少子化が進む中で企業の人手不足は続いており、新卒採用はリーマンショックで一度大きく落ち込んだところから、約10年間売り手市場化(学生優位)が進んできました。
2020年のコロナ禍で一時的に求人倍率は落ち込みましたが、コロナ禍は全業種にダメージを与えたわけではなく、影響は限定的なものにとどまりました。
こうした変化の中で、学生の内定率はどのように変化してきたでしょうか。
本記事では、内定率の定義なども確認したうえで、過去15年間の内定率推移をみていきながら、新卒採用市場のトレンドや今後の変化を解説します。
<目次>
内定率とは?
そもそも内定率はどのように調査されているのか、また内定率のデータから何が分かるのかを確認します。
内定率の調査方法と計算式
内定率は、「就職希望者数に対する内定者数の割合」を示したデータです。以下の計算式で計算されるものになります。
内定率 = 内定者数 ÷ 就職希望者数 × 100
内定率は文部科学省と厚生労働省が共同で行っている「大学等卒業予定者の就職内定状況調査」に基づいて発表されるデータが有名ですが、その他にも民間の人材サービス各社、また各大学などが調査して発表しています。
調査自体は厳正に実施されていても、調査対象となる母集団、また、就職調査に回答する層といったところでフィルターがかかってしまうため、調査元や時期によっても内定率の数値は異なり、「正確な内定状況を表している」とは断言しにくいのが難しいところです。
なお、文部科学省と厚生労働省の調査対象となっているのは、国立大学、公立大学、私立大学、短期大学、高等専門学校、専修学校(専門課程)の112校、調査の対象人員は6,250人。
調査方法は、電話及び面接で就職状況に関する聞き取りを行い、毎年10月1日、12月1日、翌年2月1日、4月1日の時点のデータとして発表しています。
就職率と内定率の違い
内定率と並んで就職活動の状況や景気動向を示すときに取り上げられるのが就職率です。就職率は、就職希望者に占める就職者の割合を指すものです。
就職率 = 就職者数 ÷ 就職希望者数×100
上記でいう「就職者」とは、正規雇用(1年以上の期間での非正規雇用、契約社員等で就職した者を含む)で就職した者のことをいいます。
2022年3月卒の大学生の就職率は95.8%でした。
こちらは各大学等が全生徒の進路届を回収、集計して文部科学省に提出した数字が基になっており、就職者数はかなり精度の高いデータになっています。
ただし、分母となる「就職希望者数」に関しては定性的なニュアンスもあり、「資格試験を目指します」「ひとまずアルバイトで生活して就職しないことにしました」といった学生は除外した人数になっています。
内定率から分かることは何か?
上述した通り、内定率がどこまで正確かという問題は非常に難しい部分もあります。
しかし、同じ母集団と調査方法で実施された年度別の内定率を比較すれば、就職状況の変化が分かります。
文部科学省と厚生労働省が発表する内定率は、就職活動の途中経過として10月1日、12月1日、2月1日のデータが公開されいます。
また、民間企業の内定率は調査主体によりますが、3年次から4年の卒業時までほぼ1か月おきに発表されているものもありますので、年度別の比較に加えて、時期別のデータもみれば、企業と学生の活動時期の変化も見て取れます。
過去15年間の内定率推移
過去15年間(2008~2022年卒)の内定率がどのように推移し、どういった傾向があるのかを見ていきましょう。
過去15年間の内定率データ|推移と傾向
年 | 10月1日 | 12月1日 | 2月1日 | 4月1日 |
---|---|---|---|---|
2022 | 71.2% | 83.0% | 89.7% | 95.8% |
2021 | 69.8% | 82.2% | 89.5% | 96.0% |
2020 | 76.8% | 87.1% | 92.3% | 98.0% |
2019 | 77.0% | 87.9% | 91.9% | 97.6% |
2018 | 75.2% | 86.0% | 91.2% | 98.0% |
2017 | 71.2% | 85.0% | 90.6% | 97.6% |
