活躍・定着してもらうには、自社のルールや価値観を一方的に押し付けるのではなく、相互理解を図りながら協働・協創できる体制や仕組みをつくっていくことも大切です。
また、働きやすい就労環境をつくるために、定期的に外国人の声に耳を傾ける機会も必要でしょう。
なお、場合によっては、文化、また宗教的な慣習やタブーを持っているケースもあります。確認が必要です。
受け入れ体制整備によるトラブルの未然防止
上記のように出身文化の違い、日本語力の不足などがあるからこそ、外国人留学生を採用する際には、受け入れ側の体制や環境を整備していく必要があります。
具体的には、以下のような点を意識するとよいでしょう。
- ランチ歓迎会を開催する
- チームメンバーの顔と名前を覚える機会をつくる
- 社内報で紹介をする
- 自社の共通語や独自の文化などを、わかりやすい資料にまとめる(言語化、マニュアル化を進める)
- 業務以外でも交流できる環境をつくる など
まとめ
日本における少子化は、いよいよ大卒採用にも影響してきます。そのため、企業は少子化による人材不足への対策として、いまのうちに自社の採用力を高める、また、外国人留学生の採用に慣れておくといったことが求められるでしょう。
外国人留学生の数は、2019年まで伸び続けて30万人を超えました。コロナ禍で2020年~2021年にかけては大きく減少しましたが、文部科学省では、減少した外国人留学生の受け入れを2027年をめどにコロナ禍前の水準に回復させる方針を固めています。
外国人留学生を採用すると、以下のメリットが期待できます。
- 少子化への対応
- アグレッシブな人材の確保
- 海外展開への布石
- 新たなビジネスアイデアの創出
- 社内雰囲気の活性化
外国人留学生の採用・受け入れでは、以下の点に注意をしながら環境整備などを進めていくことが大切でしょう。
- 就労ビザに関する基礎知識
- 日本語力の確認
- 勤務条件の明確化
- 日本人とは違うキャリア意識の考慮
- 出身文化に合わせた就労環境
- 受け入れ体制整備によるトラブルの未然防止
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トクティー
大卒の少子化影響が本格化して、新卒採用が困難になる前に、ぜひ外国人留学生の採用を視野に入れて対策を検討してみてください。
なお、大卒の少子化傾向に関しては、以下の資料で紹介しています。採用に携わっている方でも意外と知らない情報があるかもしれません。ぜひご覧ください。