ジョブ型採用とは?メリット・デメリットや導入のポイントを分かりやすく解説

更新:2023/07/28

作成:2023/01/13

古庄 拓

古庄 拓

株式会社ジェイック取締役

ジョブ型採用とは?メリット・デメリットや導入のポイントを分かりやすく解説

近年、「ジョブ型採用」「ジョブ型雇用」という言葉がひとつのトレンドになり、導入する企業も増えています。欧米ではスタンダードな方法であるジョブ型採用ですが、メリットもあれば、欧米とは雇用規制が違う日本で導入することのデメリットもあります。

 

本記事では、ジョブ型採用と従来のメンバーシップ型採用の違い、ジョブ型採用が注目され始めた理由、メリット・デメリット、導入に際しての手順やポイントを分かりやすく紹介します。

<目次>

ジョブ型採用とは?

ジョブ型採用とは、採用後に従事する職務内容や勤務地、労働時間などを事前に明確に定めて、人材の募集・採用・雇用を行うやり方です。

 

「採用とは、そういうものでは?」と思われる方もいるかもしれませんが、日本の場合、求人情報としては職務内容や勤務地が決まっていても、雇用契約としては職務内容や勤務地は定められていない(また異動の可能性がある)ことが一般的です。

 

経団連では、ジョブ型採用を次のように定義しています。

 

「特定のポストに空きが生じた際にその職務(ジョブ)・役割を遂行できる能力や資格のある人材を社外から獲得、あるいは社内で公募する雇用形態のこと」
(引用元:採用と大学教育の未来に関する産学協議会・報告書「Society 5.0 に向けた大学教育と 採用に関する考え方」

 

ポイントは「求人内容」を明確化するだけではなく、「雇用」に関しても、対象の職務(ジョブ)を明確にして実施することです。

 

ジョブ型採用は欧米では一般的な雇用形態であり、日本の企業でも日立製作所や富士通、資生堂などの大手企業で導入されています。

 

職務の専門分化が進み、また、AI技術などが発達する中で、ビッグデータエンジニア、AIエンジニアを始めとする専門人材の獲得競争が激しくなる中で、従来型のメンバーシップ型雇用では対応できなくなるケースが増えたことが日本でも導入が増えている背景です。

メンバーシップ型採用や職種別採用とどう違うのか?

「ジョブ型採用」と対比される従来までの採用スタイルが、「メンバーシップ型採用」と「職種別採用」です。それぞれがどのように違うのかを確認します。

 

メンバーシップ型採用とジョブ型採用の違いは?

メンバーシップ型採用は、人材を新卒で一括採用して、入社後に能力開発を行いながら各仕事に配置するスタイルです。とくに新卒の場合、勤務地や職務が入社後に決まることが多く、人事異動の辞令が出れば、基本的には辞令に従って転勤・部署(職種)異動しながら、キャリアを形成していくことになります。

 

メンバーシップ型雇用は、就「職」ではなく就「社」であり、従来型の日本の新卒一括採用は、基本的にメンバーシップ型採用になっているわけです。

 

これに対してジョブ型採用は、募集する職種、待遇をあらかじめ決めておき、そのポジション必要なスキルや知識を備えた人材を採用・雇用するスタイルです。つまり、職務(ジョブ)に対して人材を採用するという考え方です。

 

近年では、ITエンジニアなどを中心に新卒でもスキルレベルの違いが明確にあるケースが増加、また、優秀人材の確保を目的として、新卒採用でジョブ型採用を導入する企業も増え始めています。

 

職種別採用とジョブ型採用との違い

職種別採用は、あらかじめ採用後の配属職種を明示して募集するやり方です。日本でも中途採用においては当たり前のやり方ですし、新卒採用においても「総合職」「技術職」といった大まかな区分での職種別採用を導入している企業は多くあります。

 

採用後の配属職種を明示、それに伴って待遇なども決まっている、それを明示して採用するという点では、職種別採用はジョブ型と同じです。しかし、従来までの職種別採用では、多くの場合、雇用契約自体は職種を限定する形では結ばないことが大半です。

 

一方、ジョブ型採用の場合は、求人で職務(ジョブ)を明示することに加えて、雇用契約に関しても仕事内容、ポスト、勤務地、待遇などを特定した上で結ぶことを前提としています。従って、採用後に職種をまたいだ異動、勤務地が変わる異動などは想定されておらず、雇用主側が人事権として異動を命じることはできません。

