アルバイト採用では、正社員採用のように書類選考⇒筆記試験⇒一次面接⇒二次面接……と多くのステップを踏んで求職者の見極めや魅了付けをしていくことは少なく、一回の選考でお互いが意思決定することが大半です。
一方で、ディップ株式会社の調べによると、アルバイトは長期就業が前提で入社していても、約2割が半年未満で辞めてしまうという実情があります。
特に学生の場合、半年未満の離職が38.3%と、4割近くは採用から半年未満で辞めてしまっている状態です。
出典:アルバイト・パートスタッフの離職事情と定着への取組み事例(ディップ株式会社)
せっかく仕事を覚えたアルバイトが何人も早期離職すれば、企業の採用・教育コストは増大しますし、場合によっては組織づくりにも支障が出るでしょう。
こうした問題を防ぐためには、アルバイト面接でも魅了付けや見極めをきちんと行なうことが大切です。
記事では、アルバイト採用における一般的な面接の流れと、面接時の環境に対する配慮を紹介します。
また、面接時の見極めに使える効果的な質問も紹介しますので参考になれば幸いです。
<目次>
アルバイトの面接時の一般的な流れ
面接には、大きく分けて2つの目的があります。
- 面接の目的① 自社に合う人材かどうかを見極める
- 面接の目的② 求職者に「この企業で働きたい」と思ってもらう
アルバイト採用の場合、面接は1回だけになることが多いでしょう。
そのため、アルバイト面接では、初対面かつ少ない時間のなかで、上記2つの目的を効率よく達成していく必要があります。
では、具体的にどのように面接を進めれば、上記の目的を達成できるでしょうか。
この章では、目的達成をするために必要なアルバイト面接での流れをご紹介します。
1.挨拶・自己紹介
まずは面接官から以下の流れで挨拶と自己紹介をします。
「はじめまして。人事の◯◯です。アルバイトさんの採用と研修全般の仕事をしています。今回は弊社の○○にご応募いただき、ありがとうございます。よろしくお願いします。」
新店舗のオープニングスタッフ募集などで、大きな母集団を集めて、一次面接⇒二次面接……と複数回の選考を実施するような場合は、選考全体の流れや今回の面接の位置づけなども最初に伝えておきましょう。
2.応募者の緊張をほぐす
アイスブレイクを入れて、応募者の緊張をほぐしてから本題に入っていきます。たとえば、以下のような天気や場所に関する質問などは定番です。
- 「午前中はすごいゲリラ豪雨が降ったのですが、Aさんの面接前に止んで良かったです。道路もそんなに濡れてなかったですよね?」
- 「このビルは少し入り組んだ路地にありますが、すぐに見つけられましたか?」など
面接官から自己開示をしたり、履歴書などの情報から応募者が話しやすいテーマをアイスブレイクとして振ったりすることが有効です。
応募者との共通項などがあれば、そういった話題もよいでしょう。応募者があまり考えずに答えられるテーマにすることが大切です。
ただし、“選考”だと勘違いされるような質問、また、応募者のプライベートにいきなり踏み込むようなテーマは選ばないほうがよいでしょう。
3.業務内容・勤務条件の確認
アルバイトの場合、以下のような軽いスタンスで応募をしてくる求職者も多いものです。
- 「店頭のアルバイト募集ポスターが気になって……」
- 「求人を見て、面白そうな仕事だと思ったので………」
採用後のトラブルや早期離職を防ぐには、職場環境や仕事内容、労働条件などを面接の冒頭で丁寧に確認しておいたほうが安全です。
- 契約期間
- 就業場所
- 仕事内容
- 始業・終業時刻
- 希望する勤務量
- 時給と支払い方法
- 休日 など
労働基準法の第15条第1項と労働基準法施行規則第5条では、労働者を採用する事業主に対して、労働条件を明示することを義務付けています。
面接段階でも情報をきちんと伝えることで、応募者に安心してもらえるようにしましょう。
4.採用側からの質問
アルバイト面接で質問をする目的は、大きく分けて以下の2つです。
- 提示条件で働けるかの確認
- 採用要件を満たしているかの見極め
具体的な質問例は、あとで詳しくご紹介します。
5.業務におけるやりがいのPR
アルバイト採用の場合、面接~初出勤までの間に応募後辞退(内定辞退)が起こりやすい傾向にあります。
ディップ総合研究所の調査結果によると、応募~初出勤までに「辞退経験あり」と回答した人は43.5%にのぼります。