2016 | 66.5% | 80.4% | 87.8% | 97.3% |
2015 | 68.4% | 80.3% | 86.7% | 96.7% |
2014 | 64.3% | 76.6% | 82.9% | 94.4% |
2013 | 63.1% | 75.0% | 81.7% | 93.9% |
2012 | 59.9% | 71.9% | 80.5% | 93.6% |
2011 | 57.6% | 68.8% | 77.4% | 91.0% |
2010 | 62.5% | 73.1% | 80.0% | 91.8% |
2009 | 69.9% | 80.5% | 86.3% | 95.7% |
2008 | 69.2% | 81.6% | 88.7% | 96.9% |
4月1日時点のデータを見ると、リーマンショックで大きく落ち込んだ2010年からの数年間を除けば、この10年ほどの就職率、またリーマンショック以前の内定率は95~98%程度で安定していることが分かります。
とくにコロナ禍以前の2016年~2019年頃は98%前後をキープしており、売り手市場の状況が続いていたことがわかります。
また、冒頭でもコメントした通り、全世界的に大きな不況となった2008年9月のリーマンショックと比べると、2020年からのコロナ禍はそこまで大きな影響は与えていないことも分かります。
さらに10月、12月、2月、4月という約半年の推移をみると、就職活動が早期化している傾向も見て取れます。
10月1日、いわゆる内定式が開催される時点の就職率をみてみましょう。
リーマンショック前の2008年は4月1日の内定率が96.9%、10月1日時点は69.2%。これに対して、コロナ禍前の2029年の4月1日の内定率が97.6%、10月1日時点は77.0%となっています。
比べてみると、最終的な4月1日時点の内定率は0.7ptしか違いませんが、10月1日時点の内定率は7.8ptも異なる状態になっています。
早期化の状況は民間企業の内定率調査を見ると顕著であり、3年生の3月1日(採用広報の解禁)や6月1日(採用選考の解禁)などの内定率を比較すると早期化状況がよく分かります。
社会状況の変化と内定率の関係
前述の通り、2010年~2011年3月卒の大学生の内定率は大幅に落ち込み、10月1日の内定率はそれぞれ62.5%、57.6%でした。
これは2008年9月に起きたリーマンショックの影響で新卒採用を控える企業が増えたためです。
その後は、経済の回復と歩調を合わせて内定率も順調に戻っていき、2019年卒の10月1日の内定率は77.0%まで上昇。
採用ニーズの回復とともに、前述の通り、採用活動の早期化が徐々に進んでいきます。
2020年から広まった新型コロナの影響は、2021年の内定率に現れ、10月1日の内定率は前年の76.8%から69.8%へ急落しています。
4月1日の内定率は、98.0%(2020年)から96.0%(2021年)への下落ですので、最終的な内定率以上に10月1日時点の内定率が落ち込んだことが分かります。
2020年4月に緊急事態宣言が出されたことで4月~6月の会社説明会や選考を一時中止した企業も多く、採用活動が後ろ倒しになった影響です。
2023年卒の就活状況
最新である2023年卒の就活状況についても、記事執筆時点(2022年9月)での数字等を紹介しておきます。
文部科学省・厚生労働省が発表する内定率は、10月1日のデータがその年度の最初のものとなります。
原稿執筆時にはまだ公開されていませんので、2023年卒の就活状況については民間の内定率データを基に紹介します。
*前半でコメントの通り、調査主体が違うと内定率の絶対的な数字をそのまま比較することは困難ですのでご了承ください。
2023年卒の8月1日現在の内定率
リクルートグループの「就職みらい研究所」が発表した2022年8月1日現在の内定率の調査結果によると、全体の内定率は87.8%となっており、前年度(2022年卒)の85.3%、前々年(2021年卒)の81.2%と比較して、明らかに回復傾向にあることが分かります。