 

このように採用時点で職務(ジョブ)を特定する点ではジョブ型採用と職種別採用は類似しますが、雇用契約のあり方に対する考え方、あり方が別物であることが多いので注意が必要です。

ジョブ型採用が注目されている理由

欧米で一般的であったジョブ型採用を導入する企業が日本でも増えているのはいくつかの理由があります。主要な5つの要因を紹介します。

 

①分業の進化

従来の総合職採用は、ジョブローテーション(部門・職種をまたぐ異動)を通じて自社への理解を深めながら、幹部候補としてのジェネラリストを育てていく考え方が前提にあります。

 

しかし、技術や組織の進化によって、ホワイトカラーの世界で分業が進んだ結果、ジェネラリストがマネジメントする経営スタイル、ジェネラリストを育成するやり方が変化しつつあります。

 

②終身雇用の崩壊と転職の一般化

従来のメンバーシップ型採用は、ある意味では、年功序列や終身雇用制度が前提となったものです。会社側が終身雇用を保証して、従業員のキャリアを構築する代わりに、組織ニーズに合わせて柔軟に人事異動を命じられていたようなイメージです。

 

しかし、終身雇用が崩壊して転職が一般化するなかで、個人のキャリア意識も変わりつつあります。会社がキャリアを保証してくれないなかで、会社の指示に一方的には従えない。自らの専門性を磨くためにジョブ型採用を志向し、就「社」ではなく就「職」しようという意識が強まっています。

 

③キャリア自律の促進

上述の通りメンバーシップ型採用は終身雇用が前提で、会社が自分のキャリアを創ってくれる前提でした。しかし、転職等も含めてキャリア自律を考えていくためには、メンバーシップ型採用ではなく、市場価値を意識することが多いジョブ型採用の方が向いている側面があります。

 

④生産性の向上

日本におけるホワイトカラーの生産性は、先進諸国と比べて低い水準にあります。そこには高いサービス要求水準や、合理化への姿勢などさまざまな要因がありますが、要因のひとつだと考えられているのが専門性の不足です。

 

ジョブ型採用を促進することによって、ホワイトカラーの専門性が高まり、社会の生産性向上へとつながることが期待されています。

 

⑤プロフェッショナル人材の獲得

メンバーシップ型採用は、自社の理念に合う人材を長期的に育成できる利点があり、基本的には異動を柔軟に実施するために、全部門や職種共通の人事評価制度、給与テーブルが構築されていることが一般的です。

 

しかし、ITエンジニアやAI・DX人材など、各社の採用ニーズが強く、獲得競争が激しい職種群においては、全部門一律の給与テーブルが合わなくなってくることが増えています。

 

そのためジョブ型採用の導入によって、各ポジションの市場価値に合わせて給与テーブルを構築し、必要人材を確保するニーズが強くなっています。

ジョブ型採用を導入する5つのメリット

前述した導入企業が増えている背景と紐づきますが、ジョブ型採用を導入する5つのメリットをまとめておきます。

 

①生産性が高まる

ジョブ型採用を導入するに際しては、原則としてすべての仕事でジョブディスクリプション(職務記述書)を定め、役割や責任、権限、目標などが明確に整理されることになります。社員それぞれが明確な責任を持ち、専門性を追求していくことによって、業務品質や生産性向上が実現しやすくなります。

 

②キャリア採用が実施しやすい

ジョブ型採用を導入することにより、特定のポジションで人材が不足した場合のキャリア採用が実施しやすくなります。一定の経験を持ったキャリア人材は、自分の経験を活かせる、また、希望するキャリア形成につながる仕事を求める傾向が強くあります。

 

前述した通り、日本でも中途採用においては職種別採用が一般的ですが、ジョブ型採用にすることで、従事する職務が明確化され、また、意に副わない異動を命じられるリスクがなくなります。これによって、専門職のキャリア採用が実施しやすくなります。

 

③専門性に応じた給与設定ができる

ジョブ型採用(雇用)では、明確に定義された職務(ジョブ)に対して人を雇用しますので、全社共通の給与テーブルはあったとしても、各ジョブの難易度や人材の需給状況に応じてフレキシブルに給与テーブルを設定しやすくなります。

 