出典:アルバイト・パートの応募後の辞退を防止するためには? 辞退発生箇所と理由を明らかに!~面接率向上編(前編)~
自社の要件に合う人の応募後辞退を防ぎ、入社してもらうためには、業務のやりがいやメリットを伝え、魅了付けをする必要があります。
<やりがいの伝え方 事例>
- お客様の悩みを解決して「ありがとう!」と言われると、モチベーションが上がりますね。
- 週末は家族連れも多いので、子ども好きの◯◯さんには楽しめる仕事だと思います。
- うちで働くと、話題の人気スイーツを社員割引で食べられるんですよ。 など
6.応募者との質疑応答
面接官ばかりが一方的に話すのではなく、応募者に質問する時間を与えましょう。以下のような不安や不明点を解消することも、魅了付けにつながります。
よくある質問などは、「こういう部分を質問もらうことが多いのですが……」といった形で面接官側から切り出すとよいでしょう。
- 「子どもが急病になったら休めますか?」
- 「昇給はしますか?ずっと時給1,000円のままですか?」
- 「調理の仕事はしたことがないのですが?」 など
7.今後の流れの説明
最後に面接結果の連絡や二次選考の詳細について説明します。その場で採用決定の場合は、本人の意思を確認したうえで、入社までの流れを伝えましょう。
- 「面接結果は、明後日の◯日までに電話でご連絡します」
- 「二次面接は、来週の△日に実施予定です。その際には、□□もお持ちください。面接は私が担当します。」
- 「これで採用決定とさせていただきます。お仕事は来月1日のスタートとなりますが、その前に制服合わせと入社の手続きを行ないましょう。◯日にこの事務所に来ていただけますか。その際には、筆記用具と印鑑を持ってきてください。」 など
面接時の環境に対する配慮
先述のとおり、アルバイトの採用面接では求職者に「この企業で働いてみたい」「楽しそうだ」という入社意欲を高めてもらうことが大切です。
入社意欲を高めるうえでは、以下のような環境・態度面の配慮は基本となるでしょう。
面接会場は整理整頓された空間を設定する
たとえば、飲食業の各店舗でアルバイト採用をする場合、厨房奥の狭い事務所などで面接を行なうこともあるでしょう。
事務所の狭さなどは仕方がないことですが、初めてその空間に入る求職者が「汚い」「不潔」などのネガティブな印象を持つ状態では、入社意欲も下がってしまうでしょう。
求職者の応募後辞退を防ぐには、整理整頓されていて求職者が不快にならない環境で面接を行なうことが大切です。
威圧的な態度をとらない
面接官は企業の顔です。面接官が威圧的な態度をとった場合、求職者はその企業にネガティブなイメージを抱くでしょう。
面接官に対する印象は、入社後の職場の雰囲気にも直結します。
面接官に対してネガティブな印象があると、その場では何も言わなくても上述したような内定辞退なども生じやすくなりますので注意が必要です。
- 乱暴な言葉遣い
- 上から目線で求職者への敬意がない
- 既存のアルバイトスタッフに対する親しみや感謝が感じられない
- 求職者の話に相槌や笑顔がない
- 求職者と目を合わせない など
近年では、求職者が不快な面接体験をSNSに投稿して炎上するケースもあります。
自社のイメージを低下させないためにも、また、採用を成功させるためにも、面接官には「企業の顔」としての振る舞いが必要です。
清潔感と親しみやすさを大切にする
「シワだらけで汚れた服を着た面接官」と「アイロンがしっかりかかったシャツの面接官」では、一般的に、後者のほうが印象は良くなります。
アルバイトの場合、店長やリーダーなどの指示にしたがって働くことが多くなり、かつ、店長やリーダーなどが面接官を務めることも多いです。
したがって、面接官から感じる「親しみやすさ」や「何でも相談できそうな感じ」も入社動機につながってきます。
もちろん職場によってはスーツやシャツではなく作業服などで面接することもあるでしょう。それは問題ありません。
ただ、どんな職場であろうが、服装、身だしなみ、表情などに関して、清潔感と親しみやすさを守ることは良い印象を与えるための大原則です。
面接時に効果的な質問集
少ない回数・時間の面接で自社に合う人材かどうかを見極めるには、面接時の質問を工夫する必要があります。
この章では、見極め効果の高い質問例と各質問のポイントを紹介します。
意欲に関する質問
- なぜこの店舗に応募したのですか?
