近年の日本で、多くの企業が苦戦しているのがITエンジニア人材の採用です。
SaaSやクラウドビジネスはもちろん、業種を問わずIT活用が不可欠となるなかで、ITエンジニアの確保、システム開発は不可欠なものとなっています。
エンジニア採用に一発逆転の秘策はありませんが、自社のターゲットや採用力に合った採用手法を選択し、成功ポイントを押さえて確実に実践していくことで、成果を出しやすくなります。
記事では、まずエンジニア採用が厳しい理由を確認しておきます。
そのうえで、エンジニアのおすすめ採用手法と、エンジニア採用を成功させるポイントを紹介します。
<目次>
エンジニア採用が難しい理由
エンジニア採用には、採用難易度を上げるいくつもの要因があります。この章では、その理由を詳しく見ていきましょう。
求人倍率の高さ
前提としてITエンジニアは転職求人倍率でみても、他の職種と比べて従来から格段に高い状況になっています。
dodaの調査結果によると、2022年9月におけるITエンジニアの転職求人倍率は10.07倍となっています。
求人倍率が10.07倍ということは、大雑把にいえば、ITエンジニアの採用枠10件に対して、1名の求職者しかいない状態です。
この数字がいかに高いかは、他の職種と比べるとよくわかります。
- 全職種の平均: 2.11倍
- 専門職(コンサル・金融): 5.96倍
- 専門職(建設・不動産): 3.98倍
- 企画・管理: 3.27倍
- 販売・サービス: 0.48倍
- ITエンジニア:10.07倍
IT・通信系エンジニアの転職求人倍率は、2022年9月時点の調査で、前月対比・前年同月対比での上昇度も大きく、他職種との開きはますます大きくなる可能性が高いです。
転職市場への現れにくさ
高待遇かつ満足できる環境で働いているエンジニアは、なかなか転職しません。
近年では、エンジニアの場合、フリーランスという選択肢も有力なものになっています。
当然、そうした働き方のエンジニアは、転職市場に出てこないことになります。
また、優秀なエンジニアの場合、転職するとしても引く手あまたの存在であり、市場に長く居ることは基本的にないでしょう。
理解と見極めの難しさ
採用の現場において、エンジニアの採用をしている人事はエンジニア出身ではないケースも多くあります。
そうすると、エンジニアのスキルやエンジニアから見た自社あるいは仕事の魅力を的確に抽出することも難しくなります。
面接で能力を見極めたり、口説いて志望度をアップさせたりすることも、営業職などの採用に比べると難しいことも多いでしょう。
待遇の高騰
人材不足の売り手市場となるなかで、優秀なエンジニアの賃金相場は上昇傾向にあります。
ヒューマンリソシア株式会社の調査結果によると、2020年における日本のITエンジニアの給与は年5.9%の伸び率になっています。
出典:ヒューマンリソシア調査 [独自レポート]世界のIT技術者の給与ランキング、日本は92ヵ国中18位、伸び率は年5.9%増で20位
こうした背景から、優秀なエンジニアを採用するにはある程度の資金力が必要となりますし、採用した人材を収益につなげられるビジネスモデルも欠かせません。
採用単価の高さ
マイナビの調査結果によると、IT・通信・インターネット系の採用に使った金額実績の平均は898.5万円となっており、全業種でトップの数字となっています。
つまりエンジニア採用には、それだけ多くの費用がかかっている状況です。採用者1人あたりの求人広告費も、ITエンジニアは全職種のなかで2位になります。
エンジニアの採用手法
エンジニア採用をする際には、自社の採用力に合った手法を選ぶことが大切です。
この章では、エンジニア採用で一般的な4つの採用手法と、それぞれで使われている採用サービスの特徴を紹介します。
求人サイト
求人サイトとは、求人広告を出稿して、エンジニアからのエントリーを“待つ”採用手法です。
総合型のサイトもありますが、エンジニア採用をするならやはりIT業界やエンジニア向けの求人に特化したサイトが適しています。
求人サイトは、知名度がある企業、マーケティング力が強い企業に有効な選択肢となるでしょう。
人材紹介
人材紹介会社に登録しているエンジニア(求職者)を紹介してもらえるサービスです。
求人の作成や企業紹介、面接調整、内定承諾の獲得なども代行してくれるため、口説く力が弱くあまり多くの工数を割けない企業にもおすすめです。
完全成果報酬のため、幅広く依頼をしておくことも有効です。ただし、当然、人材紹介会社には多数のITエンジニア求人が依頼されている状態です。
待遇等を他社に見劣りしないラインまでは引き上げる、そのうえで、自社・仕事の魅力をしっかりと抽出して伝えることが必要です。
ダイレクトリクルーティング
ダイレクトリクルーティングとは、ダイレクトリクルーティングサービスの提供会社に登録するエンジニアに、企業がスカウトメッセージを送れる“攻め”の採用手法です。