そのため、前述のようにITエンジニアやAI・DX人材など、獲得競争が激しい分野において、市場相場を踏まえた給与の提示がしやすくなります。

 

④人材育成の効率化

ジョブ型採用を導入して、ジョブディスクリプションや必要なスキルマップ等を整備することによって、既存社員に対しても「このポジション(ジョブ)にはこういうスキルが必要」という基準を明確に示すことができます。

 

各自が努力する方向性やステップが示されることで、自助努力の促進や成長スピードの加速が期待できます。また、スキルの高さが評価に直結するということもあって、社員が自律的に業務に携わることも期待できます。

 

⑤優秀な学生の興味を引きやすい

従来型のメンバーシップ型採用の場合、配属されるまで仕事やキャリアを描きにくく、いわゆる「配属ガチャ」が生じます。キャリア自律の意識も高まるなかで、優秀な学生ほど、初めから配属部門や仕事が確定できるジョブ型採用を志向する傾向があります。そのためジョブ型採用を導入することによって、優秀な若い人材を確保しやすくなることが期待できます。

ジョブ型採用のデメリット

上述のようなメリットが期待できる反面、ジョブ型採用では、組織を運営する上で次のようなデメリットが生じることが考えられます。

 

①転勤や異動の打診が難しくなる

ジョブ型採用は雇用契約で業務内容や勤務地を明確に定めることが大半であり、当初の契約にない人事異動や転勤を行うには、本人の合意を得て雇用契約を再度締結することが必要となります。

 

当然、従業員は新たな契約を拒むこともできるため、結果的に人事異動が成り立たなくなる可能性は増えると考えられます。転職が一般化したとはいえ、日本における雇用規制が従業員の保護に主眼が置かれているため、打診を断れた場合に解雇することは、雇用規制、また、世間評価的に難しい側面があります。

 

②組織へのエンゲージメントが相対的に弱まる

ジョブ型採用を志向する人材は、就「社」よりも就「職」意識が強く、プロフェッショナル志向が強くなっています。

 

組織に対するエンゲージメントが相対的に弱くなると考えられ、より良いキャリア機会や待遇を提示する職場があった際には、ドライに転職されてしまう可能性が高くなるのは否めません。

 

③チームワークや連携が弱まる

ジョブ型採用では、個々のポジションに関して明確に業務範囲や責任を定めることになります。

 

業務や責任範囲を定めることは、専門性を高めるプラス効果も大きいですが、阻止内で生じるジョブディスクリプションから漏れる業務、ポジションとポジションの間にあるような業務がカバーされなくなるリスクも生じます。

 

組織風土の形成やジョブディスクリプションの作り方を誤ると、組織内の連携が弱まり、中長期的に見た場合には生産性が落ちる可能性もあります。

ジョブ型採用の導入手順

ジョブ型採用を導入する場合の手順を簡単にまとめました。

 

ジョブディスクリプションの設定

ジョブ型採用を行ううえでは、ジョブディスクリプション(職務要件書)の設定が必要となります。

 

まずは、職務の内容(職務名称・目的・職務内容・責任・職務の範囲など)を定義します。現在ある職務については、担当社員と面接を行うなどして、互いに認識の違いが起きないよう留意する必要があります。

 

また、職務内容に応じて、評価基準も設定していきましょう。もちろん具体的な目標設定などは、年度や事業計画に応じて変わっていくものです。ただ、職務内容を踏まえて、何をミッション(任務)として、どんな成果をもって評価するのかということを定めておくことで、採用後のトラブルが生じにくくなります。

 

職務内容や評価基準が明確になれば、次に職務要件を定義します。職務要件とは職務の遂行に必要なスキル、経験、知識、ヒューマンスキルなどのことを指します。

 

最後に、職種や役職、責任範囲などを十分に考慮しながら、成果に見合う給与体系を設定します。ジョブ型採用において給与・待遇を設定する際は、社内テーブルだけでなく、市場相場も意識しておく必要があります。雇用条件が他社より劣っていると、条件の良い企業に転職されてしまうリスクが高くなりますし、中途採用も難しくなるでしょう。

 

ジョブ型採用導入の社内告知

導入に当たっては、既存社員に対しても制度に関する十分な説明が欠かせません。「ジョブ型採用の社員」と「既存の正社員」の間で不公平感が生じないよう、ジョブ型導入の意図などを丁寧に説明することが、導入時の重要なポイントになります。

