時代の変化の中で、組織で求められるジェネラリストの役割は大きく変わってきました。いま求められるジェネラリストは、“何でも浅く広くできる人材”ではなく、“自分の専門分野を持ったうえで、組織を率いて成果を生み出せる人材”です。
記事では、スペシャリストとの違いを確認しながら、今後のジェネラリストに求められる能力や育成方法を解説します。
<目次>
ジェネラリストとスペシャリストの違い
まず、ジェネラリストとスペシャリスト、それぞれの近年における位置づけを確認しておきます。
従来までのジェネラリストとスペシャリスト
かつてのジェネラリストは、さまざまな分野を広く浅く理解している「-型」人材を指していました。必ずしも自分がマネジメントする組織内で行なわれる個別の実務に深いスキルを持つわけではなく、意思決定や調整を主の役割とする管理職・総合職です。
一方、スペシャリストとは、縦棒が上下に伸びるように一分野に特化して秀でている「I型人材」のことでした。研究職や技術職のように、自分の専門分野だけを深く掘り下げるようなイメージです。
現代の組織に求められるジェネラリスト像
現在は、VUCAの時代と呼ばれ、変化のスピードが激しく、不確実性が増しています。また、各分野における技術や理論が進化した中で、各職種における専門性が増しています。その中で求められるジェネラリストは、「-型」人材ではなく、「T型」や「V型」人材となってきています。
「T型」人材や「V型」人材とは、従来のジェネラリスト「-型」とスペシャリスト「I型」の両方の側面を持ち、一つの分野に精通したうえで、周辺における幅広い知識も有する人材の総称です。更にいえば、ジェネラリストの理想は「W型」人材です。「W型」は「V型」の発展型であり、複数の専門性と幅広い領域を持った人材です。
現代におけるジェネラリストとスペシャリストの違い
現代においても、専門分野に特化したスペシャリストの特徴は変わりません。一方で、各分野の専門性が増していく中で、これまで“ジェネラリストのスキル”とされてきたスキルもより細分化されている傾向があります。
先ほど紹介したような「V型」のジェネラリストは、マーケティングやマネジメント、人材開発等を専門領域とするスペシャリストである側面を持つでしょう。また、最近確立されつつある“プロ経営者”は、上記のような分野で複数の専門性を持つ「W字」型の人材であることが多いでしょう。
一方で、スペシャリストでも、専門特化が進む中で、“自分の専門分野を持ちながらも、他の専門家たちと協力できる”プロジェクトマネージャーのような「V型」人材の価値が高まりつつあります。その意味では、自分の知識をどう成果に結びつければいいかを知り、周囲と協力しながら、組織の成果を上げる「V型」「W型」人材こそが、ジェネラリスト、スペシャリスト共通のゴールとなりつつあるといえます。
ジェネラリストに求められる能力
現代のジェネラリストは、「組織の成果」を上げることに特化したスペシャリストだともいえます。組織の成果を上げるうえでは、以下のような能力やスキルが必要となってきます。
リーダーシップ
リーダーシップは、組織が向かう方向とゴールを示して先導する力です。リーダーシップには、「カリスマ型」「変革型」「EQ型」「ファシリテーション型」「サーバント型」等、いくつかの類型があります。自分の特性に合わせたリーダーシップを主としながら、組織内外の状況に応じて、発揮するリーダーシップを変化させられることが理想形でしょう。
リーダーシップを発揮するためには、リーダー自身が未来への明確なビジョンや軸を持つ必要があり、自分の“あり方”や“価値観の軸”を固めることが求められます。
マネジメント
リーダーシップが“組織が向かう方向とゴールを指し示す”ことだとすると、マネジメントは“指し示したゴールに組織を連れていく”ことです。目標達成に向けて、資源をやりくりしたり、施策を立案したり、プロセスを管理したりするのがマネジメントスキルです。
決断力
決断力は、物事を決めるスキルです。とくにマネジメントにおいては、人材やコスト、工数等のリソースが余りある状態で存在することはほぼありません。従って、リソースをどう調整するのかにおいて、多くの意思決定が求められます。
