組織の成長のためには、効果的な人事異動が求められます。しかし該当社員にとっては働く環境が大きく変化し、業務や精神的負担も大きくなるため合意形成が不可欠です。
今回は、人事異動を円満に進めるための内示の伝え方や、退職やモチベーション低下を防ぐためのポイントを紹介します。
<目次>
人事異動の目的
はじめに企業としての人事異動の目的を確認しましょう。
人事異動の目的は以下の通りです。1つずつ詳しく解説していきます。
- 職場の活性化を図るため
- 人材の成長を支援するため
- 適材適所の精度を高めるため
- 社員の不正防止策として
- 経営戦略の実現
職場の活性化を図るため
異動先の部署で異動前の経験が活かされることは少なくありません。
また、人事異動によって今までにない新たな視点を得ることで、問題の突破口が開けたり斬新なアイデアを発見したりすることもあります。
埋もれていた才能が開花すれば、職場活性化のきっかけになるでしょう。
人材の成長を支援するため
長期間、同じメンバーで同じ仕事をこなしていると、工夫や改善をするモチベーションが起こりにくくなります。
個々の社員が仕事上の課題をクリアするには、同僚との関係性は欠かせない要素の1つです。
新たな人材がチームに参入することはメンバーにとっても刺激となり、結果として組織全体の成長を支援することにつながります。
適材適所の精度を高めるため
社員一人一人にそれぞれ個性や持ち味があります。当初の配属部署や職種が適さないケースもあり、能力が十分に発揮されない場合は人事異動が有効です。
また、経験を積むに連れて最適な部署やポジションは変化します。人事異動を活用することで、常に組織の適材適所の最適化を図ることができるのです。
より適正のある仕事に就かせることで、会社への社員の貢献度も向上することが期待できます。
社員の不正防止策として
定期的な人事異動によって生まれる緊張感が、社員の不正を防ぐことに効力を発揮します。
長く同じ部署で働いていると部署内の事情やシステムに詳しくなり、「不正をしても誰も気づかないだろう」「このくらいの不正ならば問題ない」と魔が差す可能性も考えられます。
人事異動は企業のリスクヘッジとしても有効な手段なのです。
経営戦略の実現
新しく参画する事業や事業促進に向け、体制を整えるときにも人事異動で対処できます。組織の生産性や効率性を高めるための組織再編というケースもあるでしょう。
結果的に、経営戦略を万全、かつ効果的な体制で遂行することができます。
人事異動の効果やメリットとは
人事異動は企業に以下のようなメリットをもたらします。
- 組織の業務効率が上がる
- スキルやノウハウの展開と開発
- 従業員エンゲージメントの向上
- 組織能力の向上
組織の業務効率が上がる
社員が異動した直後は、わからないことも多く、仕事を覚えるまで効率が下がってしまう可能性もあるでしょう。
しかし長い目で見れば、あらゆる部署を経験している社員が多くいるほうが、業務の連携や進行はスムーズになります。業務効率が上がれば、時短化や人件費削減にもつながることが期待できます。
スキルやノウハウの展開と開発
人事異動後、社員は新たなスキルを身につける必要があります。これは組織的に見ればスキルの浸透を意味します。新しい部署での経験が加わることで、社員の新しい能力の開発も可能になるでしょう。
従業員エンゲージメントの向上
社員をよりマッチ度の高い部署や職種に就かせることで、より高い成果を出せるようになり、それに応じた評価を与えることができます。
社員それぞれに合った仕事であるほど、個人のストレスは軽減され、仕事に対するやりがいや充実度も増すでしょう。
人事異動は、仕事や会社に対するエンゲージメントを高めることにもつながるのです。
組織能力の向上
業務効率が上がることを先述しましたが、業務が効率的に行えるようになれば個々の社員がより高度で幅広い業務に携わる機会も増えていくはずです。
個々の社員の能力や生産性が向上すれば、組織全体の能力も上がっていくことが期待できます。
人事異動で起こりやすい問題
前述したように、人事異動は企業にとってはあらゆる目的を達成できるきっかけになり、メリットも多いのですが、社員の毎日の仕事や環境を大きく変えるものです。人事異動によって社内には以下のような問題が起こる可能性があります。
- 引き継ぎの問題
- 該当社員のストレス過多
- モチベーション低下
- 市場競争力の低下
引き継ぎの問題
人事異動を行うと、引き継ぎ発生します。異動する社員は後任者への引き継ぎとともに、新しい仕事を前任者から引き継ぐ時間が必要です。
この時間が十分に確保されないと、異動後に業務に支障が出やすくなります。本人の負担が大きくなるだけでなく、他の関係者にも影響が出てしまいます。