 

ジョブ型採用の実施

何度か紹介した通り、ジョブ型採用の募集方法自体は従来までの職種別採用、中途採用とさほど変わりません。ただし、職務内容や待遇を雇用契約にまで明確に反映するという点が異なるわけです。

 

実務的に、ジョブ型雇用をするための準備を整える、同時に、とくにジョブ型採用であることが魅力ポイントとして、求職者に伝わるように工夫して採用活動を行っていきましょう。

ジョブ型採用を導入する際のポイント

本章ではジョブ型採用を導入するうえでの3つのポイントを紹介します。ジョブ型採用は多くのメリットがある制度ですが、一方で、前述したようなデメリットもありますので、慎重に検討・導入していきましょう。

 

①段階的に導入する

現実的には、すべてのポジションに明確な仕事の定義づけをすることは簡単ではありません。また、必要に応じて様々な仕事を任せたいということもあるはずです。また、メンバーシップ型雇用によるジェネラリスト育成もそれなりの効果がある施策です。

 

いきなりすべての職務をジョブ型採用(雇用)に切り替えようとするのではなく、段階的、限定的に導入していくことも検討するとよいでしょう。

 

②職種別採用から始める

冒頭で紹介した通り、配属職種を明示して採用はするものの、雇用契約自体は職種を限定する形では結ばないのが職種別採用の一般的なやり方です。また、最近は、新卒採用でも職種や評価に応じて待遇(初任給)等を変更するような職種別採用のやり方も増えています。

 

完全に職務を限定して雇用契約を締結するジョブ型採用ではなく、メンバーシップ型採用との中間的なやり方である職種別採用の導入から始めることも、スムーズにジョブ型雇用を導入するための選択肢になるでしょう。

 

③成果主義を浸透させる

ジョブ型採用の導入を成功させる上では、成果主義の考え方を浸透させることも大切です。歴史ある企業などの場合、まだまだ人事評価が年功序列型になっているようなケースも多々あります。

 

その場合には、いきなりジョブ型採用を導入しようとしても、なかなか上手くいかないでしょう。ジョブ型採用の「求める/期待される成果や市場での需給バランスを加味して待遇を決める」といった部分は成果主義の考え方です。

 

「同じ年齢や社歴でも、貢献度に応じて給与が変わることが当たり前」であるという成果主義の認識をしっかり社内に浸透させることが大切です。

まとめ

ジョブ型採用(雇用)は、採用後に依頼する職務(ジョブ)や待遇を明確にして採用活動を実施、また、雇用契約を締結する採用・雇用のやり方です。

 

ジョブ型採用に対比されるものがメンバーシップ型採用です。日本における従来型の新卒採用のあり方、全員一律の待遇で採用して、入社後に配属を決定。その後も定期的な異動をしながらジェネラリストを育成していくやり方です。

 

また、中途採用で一般的な職種別採用は、募集する職務(ジョブ)を明確にする採用活動のやり方自体はジョブ型と同じですが、雇用契約は全職種共通であることが多く、その点がジョブ型採用と異なります。

 

ジョブ型採用は、職務を特定し、市場価値も踏まえて待遇等を決定しやすいため、メンバーシップ型採用と比べて専門スキルや知識のあるキャリア人材を雇用しやすくなります。

 

一方で、職種・部門間をまたぐ異動が難しくなるため、日本における雇用規制や慣習と併せて考えると組織運営が難しくなる、また、就「社」ではなく就「職」の価値観となるため、組織のエンゲージメントが低くなるといったリスクもあります。

 

自社で必要とする専門人材や組織のあり方を考えながら、部分的に導入する、職種別採用から始める、成果主義の価値観を浸透させるといったところから取り組むことがお勧めです。

著者情報

古庄 拓

株式会社ジェイック取締役

古庄 拓

WEB業界・経営コンサルティング業界の採用支援からキャリアを開始。その後、マーケティング、自社採用、経営企画、社員研修の商品企画、採用後のオンボーディング支援、大学キャリアセンターとの連携、リーダー研修事業、新卒採用事業など、複数のサービスや事業の立上げを担当し、現在に至る。専門は新卒および中途採用、マーケティング、学習理論

著書、登壇セミナー

・Inside Sales Conference「オンライン時代に売上を伸ばす。新規開拓を加速する体制づくり」など

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