- 接客の仕事に惹かれた理由は何ですか?
- 先ほど説明した仕事内容のなかで、特に興味を持っているものはありますか?その理由も教えてください。 など
上記に共通するのは、求職者の意欲を具体的に掘り下げたり、どういう考えなのかを引き出したりする質問であることです。
たとえば、Yes・Noで答えられる「意欲はありますか?」のような質問では、求職者が自社や仕事に対して持っている価値観や考えがわかりません。
一方で「なぜ」や「理由」を聞いてあげると、自社ブランドや業界への興味・関心、志望度の高さなども見えてきます。
ただし、アルバイトスタッフに求めるものによりますが、アルバイトの応募者の場合、正規雇用のような深い志望理由や意欲を持っていないことも多いです。
そのため、応募者に高いハードルを感じさせたり、答えられなくて気まずい思いをさせたりしないように注意する必要があります。
応募者が求める条件との整合性を確認する質問
- 週に何日働きたいですか?
- 月にいくら稼ぎたいなどの希望額はありますか?
- シフトに入れない曜日や時間はありますか?
- (学生の場合)試験や留学でシフトに入れない期間はありますか? など
ディップ総合研究所による調査結果では、「面接で聞いた条件や仕事内容が、自分の希望とは合わなかったから」という理由で66.4%もの人が面接中の辞退をしていることがわかっています。
また、「条件や仕事内容が合わなかった」という回答の内訳トップは、「勤務時間・勤務シフトが合わなかった(63.3%)」です。
ある程度のシフトや勤務時間の調整が可能なら、当初の条件を一方的に押し付けるのではなく、応募者が求める条件を掘り下げたうえで、合意できるところを探すことも大切です。
また、アルバイトの場合、他のアルバイトや学生生活、家族のライフサイクルなどによって「急に入れない」「この時期は入れるけど、この時期は入れない」といったことが大丈夫かという点への懸念が必ずあります。
勤務条件に関する懸念点などは必ず確認して、よくあるケースなども面接官側から確認・紹介するとよいでしょう。
出典:アルバイト・パートの応募後の辞退を防止するためには? 辞退発生箇所と理由を明らかに!~就業決定率向上編(後編)~
就労期間に関する質問
- いつから働きたいですか?