急な異動はできるだけ避け、計画性を持って進めましょう。
該当社員のストレス過多
新しい環境での仕事は、該当社員に少なからずストレスがかかります。異動決定後は、引き継ぎ業務が加わることで業務過多になりがちで、不安も募りやすくなるでしょう。
異動直後は、まず新しい環境に馴染むことが先決かもしれません。適切な仕組みとサポートのもと、できるだけ負担を軽減するよう努めましょう。
モチベーション低下
興味がない業務や部署への人事異動の場合、仕事へのモチベーションが下がってしまう場合があります。
また、左遷的な意味合いを持つ人事異動の場合も、該当社員のモチベーションが下がる可能性が考えられます。
反対に、抜擢人事である場合は選ばれなかった他の人材のモチベーション低下が懸念点です。異動してきた社員と新しい部署との関係がうまくいかず部署の意欲が低下してしまうこともあります。
人事異動の評価プロセスはできるだけオープンにしおいたほうがいいでしょう。
市場競争力の低下
顧客を担当していた社員が異動して新しい担当者になることで、顧客評価やエンゲージメントが下ってしまう可能性も考えられます。
幅広く、深い人脈を強みにしていた社員が異動すると、営業力や販売力への影響は大きいはずです。その点を加味しながら人事異動を決定する必要があります。
拒否されない人事異動の伝え方のポイント
会社からの人事異動の内示を喜ぶ社員がいる一方で、「慣れた今の部署で働き続けたい」「その部署には行きたくない」と思う社員もいます。
拒否されないために、以下のような点を留意し伝えるとよいでしょう。
- 一方的な伝え方にならない
- 人事異動の理由や目的を伝える
- 人事異動のポジティブ要素を伝える
一方的な伝え方にならない
就業規則に人事異動についての規定がきちんと記載されていれば、会社は社員に異動を「命じる」権利があります。
だからといって、社員の意向や事情も聞かずに一方的に決定するのは不適切です。たとえ社員にとって良い意味の異動であっても、決定の前に話し合いの機会を設けて同意を得た上で進めましょう。
人事異動の理由や目的を伝える
人事異動は企業が丁寧に詳細説明をし、社員に納得してもらった上で実行することが大切です。該当社員の納得や共感が得られるよう、異動となる理由や目的をしっかり伝えましょう。
人事異動のポジティブ要素を伝える
異動に対して否定感を持っている社員は、失うことのほうに意識が向きがちで異動によるメリットに気がついていないことが多いです。
異動によって生まれる人脈や磨ける能力、将来の活躍につながるなどを伝えることで否定感を和らげることができるでしょう。
人事異動で起こるモチベーション低下や退職を防ぐコツ
組織的に必要な人事異動だったとしても、社員のモチベーションが低下したり、退職につながったりするケースもあります。
スムーズな人事異動を実現するには、以下のような点を留意しておきましょう。
- 普段からコミュニケーションを密にとって理解を深める
- 丁寧な事前説明をして誠実に合意形成を図る
- 内示・異動時期は最善の配慮をする
普段からコミュニケーションを密にとって理解を深める
人事異動を告知する時点での上司(会社)と部下との関係性が、部下の反応を左右します。「不本意」「強制」と捉えた社員が、最悪の場合、訴訟を起こすこともあります。
社員も納得できるような人材配置を実現するためにも、普段から密なコミュニケーションを取り相互理解を深めておきましょう。
丁寧な事前説明をして誠実に合意形成を図る
異動に際し、企業と社員の間にわだかまりを残さないことが重要です。異動前に新しい部署での仕事内容や条件・待遇など、細かい部分まで丁寧に説明しましょう。
異動社員の意向や将来のキャリアプランなどにも、耳を傾けることが大事です。企業側の見せる姿勢が、該当社員の異動後のモチベーションにも大きく影響してくるでしょう。
内示・異動時期は最善の配慮をする
人事異動の内示を出す時期や実際の異動時期は、該当社員の抱えるプロジェクトや業務の現状、さらにプライベートな状況までを踏まえて最大限の配慮をする必要があります。
特に転勤を伴う場合は、家族への影響も大きくなります。子どもの教育や親の介護などへの配慮を怠り無理が発生すれば、不本意ながらも転職せざるを得ない状況となる可能性が高まります。
おわりに
人事異動にはさまざまな目的があり、組織にとってはメリットも多い人事施策です。しかし、社員にとっては生活環境や業務、人間関係など大きな変化が伴います。
スムーズに実施していくためにも、実施前に双方できちんと合意形成を図りましょう。社員が目的や理由に納得できていれば、新しい部署でも活躍してもらえるはずです。