決断力は多くの要素が含まれるマネジメントスキルの中でも、非常に重要な力の一つです。正解が見えない中で意思決定するには、はっきりとしたビジョンや軸が必要となりますし、可能な限りを思考するロジカルシンキングも必要です。また、失敗する可能性やリスクを踏まえて意思決定するためには、リーダーとしての覚悟や責任感を問われます。
ヒューマンスキル
マネジメントにおいては、自分のみならず他者を動かして、組織をゴールへと導くことが必要です。そのためには、周囲との信頼関係を築き、メンバーを育成するヒューマンスキルが必要となります。
信頼関係の構築力、話を受け止める傾聴力や受容、メンバーのモチベーションを高めて強みや能力を発揮させるファシリテーションやコーチング、また、経験の浅いメンバーへのティーチング、メンバーを育成するための褒める力や叱る力、フィードバックのスキル等がヒューマンスキルに含まれます。
セルフリーダーシップ
ジェネラリストには、強いセルフリーダーシップが必要です。セルフリーダーシップとは、自らの意思や判断で選択したことに対して、主体的に責任を引き受けて自身の人生をつくる姿勢です。自分にリーダーシップを発揮できない人間が、他者にリーダーシップを発揮することはできません。
また、セルフリーダーシップが非常に高いリーダーは、自身の行動を通して、チームメンバーに積極的なマインド形成を促すことができるでしょう。また、常に自分で責任を引き受ける姿勢は、一緒に働く人々に安心感を与え、挑戦や成長しやすい環境をもたらすことでしょう。
ジェネラリストを育成する方法
ジェネラリストを育成するには、以下3つの手段を組み合わせた育成がおすすめです。
マネジメント研修の実施
プレイヤーとして自分の専門分野で経験を積み、実績を上げてきたメンバーをジェネラリストとして育成するためには、普遍的なリーダーシップやマネジメント力、自らの“あり方”やヒューマンスキルを磨いてもらうことが必要です。
これは、現場での実践を通じて身に付ける部分が大きいですが、はじめに研修できちんとした体系を教えることで身に付けるスピードは早まるでしょう。また、現場での実践を振り返ったり、日ごろの業務から離れて自分自身を内観したりすることは、研修だから得られる利点です。
OJT研修としてのマネジメント
マネジメント研修と並行して行なうべきことが実務を通じてのOJT研修です。本人にとっては真剣勝負ですが、組織として中長期の目線で考えれば、OJT研修としては、少し早めにマネジメントに抜擢して体験を積ませることが大切です。
「ポジションが人を育てる」という考え方がありますが、ジェネラリストの育成に関しては、非常に当てはまる格言です。近年では、大手企業でも子会社の社長として出向した経歴を持つ人材が本社の経営幹部に就いたり、意図的に中堅の幹部候補を子会社に出向させたりする動きが増えています。
サイバーエージェントでは内定者や入社数年の若手を子会社の経営者に据えて、経営を任せていますが、これも同じ考えです。一種の「ジェネラリストとしてのOJT研修」で、現場で多くの経験を積ませることで、経営者、経営幹部というジェネラリストが育つでしょう。
幅広い部門や職種のマネジメント経験を積ませる
ジェネラリストに期待されるのは、組織を率いて成果を上げる経営幹部としての役割です。
ジェネラリストを育てるうえでは、異なる職種や自分が経験していない業務、違うタイプのメンバーをマネジメントする経験を通じて、普遍的なコンセプチュアルスキルやヒューマンスキルを磨かせることが大切です。
組織において経営幹部候補として実績を上げているメンバーを部門外へ異動させることは短期的には業績的なリスクを伴うかもしれません。しかし、優れた経営幹部を育てるためには、中期的な目線で複数の職種や部門でマネジメント経験を積ませることが不可欠です。
まとめ
過去に「ジェネラリスト」と呼ばれていた人材像は、現在ではマネジメントやマーケティング、人材開発等の専門分野を持ち、かつ、広い分野への知見を有して、組織を率いる「経営やマネジメントのスペシャリスト」です。
ジェネラリストの育成には、体系だった知識を学ぶためのマネジメント研修、マネジメントポジションへの抜擢、そして、複数の部門や職種のマネジメント経験を積ませることが有効です。
中小企業においては、幹部候補となれる絶対的な人数が少ないために、一つの部門や職種の中で昇進・昇格をしていくことが多くなりがちですが、経営幹部として高い視座と幅広い視野で活躍できる人材を育てるためには、ぜひ複数部門でマネジメント経験を積ませてください。