ダイレクトリクルーティングを使えば、会社の知名度がなくてもしっかりとテキストで魅力を伝えられます。
ただその分、スカウトメールを作成して、運用していく工数がかかります。
CTOやエンジニア部門のトップなどが採用に協力的な場合、彼らの名義などでカジュアル面談のオファーを送ることが有効です。
リファラル採用
既存社員から自社に合うエンジニアを紹介してもらう方法です(縁故採用の進化版)。
既存社員は、自社とエンジニアの両方をよく知っているため、ミスマッチが起こりにくい点が魅力です。
既存社員の自社へのエンゲージメントが高ければリファラル採用は有効ですが、計画的な採用・大量採用には不向きです。
エンジニア採用を成功させるポイント
冒頭でも触れたとおり、エンジニア採用に一発逆転の秘策はありません。
しかし、以下のポイントを心がけることで、エンジニアにおける採用難の問題を解消しやすくなるでしょう。
エンジニアの知識・経験がある幹部が採用にコミットする
前述のとおり、エンジニア領域の知識が乏しい人事担当者だけに採用業務を任せると、ミスマッチが生じやすくなります。
現場で活躍できるエンジニアを採用するには、エンジニアの経験・知識のある幹部が採用にコミットすることが大切です。
現場のプロジェクトマネージャーやリーダーなどに採用に参加してもらうスクラム採用も大切になります。
エンジニア採用を人事だけの仕事にせず、経営陣もコミットしたうえで、企業全体として採用活動に取り組む必要があるでしょう。
MUST要件を緩和する
経験豊富で優秀なエンジニアを採用したいという心理は自然なものです。
しかし、「絶対にA~Eまで5つの条件をクリアしなければならない」というMUST要件があまりに厳しければエントリーが集まらず母集団を形成できませんし、採用もできません。
業界認知度や待遇がそう高いわけではない中堅・中小企業の場合、高すぎるMUST要件を緩和して、応募のハードルを下げる工夫も必要です。
テレワーク(リモートワーク)などの就労環境を整備する
総務省による調査結果では、情報通信業の97.7%でテレワークが普及している結果になっています(令和3年度の実績)。
近年のIT業界では、業界団体が中心となって働き方改革や就労環境の整備・是正に取り組んできています。
もちろん、上記の97.7%という数字の中にはさまざまな実態があるでしょう。
ただ、他業界、全体51.9%、製造業60.1%、サービス業41.6%といった数値と比べると圧倒的に高い数値になっています。
特に、情報通信以外の企業がDX化等に伴ってエンジニア採用をしたい場合、現状では、まだテレワークなどの環境が整っていないこともあるかもしれません。
テレワークはひとつの事例ですが、優秀なエンジニアを獲得するには、仕事内容はもちろんですが、例えば、使える機材や社内インフラなど、エンジニアにとって好ましい就労環境を整備することも大切です。
未経験層の採用も検討する
現場からは「即戦力のエンジニアが欲しい」という採用ニーズがあがってくるのが普通です。
ただし、場合によっては理系出身などのポテンシャルの高い未経験層の採用を視野に入れても良いかもしれません。
いまの採用状況になってくると、未経験者を採用して、外部のITスクールなどに派遣して育成したほうが、結果的に短期間で組織強化できる可能性も十分あります。
業務委託(フリーランス)も視野に入れる
新規事業による短期間でのサービス立ち上げや課題解決、DX推進などの場合、高いスキルを持つフリーランスエンジニアに業務委託をする選択肢もあります。
この数年、日本のフリーランス人口自体は顕著に増えており、特にITエンジニアはフリーランス人材が増加している分野です。
Brocanteの調査結果によると、フリーランスとして活躍するIT人材は、年間15%のペースで増加しています。
出典:「ITフリーランス人材及びITフリーランスエージェントの市場調査」 2022年版を公開|株式会社Brocanteのプレスリリース
フリーランスの場合、即戦力になるとともに、企業は社会保険に加入する必要もありません。
社会保険料が不要となれば、その分を賃金に上乗せすることも可能でしょう。
新規事業のスタートアップなど、スポット的な人材確保をするなら中途エンジニアの採用よりもフリーランスの業務委託のほうが効率的に人材確保できる可能性も高いです。
まとめ
ITエンジニアは、求人倍率が非常に高くなっており、転職市場に出てきにくい、エンジニア未経験の人事では採用が難しい、待遇が高騰しているといった状況が起きています。
その中でエンジニア採用を成功させるには、以下のポイントを大切にする必要があります。
- エンジニアの知識・経験がある幹部が採用にコミットする
- MUST要件を緩和する
- テレワークなど就労環境を整備する
- 未経験層の採用も検討する
- 業務委託(フリーランス)も視野に入れる