- どのくらいの期間、働き続けたいと思っていますか? など
就労期間に関する答えから、本人の労働意欲がわかることもあります。
たとえば、「できれば長く働き続けたいです」という回答に対して、「どうして長く働き続けたいのですか?」という質問で、さらに内面を掘り下げてもよいでしょう。
ただし、アルバイトの場合、以下のような実際に通勤した見た際の感覚、また、周辺環境の変化で退職してしまう側面もあります。
- 働き始めてみたら思ったより通勤がしんどかった
- 大学の研究室が忙しくなった
- 子供が夏休みに入って家庭環境が変わった など
定着するアルバイトスタッフを探す場合には、そういった可能性に関しても確認しておいたほうが安全です。
また“面接での言葉よりも過去の行動のほうが確からしい”という視点で、過去のアルバイト履歴や就労期間などを確認するのも一つでしょう。
たとえば、「過去のアルバイト期間が長く、何らかの明確な事情で新しいアルバイト先を探している」といった場合であれば、定着を期待しやすいでしょう。
一方で、半年程度でさまざまなアルバイトを転々としている場合、自社でも長く続かない可能性は高くなります。
なお、学生アルバイトなどは「さまざまな仕事を経験してみたい」といった動機もあります。
短絡的に“就労規則が短いからその人は信頼できない”ということではありません。
他メンバーとの協調性に関する質問
- これまでアルバイトしたことはありますか?
- チームスポーツの経験はありますか?
- クラスやサークルなどのなかで、どのような立場になることが多いですか?
- 上司や先輩で性格が合わない人がいたらどうしますか?
本人の「◯◯だと思います」という回答に対して、「なぜそう思いますか?そう考えたエピソードも教えてください」と掘り下げてみてもよいでしょう。
なお、これらの質問は正解があるわけではなく、相手の受け答えなどを見ながら判断するのがおすすめです。
応募者に不快感や不信感を与えるNG質問
就職差別を防ぐために、厚生労働省が注意喚起する以下の質問はなるべく実施しない、質問するときには誤解を与えないように注意が必要です。
アイスブレイクとして住所や家族などのテーマに踏み込んでしまう、また、「相手の人柄や価値観を知りたい」と思って質問してしまうなどして、相手に不快感や不信感を与えないように配慮しましょう。
【a.本人に責任のない事項の把握】
- 本籍・出生地に関すること (注:「戸籍謄(抄)本」や本籍が記載された「住民票(写し)」を提出させることはこれに該当します)
- 家族に関すること(職業、続柄、健康、病歴、地位、学歴、収入、資産など)(注:家族の仕事の有無・職種・勤務先などや家族構成はこれに該当します)
- 住宅状況に関すること(間取り、部屋数、住宅の種類、近郊の施設など)
- 生活環境・家庭環境などに関すること
【b.本来自由であるべき事項(思想信条に関わること)の把握】
- 宗教に関すること
- 支持政党に関すること
- 人生観、生活信条に関すること
- 尊敬する人物に関すること
- 思想に関すること
- 労働組合に関する情報(加入状況や活動歴など)、学生運動など社会運動に関すること・購読新聞・雑誌・愛読書などに関すること
【c.採用選考の方法】
- 身元調査などの実施 (注:「現住所の略図」は生活環境などを把握したり身元調査につながったりする可能性があります)
- 合理的・客観的に必要性が認められない採用選考時の健康診断の実施
まとめ
アルバイト面接は、以下の流れで進めていくのが一般的です。
- 1.挨拶・自己紹介
- 2.応募者の緊張をほぐす
- 3.業務内容・勤務条件の確認
- 4.採用側からの質問
- 5.業務におけるやりがいのPR
- 6.応募者との質疑応答
- 7.今後の流れの説明
アルバイトの場合、気軽な感覚で応募して、面接に行ってみて判断するといった応募者も多く、入社前の辞退や早期離職が起こりやすい傾向にあります。
こうした問題を防ぐには、面接を「見極め」だけでなく、しっかりと「魅了付け」を意識することが大切です。
特に以下のような面接時の環境や面接官の服装・雰囲気は基本として押さえておきましょう。
- 面接会場は整理整頓された空間を設定する
- 威圧的な態度をとらない
- 清潔感と親しみやすさを大切にする
アルバイト採用では、記事で紹介した質問で本人の意欲や希望条件などをすり合わせることも、入社前の辞退や早期離職の防止につながります。
また、面接時には応募者に不快感や不信感を与える質問を避けることも大切です。