内定取得先の業種を見ると、情報・通信業が27.1%と飛びぬけて高くなっています。
IT業界、とくにITエンジニアは人手不足となっており、各社が早期から活発に採用活動をしていることが分かります。
コロナ禍で大きな打撃を受けたサービス業(14.3%)も、コロナ禍の影響が収まりを見せていることで、回復傾向が進んでいます。
産業全体がコロナ以前の状況を取り戻しつつあることが内定率の変化を見るとよくわかります。
なお、学生の内定獲得数の平均は2.4社ですが、4社以上が18.3%、6社以上も5.1%となっており、優秀な学生は複数企業から内定を取得することが当たり前となっていることも分かります。
内定率の精度に関する問題
内定率はマスコミなどでも毎年取り上げられるデータであり、就活生にとっても気になる数字です。
しかし、“内定率の数字は実態よりも高く出やすい”とも言われています。どういったことなのか詳しく紹介しておきます。
内定率は高く出やすい
就職活動中の学生はもちろん、企業の採用担当者にとっても、毎年発表される内定率の数字の状況は大変気になるものです。
各調査データは、もちろん調査自体は間違いないものと考えられますが、発表される内定率の数字が就職活動の状況を正確に現わしているとはいえないとも言われます。
たとえば、なぜ調査の内定率が高く出やすいのかを紐解いてみましょう。理由は2つあります。それぞれの理由を解説していきましょう。
調査依頼先の偏り
まず厚生労働省と文部科学省が発表する内定率の場合、調査対象となっているのは、厚生労働省と文部科学省が抽出した大学の学生になります。
調査対象の大学は、国立大学21校、公立大学3校、私立大学で38校の全62校です。
全国の大学数は、795校(令和2年現在)で、内訳は国立大学が86校、公立大学93校、私立大学が615校です。
大学によって学生数は異なりますので、一概に大学数だけで比較してよいかという問題はありますが、大学数全体と比較してみると、調査対象の大学は国立大学の比率が明らかに高くなっていることが分かります。
<内定率の調査対象大学数と全国の大学数>
- 国立大学 調査対象21校⇒全国の国立大学数86校の24%が調査対象
- 公立大学 調査対象3校⇒全国の公立大学数93校の3%が調査対象
- 私立大学 調査対象38校⇒全国の私立大学615校の6%が調査対象
国立大学は理系比率も高く、採用企業からの人気も高くなりがちです。サンプルの取り方に偏りがあり、調査結果の内定率が実態よりも高くなる言われる所以です。
回答者の偏り
文部科学省と厚生労働省が発表している内定率は電話および面接調査によるものですが、民間企業が発表する内定率の数字は、インターネット調査によるものが大半です。
とくに求人サイトの運営会社が発表するデータは、基本的に自社の求人サイトに登録している学生を調査対象としています。
この場合、対象大学の分布等の偏りは比較的少ないものと考えられます。
一方で、求人サイトに登録している時点である程度は就職活動を積極的に実施している層だと考えられます。
また、インターネット上の内定状況調査に回答する心理を考えると、内定を取得していない層よりも内定を取得した層の方が積極的に回答しやすい心理もあるとも考えられます。
詳細な調査方法の設計にもよりますが、このように内定率の数字は実態よりも若干高くなる傾向があると考えられており、内定率の絶対値を判断の材料等にし過ぎないほうがよいでしょう。
まとめ
内定率は就職活動の状況がわかるデータであり、年度や時期別の内定率の推移を見ることで企業の採用傾向も把握することができます。
リーマンショックのタイミングで一度大きく落ち込んだ内定率ですが、リーマンショック後は、コロナ禍前まで約10年間上昇してきました。
コロナ禍で若干の低下はありましたがリーマンショック時ほどではなく、また、2023年卒の内定率状況を見ると、コロナ禍以前に戻りつつあることも分かります。
今後、少子化を大学進学率の上昇が打ち消してきた均衡状態がついに崩れて、大卒人数が一気に減少していく状態に入ります。
採用活動の早期化も進む中で、各企業は市場の状況が変わったことを念頭に置いて、新卒採用の施策を検討していく必要があるでしょう。